■2012年03月
■Expand the Hive/Logical Nonsense
![]() | Expand the Hive (1997/06/10) Logical Nonsense 商品詳細を見る |
激情系ハードコア最重要バンドと言えばHis Hero Is Goneを思い浮かべる人が多いと思うが、ニューメキシコのLogical Nonsenseも90年代後半の時代の登場し、HHIG同様に激情系ハードコアの礎を作り上げた最重要バンドとして存在する。今作は97年に発表された2ndアルバムであり、激情系ハードコアの名盤として名高い作品である。どこまでもストレートでトラッシュなサウンドから放たれる激ヴァイオレンスな激情に満ちた1枚だ。
一口に激情系と言っても彼等のサウンドはかなりオールドスクール寄りな物になっており、古き良きUSハードコアの香りを感じさせながらも、そのオールドスクールなハードコアの粗暴さを鍛え上げたかたこそ生まれた激情だと言える。キャッチーさを感じさせるリフも登場してきたりするが、転調やブレイクの使い分けが本当に絶妙で、キャッチーなリフから一転して非常にヘビィでトラッシュかつカオティックなハードコアへと平気で変貌したりするからタチの悪い。彼等はキャッチーなUSハードコア直系のハードコアサウンドとヘビィでトラッシュなリフで攻めてくるという二つの顔を持っており、それをあくまでもストレートなハードコアの方法論で鳴らし、織り交ぜてくるからこそ生まれるカオティックさを軸にしている。そして彼等のハードコアサウンドにはUSハードコアやカオティックだけでなく、クラスト、トラッシュ、パワーヴァイオレンスといったありとあらゆるハードコアの危険汁を飲み尽くし血肉にしてからこそだ。楽曲が始まる前のサウンドコラージュを巧みに生かし、ダークサイドへと手招きするドス黒い欲望を吐き出す魔窟へ誘い、その奥底にある黒いマグマに飲み込まれる事は必至。しかし前述したが彼らにはそのダークさの奥にキャッチーさをしかkりと持たせた楽曲も多く、ヘビィでヴァイオレンスに暴走する激情ナンバーと共に、テンションはMAXで暴走しながらも楽曲自体はUSハードコアのキャッチーさとシンプルさを感じさせながらも鍛え上げたハードコアサウンドが生み出す激情の力がそこで終わらせてはくれない。時にはアルペジオなんか盛り込んだり、少しだけ静謐なフレーズもあったりするけど、それはあくまでも常にハイテンションな楽曲の合間に挟まれる小品みたいな物だし、全14曲スタミナ切れを起こす事無く激情は暴走し突き抜けていく。その中でハードコアのエッセンスの配分を絶妙に変える楽曲の並べ方で聴き手を開きさせないし、何よりもダークなリフとブレイクの絶妙さと楽曲構成の素晴らしさと言う格好良いハードコアに不可欠な要素を彼等は絶対に忘れずに盛り込み、それを絶対的な力で投げつけてくるのだ。
あくまでもストレートなハードコアサウンドのスタイルでありながらも様々なハードコアの危険なエッセンスを吸収し、それを圧倒的テンションで激情として鳴らしたからこそ生まれた非常にプリミティブな激情系ハードコアの傑作だと思うし、ハードコアの格好良さがどこまでも詰まった作品になっていると思う。余計な小細工無しだけどどこまでも深い怒りと直情の魂の咆哮にもはや震え上がるしかない。
■Decline/Archives

スコットランドはダーティの5人組激情系ハードコアバンドであるArchives。高い評価を得ていたバンドらしいが2008年に残念ながkら解散してしまっており、その解散直前にレコーディングされた唯一の音源が今作となる。スコットランドのDizzy Storm Recordsと日本から海外の素晴らしいバンドを発掘する激情レーベルであるTokyo Jupiter Recordsからの共同リリースという形で500枚限定プレスの作品として彼等の音を残した形になる。
彼等の激情系ハードコアはクリアな旋律を軸に楽曲を構成し、その中で疾走しながらも叙情的なフレーズとポストロック的な緻密なフレーズが絡み合いながらバーストしていくというスタイルになっている。パワフルに激走するハードコアとはまた違う、美しいフレーズを折り重ねながらも、損お切迫のエモーショナルさをハードコアとして鳴らす彼等の音は非常に日本人好みな音になっていると思う。絶唱ボーカルで畳み掛けるボーカルスタイルを取っていたり、クリアなフレーズを取り入れつつも静謐なパートと疾走パートの対比をしっかりと生かし、その中で確かな侘寂があるのは分かってる!と親指をグッと立てたくなる。緻密でありながらも青い疾走を見せ、透明度の高い旋律が鳴り響く激情系ハードコアと言えばイタリアのRaeinを思い浮かぶ人が多いと思うけれど、渦巻く激情の波動の如し轟音は突き抜ける風通しの良さと同時に、邪念を洗い流す聖なる波動の様な存在として君臨する。ハードコアの熱情を揺らぎ無い物にしながら疾走する轟音の波動と共にドラマティックな世界へと導く第1曲から彼等の緻密なフレーズの絡みを最大限に生かしながらも疾走する激情系ハードコアは炸裂しているし、第2曲はアルペジオ主体で進行しながらも、決して音数を減らして静けさで埋め尽くすのでは無く、流れる音の粒子が軽やかな波を生み出し、その中で魂の叫びを聴かせてから、美しい音の波が荒れ狂う神秘の嵐へと変貌する美しいドラマティックな情景に本当に惚れ惚れとする。直情的はアプローチとそれを生かす流れる旋律の対比を生かしつつ、彼等はあくまでもハードコアとしての肉体性を徹底して守り、繊細でありながらもタフネス溢れる美しい激情のタフガイであろうとしているし、鍛え上げたアンサンブルが流線型を描く。第6曲では激情系ハードコアを超えて、ポストロック的なアプローチを存分に取り入れ、力強いコーラスと同時に旋律だけで全てを語れる様な超美麗なフレーズが心を溶かしポジティブなエネルギーとして花開く大団円には心を無条件で熱くさせられた。
僅か1枚の音源のみを残して解散してしまったのが本当に惜しいと思うし、それだけ叙情派激情系ハードコアとして高いポテンシャルを持ったバンドだと思う。彼等は今作に収録された6曲のみを残して解散したが、今作の美しい激情の輝きは決して消える事の無い光として輝き続けている。今作は下記リンクのTokyo Jupiterのサイトの方で購入可能になっている。
Tokyo Jupiter Records
■邯鄲の夢/Bleed for Pain

後に日本が世界に誇るバンドであるChurch Of Miseryにも参加したヒデキ氏がかつて在籍していた山梨県甲府のハードコアバンドであるBleed for Painが唯一残したアルバムが今作だ。2004年に活動を停止してしまったらしく、バンドの活動自体は短命に終わってしまったらしいのだが、唯一のアルバムである今作から聴こえてくるのはハードコアすら超越した完全究極体のエクストリームミュージックの成れの果てだ。
彼等の音楽は確かにハードコアであるのは間違いないし、全9曲約20分というショートカットチューンで暴走するサウンドスタイルを取っている。正統派のジャパコアサウンドを感じさせながらも、それだけではとてもじゃないけど彼等の音楽は説明出来ない。スラッシュメタルの域に達した高速メタリックリフの爆撃からシンフォニックさを加えたブラックメタルなトレモロリフの洪水が飛び出し、尺の短い楽曲の中で目まぐるしく展開しながらもビートは制御不能の殺戮マシーンと化しており、常に暴走している。そしてストーナー譲りのサイケデリックなギターソロまで飛び出す始末だ。3本のギターが織り成す超音圧のハードコアサウンドは破壊力抜群だし、だからこそ多のその音を変えながらも破壊的なサウンドは全くブレていないし、静謐なパートを取り入れるなんて真似はしないでエクストリームさを加速させる事によって楽曲に変化をつけ、天上知らずな超テンションで突き抜ける。歌詞も殆どセックスの事を歌っており、非常に醜悪な言葉が繰り出されているし、それは自らのサウンドをエクストリームさとマッチし全体としてエゲつなさを極めたサウンドに仕上げている。しかしその醜悪さを剥き出しにして吐き出すスタイルでありながら爆音悶絶リフの向こう側にある醜さを超えたある種崇高な美しさまで感じさせるから凄い。第3曲「オナニー」はそのふざけきった曲名と「オーナーニー!!」ってコーラスが入っていたりしてこうして文字に起こすとふざけた色物ソングに見えてしまうかもしれないけど、そんなふざけた感じとは裏腹に非常に切迫感と強迫観念に満ちたサウンドになっているし、欲望のマグマを全放出した名曲となっている。第5曲「満ち足りた心」は非常に絶望感に満ちた旋律と殺気を放出しているし、鬱病ハードコアと言われた屍にも負けず劣らずな絶望感を放出するダークサイドハードコアで全てをなぎ払う狂気を見せる。彼等はそれぞれの音楽のエクストリームな要素を生かしつつも、それをハードコアに回帰させた事によって強靭なるサウンドを爆音で黒煙を上げながら鳴らす狂気と欲望のハードコアの化身になったのだ。第8曲「跳ねっ返りのションベン」はそんな彼等の魅力をよりダイレクトに伝える名曲になっている。驚くべきは最終曲「黒い憎しみのロマンセ」だ。裸のラリーズのカバーだが原曲どころか歌詞も完全に変えてしまっているし、「右手がおっぱいで左手がクリトリス!!」なんて歌詞すら飛び出す始末。サウンドは今作で唯一少しだけ静謐なアルペジオを入れた楽曲ではあるが、彼等の持ち味であるハードコアもブラックメタルもサイケデリックも飲み込んだエクストリームさ全開で、まるで水谷孝を集団でリンチした挙句に水谷のアナルを集団で蹂躙してしまっているかの如し極悪具合とゲス野郎っぷりを見せ付けている。
たった1枚のアルバムと本当に極少数しか流通していないデモ作品を残して彼等は活動を凍結させてしまったが、今作を聴くと、今からでも活動を再開して欲しい気持ちで一杯だし、ヒデキ氏をはじめとしてBleed for Painは他のバンドで活躍しているからこそ、Bleed for Painがアルバム1枚で終わってしまったのは本当に勿体無いと思う。欲望に忠実だからこそ生まれた完全無欠のエクストリームオブエクストリームなハードコア。Bleed for Painは誰も到達出来なかった領域に達したバンドだと思うし、だからこそ彼等の復活を心から望んでいる。
■Hanaden Bless All/花電車

90年代初頭に活躍し日本の伝説的ヘビィロックバンドとして現在も語り継がれる存在である大阪の花電車。マスターオブハードロックと呼ぶに相応しい痛烈なヘビィロックサウンドとサイケデリック・プログレ。スラッジの領域まで到達した無尽蔵かつ破壊的な音を鳴らしたバンドであるが、今作は花電車の92年発表の2ndにして2枚組の大作だ。日本が誇るアングラレーベルであるアルケミーからリリースされ日本のアングラのロック史を語る上では外せない1枚となっている。
彼等が鳴らしているのは徹底的に乾ききったヘビィロックであり、その音は痛烈の一言に尽きる。それでいて長尺の楽曲も多くプログレ要素をふんだんに盛り込んでいるし、ドゥームやストーナーの要素を盛り込んだギターリフは非常にサイケデリックに響く。録音自体は非常に乾いた感触だし、無慈悲にヘビィなリフで突き通しているのにその奥底にあるのは非常にドロドロとした情念的なサウンドだ。disc1の方の楽曲は無慈悲かつ冷徹な悪夢のハードロックの鬼神に呼ぶに相応しい楽曲を叩き付ける。初期サバス系統のドゥーミーなサイケデリック感覚を押し出しつつもよりバッドに入った不安と恐怖を駆り立てる楽曲は脳髄を粉砕する岩石の急降下サウンドだ。しかし第4曲「TTT」では一転してミドルテンポで揺らぎのギターフレーズが空間を支配しドロドロとした情念を前面に押し出す名曲になっており、日本人だからこそ生み出せる情念のヘビィロックの一大絵巻になっている。ゴリゴリのヘビィロックサウンドを展開しながらも長尺の楽曲になるとプログレッシブな複雑な楽曲構成を見せるし、第6曲「Worship」ではドープなダウナーさを極めているし、ヘビィロックの危険度をMAXまで極めて、それを多方面に放出している。変わってdisc2の方はよりサイケデリック要素を強めた楽曲が並んでおり、プログレッシブな要素も強くなっている。サイケデリックさとヘビィさで押し倒しながらも中盤の転調で一気にプログレッシブサイケデリックと化す第8曲「Blues For Jaronote」はKing Crimsonの様なプログレ絵巻を見せ付けるし、disc1とはまた違う花電車のサウンドが展開される。直接的なギターリフは減り、殆どのリフがワウ等を駆使しよりノイジーに聴こえてくるし、花電車のヘビィロックの輪郭が全く掴めなくなってしまいそうになる。ヘビィロックやプログレのルーツに忠実なサウンドの筈なのに、それらと全く違う花電車にしか生み出せなかったヘビィロックが確かに存在しているのだ。それはサイケデリックさに彼等が忠実だったのと、乾ききったサウンドプロダクトでありながら奥底に眠るダークさを彼等が無尽蔵に放出しているからこそだと思う。完全にスラッジプログレとしか呼べないサウンドを展開する第10曲「Virgin Oyster Juice」と空間的な揺らぎで美しく甘い世界を生み出し、それをかき消す狂気の叫びが入り込んだ瞬間にその音色を狂気と恐怖に変えて、最後は全てを粉砕するスラッジリフの鬼になりふざけた幻想をブチ殺す第11曲「Deepfreezemania」は本当に彼等じゃなかったら生み出せなかった名曲だと思う。
ヘビィロックやプログレに非常に忠実でありながらも、決してそこで満足はせずに情念のサイケデリックロックを極めたからこそ到達できたヘビィロックの極地。90年代初頭でスラッジやドゥームさを取り入れながらも、決して誰かの真似事ではなく、殺意と情念でそれを自らの物にした作品であるし、それは決して揺らぐ事は無いし、現在でも圧倒的な存在感を誇り花電車は伝説のバンドとして君臨している。日本人だからこそ生み出せたヘビィロックの一つの到達点として今作は存在しているし、だからこそ花電車は現在も語り継がれる伝説なのだ。
■Split Cranium/Split Cranium
![]() | Split Cranium (2012/03/20) Split Cranium 商品詳細を見る |
Aaron Turner先生がまさかのオールドスクールハードコアバンド結成!そう声を大にして叫びたい気持ちで一杯だ。ISISでの功績は言うまでも無く、本当に幾多のバンドに参加しハードコア・ポストメタル・アンビエントと多彩極まりない音楽活動でその新たな可能性を切り開いてきたAaron Turner。ISIS解散後はTwilight、Mamiffer等で活動をしていたが、先日のOld Man Gloom再始動もそうだが、フィンランドのCircle、Pharaoh OverlordのメンバーであるJussi Lehtisaloとタッグを組み結成されたのがこのSplit Craniumであり、今作は彼等の2012年発表の記念すべき1stである。
Aaron Turnerの核にあるのは間違いなくハードコアであるし、彼はそこを基点にハードコアの新たな可能性を模索し常に斬新な音を生み出した鬼才であるが、彼がここまでストレートなハードコアバンドをやるとは正直言って考えられなかったりもした。今作の殆どの楽曲が1分台、2分台のショートカットチューンであるし、本当に何のギミックも無いストレートなハードコアサウンドなのだから。スカンジナビアハードコアとUSハードコアのカラーがそれぞれ存在していたりもするけど、ギターリフはパワフルで縦横無尽に全てを薙ぎ倒しながらも非常にキャッチーだし、ビートは本当にシンプルな2ビートで疾走すると言った物、本当にオールドスクールなスタイルを取ったハードコアサウンドであるが、同時に単なるオールドスクールハードコアでは片付けられない毒素が充満した作品でもある。それはAaron Turnerのボーカルによる物が大きいと思う。非常にキャッチーな楽曲に反して狂気と残虐さが暴走する凶暴さを極めたボーカルはISISでも御馴染みだったが、今作ではそれをより開放し今までに無い位に暴力性と狂気を高めている。ポストメタル界のカリスマとして君臨する男の核はやはりハードコアにある事を納得するしかないし、その凶暴さには平伏すしかない。また今作の楽曲の多くはサビでシンガロングパートを積極的に盛り込んでいて、Aaronのボーカルの極悪具合に反してその力強くキャッチーなコーラスワークはやたらとハマっていたりもする。第2曲や第3曲はそのストレートなキャッチーさを前面に押し出したシンガロング必至の非常に男らしい楽曲だが、だからこそAaronの凶暴さも際立っている。しかし終盤にとんでもないどんでん返しが待っている。第8曲「Retrace The Circle」は今作の中でも異質な約8分に及ぶ長尺の楽曲であり、序盤はストレートなハードコアサウンドを展開しているのだけれども、それはどんどん凶暴なノイズへと変貌し、加速する狂気的なボーカルに比例してその深遠さを高めていく。荒れ狂うハーシュノイズの海を越えた先にあるのはポストメタル的深淵さと壮大なスケールの世界。やはりこの男は一筋縄ではいかないのだ。
ハードコアの先を常に目指していたAaron Turnerだが、今作でオールドスクールハードコアに回帰したというのは一つの事件と言っても良いだろう。古き良きハードコアスタイルを取りながらもただの回帰には終わらない辺りは流石の一言だし、今作を聴いていると胸の奥にあるハードコア魂が燃え上がるのは間違いなしだ。また今作は下記リンクのbandcampページで全曲試聴可能になっている。
Split Cranium bandcamp
■Y/Daitro

このバンドがいなかったらフレンチ激情の歴史は違う物になっていた。そう言っても過言では無い位に最重要バンドとして挙げられるDaitro。日本でもheaven in her armsやkillieと殺り合ったという事実もあり高い人気を誇るバンドだが、そんな彼等の09年リリースの今作だが、正統派のサウンドで、激情系だけでなくオルタナティブやポストロックといった要素ともリンクしているだけでなく、焦燥の泥沼に入り込む深みを持ち合わせている。そしてこの音はあらゆる部分とリンクしながらも孤高だ。
音楽性で言えば本当にストレートな激情系ハードコアと言える。疾走するパートでは焦燥と青さが同居する突き抜けるクリアさをとメロウな旋律を最大限に生かした音を聴かせてくれるし、静謐なパートではそのメロウさをシンプルでありながらも、情緒豊かに聴かせつつも旋律の持つ魅力を最大限に生かしその壮大な奥行きのある楽曲の世界と聴き手の感傷は見事にリンクする。あくまでも激情・エモ・オルタナティブの範疇に楽曲をまとめ上げ、コンパクトで聴きやすい音にはなっているけど核となる焦燥のハードコアを全力で叩きつけてくるし、それでいた柔らかな温もりまで感じさせてくれる。ギターフレーズなんかは軽く歪ませはしているけど殆どクリーントーンに近い音色だし、疾走する青さという意味でのハードコアサウンドは確かに存在しているけどそれはヴァイオレンスな物では決して無い。繊細で壮大な優しさが彼等の音には詰まっているし、タイトで力強いリズム隊がタフネスを注入し決して青く優しいだけの優男サウンドで終わらせないポジティブで力強い激情へと変貌させている。しかし彼等がただ単に青い衝動を力強く鳴らしているかといえばそれは違う。彼等の持つ焦燥感はどこまでもシリアスな危機感から来る物であり、それは緊張感をダイレクトに伝えるアンサンブルにも現れている。そして巧みに取り入れているポストロック的な緊迫とタイトさがそれをより顕著にし、そこからエモーショナルな疾走パートへ突入するという対比を最大限に生かす。また今作はアルバム全体を通して組曲の様な作りになっている様にも見え、序盤は疾走感を前面に出した楽曲、中盤は静謐さを前面に出した楽曲、終盤はその静謐さから壮大なエモーションを見せる楽曲と言う全10曲を通して一つのストーリーが完成する作品だ。言うまでも無くそれぞれの楽曲にドラマティックなパートも存在するし、そのクライマックスを積み重ねて強靭なる激情は完成するのだ。
長年に渡り激情のシーンを支えて来た猛者であるDaitroがフレンチ激情の最重要バンドの一つとして君臨する必然は今作を聴けば分かると思うし、彼等は本当に多くのバンドに影響を与えている。激情系ハードコアが何故激情であるのかという必然を彼等の青く美しいシリアスなサウンドから嫌と言う程分かるし、だからこそ彼等はどこまでもストレートであるし、孤高なんだと思う。
■6 songs/Aussitôt Mort

フランス激情系ハードコアの最高峰として君臨するAussitôt Mortのタイトル通り6曲入の編集盤。4曲入り12インチの音源とスプリットに提供した1曲と未発表曲1曲をコンパイルした初期作品集というべき内容。名盤「Montuenga」にて激情神として誰も追いつけない孤高の存在である事を証明した彼等だが、今作でもその孤高の激情系ハードコアは既に存在している。
彼等の激情系ハードコアはドゥーミーで重いグルーブと共に引き摺る様に進行するサウンドが特徴的であるけれど、今作は「Montuenga」に比べたらそういったドゥーミーな要素はあまり無い。しかし殆どの楽曲がミドルテンポでずっしりと攻めてくる辺りは変わらず、そしてもっとストレートなハードコア色を感じさせてくれる。クランチ気味な歪みのサウンドで緊迫感と焦燥を体現するというフランス激情のお家芸とも言えるサウンドだったりするし、厚みのある重厚なグルーブという武器を生かしつつもよりメロディアスでドラマティックな音になっている。原始的なハードコアサウンドでありながらも、メロディアスであり、時には深遠な深みを空間的に聴かせたりするし、巧みに緩急を付ける楽曲構成や哀愁に満ちたボーカルとメロディは胸に来る物が確かにある。フランス激情のマナーをしっかりと継承してはいるけど、初期作品である今作で既に自らの方法論を見出しているし、それは確実に「Montuenga」で生かされている。第2曲「Aussitôt dort, aussitôt mort」が個人的にかなり気に入っている1曲で、メロディアスなギターフレーズが交錯し、狂騒を緊迫したテンションで鳴らしつつも、細かい部分にまで気を配った音の作り方と、骨太のグルーブという肉体性と知性の融和から、起伏を生かした構成でより混沌へと急降下していく様なドラマティックさを見せ付けるし、そんなサウンドと共に吐き出される叫びには胸を熱く焦がされてしまうのだ。リリカルな旋律と共に破滅への舞踏を見せる第4曲「Le désespoir des singes」も激熱な名曲だ。時にスラッジ・ドゥームのエッセンスで味付けし、時には泣きのフレーズから深みのある音色を奏で、時に疾走しながら踊り狂う。そんな多彩で感情豊かな音を彼等からは感じる。ドラマティックでスケール感が魅力的な第5曲「Dur comme la banalité」といい、緻密な音の並べ方で奥行きのある哀愁と轟音サウンドから重苦しいハードコアへと雪崩れ込み最後は激情をドラマティックに暴発させ大団円な第6曲「Percuté」と編集盤でありながらも捨て曲一切無しの激情の物語を作り出している。
激情大国フランスらしい哀愁と緊迫のハードコアサウンドを展開しながらもAussitôt Mortにしか出せない重厚なアンサンブルとミドルテンポから生み出される重苦しさは今作でも既に存在している。そしてそれは間違い無く激情系ハードコア屈指の大名盤である「Montuenga」へと繋がっている。また今作は下記リンクのAussitôt Mortのbandcampでフリーダウンロード形式で配信されているので是非チェックして欲しい。
6 songs/Aussitôt Mort
■Undiscovered Country Of Old Death And Strange Years In The Frightful Past/KYOTY(KEEP YOUR OPINIONS TO YOURSELF)

ポストメタル・ポストロック・激情系ハードコアの素晴らしいバンドの作品をリリースする日本のレーベルTokyo Jupiter、2012年初のリリースとなったのはアメリカはニューハンプシャー州のバンドであるKYOTYだ。今作はそんなKYOTYの1stアルバムであり、2012年のTokyo Jupiterのスタートに相応しい傑作になった。スラッジを基調にしたポストメタル・轟音系ポストロックの強靭さを見せ付けてくれる作品だ。彼等の音はハードコアの力強さとインストゥルメンタルの深遠なドラマティックさ、その両方を持っている。
彼等の音は本当にハイブリットな物になっており、同じくTokyo Jupiterからリリースされている轟音激情バンドであるTotorRoや、轟音系ポストロック最高峰の This Will Destroy Youや、ポストメタルの代表格であるPelican辺りを愛する人を取り込める力と、それらのバンドに負けない馬力と深みを感じさせてくれる。第1曲「14」からKYOTYの音は炸裂、繊細なギターフレーズが深遠なる物語の幕開けを告げ、強靭なアンサンブルが図太い音を生み出し、スラッジな粗暴さをポストメタルの叡智と融和させる。それでいて激リリカルな旋律で攻めまくる物だから、余計に感情的であるし、破壊力を持ちながらもその旋律とアンサンブルで聴き手を引きずり込む絶対の力を放出している。ポストメタル系のバンドだとハイファイな音作りをするバンドが多かったりするのだけれども、彼等の音は少しローファイだし、その音作りがプリミティブな歪んだ旋律をよりダイナミックに見せるのに一役買っている所も見逃せない。第3曲「08」は轟音系ポストロックの叡智を最大限に生かし、タイトで力強いビートとは裏腹に、繊細な空間形エフェクターを使用したギターフレーズの美しさに酔いしれるし、後半からのリリカルな轟音からスラッジなリフの応酬へと移行する瞬間のカタルシスは相当の物。繊細で静謐なパート→轟音ポストロックなパート→スラッジなパートという構成を持つ楽曲が並び、非常にストレートなアプローチをしていると言えるけれど、その構造は自らのドラマティックさを最大限に引き出しているし、破壊衝動とクリアで美しい旋律が見事に混ざり合った轟音絵巻である第5曲「07」は特にその構成を生かし、惜しみなく激情の音色を吐き出し新たなる創造の情景を描き、暗闇と無常の世界からポジティブな光の輝きを見せ、新たな生命の誕生すら想起してしまう。第7曲「12」では容赦無くスラッジリフを浴びさせ、Russian Circleの様にリリカルな純白をハードコアのスタイルで生み出し、歪みまくった音色と無慈悲な暴虐の衝動を押し出しつつも、その根底にある旋律はやはりメランコリックであるし、トリオ編成のシンプルかつ屈強なアンサンブルでその輝きをより明確にする。そして最終曲である「15」は今作屈指の壮大な名曲。ファズのかかった激歪のベースラインから始まり、ストイックかつタイトに叩きつけるリズム隊のタフネスと同時に、ディレイのかかったクリーンな歪みをもったギターフレーズが徐々にそのエモーショナルさを高め今作屈指のスラッジ・ポストメタルのダイナミズムを展開し、後半ではギターのストロークのみになり、厳かな物語のクライマックスを告げる鐘の音の様なギターから熱量を高めた激重のアンサンブルへと変貌し、リリカルさと肉体的屈強さを最大レベルにまで高めたハードコアの先にある進化の精神を体現する美しくも残酷なエンディングへと雪崩れ込む。最後の最後に最も攻撃性の高い楽曲が待ち構えているが、そこからその奥底の繊細かつ知的な奥行きのあるサウンドプロダクトを展開し、新世界が生まれる瞬間としか言えないビッグバンを巻き起こす。そしてその爆発によって飛び散りまくる破片が見せる輝きこそがKYOTYの持つ感動的な美しさであると思う。
シンプルなトリオ編成で余計なギミックの無い直球勝負な作品を作り上げたKYOTYだが、リリカルな旋律と、壮大さと深遠さと、スラッジな屈強さを徹底的に鍛え上げた末に生み出された芸術的激情作品だと断言したい。深い奈落の底から全てを焼き尽くす炎を生み出し、その先にある光を今作を聴いてると見えてくるし、マントルの奥底から大地を揺るがし、天では宇宙的スケールの爆発が起き、そして新たな生命の誕生へと繋がる。地球と宇宙の創造の物語を、ポストロック・ポストメタルの叡智を駆使し表現しているのだ。2012年もポストメタルはまだまだ進化出来るという事を証明してくれた傑作なのは間違い無い。1stとは思えないポテンシャルを体験させられたし、KYOTYも新たな物語を宇宙を伝える語り部として名乗りを上げた。今作は下記リンクのTokyo Jupiterのサイトから購入可能となっており、KYOTYは今作で日本への本格進出を果たしている。ポストメタル・ポストロックな新たなる誕生を是非体感して欲しい。
Tokyo Jupiter Records
■The Bulls & The Bees/Melvins

地下世界の帝王としてアンダーグラウンドシーンに現在も君臨するMelvinsの2012年発表のEPである今作はまさかのフリーダウンロード作品。トヨタがアメリカで展開するブランドScionの運営サイト「Scion A/V」の企画として配布された物であり、何とも太っ腹で気前の良い作品。昨年はライブ盤もリリースしたが、約2年振りの純粋な新作である今作はこれぞMelvinsと言うべき、ヘビィでグランジな5曲が並んでいる。
基本的な路線はここ最近のMelvinsでツインドラムの複雑なビートを生かしながらも、基本はスラッジかつグランジなリフを中心に攻め立てる楽曲構成。第1曲「The War On Wisdom」から複雑なツインドラムの絡みで始まるけど、バズがシンプルでありながらもヘビィなリフを鳴らした瞬間に完全にMelvinsにしか鳴らせないグランジサウンドが展開される。変拍子で緩急を付けつつもストレートなリフの強さを見せるし、複雑なリズムセクションはそれをより強調する。転調やブレイクダウン等を取り入れ、捻じ曲がりながらも直接的なヘビィネスをぶつけてくるし、Melvinsファンは勿論、今作でMelvinsに初めて触れた人も十分に取り込める力がある。続く第2曲「We Are Doomed」はタイトル通り、ミドルテンポの後乗りのスラッジ・ドゥームな1曲でスラッジなMelvinsを見せる1曲。ストーナーなリフと共に煙たさを出しながらグランジとドゥームの融和するグルーブが噴出しながらも、殺気立っていてそれでいたロック・グランジの精神を感じさせるサウンドはやはり彼等ならではの物だろう。よりドープでノイジーなうねりまくる激重リフと砂埃が舞い上がるサイケデリックな第3曲「Friends Before Larry」、不気味なアンビエントである第4曲「A Really Long Wait」、ジャンクなビートが楽曲を引っ張り、Melvinsの変態性とグランジ・ヘビィロックの馬力が結びつき哀愁の歌メロを聴かせつつも最終的にはスラッジリフで攻め立てる第5曲「National Hamster」、この様にここ最近のmelvinsのサウンドを本当に分かりやすく見せてくれる全5曲であるし、フリー配布作品とは思えない完成度とどこをどう切ってもMelvinsでしかない音が確かに存在している。あくまでもここ最近の作品の延長線上の作品ではあるけど、十分に初心者もファンも引き付ける納得の内容だ。
言ってしまえば企画盤的な作品ではあるけれど、今作にパッケージされたのはもうただMelvinsでしか無いヘビィロック・グランジサウンド。フリー配布とは思えない気合の入り具合を見せてくれている。長年地下世界の帝王として君臨するMelvinsの余裕すら感じるし、長年帝王の座に君臨する彼等の実力を改めて見せ付ける作品。6月にはBuzzDaleにMr.bungleの元メンバーであるTrevor DunnとMelvins Lite名義で作品を発表する事もアナウンスされており、2012年のMelvinsの動向から益々目が離せない。今作は下記リンクからダウンロード可能。
The Bulls & The Bees試聴&ダウンロードページ
■Even as All Before Us/The Gault
![]() | Even As All Before Us (2007/04/09) The Gault 商品詳細を見る |
ex.WeaklingのギタリストであるJohn Gossardを中心に結成されたサンフランシスコのドゥームバンドであるThe Gaultのデビューアルバム。兎に角長尺の楽曲ばかりが並び、ひたすらダウナーなテンポのまま進行し、そこにWeaklingでも見せたメランコリックさを放出しまくり、耽美でありダークな1枚。ドゥームであるが、ヘビィさよりも旋律の美しさに拘り闇の世界に酔える作品だ。
ブラックメタル上がりらしく音質も少し悪く録音されており、そのせいか全体的にヘビィという感触はあまり受けない。ドゥームといってもヘビィさを前面には押し出していないし、寧ろブラックメタルからの流れを感じさせる物だ。極端にテンポを落とし、ほとんど盛り上がる事の無い展開と構成の中でただメランコリックな旋律に引き込まれる。裏では不気味な空間系ハウリングが終わり無く鳴り響きながらも、ギターの旋律はひたすらダウナーかつメランコリックなアルペジオを中心に進行し、大きな展開はどの楽曲にも皆無であり、徹底して寒々しいテンションのまま痛みを増幅させる、楽曲の中にあるゴシックさやフューネラルさを放出し、そこからドラマティックさを生み出すという方法論はWeakling時代からあったし、その旋律の力を増幅させて最終的にはノイジーな音へと変貌を遂げたりする辺りもその壮絶なストーリーにより説得力を持たせ、極寒の世界へと連れて行く。今作は特に後半の3曲の完成度が高く、どれも10分超えの長尺になっているのだけれど、今にも心拍数が停止するかの如しなテンポで無感情のまま進んでいく物語、そして後半からその搾り出される痛々しいディストーションサウンドと共に悲痛な叫びが乗る第5曲「Outer Dark」や、女性ボーカルを取り入れ、ゴシックさとフューネラルさを織り交ぜながらも奈落へと落ちる速度で降り注ぐギターリフト共に緩やかに絶望と無へと堕ちていく第6曲「Shore Becomes the Enemy」、そして極限の痛みと共に美しいフレーズが静かに咲き乱れ、やたら躍動感のあるベースで琴線を刺激し、厳かでいてクラシカルな音と共に終末が暴走するメランコリックさから、最終的には完全なる無音が悪夢の終わりを告げる第7曲「Hour Before Dawn」は本当に壮大な組曲が連続で続いていくのを見ている気分になるし、作品全体で統率された寒々しいハウリングノイズでディストーションサウンドと、ゴシックな痛みに満ちたメランコリックな旋律が緩やかに混ざり合い一つになり、涙の止まらない耽美な物語になる。
楽曲の完成度の高さはWeaklingにも負けない物になっているが、今作は心臓の鼓動が停止する寸前のスロウな世界でただ淡々と目の前の悲劇を眺めているかの様な感傷に満ちた作品だ。くぐもったまま終末へと静かに堕ちる感覚を今作で味わう事が出来るし。鉄壁のメランコリックなメロディーセンスはやはり乱れ咲いている。凍りついた世界で繰り広げられる物語、今作もWeakling同様に聴き手の涙腺を崩壊させる美しい破滅を描いた一大巨編。