■2012年09月
■Yellow & Green/Baroness
![]() | Yellow & Green (2012/07/17) Baroness 商品詳細を見る |
前作「Blue Record」にてヘビィロックの金字塔を打ち立てたアートメタルバンドであるBaronessの2012年リリースの3rdアルバム。多くの人々が前作の先の彼等の音を待ち望んでいたと思うが、今作はまさかの2枚組でのリリースというかなり気合の入った作品だ。2枚合わせて全18曲収録、3年の月日を費やして作り上げた壮大な作品であるが、同時にこれまでのアートメタル・ヘビィロックバンドとしてのBaronessのイメージを完全に壊しにかかっている大問題作に仕上がったとも言える。
初期のBaronessは確かにメタル色の強いバンドであったし、前作ではそこにブルースだのルーツミュージックの要素を色濃く出して新たなヘビィロックの形を打ち出したが、今作は2枚組でこそあるが楽曲もこれまで以上にコンパクトになっており、ヘビィロックの要素がかなり後退し、ボーカルも完全にクリーントーンの歌に移行し、普遍的なロックにかなり接近し、メロウさを打ち出し、本当に今までに無いレベルで間口の広い作品になっているのだ。ヘビィロックバンドの新星として登場した彼等がヘビィロックを置き去りにしたという事件が正に今作だと思う。決してヘビィさが全く無い作品ではないのだけれども、disc1の第2曲「Take My Bones Away」なんかはストーナーロックなギターリフ主体で進行しつつも、もう一方のギターがメロウなアルペジオを聴かせているし、ボーカルはドスの利いたシャウトを封印しこれまでに無いレベルで歌っている。本当にスタンダードなロックに接近しまくっている事が、この序盤の楽曲を聴くだけで明白だ。また彼等の持ち味である変拍子を組み合わせたビートなんかは健在ではあるけれども、今作ではそれらのプログレッシブな要素を前面には出さなくなっているし、あくまでもご飯にかけるふりかけ程度のアクセントとして機能させているという印象。そして何よりもコーラスワークが今作では大きなキモになっている気もする。ツインボーカルによるたおやかなクリーントーンの歌が今までに無いレベルで格段に抒情性が増幅した楽曲と見事なシンクロを見せている。disc1第4曲「Little Things」ではそれらの要素がかなり浮き彫りになっていおるし、ラストのブルースとサイケデリックさが前面に出たギターソロなんか本当に素晴らしいと思う。disc1第6曲「Cocainium」ではアコギ主体の進行で今までに無いリリカルさを見せ付けてくれているし、その中で数多くのライブをこなしまくったバンド自体の強度も際立っているし、仕舞には大胆にシンセを導入しているし、半ばインディーロックの領域に突入している驚きがある。その中でヘビィさを押し出しているdisc1第8曲「Sea Lungs」ですら一つの開放感がストーナーなサウンドとキャッチーさとリリカルさが柔らかに混ざり合ってすらいる新境地も見せる。disc2の方でもそれは全く変わらず、disc2第1曲「Green Theme」でもミドルテンポの優しい静謐な調べからスケールを膨張させる爆音サウンドへの以降がポジティブなエネルギーを発揮しているし、disc2第2曲「Board Up the House」では完全に歌物ロックを展開。disc2第4曲「Foolsong」では完全にアメリカーナな旋律を展開し、哀愁の泣きのサウンドと歌が炸裂しているし、コンパクトな楽曲構成の中で広がっていくスケールの広大さは正にアメリカンロックの叡智を受け継いだからこそ生み出せた物だと思う。特にdisc2第8曲「The Line Between」はこれまでのBaronessのサウンドを覗かせながらも、完全にネクストレベルに到達しているからこそ生まれた新たなヘビィロック抒情詩であり、今作での変化は迷走ではなく進化である事を見事に証明しているのだ。
確かにヘビィさとプログレッシブさはかなり鳴りを潜めているし、これまでのファンの間では間違いなく賛否両論が巻き起こる問題作ではあるかもしれないけど、新たなファンを大量に獲得出来るであろう間口の広さと器の大きさが今のBaronessにはあると思うし、聴き込めば聴き込む程に良さが堪能出来る作品だと思う。確かにこれまでの作品に比べたらインパクトや即効性は少し弱いかもしれないけど、本当に長い時間付き合える作品だし、前作に引き続いてBaronessはまた最高のアルバムを作り上げてくれたって僕は手放しで絶賛したい。そして今作の先にあるBaronessの新たな進化が今から楽しみで仕方ないのだ。
■Posthuman/JK Flesh
![]() | POSTHUMAN (ポストヒューマン +ボーナス・ディスク) (2012/05/09) JK FLESH (JK フレッシュ) 商品詳細を見る |
今年は再結成したGodfleshでの待望の来日というニュースも入り込んでいる我らが孤高の天才ジャスティン先生。Jesuを始めとして本当に数多くのユニットで活動し、その創作意欲には脱帽の一言だが、彼が新たに始めたユニットがこのJK Fleshであり、今作は2012年にリリースされた処女作。Jesuではヘビィでありながらも天へと昇る美しい光の福音を鳴らしているが、今作はGodfleshを彷彿とさせるユニット名通り、インダストリアルへの回帰で終わらないジャスティン先生が描く新たな闇の始まりが録音されている。
基本的な音楽性は打ち込みによるインダストリアルのビートを基調にした、Godfleshの先の音とでも言えば言いのだろうけど、ジャスティン先生がただ単にインダストリアルに回帰して終わる筈が無く、Blood Of Heroesでの経験を生かした緻密なビートの構成とダブステップ要素を盛り込んだインダストリアルサウンドはGodfleshとは全然違う。第1曲「Knuckledragger」から不穏の空間的コラージュの音色とヘビィなギターが地を這い、血を吐き散らし、無慈悲なリズムマシーンの冷徹なビートと共にジャスティン先生は加工しまくったボーカルでJesuでは全然聴かせなかった暗黒のボーカルを解き放っている。ビートの構築理論なんかはインダストリアルのそれだけど、単純なインダストリアルで終わらないダブステップのドープさを生かしたビートの構築により、ダンスミュージック特有の快楽的要素を切り捨てて、脳髄に染み込む闇が呼応している。第2曲「Idle Hands」ではジャスティン先生のヒステリックな叫びと激重インダストリアルギターと踊れるビートである筈なのに無慈悲に死刑宣告を繰り出すビートが化学反応を起こし、肉体を高揚させつつも、精神面と脳髄をドープなビートの闇に叩き落す暗黒ビート地獄とも言うべきサウンドが展開されており、とにかく熾烈さを極めまくっている。一方で第3曲「Punchdrunk」ではアーロン先生とタッグを組んだユニットであるGreymachineを彷彿とさせる暗黒ノイズが不協和音として吹き荒れる地獄サウンドを展開しているし、第4曲「Devoured」はかなりダブステップに接近した曲、第5曲「Posthuman」ではドラムンベースの要素を取り入れ、今作で最も踊れるビートを展開しながらも不穏のサウンドがただ単に躍らせるだけでなく、脳髄の覚醒を強制的に発生させて冷や汗と血飛沫の中で覚醒したまま踊るといった楽曲に仕上がっている。、暗黒と無慈悲さの規格こそは徹底しているけど、まるでジャスティン先生のこれまでの数多くのユニットでの経験をフルに生かしたサウンドの幅広さや、それを完全にJK Fleshの音としてアップデートした力量、本当に孤高の天才の本気が炸裂しまくっている。後半の楽曲はインダストリアルのビートの重さを分解し再構築した事によってビートの重みを十二分に生かした上で、複雑なビートが細部まで構築され、そして新たな闇を描き出しているといった物になっており、特に最終曲「Walk Away」では現在メインのユニットであるJesuを若干ではあるが感じさせるボーカルを展開し、闇と微かな色彩がビートと共に交錯し、閉塞的な楽曲ばかりが続いた今作の中で最も開放的な展開と音を見せてくれて、その高揚感と共に聴き手は完全なる死を迎えるのである。
単なるGodfleshへの回帰とは全く違う、Godfleshも含めたジャスティン先生の長きに渡る多数の音楽活動の経験と叡智をフルに生かした完全なる暗黒ジャスティン劇場であり、徹底してドープな漆黒の奈落が広がる1枚となっているし、Jesuでのイメージを完全に破壊しかねない闇の賛美歌集。2012年だからこそ生まれた作品であると思うし、ジャスティンは何一つ歩みを止めないし、あの化け物は常に進化を続けている事を証明した怪作だ。ヘビィさとダークさがビートの轟音として脳を洗浄する渾身の作品。もう何て言うか皆さん死ぬ前に聴いて下さい。
■Ⅳ/Loma Prieta
![]() | I.V. [Analog] (2012/02/14) Loma Prieta 商品詳細を見る |
カオティック!ドメスティック!ドラマティック!エモーショナル!これらの激情系ハードコアに於いて重要な要素を全て持ち合わせヴァイオレンスなまま暴走するのがLoma Prietaのハードコアだ。US激情のシーンでも屈指の最重要バンドである彼等の2012年リリース作品。リリースはDeathwish IncからでCDではDaymareから日本盤がリリースされている。荒々しくもその奥にある旋律の美しさがカオティックに乱れ咲く1枚だ。
彼等は正統派の激情のスタイルを取ってはいるが、かなり独自性に満ちた音を鳴らしており、音の質感はとにかく荒々しくヴァイオレンス、そしてほぼ全ての楽曲がショートカットチューンでありながら目まぐるしい展開を見せつける。同時にヴァイオレンスなパートからカオティックなパートへと突入し暴走の限りを尽くしたら一気にスケールを拡大させてメロウかつドラマティックになってみたりと音の間口はかなり広くそれでいて混沌としている。第1曲「Fly By Night」ではドスの効いた音が降り注ぎ、邪悪さを暴走させ、それをプログレッシブに変化させ、その中で泣き叫ぶ様なボーカルがのたうち回る混沌を見せるが、後半でクリアなアルペジオが登場した瞬間に空気を変えて、透明度を高めたメロウさを前面に押し出し光満ち溢れる旋律と共に響き渡る福音のハードコアとして光を描く。残酷な闇から神々しい光への移行をたった2分41秒で描いている。一方で第2曲「Torn Portrait」ではスラッジかつジャンクなリフを無慈悲に振り落としているし、緻密なキメやリズムパターンを組み合わせつつも、それを説教臭く感じさせないジャンクなハードコアサウンドは今作の大きな魅力だと言える。彼等の音は本当に多岐に渡っているのに、それを全く整理しないで衝動のままに打ち鳴らしているし、だからこそカオティックかつエモーショナルで独創性溢れるハードコアになっているのだ。Today Is The DayやFuneral DinerやConvergeやOrchidなんかを引き合いに出しても、彼等はその枠には収まってくれないし、先人の音を貪欲に取り込みつつも、それをネクストレベルまで進化させるという気迫と実力があるからこそ、正統派でありつつも、その枠から外れまくった独自のハードコアとなっているのではないだろうか?そして目まぐるしく変化しながらも激情のツボを押さえまくっているメロディセンスの高さや、エモーショナルな楽曲構成といった激情系ハードコアに於いて最重要な要素の基盤がとんでもなく高いからこそ生まれた作品だろう。そんな中で第9曲「Uselessness」はそんな彼等の底力を見せ付ける今作屈指の名曲だし、第10曲「Aside From This Distant Shadow, There Is Nothing Left」の泣きまくりの旋律ととほうもない激情は「君の靴と未来」の頃のEnvyに匹敵する激情魂を感じるし、ヴァイオレンスな前半からよりメロウかつスケールアップした後半の落差は中々だが、だからこそ今作は本当に多くの人を受け入れるだけの器のデカさがある。
ありとあらゆるバンドが出尽くした激情のシーンではあるけれど、恥ずかしながら今作で初めて彼等を知った僕は、まだまだ激情のシーンはイケるという確信を待ったし、彼等の音には激情の先があると思うし、まだまだ進化する余地すら感じるバンドだと思う。US最重要激情系ハードコアの名を欲しいままにしてるのはやはり伊達では無いし、2012年の激情系ハードコアの重要作品だと思う。
■Weather Systems/Anathema
![]() | Weather Systems (2012/05/07) Anathema 商品詳細を見る |
降り注ぐのは正に眩いばかりの光の至福の福音。ゴシックメタルの世界では最早大御所の位置にいると言えるベテランバンドであるAnathemaの2012年リリースの9枚目のアルバム。前作「We're Here Because We're Here」にて彼等の天上の音色に心を奪われてしまったが、今作は路線こそは変わってはいないけれども、より洗練され、更にストリングスの重厚さも加わりより神秘的な世界へと導く至高の1枚になっている。
Anathemaに関してはここ最近の音しか知らないからアレなのだが、前作から彼等を知り、メタルの概念を捨て去り、ボーダーレスかつ徹底した美意識によって作られた清らかで美しい旋律を神秘的に鳴らし、無数の光の雨を描き出す彼等の音には本当に心を鷲掴みにされてしまっていたが、今作では大胆にストリングスを導入し更なるスケールにて神秘の世界を描いているし、より清らかかつ多くの人の胸に届く美旋律が咲き乱れる世界が広がっているのだ。第1曲「Untouchable, Part 1」のアコギの旋律から一発持っていかれるし、そこから広がるスケールと歌に脱帽だし、そこから純度を高めて高揚感溢れる純白の世界へと広がる。精神の純粋な開放と共に多幸感に満ち溢れて心が豊かになる。第2曲「Untouchable, Part 2」では少しダークな深遠さを感じさせるピアノの旋律が印象的であり、女性ボーカルも途中で入り込み、そのダークさを塗り替えるストリングスの豊かな音色の豊潤な味わいの深みと共に昇天。分かり易い轟音パートとかは前作同様に無いにしてもリズムの微かな強度の変化や旋律のテンションを徐々に上げる事による音の広がりの表現力が実に見事だし、それを豊かで重厚な音でありながらも耳に優しく入り込む優しさと、その奥底にある確かな強さを実感するしかないし、それでいてより深みと重みを以って入り込む頭のこの2曲だけで今作の凄みを嫌でも味わう事になるだろう。第4曲「Lightning Song」は今作でも個人的にかなり気に入ってる1曲で、アコギとストリングスの旋律が生み出すハーモニーから女性ボーカルが入り、静謐さの中で広がっていく幻想世界、そしてクライマックスではギターとストリングスが一気に天をも貫く音を鳴らし、力強いビートと共に新たな世界の誕生を祝福する至高の1曲であり、何度聴いても涙が流れそうになって明日が見えなくなりそうな事は間違いない。第6曲「The Storm Before the Calm」では打ち込みの導入という新たな試みを見せている、そこからアンビエントやドローンの要素を随所に交えたパートを盛り込みつつ、最後にはストリングスが大爆発して壮絶なクライマックスを見せるこの大曲もまた今作の肝になっている。特にラストのギターソロはストリングスとシンクロし、泣きに泣きまくっているじゃないか!!第7曲「The Beginning and the End」ではゴシックメタルバンドらしい泣きのギターが更に炸裂し、哀愁に満ちたボーカルと共に物語を一気に絶頂へと運んでいるし、前作でもそうだったけど何よりも1曲1曲の完成度の高さが素晴らしい。そして最終曲「Internal Landscapes」にて今作屈指の高揚感と共に幕を閉じる。
路線自体は前作とあまり変わらないけど、大胆な打ち込みとストリングスの導入とより洗練された楽曲の完成度が絶唱レベルにまで極まっており、2012年の絶対に外せない1枚と言って間違いないだろう。メタル要素こそ皆無ではあるが、涙腺と心の琴線を刺激しまくる至福の音。心が天へ導かれる感覚を今作を聴いてると味わえるし、どこまでも底知らずの幽玄かつ美しい音が重厚かつ深く感動的に響き渡っている。正に涙無しでは聴けない1枚だ。
■3×33/CYBERNE×DEAD×knellt

先日の小岩でのリリースパーティでもCYBERNEとDEADは凄まじいアクトを見せていたが、四国は愛媛の国宝級レーベルである Impulse Recordsからとんでも無いスプリットがリリースされた!今作は大阪を拠点に活動するCYBERNEとknelltに加えてオーストラリアのDEADによる2012年リリースの3wayスプリットである。各バンドそれぞれ3曲ずつ提供している。全くタイプが違いながらも完全に独創的な音を鳴らす3バンドによる極悪異種格闘技戦だ!!
一番手はCYBERNE。今作からツインドラム編成となっているが、とにかく彼等の音はエクストリームハードコアの極北に位置するバンドだと思う。「メタル化したジーザスリザード」とか「プログレの皮を被ったケダモノ」等と評されているらしいが、とにかくそんなチャチな物ではない。パーカッシブなツインドラムのイントロから一気に歪みまくったジャンクサウンドが咲き乱れ、変拍子駆使のキメを乱打し、圧倒的な情報量で畳み掛ける「Deflush - 月皇-」から完全に異形の世界が見えてくる。しかもこのバンドトリプルボーカルと来ているし、畳み掛けまくる3人のボーカルがエクストリームジャンクサウンドをより混沌へと導く。拡声器による歪んだ叫びが狂気を高めているし、あらゆるエクストリームサウンドをごちゃ混ぜにしたらとんでもないゲテモノが生まれてしまった上に更に凶悪な殺人マシーンだったみたいな感じだ。もしくは中本と二郎のスープをミックスしてしまったかの様な音を不特定多数にブチ撒けている感じだ。「Zomist -散死-」なんて不気味な呻き声から始まり、どんよりとしたベースラインからもう殺される予感しかしないし、スラッジ色を強めたリフが降り注いだ瞬間に死刑宣告無しの鉄槌が聴き手にもれなく降り注いでくる。そして終盤では怒涛のジャンクサウンドが超音圧で吹き荒れ、粉みじんになった聴き手の遺体をご丁寧に血や肉片すら残さず喰らう乾いた笑顔の殺人鬼としての凶悪さを誇る。一発目からこんなヤバい音がお構い無しに迫ってくる時点で今作は異常さを極めている。
続く二番手はオーストラリアのベースとドラムのみの2ピースであるDEAD。「The Carcass Is Dry」では最初はアンビエントなパートで焦らしに焦らして、そこからバキバキに歪んだベースとタイトかつフリーキーなドラムのみによる異質のポストハードコア劇場が始まる。少し引き摺る感じがするベースの音はスラッジ要素を感じさせつつも、彼等の本質はポストハードコアだ。非常にバンカラで男臭いボーカルがまず良いし、時にタッピング等を用いながらも基本はピック弾きでメロディラインをゴリゴリに弾き倒し、しかもその旋律が渋さとキャッチーさをしっかり持ちながらエモさも生み出しているのが驚きだ。シンプルな音数のベースは歪んだ音で地を這い、ドラムは手数多目に攻めながらも、ビートの軸は全くブレず安定感を誇りながらも、自由なサウンドを鳴らしている。「Of All The People I Hate Most,I Hate You MORE」ではよりスラッジに接近した激重かつ煙たさを持つ重低音が這い回り、一発一発の音がミドルテンポで繰り出されつつ、ポストハードコアのスタイルを破り、ドープなまま突き抜けるスラッジ絵巻。ポストハードコアからエモからスラッジまでを最小限の編成で自在に行き来する彼等もまた違うベクトルで危険だし凶悪。
そしてラストはknellt、「The 33 unearthly」から完全にフューネラルなドゥーム絵巻を展開しており、今にも止まりそうなビートがツインドラムの緻密さと音圧で鳴らされている。激重サウンドである推進力を半ば放棄しながらも、非常にメロディアスであり聞きやすさはしっかり残してあるし、その中でドゥームの毒素をより抽出したかの様な楽曲を高い完成度で鳴らしている。悲壮感に満ちた絶望的なクリーントーンのボーカルも印象的だし、不意にBPMを速めるパートを入れたりして、更に予測不能の音像を打ち鳴らしていたりもする。その一方で「TOG」では少しBPMも速くなり、暗黒リフが押し寄せる黒の濁流の中でSeekのボーカルであるSUGURU氏がゲストボーカルとして参加し、ドスの効いたハードコアなボーカルを聴かせている。こちらも中盤ではしっかりメロディアスなフレーズを盛り込んだりしているし、危険値はそのままでよりハードコアの接近した事により音の破壊力と歪みがよりダイレクトに伝わってくるし、終盤のツインドラムの正確無比な音の乱打は圧巻!!そして「Singing Objects into existence」では不穏かつ妙なキャッチーさを持つクリーントーンのギターフレーズから始まり先程までの空気を変えてしまうが、それを更にブチ壊す暗黒ドゥームリフがタイトなツインドラムと共に叩きつけられ、残酷な鮮血が飛び散るラストを迎える。
3バンドに共通項はあまり多くないけれど共通して言えるのは非常に独創性があって尚且つエクストリームな音を放出しまくっている点だ。単なるスプリット作品に留まらない凄みを今作から嫌でも感じる事が出来るし、極限世界に足を踏み入れてしまった物達による宴が見事にパッケージングされている。最初から最後まで休まる暇すら無く、脳細胞すら書き換えられてしまいそうな一枚。2012年のエクストリームミュージックのマストアイテム!ゲス野郎は聴いておけ!!!!!
■MOMENT/Look at moment

四国は香川県高松から新たな激情系ハードコアの刺客が現れた!!高松の3ピース激情系ハードコアバンドであるLook at momentの2012年リリースの1st音源。リリースは同じく四国を拠点にしている愛媛のforget me notの井川氏主宰の Impulse Recordsから。荒削りではあるけれども、正統派激情で高いポテンシャルを見せてくれる1枚であり、これからの進化が楽しみになる作品だ。
彼等の音は本当に激情系ハードコア黎明期の荒削りでストレートなサウンドを見事に受け継いでおり、非常にストレートなハードコアサウンドを見せてくれる。多くの先人達の流れを受け継ぎながらも、そこから新たな音を生み出そうとする気合いや意気込みも感じる。不穏さを出しつつもあくまでもストレートなハードコアサウンドに拘り、メンバーがそれぞれボーカルを取って、激情をより加速させていくボーカルスタイルもかなり様になっている。不穏なディスコードサウンドを極限までドライブさせ、極悪に歪んだサウンドは、軟弱な輩は一撃で葬り去る力を持っているし、第1曲「その声と記憶」では不穏なブラッシングから始まり、タイトあkつエモティブまハードコアが展開される。ダークさを感じさせつつも彼等の旋律は実にエモーショナルでもあるし、疾走するパートは90年代激情のそれを感じさせ、それを不穏さの空気を感じさせるパートを絶妙に使いこなしつつ、ストレートに爆発させる。一方で第2曲「this communication」ではクリーントーンのディスコードのコードストローク主体のギターワークがクリアさを生み出しながらも、暴発させ彼方へと走り抜ける必殺の名曲になっているし、第3曲「メリットを追っても何も得ない」では不穏なパートから始まりながらも、変則的なビートを使い分けカオティックさも生み出せるのをしっかりとアピールしているし、それぞれの楽曲でそれぞれ先人の影こそは見えるが、Look at momentとしてのオリジナリティを感じさせるのは彼等のセンスが成せる技なのだと思う。今作は特に中盤の第4曲「others」で見せる不穏さを際立たせたカオティック激情絵巻と第5曲「scene of fourteen」での完全にクリーンな音とボーカルでエモーショナルな壮大さをあくまでもハードコアのまま歌い上げているのが非常に印象深かった。第6曲「living alone」なんてsoraが持っている様な繊細さの中で煌くエモーショナルさをよりハードコアに接近した形で鳴らし、クリアな前半から打って変わって中盤ではざらついたハードコアとなりう最後はスケールを高めて魂の絶唱という大団円を見せ、メンバー3人の絶唱が激突するという涙腺大崩壊の名曲となっており、彼等の可能性に期待してしまうのは間違いない。そして〆の第7曲「moment」では今作でもっともストレートかつキャッチーなハードコアで終わるという終わり方もまたナイス。
まだまだ若手バンドではあるかもしれないけど、多くの先人達の影響をしっかりと自らで昇華しているからこそ生まれた激情系ハードコアであり、不穏でありつつもストレートな激情と、壮大なエモーショナルさをそれぞれ持っているバンドだと思うし、それが次回作ではどの様に進化し変貌しているから読めそうで読めなかったりもする。しかしながらこれから大化けする可能性が十二分に彼等にはあるし、遠い四国という地から新たな新星が生まれたのは間違いない筈だ。
■Split/heaven in her arms×yumi

国内激情最高峰として名高いheaven in her arms。2ndアルバム「幻月」以降は精力的に海外でもライブを行っていたりする彼等だが2012年に入ってリリースされた新音源はシンガポールの激情系ハードコアバンドであるyumiとの7インチスプリットであり、今作ではそれぞれが1曲ずつ提供する形となっている。プレスは300枚限定。そしてそれぞれがあまりにも美しい激情を見せてくれる1枚となった。
まずheaven in her armsは「白夜の再結晶」という新曲を提供。昨年リリースされたAussitôt Mortとのスプリットではかなりカオティックハードコアに振り切れた楽曲を提供していたが、この「白夜の再結晶」はHIHA至上最も美しい1曲と言って良いかもしれない完成度を誇っている。スケールの大きさは2ndである「幻月」の流れを受け継ぎながらもピアノの音をフューチャーし、歪みながらもクリアで美しい音色が交錯し、楽曲の後半まではケント氏はポエトリーリーディングを披露。徐々に歪む音色がスケールを加速させシューゲイジングして行く様は彼等の名曲である「赤い夢」を彷彿とさせるけれども、ケント氏がハイトーンのシャウトを見せた瞬間に、それらの音が光を描く轟音としてタイトルに相応しい美しい純白の結晶を生み出していく。驚きなのが今までは徹底して赤黒い闇の中から美しさを見せていたHIHAがここまで光を感じさせる楽曲を生み出したっていう点だ、相変わらず楽曲その物はシリアスではあるけれども、歪みながらも3本のギターが持つ輝きが反射し合っている様のスケールは圧倒的だ。だからこそこれから先にリリースされるであろう3rdアルバムが非常に楽しみで仕方が無い。
一方のyumiであるが、僕は今作で初めて彼等の存在を知ったのだけれど、激情系であると同時にポストブラックメタルを感じさせるトレモロリフと叫びは中々にダークで良い。トレモロリフの洪水から始まりつつも、静謐なパートもしっかりと盛り込んできたり、その旋律は紛れも無く激情系ハードコアのそれには間違いは無い。そしてそこから暴発するパートへ突入するカタルシスは中々の物がある。DeafheavenやGottesmorderみたいにポストブラックの中から激情を感じさせたり、Coholみたいなブラックメタルを前面に出しながらの激情とは違って、あくまでも激情系ハードコアのフォーマットの中でポストブラックの色をアクセントに加えているといった感じの印象だ。だからこそストレートに悲壮感が伝わってくるし、同時にそのダークさを粗暴なハードコアとして鳴らしつつもスケール感を同時に演出も出来ていたりする。これは予想外に良いバンドだったと思うし、これからも色々チェックしていくつもりだ。
たった2曲入りの7インチではあるが、どちらも素晴らしい激情系ハードコアを聴かせてくれる1枚であるし、今作にはダウンロードコードも付属されているからレコードプレイヤーを所持してない人にも是非とも手にとって欲しい作品だと思う。正直に言うとHIHAの新曲目当てで今作を購入したが、HIHAは新たな進化を感じさせる必殺の1曲を提供しているし、yumiも近年東南アジアで地味に盛り上がり始めてる激情系ハードコアシーンの真髄を感じさせるナイスな1曲を提供したと思う。それぞれのバンドの今後のアクションには是非とも期待したい限りだ。
■DEAD & CYBERNE & KNELLT 3way split release tour(2012年9月16日)@小岩bushbash
・cohol
さて一発目はcohol、相変わらずアンビエントな音色が不穏さを加速させるオープニングから始まり、HIROMASA氏の挨拶と同時にその不穏さを加速させ必殺の「底知れず吠える軟弱」にて怒涛の暗黒激情ブラックへと突入!!しかし今回で観るのは三回目だったけど、怒涛のトレモロリフと静謐なアルペジオの対比を上手く使いながらも、直情的なトレモロの洪水と重苦しいベースラインの乱打と怒涛のブラストビートの三位一体の攻撃に暗黒の旋律を盛り込み、想像を絶する闇を生み出す彼等のステージは本当にいつ観ても神秘的ですらあると思う。徹底して冷徹で泣き叫ぶ音の暴力と、HIROMASA氏のハイトーンシャウトとITARU氏の低域デスの掛け合いが闇と闇を二乗させて増幅させていく。しかしながら今回のアクトは本当にITARU氏が格好良かったなと個人的に思ったりもした。一発目から小岩を闇の激情と鮮血で染め上げたcoholはやはりどんなイベントだろうと絶対に自らを曲げないバンドだと思うし、だからこそ彼等の音には重みがあると思うのだ。

・CYBERNE
お次は今回の主役の一つであり大阪からの刺客であるCYBERNEの登場。ステージのど真ん中には何故か巨大な拡声器が設置され、しかもツインドラムという始まる前からテンション上がるしかないセット。しかしその音は本当に混沌と戦慄の乱打。変則的でありながらも息ぴったりに強烈なキメとビートを叩き付けるツインドラムとに加えて、ヘビィでありながら変則的に不協和音を叩き付ける弦楽器隊、しかも弦楽器隊3人は全員ボーカルを取るというトリプルボーカルなんだから常時先の読めない緊張感と混沌が渦巻きつつも、それをブチ抜く爆音のカタルシスは凶悪その物、ほとんどノイジーになってしまってる旋律が吹き荒れる様は正に交通事故と呼ぶに相応しい惨状だっただろう。しかしそんな音楽性とは裏腹にMCでは気さくさを全開にして大阪バンドらしさを見せてたギャップは少し微笑ましかったりもしたけど、だがその音は徹底して壮絶で、彼等のアクトが終わった瞬間にただ笑いしか出てこなくて出てきた言葉が「ヤべえ」だった。本当におぞましい物を目撃した瞬間の笑いしか出てこないあの感じがまさに彼等の音であり、「メタル化したジーザスリザード」、「プログレの皮を被ったケダモノ」とも評されているらしいが、決してそんなチャチな物では無かった。「乾いた笑いの電脳殺人マシーン」僕はそう思う。是非機会があれば一度は彼等のアクトを観て欲しい。本当に最後は笑いしか出てこないから。

・heaven in her arms
そしてお次は国内激情系最高峰とも言うべき漆黒の激情系5人組HIHAのアクト。だったのだが今回のアクトは正直簡単に言葉に何か出来ないレベルの物であった。彼等の持っている漆黒の暗黒がこの小岩と共鳴して強靭なハードコアとして打ち鳴らされていた。ハコが狭いのもあったのか今回はいつもの2段アンプのセッティングでは無かったにしても相変わらず音量が凄まじいし、それでいてシューゲイジングしながらトレモロリフも同時にかましているみたいなHIHA特有の轟音が吹き荒れていたし、「Inversion Operation」から最高レベルの激情がどこまでも粗暴なハードコアの暴力としてカオティックさの先にある美しさが咲き乱れていたし、前回見た新代田FEVERでのライブでも披露されていた新曲は先日リリースされたYumiとのスプリットに収録されている「白夜の再結晶」とは全然ベクトルの違う暗黒激情百花繚乱とも言うべき出来で本当に次のアルバムに対する期待が高まるし、後半に披露された「痣で埋まる」は初期の楽曲でありながらも、その轟音が織り成す激情は現在でも全くブレてなんかいない事を見事に証明していた。しかしHIHAの真髄が発揮されていたのは最後に披露された「赤い夢」だろう。全ての音が泣き叫ぶ正に漆黒のシューゲイザーと呼ぶに相応しいこの楽曲は彼等の楽曲の中でも屈指の1曲である、小岩は完全に別世界へと導かれ、あまりにも悲壮感溢れて感動的な轟音の洪水がこの世界の穢れを嘆いているかの様にすら僕は見えてしまった。間違いなく今回のイベントで一番のベストアクトであったと思うし、彼等は本当に唯一無二な存在である事を再確認した。HIHAは本当に凄いバンドだよ。

・DEAD
トリ前は今回のイベントのもう一つの主役であり、オーストラリアからのお客様でもあるDEADのアクト。ベースとドラムのみというシンプル極まりないセットに、上半身裸の男が繰り出しているのは鋭角さを極めたポストハードコア。ベースの音の重みを生かし、バキバキに歪んだ音が生み出す鋭角さと、タイトさとフリーキーさを兼ね備えたドラムは本当に息ピッタリにアンサンブルを奏で、時にタッピングなんかを盛り込みつつも、ベースとドラムのみとは思えない人力の音圧が迫り来る彼等の音は本当に独自の物であると思う。しかし彼等の凄い所は一見アバンギャルドな編成と音楽性にも関わらず、それを難解にしないで非常にノリやすく、地味にキャッチーな旋律を盛り込みながらもいずし銀の渋さを見せてくれる所だと思う。ベースボーカルの人は上半身裸な上にスキンヘッドというルックスからして修行僧みたいな謎の貫禄を持っていたりもしたけれど、その歌声と叫びは非常にエモーショナルで男臭くて単純に観てて格好良かったし、彼等はエモーショナルでこそあるけど、全くナヨさが無いのである。重低音とフリーキーなドラムが生み出す超硬派なポストハードコアサウンドは男の子だったら一目惚れ間違い無しの貫禄を持っていた!!

・Tiala
そしてラストは小岩が世界に誇るハードコア番長であるTialaの登場。毎回毎回様々なハコで笑顔の暴動を巻き起こしている彼等のアクトに狂気乱舞を覚悟して挑んだが、今回のイベントではモッシュしてるのは僕含めて他数人といつものTialaに比べたらお客さんはかなり大人しかった様に見えた。ホームである小岩で彼等を見るのは初めてだったのだが、今回のイベントのお客さんは少し大人しい人が多かったのかななんて思ったりもしたけど、当のTialaからしたらそんなのは全くお構いなし、小さい白熱電球2個のみがステージを照らし、完全に薄暗くアングラ感溢れるハコの中でもボーカルの柿沼氏は速攻でステージを飛び出しフロアを所狭しと横断しながら叫ぶ叫ぶ、彼等の音は紛れも無いハードコアでありながらも、ポストパンク仕込みの変則性とやたらキャッチーな旋律が奇妙な磁場を生み出し、それを柿沼氏以外の楽器隊も非常に高いテンションで打ち鳴らす。人懐っこくも乱暴な彼等の格好良さはどんなに客がいつもより大人しかったとしてもお構いなしだし、最早重鎮の貫禄すら感じる格好良さは相変わらずの安定感があったし、そんなイベントであろうともTialaの相変わらずな感じが僕がTialaを愛する理由の一つなんだろうなと思ったりもした。アクト自体は少し短めだったのだけが残念ではあったけど、それでも相変わらずの格好良さ!彼等の前では本当に小学生並の感想しか出てこないけど、野暮な言葉抜きに格好良いから仕方ない。小岩のハードコア番長は変わらず健在である!

そんなこんなで5バンドとも本当に濃密なアクトを見せてくれたので非常に大満足な夜になったのであった。正直言うと小岩bushbashはその立地もあって自宅から電車で一時間かかったりするので足を運ぶのがぶっちゃけ面倒であったりはするのだけれども、それでも足を運びたくなる様な熱いイベントが多いし、小岩だからこそ生まれるハードコアの磁場が間違いなく存在しているとも思う。今回のイベントは5バンド共音楽性が本当にバラバラであったりはするけれど、それでもその磁場が加速して素晴らしいライブを見せてくれたし、本当に素敵な夜になったと思う。
■Ataraxia/Taraxis/Pelicam
![]() | Ataraxia/Taraxis (2012/04/10) Pelican 商品詳細を見る |
ポストメタルを語る上で絶対に外せないバンドであるPelican、ISIS級の人気をこの日本でも誇り、多くの支持者を獲得している彼等だが、多くの人が待ちに待てった2012年リリースの新作EP。傑作4th以来約2年半振りの音源という事もあって本当に多くの人が待ち望んでた彼等の最新作はリリカルかつタイトでヘビィなインスト世界というもう安定してPelicanな音が4曲収録されている。
今回は今までに無い位楽曲がコンパクトで、4曲で約18分という非常にタイトな作品になっている。しかしだからと言って彼等のリリカルさと屈強なアンサンブルは全く揺らがない。第1曲「Ataraxia」少しどんよりとした電子音を取り入れつつも、アコギとキーボードをフューチャーした楽曲で、郷愁と哀愁が静かに流れる1曲、彼等らしいリリカルさと情緒豊かさはやはり健在ではあるけれど、これは新たなアプローチであると思えるし、静謐でありながら水辺の波紋の様に静かにスケールが広がって行く様はやけに物悲しくありながらも美しい儚さを持っている。しかし第2曲「Lathe Biosas」ではもう安定していつものPelicanが炸裂。ヘビィでタイトな4人のアンサンブルの屈強さは楽曲がコンパクトになった事によって更に引き締まり、絶妙なキメとコンパクトな尺の中でもきっちり一つのストーリーを描く表現力、ヘビィでメロウなサウンドが咲き乱れる様は正にPelican節としか言えない彼等の魅力であり、今作でもそれは健在であり更に風格や余裕すら感じさせるレベルだと思う。第3曲「Parasite Colony」ではより重くスラッジさを加速させ、ダウンテンポの重いグルーブを軸に展開する1曲だが、そんな楽曲でも持ち前のリリカルな旋律は全く薄くなってないし、寧ろその重みとリリカルさの対比を効果的に活用している。最終曲「Taraxis」ではアコギのさわやかで涼しげな音色と、不協和音でありながらも妙なリリカルさを持ったエレキが絶妙に調和し、揺らぐ不穏さを演出、その独特の叙情の波から重みを加速させて終盤ではバキバキに歪んだサウンドに変貌し、一気に鉄槌を下すというダイナミックな締めくくりを見せる。
4曲共それぞれアプローチこそは違うが、それでも作品として非常に引き締まったフォルムを持っているし、ポストメタルの雄の貫禄を見せ付けるには十分な作品であろう。今回はEPでの音源リリースではあるが、今作を聴いて来るべき次回作ではどの様な進化を彼等が見せてくれるか楽しみになる1枚。
■Egal Ist 88/BALLOONS

96年結成、既に15年以上に渡って活動している猛者であるBALLOONSの2010年リリースの3rdアルバムで現時点での最新作。台湾でのツアー等世界進出も果たし、激情系のシーンの猛者とも共に殺り合っていたりもするからその名前を知っている人は多いだろうが、ポストロックとポストハードコアが静かに組み合わさり、卓越しまくった演奏技術が成せるクールで冷徹なアンサンブルを極めた作品だ。
はっきり言ってしまえば彼等の音は何かしらのカテゴライズが本当に不可能なバンドであると思う。一聴するとポストロックではあるけど、ポストロックにしてはあまりにも歪であるし、もっとDCポストハードコアのバンドが持ってた不気味さを感じるのだ、でもそれともまた違う、基本クリーントーンでのギターワーク、不意に歪むベース、どこまでも歌っているのに歌物では片付けられないボーカルであったりとか、繊細さと大胆さを兼ね備えたドラムだったりとか、どこまでも計算され尽くしているアンサンブルなのに捩れまくっている。平熱のまま冷たい感触を押し付けられているかの様な感覚に襲われる。楽曲によっては管楽器やピアノなんかを取り入れたりしつつも、根底にあるのは緻密で冷え切ったアンサンブル。それらがネットリ緩やかに絡み付いて、最終的には聴き手に同化して取り込んでしまうかの様でもある。何よりも彼等の魅力はその鉄壁のアンサンブルで奏でられる旋律だ。クリーントーンの美しいフレーズの反復が生み出す不穏な螺旋、直情的では無いにしても、耳にしっかりと馴染む癖に、随所に不協和音を盛り込み、緻密で不整合という矛盾したアンサンブルを更に加速させるだけでなく、安易なエモーショナルさに走らず、淡々と滑らかで偏執狂的な音色が首を真綿で締め付ける様な錯覚すら感じさせる。そのメロディこそBALLOONSの最大の武器であると思うし、ポストロックもポストハードコアもオルタナティブの通過し尽くした先の音を完全にBALLOONSの音として統率してしまっている。作品全体の楽曲の統率感も徹底しており、どの楽曲も温度は決して変わらないし、随所に変則的なキメや転調を盛り込みつつも決してドラマティックさには走らずに、最初から最後まで一つの流れが完全な形で生まれている。そして今作を通して聴いた時に、徹底した美学に基づくBALLOONSの世界が体内で流れているのだ。
長年に渡り地道ながらも着実に活動し、数多くの猛者から惜しみないリスペクトの声を集めているバンドなだけあって、ポストロックやポストハードコアのテンプレートを静かに破壊し、自らにしか乗りこなせない一つの規約をこのバンドには存在する。BALLOONSはBALLOONSでしかないし、彼等の真似なんかとてもじゃないけど出来やしない。静かなる狂気と、暗殺者の隠し持つナイフの様な切れ味のアンサンブル。液状であり、粘りまくった猛毒が近作には確かに存在する。大推薦の1枚だ!