■2012年10月
■Highflyer/Eternal Elysium
![]() | HIGHFLYER(ハイフライヤー) (2012/10/24) ETERNAL ELYSIUM 商品詳細を見る |
20年にも渡り活動し、日本が誇るドゥームメタルバンドとして名高い名古屋の世界遺産級3ピースドゥームメタルバンドであるEternal Elysiumの2012年にリリースされた久々の新作は4曲入りのEP作品であり、表題曲である「Highflyer」は大日本プロレス・石川晋也選手の入場テーマとして書き下ろされた物だ。石川選手はドゥーム・デスメタル・ブラックメタルの愛好家であり、EEの岡崎氏はプロレスファンでもあり、石川選手がEEのライブに足を運んだのが切欠で親交が始まり、お互いにライブや試合に足を運ぶ間柄になったらしい。それで今回の様な意外なコラボが生まれたという経緯らしい。その他にも表題曲の別アレンジやFlower Travelin' Bandのカバーや最新の新曲を収録した充実の4曲入りだ。
先ず今作のリードトラックにもなっている第1曲「Highflyer」はEEの楽曲の中でもアップテンポな1曲であり、ドゥームメタルとしてだけでなくハードロックバンドとしての土臭さやキャッチーさを持っているEEのそちらの方面のカラーが色濃く出ている。序盤のドゥーミーなリフからワウギターの流れなんかは間違いなくドゥームではあるが、少し引き摺るリフの重みなんかを持ちながらもBPMは決してそんなに遅くないし、ヘビィさとキャッチーさの両方の要素の融和を武器にしているEEの魅力が全開になっていると言えるだろう。中盤ではBPmを落としドゥームとサイケデリックの融和とも言える煙たい爆音リフが吹き荒れ、密教的な音階を聴かせつつも、それでもギリギリのラインで持ち前のキャッチーさは絶対に失わないのは流石。そしてラストは再びアップテンポなハードロックとなり試合終了のゴングで終わるという何ともニクい終わり方。彼等の持ち味がモロ出たキャッチーさとサイケデリックさとヘビィさの三点攻めは見事だ。第2曲「Map」はFlower Travelin' Bandのカバーであり、原曲の持つブルージーな哀愁を生かしながらも、それをより重苦しくしたカバーを見せており、タイトル曲とは打って変わって湿った哀愁と少しの密室感を見せつつも、原曲の魅力を生かしながらそれをよりヘビィにビルドアップしたサウンドスケープはお見事の一言である。第3曲「Circulation」は新曲となっており、ブルージーなフレーズから始まりながらもそれが爆音のヘビィなリフへと変貌し、サイケデリックさを前面に出したドゥームサウンドが炸裂する1曲。ブルースや古き良きハードロックやサイケデリックといった音楽を根底に持つ彼等の必殺のサイケデリックドゥームが炸裂しており、引き摺るリフとは対照的に躍動感のあるビートがサイケデリックさだけでなく肉体的なアンサンブルを生み出し決して難解にはならないキャッチーなドゥームメタルとしてのEEがまた違う形で全開に。終盤のアップテンポになってからのギターソロは本当に純粋にロックバンドとして格好良いソロだし、その中でドゥームならではのサイケデリックな高揚感を見せつけ、頭の中からヤバい分泌物が出まくってしまう。第4曲「Highflyer - Down Not Out」はタイトル曲の別アレンジで、全く違う空気を生み出しホーンやピアノ等を取り入れ完全なるサイケデリック絵巻になっている。
個性豊かな全4曲になっているが、国内ドゥームの最重要バンドとしてのEEは相変わらず健在で、貫禄を見せるEPに仕上がったと思う。現在もマイペースながらも精力的に活動し、気付いたら20年選手になっていた彼等だが、現在でも全く衰えないドゥームサウンドを生み出しているし、そんな猛者の貫禄が伺える作品だ。そして早く次のアルバムが聴きたい限り。
■Future Anterior/Serotonin
![]() | Future Anterior (2004/01/27) Serotonin 商品詳細を見る |
アメリカはテネシー州の3ピースポストハードコア・エモのバンドであるSerotoninの04年リリースの作品。録音自体は00年に行われた作品らしいが、それを考えると大分早すぎたサウンドだったのかもしれない。今でこそマスロックとエモやハードコアを融和させたバンドは多いが、録音された00年で激情とポストハードコアとエモとマスロックを融和させたハイブリットな音を奏でているのにも驚きであるし、どこまでもスリリングな作品に仕上がっている。
彼等のサウンドはとにかく3ピースで各楽器の音が非常にテクニカルなフレーズでぶつかり合うスリリングさもそうだが、決してテクニック先行で終わるのでは無く、目まぐるしい展開と非常にエモーショナルな旋律をあくまでもヒリヒリとして冷たさの中の熱さとして機能させており、焦燥と緊迫感から生み出されるエモーショナルさが武器になっているのだ。ボーカルも時折叫んだりしたりこそはするけど、あくまでも微熱の熱量のクリーントーンでの歌がメインだし、転調を繰り返しまくり、楽曲の中で常に刺激を放つ続けるからこそ常に尖った音だけが響き渡る。あくまでも楽曲の完成度を際立たせる為のテクニカルさであり、DCポストハードコアや90年代エモの流れを汲み取りながらもそれを更新させているのだ。第1曲「Error Correction」なんかはもう完全にSerotoniの魅力が全開になっており、クリーントーンと軽く歪んだディストーションサウンドを巧みに切り替え、リフで攻めながら同時にとんでもない情報量のタッピングの嵐も吹き荒れ、リズム隊は静と動を使い分け、静謐さと激情の狭間を掻い潜る変則的で変態的なビートを繰り出している、それでもあくまでもメインは歌であり、どこまでも歌を生かしたアンサンブルを奏でているのも大きな肝になっている。一方で第3曲「Signal Flow」は持ち前のマスロック的アンサンブルをDCポストハードコアと絶妙に融和させ、ヒリヒリした焦燥を一つの激情として鳴らしているのも見逃せない点だと思う。同時に今作は長尺の楽曲も収録されており、第2曲「Drifting」なんかは9分間の中で滅茶苦茶な楽曲構成と予測不能のサウンドが見事に咲き乱れていながらも、どこまでも緻密なアンサンブルを最大限に発揮し、終盤では持ち前のエモティブさも全開にし、どこまでも心臓を抉り取るかの様なアンサンブルと音符の嵐が吹き荒れるカオティックさで絶頂してしまうのは間違いない筈だ。第5曲「Alias」では今作で最も疾走するビートを見せ、更に自重をしないタッピング中心のギターフレーズがどこまでも乱れ咲き、最後は冷徹さと熱を同時に押し付けられる感覚にすらなる。
感情の高まりを表現し、それが結果的にどこまでもスリリングな微熱のサウンドになったのだと思うのだが、キリキリしたアンサンブルの中で歌い叫ぶボーカルは更に直情的でもあるし、どこまでも胸を突き刺すサウンドになっている。そしてどこまでもテクニカルであっても青臭いサウンドは本当に涙腺を刺激してくるのだ。激情・エモ・ポストハードコア・マスロック、どの層のファンにもお勧めしたい大推薦作品だ。
■Allelujah! Don't Bend! Ascend!/Godspeed You! Black Emperor
![]() | Allelujah! Don't Bend! Ascend! (2012/10/16) Godspeed You! Black Emperor 商品詳細を見る |
去年の来日公演も記憶に新しいし、轟音系ポストロックの完全孤高のオリジネイターであり最高峰とも言える存在であるGY!BEの再始動は本当に多くの人が待ち望んでいたと思うし、だからこそ再始動以降の新しい音を待ち望んでいた人も本当に多いと思う。そして2012年、突如としてリリースされた実に10年振りの最新作はGY!BEがやはり完全にオリジナルな存在である事を証明し、そして誰も真似出来ない高みへと更に登り詰めてしまっていたのだ!!もう言うまでも無いのかもしれないけど今作は2012年の最重要作品であると同時に、2012年屈指の大名盤である。
作品の構成としては約20分にも及ぶ壮大な轟音オーケストラが2曲と6分半のドローン曲が2曲という全く親切じゃない作品の構成が既にGY!BEらしいけど、約53分に及ぶ壮大な轟音絵巻は完全に別次元の物であると同時に、再生と破壊を同時に繰り返し、混沌を生み出し、それをどこまでもシリアスで美しい轟音として奏でる一大オーケストラとして君臨している。まずのっけから20分にも及ぶ第1曲「Mladic」が彼等の新たな進化を感じさせるだけではなく、GY!BE屈指の名曲であると断言出来る素晴らしい物になっている。序盤から不穏なストリングスの音が響き渡り、重苦しくシリアスな空気を作り出し安易な癒しだとかそういった要素を完全に排除し、世界で最も過激なバンドである彼等が全く日和ってなんかいない事を嫌でも知る事になる。そしてヘビィなギターのドローンなフレーズが入り込み、空間を埋め尽くしながら、同時にインプロ的なギターも入りこれから始まる新たなる破滅と創造の世界のプロローグが不気味に響き渡り、そこからオリエンタルなフレーズが入り込み楽曲の空気を変え、ヘビィなギターリフが轟音として迫り、熱量を高めながら歪みまくったギターも入り込み、中東辺りの音楽を思わせるフレーズを今までに無いレベルで明確になった輪郭で叩きつけてくる。ドラムもマーチングを基調としながらも変則的に躍動感を与えているが、今作ではこれまでに無いレベルでの疾走感も加わっているし、今までのGY!BEに比べたらかなり楽曲の輪郭ははっきりしているし、より分かりやすい形で自らの音をアウトプットする事に成功している。しかしこれは彼等がロックに接近したのとは全然違うと思うし、これまで抽象的な音が多かった彼等がより明確な音を打ち鳴らした事によってアンサンブルに更なる肉体性が加わっているし、相変わらずメロディアスではあるけれども、だからこそ彼等の不穏さがよりくっきりとしているし、どこまでも残酷な映像を観ているかの様な錯覚にすら陥る。そんな混沌という言葉が相応しい中盤を経て、「Mladic」は後半ではよりオーケストラティックな音へと変貌し、幾重のギターが轟音を奏で、まるで悲劇が全て過ぎ去った先の祝福すら感じさせる天の福音とも呼ぶべき音色が奏でられるが、それも次第に輪郭が崩壊し、混沌へと雪崩れ込み崩壊する。そして最後に残されるのは雑踏と狂騒だけだ。6分半の不気味なドローンである第2曲「Their Helicopters Sing」を挟んで、第3曲「We Drift Like Worried Fire」は今作のもう一つの核とも言える、こちらも20分に及ぶ大曲。こちらはこれまでのGY!BEを総括するような名曲であり、アンビエントな不気味なパートから始まり、新たなる残酷な物語の幕開けを見せるが、そこから悲壮感漂うアルペジオが入り、不気味なベースラインと同調し、シリアスで息苦しくなる空気を生み出しているが、徐々に他の楽器の音も入ってくるとその空気は少しずつ変貌し、そして轟音ギターが顔を見せた瞬間に悲壮感に満ちた空気が少しずつポジティブな風景へと切り替わり、それを加速させるドラムの力強さとあらゆる楽器の美しき音色が灰色の風景に色彩を与え、ノイジーさを見せた瞬間に残酷な悲劇は終わりを迎えると同時に新たな誕生の物語が幕を開く。轟音ギターのフィードバックの嵐から、ストリングスの音色がその終わりと始まりを繋ぐ橋渡しをし、静謐さの中で見せる切迫感を見せつつ、再び楽器隊の音が入り込むと、その切迫感は加速し、単なるメロウな旋律に頼るだけじゃない、GY!BEならではのシリアスな強迫観念から来る不気味さと美しさが入り混じった風景と音色が音圧を上げて、物語のクライマックスへと導き、そして全ての音色が暴発した瞬間に全ての悲しみを洗い流す至福の轟音となり、どこまでもクリアで天へと羽ばたいて行く、幾多の音色が全ての命を救済するかの様な至上の世界へと導くエンディングへと雪崩れ込み、一大轟音劇場は終わりを迎える。そして最終曲「Strung Like Lights At Thee Printemps Erable」の静謐なドローンの余韻が今作のエピローグとして静かに響き幕を閉じる。
これは単なる轟音系ポストロックのオリジネイターの再結成作なんかでは絶対に終わらない作品だ。10年の歳月を経て作られた今作でGY!BEは見事に新境地を見せ付けただけでなく、世界で最も過激なバンドの一つであり、どこまでもシリアスな音を鳴らす彼等が更に極まっている事の証明だ。今作でも相変わらずジャケットやアートワークでの強烈なメッセージ性は健在だし、インストバンドでありながらどこまでもポリティカルであり続け、そのアートワークと轟音にシリアスなメッセージを込め、言葉や歌を用いらず、音のみで聴き手にメッセージを伝える屈指の表現力が大所帯で鳴らされる一大轟音オーケストラとして君臨しているのだ。今までの作品で一番分かりやすい形を見せてはいるけれども、だからこそ彼等のシリアスな轟音がよりダイレクトに伝わってくるし、より不気味でおざましくなりながらも、そのダークさとヘビィさから新たな希望を生み出す彼等は本当に無敵の存在だと僕は思っている。本当に数多くのバンドに影響を与えまくったGY!BEではあるが、何故誰もGY!BEに追いつけなかったかは今作を聴けば嫌でも理解できると思う。世界を変貌させる破滅と創造が織り成す混沌の一大巨編、世界を震撼させた轟音オーケストラがここにある!!
■Magic Machine Music/Fluid
![]() | Magic Machine Music(マジック・マシーン・ミュージック) (2012/10/10) FLUID(フルード) 商品詳細を見る |
京都を拠点に活動し、自主企画「僕の京都を壊して」を主催し、京都から危険な電磁波を発信し続けている電脳パンクバンドであるFluidの2012年リリースの実に4年振りになる3rdアルバム。2nd以降ベーシスト脱退というピンチを迎えたが、TORICOの元ベースHATAと、OUTATBEROのリーダーで、後期TORICOのメンバーでもあったビンゴが加入し4人体制となり更に危険度を高めた彼等の真髄が詰まった作品だと言えるだろう。リリースは危険音源発信レーベルとして名高いless than TVから。
サンプラー等を盛り込み電子音が縦横無尽に飛び回る電脳パンクのサウンドは相変わらずだが、ギターが2本になった事によって音により広がりを見せる様になりながらも、ほとんどの楽曲が3分未満というショートカットさの中で目まぐるしく展開されるサウンドはより研ぎ澄まされて刺激的な進化を遂げている。ズ太くうねるベースラインと変則人力ダンスビートなドラムとサンプラーの音が調和し、破壊し合い、ジャンクなビートを叩きつけ、2本のギターは鋭角的かつ金属的なギターワークで切り刻んでいくという前作からの流れを更に直接的な破壊力と、鋭角に落下するサウンドでズタズタにしていく、破壊と構築の限りを尽くしながらも、アバンギャルドさとキャッチーさとダンサブルさを併せ持ったFluid独自のダンスミュージックとして展開されている。第2曲「New World」からFluidの進化が見えてくるし、ドッシリとした重みのあるビートと切り刻んでくる必殺のギターワークが展開され、極彩色の近未来的パンクサウンドが脳内を異次元へと誘い、高揚感に満ちたトリップ感が脳内から本来分泌されないであろう物質まで分泌しまくってしまう感覚が洪水の様に雪崩れ込む危険性に満ちている。他の楽曲も怒涛の廃ボルテージなテンションで攻め立て、その勢いを決して殺すこと無く電脳世界のトリップが目まぐるしく変わるチャンネルの様に繰り返される。その中で第7曲「Short Cut Rockers Ver.2.2」は少しダウンテンポになった楽曲ではあるけど、高速のサウンドからダウンテンポのドープさへとナチュラルに転換し、その中でも踊れるという点は全くブレてないし、作品全体の流れの中で絶妙な変化を見せている。第8曲「NEW WORLD(ichion Remix)」は第2曲のリミックスであるけど、一撃必殺の電脳パンクを完全にドープなトランスサウンドへと転生させて、よりレンジの広い音にしているし、そこから第9曲「Fiction Once More」の狂騒のジャンクサウンドへと雪崩れ込み、より破壊力の増幅したサウンドに完全に侵食される。暴走する狂騒が終わり無く続き、それでもキャッチーであり、ポップさとアバンギャルドさがぶつかり合い、生まれる混沌というFluidの音はノンストップで続き、約32分の異次元が展開されているのだ。
破壊と構築から新たなダンスミュージックを生み出して来たFluidであるが、メンバーチェンジのピンチを乗り越えて、より破壊力の増幅した近未来サウンドを展開し、新たな次元へのパスポートとなるダンスミュージックを今作で見事に生み出したと言えるだろう。鋭角かつ近未来のジャンクでポップな電脳パンクは変わらず京都から危険すぎる電磁波として全国に発信されているのだ。
■SPLIT" 7/KYOTY×HOST

今年日本ではTokyo Jupiterから1stアルバムをリリースし、激重・美轟音フリークスの間で話題を呼んだKYOTYとメタリックネオクラストバンドであるHOSTのスプリット7インチ作品。同じニューハンプシャーのバンドという繋がりから恐らくリリースされた作品だと思う。今作ではKYOTYが1曲、HOSTが3曲提供するという全4曲の作品になっている。
今作はKYOTYとHOSTという全くベクトルの違うバンドのスプリットという事もあって、重く遅くリリカルで壮大なKYOTYと速く短くブルータルなHOSTという対比が生まれている作品であるが、まずKYOTYは1st以降の新曲を提供。リリカルさと緻密なアンサンブルの重みを生かした美しく重いインストサウンドでポストメタル辺りが好きなフリークスを虜にしたKYOTYであるけれども、その新曲はミドルテンポで緩急を絶妙に付けながらも焦らしに焦らしまくった壮大かつ緻密な約5分半のインストである「Taking red blood for granted — oh, how we walk on green grass.」という新曲を提供。美しい旋律を全面的に出しながらも、KYOTYの持ち味である重く引き摺るビートの力も感じさせてくれる。絶頂に達しそうで達しない絶妙な熱量のヘビィな轟音がスラッジな質感で少しずつスケールを拡大させ、絶妙な緩急の入れ方でドラマティックなサウンドを展開し、最後はその音の重みを拡張させ、壮大な轟音として耳に漆黒の美しい洪水が雪崩れ込んでくる。最早お見事の一言であり、1stでも見せてくれた天地を揺るがすスケールは今作でも健在だ。
一方のHOSTは3曲提供でありながら3曲共に1分半未満という光高速ネオクラストサウンドを展開し、KYOTYとは全く違う直情的で粗暴なハードコアを展開している。「I Tarry」ではハウリングするサウンドで幕を開き、メタリックかつブルータルなギターリフが止め処無く押し寄せ、クラストコア譲りのDビート中心で展開しながらも、絶妙な転調を盛り込み、暗黒なまま暴走しつつも、僅かな尺の中でドラマティックさも感じさせてくれている。そのタイトルからKYOTYに対するリスペクトが伺える「Keep Your Opinions To Yourself」ではよりブルータルにカオティックなサウンドを展開しながらも、少しダウンテンポになりつつ、スラッジな感触とネオクラスト特有のメタリックさも見せるギターリフで攻め立て一瞬で終わりを迎える高速具合。「On Drowning」ではダークさの中にもキャッチーさを感じさせるリフが印象的で、ツインボーカルの掛け合いなんかを見せながらも、ブルータルなまま暴走し、最終的には全てを置き去りにする3曲で4分の激情を、その瞬間にしか生み出せないダイナミックな破壊的サウンドで暴走している。HOSTの存在は今作で知ったが、また注目のネオクラストバンドが登場した事は間違い無いだろう。
同郷のバンド同士のスプリットでありながらも全く正反対の音を鳴らし、美しいリリカルさと粗暴なブルータルさという両者全く違う武器を使って対決しているスプリット作品。どちらも新進気鋭のバンドという事もあり、現在のハードコアシーンの新たな息吹を感じるスプリットになっているのではないだろうか?またHOSTが提供した3曲は下記リンクのbandcampページでバンド側がフリーダウンロードで配信しているので是非チェックして欲しい。
HOST bandcampページ
■All We Love We Leave Behind/Converge
![]() | All We Love We Leave Behind (2012/10/12) Converge 商品詳細を見る |
最早カオティックハードコアの世界で完全に孤高の帝王となってしまっているConvergeであるが、今作は2012年リリースの彼等の実に8枚目となる最新作。前作にて粗暴なハードコアへと回帰しながらも、自らの持つスケールもアップデートしてカオティック云々すら置き去りにした完全孤高の領域に突入したが、今作でも彼等の進化は止まっていない。カオティックハードコアの礎を作りながらも、それを自らで破壊するConvergeというバンドは唯一無二である事を今作でまた証明してしまっている。
粗暴なハードコアに回帰した前作の流れは確かに汲んでいるし、今作も直情的なハードコアばかりが並んでいるし、それらは相変わらず一撃必殺の破壊力を持っているが、まず今作での大きな変化は自らの持ち味であるカオティックさをよりダイナミックかつ分かり易い形でアウトプットしている事だ。シンガロング出来そうなパートも絶妙に盛り込みつつ、よりキャッチーにすらなっているのだ。Convergeといえば不協和音と変則的な楽曲が織り成す混沌であるけど、今作はよりメロディの部分も際立たせている印象を受けているし、そのキャッチーさを持ちながらもあくまでもブルータルに暴走しまくる激震サウンドが容赦無く押し寄せてくる。キャッチーな要素の比重が増えたからと言って、決して安易なポップ化をしている訳ではないし、持ち前のカオティックさを極限まで研ぎ澄ませたからこそ生まれた余裕ですらあると思う。リードトラックにもなっている第1曲「Aimless Arrow」から伺えるのは確実なる進化であるし、もう多くのバンドが模倣しまくってダダ滑りしまくってたConverge節としか言えない、カオティックなタッピングの嵐で幕を開けながらも、ハードコアの即効性と同時に不協和音が織り成す妙なメロウさと、それらが化学反応を起こして生まれる美しさが相乗効果を起こしてConvergeにしか生み出せないハードコアを圧倒的力量で展開されている。そして最後は怒涛の混沌へと雪崩れ込む辺りがもう完璧だし、その中で掛け合いのボーカルを盛り込んだりするキャッチーさも地味にあるのがまた良い。より直接的にカオティック&ファストなサウンドが展開されてる第2曲「Trespasses」でもサビではシンガロング必至なボーカルを惜しみなく入れて来ているし、所々でストーナー色を感じさせるギターフレーズを盛り込み、ハードコアであると同時にロックな格好良さも見せてくるからズルい!!サウンドプロダクトの方も今までに無いレベルでそれぞれの音の輪郭が明確になっているし、カオティックを明確なハードコアとしての形で打ち出しているからこそのプリミティブな破壊力に今作は満ちている。そんな中でも第7曲「A Glacial Pace」みたいな深遠な重みから激重のサウンドを繰り出し、不穏の美しさから一撃粉砕の音塊を叩き落している楽曲もあるし、第10曲「Coral Blue」では奈落の底に差し込む光の様な気高い風景すら見えてしまいそうな音を見せ付けてもいる。しかし説教臭さは全く無く、決して冗長の尺にしたりはしないで、常にどこかである種のキャッチーさを保ち続けてもいるのだ。そして第13曲「All We Love We Leave Behind」のConvergeが常に持ち続けておる美しき混沌が咲き乱れ、最終曲「Predatory Glow」でカオティックスラッジ地獄をお見舞いし、美しく破滅的な混沌のハードコア絵巻を美しく終える。
前作にてConvergeは第2の絶頂期を迎えたが、今作は更にその先を進み、より進化した作品としてカオティックハードコアの孤高の帝王が常に無敵であり続ける貫禄の作品に仕上がったと思う。時代を築きながらも、そこに満足しないで進化する事を決して止めない精神が彼等にはあると思っているし、だからこそConvergeは00年代の代表的バンドというポジションに甘んじる事無く、2012年現在も常に先を行く孤独なる覇者として君臨しているのだ。進化し続ける事=ハードコアである、それはConvergeが今作で見事に証明しているのだ。
■大阪狩りvol.5 Special 3MAN GIG(2012年10月7日)@心斎橋FANJ
・Fragile
まず一発目は主催者であるFragile。今回でライブを見るのは四回目だが、大阪で彼等のライブを見るのは本当に久しぶりであったり。もう一発目の音からギターのハウリングの洪水が爆音で押し寄せ、オルタナティブもギターポップもハードコアも飲み込んだ末のキャッチーな狂気は爆音サウンドになればなる程に破壊力は増幅する。今回のセットは今年の頭にリリースした処女作である「Clappedout air」から全曲披露に加え、新曲と旧曲も交えたセットだったが、「Bazetto」の様なポストハードコアサウンドが全開になった楽曲も「みずたまり」や「fade out」の様な歌物・ギターポップの要素が強く出た楽曲も轟音のフィルターを通過させる事によって幅広いサウンドを完全にFragileのオリジナルのサウンドとして形成させているのは本当に大きな強みだし、何よりも南冬貴と大塚絵美の男女ツインフロントはもはや一つの貫禄すら感じさせるレベルにまで様になってきているし、それを支えるこんぼい氏とますいさんのリズム隊の屈強なタフネスがバンドとしてのアンサンブルの強さを見せ付ける。こんぼい氏がMCでも言っていたが、本当にリスペクトしているバンドである東京酒吐座とBP.との対バンという今回のイベントは本当に彼等が気迫のアクトを見せ付けるには絶好の機会だったと思うし、序盤で南のギターのストラップが切れてしまうというアクシデントこそはあったが、そんな事はお構いなしにバーストする轟音は大阪轟音の変に相応しい物であった。ラストはFragileで最もポストハードコア色の強い最初期の名曲「魔人間」で鋭角のオルタナティブサウンドを暴発!!主催者としての意地と気迫を見せてくれたし、僕はやはりこのバンドの事をこれからも追いかけて行きたいと心から思ったのであった。
・東京酒吐座
二番手は先日現体制での活動の終了を宣言した東京酒吐座(トウキョウシューゲイザー)のアクト。今回のイベントは轟音の宴ではあるが、今回最もシューゲイザーなサウンドを鳴らす彼等のアクトは1曲目「Just Alright」からトリプルギターの轟音が響き渡り、浮遊するボーカルと共にFANJを完全に非日常的な空間へと変貌させていく。ただ単に浮遊感に満ちたシューゲイザーサウンドを見せるだけではなくて、ササブチ氏のドラムが浮遊感だけでなく肉感もアンサンブルに加えて、力強さも感じさせつつも、その力強さがより轟音のサウンドを際立たせていたのも印象的であった。今回は長尺の楽曲多めのセットであったが、耳を貫く轟音サウンドが、静謐さと見事な対比を描きながら、甘く幻惑的で陶酔のサウンドが生み出されていたし、ボーカルこそ爆音のギターに埋もれていたが、その爆音の中でゆるやかに響くボーカルがより神秘性を高めていたとも思う。圧巻だったのはラストの「Back To My Place」。約9分間にも及ぶ一大シューゲイザー絵巻は音源を遥かに超える圧倒的スケールで響き渡り、今回のアクトを見事に締めくくってくれていたと思う。10/11の高円寺HIGHでのイベントで現体制での東京酒吐座は活動を終了させてしまうのが本当に惜しくなる位のアクトだったし、一夜限定で結成された筈のバンドからここまでの音像を響かせるバンドになったていうのも驚きだ。非日常の幻想轟音の浮世離れした音の世界にただただ酔いしれていたのであった。
・BP.
トリは90年代の活動し、轟音ギターポップとハードコアを融和させた独自のサウンドを見せ付けた伝説的バンドであるBP.のアクト。去年突如活動再開を表明し、精力的に活動し新たな支持者を生み出しているこのバンド、僕自身も彼女達が活動を停止してからBP.を知り、ポップでハードな轟音サウンドに惚れ惚れしていたのでこうやってBp.のライブを見れたのは心の底から嬉しかった。東京酒吐座とは打って変わって、ソリッドでシャープなサウンドの中で甘い轟音がポップに響き渡るスタイルはまた場の空気をいい感じに変えていたし、ハードコアを盛り込み時にソリッドさを全開にし、時に甘いポップさで陶酔させる対比的な音が魅力であるがライブではそれが本当に際立っていたし、中盤に披露された代表曲である「Giant」はポップさを全開にし、浮遊するギターワークとボーカルとズ太いベースと女性らしい繊細さを感じさせるドラムが奇妙な化学反応を起こしていたし、そこから中盤で一気にハードさを全開にしてハジメガネ氏のデスボイスのシャウトの狂気を見せ、そこからまた自然にポップな浮遊感へと戻る様は自然でありながらも、独自の歪みを感じた。圧巻だったのはラストに披露された「Diving Death Drive」!!ヘビィかつハードなサウンドを全開にして無尽蔵なハードコアサウンドを見せたと思ったら、急激に静謐なサウンドへと移行し、ファニーな音階を響かせるし、そこからイチマキ嬢のボーカルが浮遊する中でハジメガネ氏が叫び、そして壮大にシューゲイズするサウンドへと移行し、エクスペリメンタルさすら感じるこの曲にBP.の凄みが凝縮されていたと思う。ラストは壮大な轟音の中でハジメガネ氏がメンバーそれぞれのボーカルマイクを何故かバスドラ前にセットするという謎なパフォーマンスをしていたりもしていた。そしてアンコールでは現在レコーディング中の再結成後以降の新曲を披露し、更にパワーアップしたBP.を痛感させ終了。10年以上の年月を経てBP.が再び活動を再開した事を心から嬉しく思ったよ。
非常に濃密極まりない3マンだったと思うし、三者がそれぞれベクトルこそ違うが、オリジナリティに溢れてた轟音を見せてくれた大阪轟音の変は、東京から足を運んだ甲斐が本当にあったと僕個人は思うし、多くの人が今回のライブを楽しみにしていたのいはほぼ満員になったフロアが証明していたと思う。甘くハードで幻想的な音の世界は正に非日常の宴としか言えないし、今回のイベントを主催したFragileのこんぼい氏に改めて感謝の意を示したい。
■Till The End/Curve

2012年の国内エモの最重要作品であるのは間違いない。メンバーチェンジのピンチを乗り越え3人編成になった国内エモ・シューゲイザーの最右翼であるCurveの2012年リリースの3rdアルバム。リリースは愛媛の国宝級レーベルであるImpulse Recordから。エモからシューゲイザーを通過してあらゆるサウンドをこれぞCurveにしか鳴らせないという音に仕上げて高い評価を得ていた彼等だが、今作でそのサウンドはこれ以上に無いまでに完全な形で羽化したのだ。
これまで通りのエモを基軸にして、それをシューゲイザーの要素を通過させて壮大なスケールで鳴らすサウンドスタイルは変わっていない。しかしポストロックやUSオルタナを巻き込んだサウンドスタイルに隙が全く無くなり、常に鳴り響く感情に訴える轟音とどこまでも力強く響くビート。特に今作からこれまでのベースレスの編成からベースを加えた3ピースの編成になった事によって音に更に厚みが加わり、儚く美しいボーカルと轟音とは裏腹に、タイトで太いドラムとベースが織り成すグルーブやボトムが格段に鍛え上げられ、サウンドに立体感やスケールが更に広がり、Curveの音は更に進化したのだ。第1曲「Dawn Promised」の静謐さから徐々に熱量を高めて一気に轟音が響き渡る瞬間からCurve節は炸裂。USエモの流れを受け継ぐ旋律を、シューゲーイザーと融和させたからこそ生まれた感情に訴える音の洪水はどこまでも優しく感動的であるのだ。第3曲「Till The End」なんて常に力強い轟音が吹き荒れ、マーチングの様な力強いドラムと共に世界に眩い光が差し込んでくるのだ。悲しみや絶望と言った感情を吹き飛ばし救いの福音として鳴らされる轟音は心を濡らし、優しく包むだけで無く、聴き手の背中を押す様な力強さを感じさせてくれる。フロントマンである羅氏のメロディセンスもとにかく素晴らしく。徹底してメロディアスであり、徹底してエモーショナルである楽曲その物のパッションが凄まじいし、それを儚く力強い希望の歌として歌い上げているからこそCurveの歌と轟音は説得力しかないし、だからこそ胸に響き渡ってくる。今作に捨て曲は全く無いのだけれども、特に素晴らしい名曲として第6曲「The Long Distance Of The Night」は正にCurveが最高峰に位置するバンドである事を証明する名曲だ。10分にも及ぶ壮大さもさることながら、疾走感と力強さ溢れる轟音バーストと全身全霊の激情と共に羅氏はどこまでも高らかに歌い上げる。そうまるで真っ暗な空を突き破り、その漆黒の切れ目から光が差し込む神秘的世界を壮大でありながらも、どこまでも人間臭く歌い上げているのだ。そして終盤では全ての感情が決壊する様な光の洪水が雪崩れ込み、本当に絶望からの救いを感じるし、全身の五感と感受性を強制的に稼動させて、止まる事の無い涙を流すしか無くなってしまうのだ!!今作で最も儚い刹那を感じさせる第10曲「Over The Hill」も負けじと今作の重要な核であるし、そして最終曲「No End」へと雪崩れ込む。タイトル通り終末を全否定する躍動と生命力を感じさせる最もエモ・オルタナの素朴さを感じさせるこの楽曲は正にクライマックスに相応しい曲であり、今作を聴き終えた瞬間に感じるのは新たな始まりである。
2012年は本当に数多くの名盤が生まれている奇跡みたいな年だと僕は思っているけど、そんな名盤達の中で煌く光をここまで人間臭さを放ちながら神秘的に鳴らす作品に出会えるとは思っていなかった。はっきり言ってしまえば、今作は2010年代のジャパニーズエモ。ジャパニーズシューゲイザーの両方の視点で見ても絶対に語り継がれるべき作品だと思うし、半永久的に多くの人の胸を熱くしてくれる筈だ。今作が生まれたのは正に奇跡であり、その奇跡の集大成はどこまでも力強く羽ばたいていく轟音だったのだ。もう聴け!!!!!!!!
■いいにおいのするALCEST JAPAN TOUR 2012(2012年9月30日)@渋谷o-nest
・Vampillia
一発目は主催でもあるVampilliaからスタート。前回のいいにおいで初めて彼等を観たが、今回もツインドラムの9人編成でのセット。前回同様に厳かなヴァイオリンとピアノのアンビエントパートから始まり、神秘的な空気を作り出す、静謐なパートでの美しさも確かに魅力的ではあるけれど、彼等の魅力は全ての楽器隊の音とボーカルが全てを開放した瞬間のエクスペリメンタルなカタルシスであり、ブルータルオペラと名乗るだけはある。空間系の轟音がとんでもないカタルシスを生み出し、デスボイスとオペラ入ったハイトーンボイスが織り成す醜さと美しさとの対比。ツインドラムの凄まじいプログレッシブなビート、ヴァイオリンやピアノやパーカッションがその世界に新たな色を加えて極彩色のカタルシスを生み出しているのだ。今回は50分近い長めのアクトだったが、一つの物語としてのライブは精神にも肉体にも確かに訴えていたし、本当に独自の音を彼等は鳴らしていると思う。今回もナイスなライブだったし、良い感じでフロアを温めてくれた。あと最後にベースの男性がダイブしてたけど、あの人は何故か頭にハートマークの風船を装着しながらライブしてた。前回はボーカルの男性が前田敦子みたいなお面してたし、その音楽性に反して妙にコミックバンドみたいな事をしてるのは何かシュール。
・SIGH
続いては国内ブラックメタルの代表格であり、長年に渡って活動してる日本が世界に誇るSIGHのアクト。前回もそのライブにド肝を抜かれ、最高に楽しい時間を過ごさせてもらったけど、今回は前回以上のライブだった。とにかくフロアの前の方は常にモッシュ!モッシュ!!そして常時咲き乱れるメロイックサイン!今のSIGHはブラックメタルとかいう概念を捨て去り、単純にスラッシュメタルとか王道のメタルとして最高に格好良いバンドだし、歴戦の猛者である楽器隊の安定しまくった演奏に、バンドの顔である川嶋氏とミカンニバル嬢のパフォーマンスが更にフロアを熱くする。今回もシンセから火が吹くわ、ミカンニバル嬢が大量に血糊のメイクを施しているわ、とその音楽だけでも格好いいのに、パフォーマンスで更に魅せるライブを繰り出す。クサくて堪らないシンセのフレーズが前回以上によく聴こえていたし、ギターもベースもシンセもドラムもボーカルも火花を散らしまくっているのがまたスリリングでもあるし、正にメタルバンドとして言う事無し!!川嶋氏がMCで「Alcestの美しい音楽を楽しみにしてる人は申し訳ない!こんなん音楽じゃねえって思った人はマジックショーとして楽しんで下さい。」と自虐的なMCで爆笑を巻き起こしていたが、いやいや誰もがSIGHのライブを心の底から楽しんでいるし、そこら中でモッシュとヘドバン、そして突き上げられる無数のメロイックサインがSIGHの底力を証明していた。ラストはvenomの「Black Metal」のカバーで昇天!!いやいや最高に楽しかったし、笑顔溢れるアクトだった。
・Alcest
そして本日の主役であるAlcestの登場。本当に多くの人が待ち望んでいたNaigeの降臨、その瞬間に本当に大きな歓声がフロアから沸き起こる。そして1曲目は最新作のリードトラックでもある「Autre Temps」。美しいアルペジオが鳴り響いた瞬間にそこはもうAlcestにしか作り出せない幻想的な美しい至福の世界。Naigeの儚げなボーカルと優しいギターの旋律が一瞬で心を包み込み、轟音が鳴り響いた瞬間に光のシャワーが正に目の前に広がっていたのだ。基本的にはアレンジは音源とほぼ変わらずに、音源でやってる事を忠実にライブでもやってるだけなんだけど、音源には無い、ドラムと音の重みだったりとか、ベースの太いボトムだったりとか、ダイレクトに脳に伝わってくる轟音の嵐だったりとか、そう言った要素が相乗効果を生み出し、音源でも既に感動的な音像が更に倍プッシュで神々しい光の世界を見せてくれるのだ。トレモロリフのフレーズなんかは確かにブラックメタルのそれであるのに、ブラックメタルを超えてAlcestの音としてライブでも見事に魅せてくれている。続く「Les Iris」では更に轟音のスケールが加速し、ブラストビートも盛り込んだ楽曲はライブだと浮遊感を与えながらも、よりくっきりとしたビートが正確無比に叩きつけられる事によってより肉体へと訴える音像になり、全身と五感が否応無しにAlcestの音をフルで感じようと機能しているのを実感させられてしまった。ブラックメタル要素がより色濃くなった「Là Où Naissent Les Couleurs Nouvelles」では闇と光が交錯するその瞬間を4ピースの本当にシンプル極まりない編成で幾重にも重なり合う音のハーモニーからトレモロリフとブラストビート、そしてNaigeの絶唱という激情へと世界を変えて行き、最新作でより幅広くなった音が、ライブでは更に明確な形で降臨していたのだ。約10分に渡る壮大な寓話である「Ecailles De Lune Part I」へつ続いていく落差もあったけど、それらも全てAlcestにだけ許された音であるし、全てが一つの物語として刻み付けられていく。終盤に披露された「Percées de lumière」では神秘性こそ変わらないけど、今までのどの楽曲よりも剥き出しになった激情が轟音とNaigeの叫びによって一つの形になり、そして胸を熱くしてくれたし、1stの名曲「Printemps Emeraude」にて世界を震撼させたシューゲイジングブラックメタルが目の前に祝福の福音として鳴らされた瞬間は本当に大きな歓声が巻き起こり、o-nestは完全に異次元の世界にあったと思うし、何よりも至高と至福の轟音の祝福が魂すら浄化してくれる感覚すら覚えてしまったよ。そして何度も目頭が熱くなった。本編ラストの「Summer's Glory」にて美しい朝焼けの様な世界を描き一気に魂が昇天した。そして沢山の人のアンコールの手拍子に応えて再びメンバーが登場して演奏されたのは1stの名曲「Souvenirs d'un Autre Monde」!!!!!!!!!!!アコースティックな感覚のギターが哀愁を生み出し、よりタイトになったビートの力強さを感じさせ、無数の天使が踊る楽園へと僕達を導き、感動的なアクトは終わりを告げた。客電が点いても再びアンコールを望む手拍子は全く鳴り止む事は無かったし、本当に多くの人々を感動の渦へと導いたのであった。
セットリスト
1.Autre Temps
2.Les Iris
3.Les Voyages De L'Âme
4.Là Où Naissent Les Couleurs Nouvelles
5.Ecailles De Lune Part I
6.Percées de lumière
7.Printemps Emeraude
8.Summer's Glory
en1.Souvenirs d'un Autre Monde

終演の時間は実に23時手前になってしまってはいたが、一緒にいった方々がAlcestのメンバーからサイン貰ったり一緒に写真を撮ったりしていて、それに便乗して僕も終演後のNaigeと一緒に写真を撮って貰ったりした。本当に拙い英語でだけど、Naigeに今日のライブが本当に最高だった事と、日本にはAlcestのファンが本当に沢山いるって事を伝えられたのは本当に嬉しかった。そしてまた日本でライブをやって欲しいって事を伝えたらNaigeはまた日本でライブをやる事を僕達に約束してくれた。まだ先の話になるけど、Alcestがまた日本でライブをやってくれる事を僕は心の底から楽しみにしているよ。とにかく2012年の9月30日、渋谷で奇跡とも呼べる事件が起きて、僕はその目撃者の一人であった事を心の底から誇りに思うよ。本当にありがとうAlcest。そしてまたライブを観る日を心から楽しみにしているよ。
僕はこの日のライブを一生忘れない。