■三上寛
■ひらく夢などあるじゃなし/三上寛
![]() | ひらく夢などあるじゃなし (2002/09/11) 三上寛 商品詳細を見る |
日本が誇る暗黒フォークの帝王、三上寛の3rdアルバムであり、代表作の一つが今作だ。空間的アレンジなどが施されていながらも、三上寛の唄とギター、ピアノ、ドラムのオーソドックスなスタイルで作られた作品であるが、だからこそ三上寛という男の異形さが滲み出た傑作に仕上がった。三上寛は耳を塞ぎたくなる様な汚くエグい言葉を普通に使うし、楽曲に華やかさは皆無で精神的な陰鬱さと嘆きに満ち溢れた怨歌集だ。
まず三上寛の唄声は聴き手に大きなインパクトを与えてくる。特徴的なダミ声での唄声もそうなんだが、三上寛の唄は歌詞の世界にシンクロしている。怨みと嘆きをダイレクトに伝える感情的な部分もそうなんだが、昭和の悲しき人間模様を役者の様に語り部の様に三上寛は唄っている。その世界に救いや希望は全く無く、安上がりな自己中心的絶望なんか圧殺してしまうかの様な抗い様の無い日常生活の枯れ果てた先にある絶望ばかりが溢れている。
もう一つ特筆すべき点はピアノとドラムの存在が三上寛の唄とギターをしっかりと支えている事だ。ピアノの旋律は物悲しい旋律を鳴らすギターの音色を荘厳になんかしちゃいない、ピアノの旋律もまた救い無き絶望と怨みを浮き彫りにするのに一役買っているのだ。ドラムもまた時にリバーブなどの音響的アレンジが加えられていながらもシンプルかつ確かな技術を以て楽曲の骨組として大きく貢献している。
全15曲、サックスの音色がまた印象的な第1曲「あなたもスターになれる」やムード歌謡な第9曲「夢は夜ひらく」と楽曲によってアレンジが違ったりはする物も、一貫して泥と血と汚物塗れの空気と匂いが漂っているし。ここに存在するのは殺意だ。憎しみを突き詰めた末の妥協や安い演出の無い、そこら中に転がる人間模様が織りなす負のドラマだ。
三上寛の声や世界観は人を選ぶであろうし、ただでさえ陰鬱さ漂う70年代フォークの中でも全くオブラートに包まれていない言葉の応酬はかなり異質だ。だから三上寛の唄は聴き手に耳を塞ぐ事も目を瞑る事も許さない、圧倒的殺意が織り成す怨歌の力に引っ張られてしまうのだ。
異形の暗黒フォークシンガー三上寛は日本人にしか鳴らせない陰鬱なフォークソングの世界をより醜悪かつえげつない物として鳴らしてる。だからこそ確かな重さを持った歌ばかりを歌えるのだ。