■2012年11月
■Twelve Inch Six Songs/theSun

オリジナルメンバーであるイサイ氏の離脱により4人編成となった札幌のハードコアの猛者達による超変則カオティック激情系ハードコアであるtheSunの2012年リリースの12インチアナログ音源。全6曲入りとなっており、同じ内容のCDもセットで同梱されているレコードプレイヤーを持ってない人にも優しい仕様。4人編成になってからの初の音源であり、前作から実に3年振りのリリースとなったが、イサイ氏の離脱を乗り越えて、新たな道を歩み始めた事を高らかに宣言する1枚。
theSunと言えば変則的なキメの乱打を繰り出し、変拍子によるカオティックさから生まれる激情が持ち味であるが、今作はそんな変態性は健在ではあるけど、以前に比べたら抑え目になっているし、カオティックとかそう言った要素よりも、もっとエモやポストハードコアといった原始的な要素が凄く大きくなっている。ボーカルのヒグチ氏がかつてやっていたBlack Film Danceを思い浮かべる人も多いと思う。でも単純なる原点回帰では終わる訳が無く。あくまでもtheSunが長い歳月を経て培った物を更に原始的かつ直接的に表現しているのだ。第1曲「Who?」から直接的なエモーショナルなざらついたディスコードのギターフレーズが非常に印象的だし、変拍子のビートは健在だが、あからさまな変則性を抑え、ディストーションとクリーントーンを巧みに切り替え、ざらついた冷徹さの中から生み出される熱量が熱病の様に襲い掛かってくる。ヒグチ氏のハイトーンボーカルは相変わらずであるけど、それでも叫びながらもより歌に接近している印象を受けるし、以前から持っていた感情に訴える力をより鍛え上げたからこその進化を感じる。第2曲「短い夢」は変則的なキメを巧みに取り入れたこれぞtheSunとも言うべき楽曲ではあるが、もっと分かり易いポストハードコア的なリフとビートのアンサンブルが印象的だし、静と動を巧みに切り替える王道の手法も取り入れながらもディスコードの変則的なギターフレーズを前面に押し出し、エモーショナルな狂気を生み出し、そこから性急なサウンドへと雪崩れ込むカタルシスが何よりも堪らない。第4曲「Night」はこれまでのtheSunには無かった平熱のクリーントーンのギターが引率し、ヒグチ氏が今まで以上に歌うtheSun流の歌物エモな1曲であり、一方でドラムが変則性を高めるという奇妙な捩れも同時に生み出しているし、そこからドラマティックなエモーショナルなサウンドへと移行していく様は狂気が咲き乱れている。鋭角かつ冷徹なサウンドスケープが印象的な第5曲「Will in this government in the future?」も、ドライブするディスコードサウンドが第炸裂な最終曲「Voiced Sound」も今までのtheSunの流れにありながらも、それ以前のメンバーがそれぞれ在籍していたバンドにも繋がり、本当に今までそれぞれが培った物を集結させたtheSunというバンドが、もっと原始的なバンドとしてのパワーを拡大させた作品だ。だからこそ今まで以上に感情と肉体に訴えながらも、その裏では相変わらず変態性と狂気が笑みを浮かべている。
前作の2ndアルバムでも90年代エモ・ハードコアのカラーは色濃く出ていたが、今作は更にそれを前面に押し出し、自らのルーツを再確認した上で、それをバンドの新たな進化へと結びつけた作品だと思うし、より聴き手に訴える直接性を手にしながらも、だからこそ狂気と変則性も際立つ異質さもある。やはり札幌のシーンを長年に渡って支え続けている猛者の貫禄があるし、だからこそピンチを乗り越えて自らの覇道を歩み続けているのだ。エモ・ポストハードコアの大推薦作品。
■COALTAR OF THE DEEPERS(2012年11月25日)@代官山UNIT
ライブはkilling an Arabの前奏によってスタート。徐々にメンバーがステージに登場して、最後にフロントマンのNARASAKIが登場。そして「the systems made of greed」が始まった瞬間にフロアはもうモッシュだnなんだかんだで大きな盛り上がりを見せる。タイトでヘビィでありながらも絶妙なポップネスを発揮するこの曲はスタートダッシュに相応しい曲だし、各メンバーの安定感ありまくる卓越したプレイがとにかく光る。特にドラムのカンノ氏とベースの村井氏のリズム隊は本当に鉄壁かつ怒涛のビートの嵐を繰り出し、COTDの核になっているのは言うまでもないだろう。続く「Jet Set」と「entreaty」ではギターロック的な直接性とポップネスも更に加速させて、更にフロアを沸かせる。そして「Cell」にて焦燥感と郷愁を暴発させ、メタリックさすらある高速の刻みのリフと加速するビートは否応なしに胸が熱くなるし、「sarah's living for a moment」の高速の轟音世界はまるで別次元への旅路だ。そんな疾走するポップネスから一転して「dear futureい」の甘く切ない郷愁のシューゲイザーサウンドから一転。甘く美しい轟音渦巻くシューゲイザーとしてのCOTDが花開く。「sinking slowly」の壮大なる深海を漂うかの様な今にも沈みそうで止まりそうな緩やかさの中で全てを貫く轟音の洪水が吹き荒れた瞬間は本当に感動的だったし、「to the beach」の胸を締め付ける旋律には本当に心がキュッとなった。こうした甘い轟音世界はCOTDの真髄だし、長年活動を続けたからこそより洗練され、最初期の楽曲と現在の楽曲が一つの線として繋がるのは本当に難しいと思うし、それを成し遂げたCOTDの凄みが嫌でも実感する。しかし彼等は新たな本領発揮は後半から終盤にかけての「serial tear」、「913」、「Wipe Out」の3曲で見せ付けてくれた。ヘビィネス色を一気に高めて、メンバーの演奏技術をフルに発揮し、鋭角かつ重心が強いサウンドが鼓膜を叩きつけながらも、そのヘビィさの中にも多彩なアレンジが光り、それを音源とほぼ変わらないレベルまで再現し、ポップさの中のヘビィさからヘビィさの中のポップさも行き来し、再びフロアを盛り上げる。そして終盤の「Submerge (the theme from red anger)」は本当に圧巻。スラッシュメタル×シューゲイザーなサウンドは甘く尖り切っており、これまでのセットで演奏された楽曲が一つの点として集約し始める。そして本編ラストの「Blink」にてシューゲイザーもヘビィネスもギターロックもメタルも全て集約されたサウンドとして大放出!!イントロの2カウントからクライマックスへと雪崩れ込み大団円とも言うべきエンディングを迎える。そして惜しみないアンコールの手拍子に応えて再びメンバーが登場。MCでは新作はちゃんと製作している事や、年末のライブの告知等をし、引き続き散発的ながらも活動を継続させるらしいので一安心。そしてCOTDの正に代表曲である「C/O/T/D」の印象的なクリーントーンのギターのストロークが鳴り響いた瞬間に再び甘く切ないポップネスが咲き乱れる。そしてストレートなギターポップ「ribon no kishi」へと続きアンコールのラストは「hyper velocity」!!浮遊する轟音からヘビィネスを縦横無尽に横断し、そして天から祝福の福音が降り注ぐエンディングへと雪崩れ込み。ハッピーエンドを祝う轟音が多くの人々は感じた筈だ。
0.killing an Arab(前奏のみ)
1.the systems made of greed
2.jet set
3.entreaty
4.cell
5.sarah's living for a moment
6.dear future
7.sinking slowly
8.to the beach
9.zoei
10.hedorian forever
11.serial tear
12.913
13.wipe out
14.submerge(the theme from red anger)
15.Aquarian Age
16.blink
en1.C/O/T/D
en2.ribon no kishi
en3.hyper velocity
本当に久々にCOTDのライブに足を運んだが(しかも当初は行く予定では無かった)、彼等の多彩な音とジャンルを縦横無尽に横断し、それを一つのポップネスの結晶として生み出すライブは本当に相変わらずだったし、NARASAKIという今や各方面で活躍する天才的クリエイターとそれを支える楽器隊の生み出す音は本当に鉄壁の安定感と同時に、COTDに代わるバンドなんて存在しない事、あらゆる層を巻き込むだけの楽曲の多彩さと完成度を誇る事、それを僕は改めて実感したし、だからこそCOTDの新しい音が早く聴きたい気持ちで一杯である。20年に渡って活動しながら最新曲も最初期の楽曲も全て繋がり、それをネクストレベルのポップネスとヘビィネスの融和として鳴らすCOALTAR OF THE DEEPERSというバンドは本当に凄いバンドだ。
■heaven in her arms presents "Light to the hope"(2012年11月23日)@下北沢ERA
・The Black Heart Rebellion
トップバッターはいきなりベルギーからの刺客であるThe Black Heart Rebellion。てっきりトリかトリ前だと思ってたからいきなりの出演に驚いた。日本から世界各地の激重激情美轟音を発信するレーベルであるTokyo Jupiterの看板バンドの一つであり、3年振りの日本でのライブ。パーカッションが設置されたステージは激情系のバンドとは思えない妙な異質さがあったが、いざライブが始まると彼等は激情系の枠を完全にブチ壊すアクトを見せ付けていた。演奏した曲目は新譜の楽曲が中心で、時にギターがパーカッションを叩き、GY!BEを思わせるタイトで躍動感に満ちたドラムとシンクロし、バンドのグルーブに躍動感を与え、民族音楽すら取り入れた自らの音楽性に更に不穏さとプリミティブな衝動を与える。もはやハードコアの枠組みを壊しているし、2本のギターが奏でるハードコアを機軸にしながらも、空間的スケールを拡大させるギターワークが壮大であり密教的な不気味さを魅せる。そして読経的ボーカルから激情の叫びを見せる瞬間のカタルシス。音楽性的に高揚感あるパートは全く無いからこそ地の底に落ちるダウナーさと神秘性を融和させ、それをライブならではの生々しさで放出する彼等のライブは本当に現実世界を打ち消す涅槃の音だったし、非現実の世界を現実世界で再現する彼等のアクトは本当に五感の覚醒させてくれた。一発目から本当に素晴らしいアクトを魅せてくれたしベルギーの刺客はその貫禄を日本でも発揮していた筈だ。激情もポストロックも民族音楽も飲み込むクロスオーバーな不穏さ、それがTBHRの激情なのだ。

・mouse on the keys
続いてはインストポストロックバンドでも高い人気を誇っているmouse on the keysのアクト。正直に言うと音源を聴いた限りではそこまでピンと来なかったバンドだったりもしたのでけど、今回初めて彼等のライブを観て、その評価が一気に変わってしまった。タイトさとダイナミックさを兼ね揃えたドラムが引率するサウンドと、二人のキーボードが弾き倒す美しく躍動感溢れる音符の洪水。クリアでクラシカルな音色が透き通りながらも暴力的な音をお見舞いし、時にはサックスも取り入れフリーキーさも魅せる(サックスの内の一人がZの根本潤で、暴力的な音をお見舞いしていた)。兎に角、そこいらのインストバンドじゃ太刀打ち出来ない様な暴力性と芸術性に満ちた音をほぼノンストップで繰り出し、VJと共に高揚感を見事に体現。脳と肉体を覚醒させるクリアで美しくありながらも鋭いビートとキーボードの音の嵐は一瞬でERAの至高の時間へと飲み込んでいくのだった。本当に今回ライブ観て評価がガラリと変わった。ここまで良いバンドだとは思って無かったよ。

・heaven in her arms
続いてはてっきりトリだと思っていた今回の主催バンドであるheaven in her armsの登場。セッティングの時点で先ほどのmotkのクリアで美しい余韻を完全に破壊する激重サウンドが響き、ERAは一気にダークな世界への入り口となる。そして結論から言えば今回のアクトは今までみたHIHAのライブの中でも一番の出来だったし、実に一時間近くにも及ぶ壮大な激情絵巻だった。冒頭のインストナンバーで重く疾走しながらも、時に美しい静謐さを持つビートと3本のギターが織り成す重く美しく壮大な、正にHIHAにしか生み出せない至高の音を鳴らし、続く「Inversion Operation」でプリミティブな粗暴さを撒き散らす漆黒の血飛沫噴き出す激カオティックな音を叩き付ける。新曲では今までに無いスケールを生み出し、とんでもない音圧で漆黒の耽美さを暴力的に描き、正に国内最高峰の激情の名に恥じないアクトを魅せる。しかし今回のアクトは後半が特に神が降り立ってすらいた。「反響した冷たい手首」でアンビエントでドローンな情景を描き、その壮大な前振りから「ハルシオン」へと雪崩れ込んだ瞬間から完全に別次元。スラッジコアも激情もポストロック的美しさも音圧の暴力として打ち出し、超激重の轟音とその物理的な重さ異常に精神的な重苦しさが際立つサウンドスケープ、そしてケント氏の悲しみの叫びには本当に胸を焦がされそうになり続く「螺旋形而蝶」にてそのスケールと美しさを更に膨張させ、どこまで壮大にすれば気が済むんだと突っ込みすら入れたくなってしまう細胞レベルで全ての感情を想起させる人間と世界を繋ぐ壮絶な激情絵巻へと突入。そして終盤では最早御馴染みの「声明~痣で埋まる」の漆黒のシューゲイザーとも言うべき暴力的かつ壮絶で精神を削りまくり打ちのめさせるプリミティブでありながら美しく咲き乱れるハードコアへと変貌し、ラストは「赤い夢」で壮絶な激情絵巻のクライマックスに相応しい美しい衝動で締めくくられた。正に国内激情最強クラスの名に相応しい壮絶かつ壮絶なアクトだったし、魂を焼き尽くしてまで放出される激重激情の世界は圧巻の一言だ。本当にHIHAに代わるバンドは現時点で存在しないと思うし、こんなバンドが我が日本を代表する激情系HCとして君臨しているというのは本当に素敵な事だと思う。これからも追いかけます!!

・theSun
そしてトリは日本のサンディエゴこと札幌が誇る札幌ハードコアの重鎮であるtheSun。2年半振りの東京でのライブ(前回もHIHAの企画だった)であり、その間にギターのイサイ氏の脱退というピンチもあり、それを乗り越え、新作音源を掲げての堂々の上京ライブ。今回は新作LPの楽曲中心のセットで、ギターこそ一本になってはしまったが、エモ・ポストハードコアを湾曲させ変則的なキメを入れまくる楽曲編成は相変わらずでありつつも、新曲郡はどれももっとプリミティブな感覚が強いし、ボーカルのヒグチ氏がかつてやっていたBlack Film Danceともシンクロする要素を持ちながらも、その先に行くハードコアを鳴らす。空間系をガンガン使いグルーブ楽器として以上に不穏さで埋め尽くすtheSun印のベース、パンキッシュなビートを分解し再構築したドラムとギター、そしてハイトーンボーカルで叫ぶヒグチ氏の激情に満ちたボーカルが織り成すtheSunのハードコアは唯一無二でHIHAの壮絶なアクトに負けず劣らず、変態性と粗暴さでまた違う色の激情を見せる。北海道のハードコアシーンの猛者によって生み出される音は、音源よりも性急で、一歩間違えれば崩壊する危うさを絶妙なバランスで複雑怪奇に鳴らし、それを暴力的に叩きつけてくるから凄いし、その変則的な楽曲の中でディスコードが奇跡的に組み合わさって生まれるエモーショナルな旋律がより個人的感情を爆発させるハードコアとしての貫禄を見せ付けていた。ラストの「Kill Your Godiva」なんて正に必殺に相応しかったし、乱発されるキメの嵐と、クリーントーン主体のギターワークでありつつも、原曲以上のBPMと時折挿入されるディストーションの不穏さ、性急なビート、最早ベースとしての役目すら捨て去りフランジャーの不気味な残響は這い回るベース、変態であり粗暴なtheSunのハードコアが一番色濃くでた楽曲で締めくくられ僕は完全に燃え尽きた。そしてアンコールでプレイされた1stアルバムの名曲「GoodBye...CherryTree」にて更なるオーガズム体験であり、最後は後藤氏がベースを抱えたままフロアへダイブ!!ベースのフランジャーの空間音の余韻を残し、不穏さとしてのハードコアは見事な形を見せてくれた。

今回のイベントは4バンドが強烈過ぎる個性と孤高の貫禄を見せつけ、捨てバンド全く無しどころか、全バンドヘッドライナーというかメインとも言うべき強烈な体験と濃密さが渦巻くイベントになったと思うし、それはERAを埋め尽くした人々がみんな感じた事だろう。それぞれがそれぞれの覇道を歩く猛者達が集結したからこそ本当に記憶に残り続けるイベントになると思うし、ハードコアの先を行く猛者達(motkはハードコアではないけど)の圧巻のアクトは僕の記憶に長く残っていくであろう。今回の企画の主催者であるHIHAと出演バンドに改めて多大なるリスペクトを。
■プティパ/悠木碧
![]() | プティパ(初回限定盤)(DVD付) (2012/03/28) 悠木碧 商品詳細を見る |
若手人気声優である悠木碧の2012年リリースのデビューミニアルバム。こういった作品は当ブログでは今まで紹介した事が無かったけど、今回購入して凄い良質なポップアルバムだったので是非とも紹介させて頂きたい。声優のアルバムとなるとアニメソング中心に収録されるが、今作はアニソン全く無しで、全曲書き下ろし。声優のCD作品というよりは、一つの女性ポップス作品としての意味合いが凄い強い、一つのコンセプトアルバムだ。
今作のコンセプトはズバリ「箱庭の中の移動遊園地」であり、ある種の寓話的な世界観をアンニュイさとポップネスの両方の局面から描いた作品だと思う。導入部分となる第1曲「ハコニワミラージュ」からオルゴールの音色とピアノが今にも消え入りそうな碧ちゃんの声が印象的で、第2曲「回転木馬としっぽのうた」にて完全に寓話的な幻想世界へと導かれる。ある種ヘタウマ的な幼い碧ちゃんのボーカルと、「みんなのうた」の「メトロポリタンミュージアム」的な狂騒と幻想が入り混じる楽曲は一つのアニソン・声優作品にしてはかなり異色に感じる。鍵盤楽器を中心に構成された楽曲が徐々にクルクルと回り始め、そして現実を無かった事にしてくれる。序盤からそんな楽曲で来るから全編通してそんな楽曲で来ると思ったら大違いで第3曲「ジェットコースターと空の色」では高揚感溢れる旋律とストリングスが印象的だし、正統派なポップソングとしての機能を発揮し、ボーカルも打って変わってハキハキとした歌い方になってる(まあ歌唱力に関しては決して上手く無いけど)。その一方で第5曲「Baby Dolly Alice」では陽性のポップネスと再び幼い歌声で、童話の世界の様なきらめきを見せたと思えば終盤で旋律がダークになり、ある種の恐怖感すら植えつける仕掛けもあったりするし、コンセプトアルバムとして徹底した規格に基づいて作られてるし、それぞれのクリエイターが悠木碧と今作のコンセプトを確かに守りながら、それぞれに色を出し、多彩な作品として仕上げている。特にボーかロイド界隈でも名前も通っているらしい新鋭のクリエイターであるDECO*27氏が楽曲を手がけている第4曲「時計観覧車」なんてねごと辺りが歌っていてもおかしくないガールズロックとポップネスが見事に交錯しており、高揚感ある展開とコード進行が、作品に一つの開放的な風を吹き込み、第6曲「シュガーループ」なんて空間系を絶妙に使ったギターフレーズとタイトでダンサブルなビートと、ブレイクでハウリングを入れてくる辺りなんて完全に現在の日本のギターロックシーンとシンクロした楽曲だと思うし、この2曲は作品全体で良いアクセントとして機能してるだけじゃなくて、作品全体の間口も見事に広めている。そしてそれらの楽曲が第7曲「Night Parade.」へと繋がり、多国籍な旋律と、無機質な打ち込みのビートが今作で一番の妖しさを見せるのもまたニクい。そして最終曲「ハコニワソレイユ」で再び第1曲とシンクロする世界を見せ、約27分の御伽噺から再び現実世界へと引き戻す。
簡単に楽曲の紹介をしたけれど、声優・アニソン作品というよりも、完全に女性ボーカルの一つのコンセプトアルバムだし、ポップスの作品としての水準も高いし、コンセプトアルバムというある種の制限の中で、ここまで多彩な作品に仕上がっているのは凄い。あと碧ちゃんのボーカルは凄い好き嫌いが別れる所があるだろうし歌唱力はちょっと残念だけど(プロの歌手ではなくてあくまで声優の音楽作品だからそこは仕方ない)、今作の御伽噺的な楽曲とギターロック的な楽曲と見事に嵌っていると僕は思うし、素敵な御伽噺の世界を味わえる作品だと思う。
■Terranean Wake/Worship

ボーカルのMad Maxの自殺により、名実共に死のドゥームの代名詞となったWorship。Mad Maxの死以降はギターのThe DoommongerがWorshipの活動を継続させて、07年の伝説と化したデモに続く1stアルバムをリリースしたが、今作はそれから5年の歳月を経て作られたまさかの2ndアルバムで、Worshipがこうして活動を続けていた事にまず驚いたが、今作でも徹底的に遅く重く暗い陰鬱さを極めたドゥームサウンドは健在どころか益々際立っているのだ。
まず全4曲で56分。全曲余裕の10分越えという尺の長さが相変わらず過ぎるが、作風に関して言えば本当にデモ音源の頃から一貫しすぎている。徹底的にテンポを落とすだけじゃなくて音数を極限に削ぎ落とし、推進力皆無のビートと呼べるかどうかも怪しいビート、それだけでなくギターの音色も極限まで音数を落とし、その一音一音が死の鉄槌を振り落としながらも、時にはクリーントーンで今にも心拍数停止しそうな感覚で鳴らされる陰鬱さを極めた絶望的で悲しい旋律。もうWorship印のサウンドが全く衰えずに存在しているだけでなくて、更に遅く重くなり、より物悲しさを増した旋律と儀式めいた神秘性も更に増幅されていると言える。のっけから17分31秒にも及ぶ第1曲「Tide Of Terminus」から推進力を放棄した極限の荒涼とした激遅激重のサウンドが響き渡り、音と音の極端な空白を埋める残響音の美しさが死者の世界すら美しく魅せるし、奈落から響き渡る様なグロウルがより緊迫した死を聴き手に疑似体験させる。そして終盤では鎮魂歌の様に鳴り響く鐘の音色と、極限まで歪み、重い。それなのに一つの終末をただ嘆いているかの様な悲しみすら感じさせるギターの旋律が美しい漆黒の調和を果たし、一つの壮大な死の儀式となっている。ギターがよりフューネラルな泣きの旋律を奏でながらも、徹底してビートは重苦しくある第2曲「The Second Coming Apart」でももうWorshipの一つの様式美にすらなっているんじゃないかってレベルの極限まで遅・重・暗が三位一体となり、極限の絶望を奏でるドゥームサウンドは全くブレてなんかいない。第3曲「Fear Is My Temple」こそ今作で一番旋律が明確だし一番聴きやすい楽曲ではあるけれども、それでもキャッチーになったのではなく、神秘性が前面に出た楽曲という印象だし、第4曲「End Of An Aeviturne」にて再び第1曲の様な極限さを見せ、そして美しく死の儀式を終える。
今作でもWorshipは相変わらず過ぎるし、デモの頃からの死の美学としてのドゥームサウンドは全くブレていないし日和ってもいない、しかしより神秘性と美しさを高めながらも、より極限まで遅くなったドゥームサウンドはこれ以上遅くしてどうするの!?って突っ込みすら入れたくなってしまったりもするが、最早一つの様式美レベルにまで完成されたフューネラルドゥームは圧倒的な美しさで奈落から地獄の叫びとディストーションサウンドを響かせている。
■Memories, Voices/Cyclamen

遂に日本での初ライブも決定した在英日本人であるハヤト・イマニシ率いるCyclamenの2012年リリースのEP。今作で遂に日本盤もリリースされ逆輸入な形でこの日本にも本格的に進出を果たしている。1stフルアルバムである「Senjyu」では変拍子を駆使したヘビィなサウンドに歌心と幅広い音楽性をミックスし、完成度の高さと独自性を打ち出していたが、今作はそれをより洗練させた作品になっており、よりバンドとして成長した作品になっている。
今作のリードトラックにもなっている第1曲「Memories」は冒頭から煌く旋律がヘビィなリフとシンセの音色と共に花開き、変拍子駆使のヘビィなリフを主体に進行しながらも、クリーントーンのイマニシ氏の歌と見事に調和を果たし、重いサウンドプロダクトとは裏腹に、優しく耳に入り込むメロウさも存在しており、持ち前の歌心を発揮させている。これは今までの彼等の武器でもあったが、今作では更にその要素が突き詰められている印象を受けるし、終盤は近年のEnvyを彷彿とさせる壮大でクリアな激情が展開されてるし、スケール感も同時に増幅されているのも見逃せない。一方で第2曲「Voices」は超テクニカルなこれぞDjentと言うべき高速カオティックサウンドから始まるが、サビではしっかりクリーンに歌い、かと言ってテクニカルなカオティックさは失速させないであくまでもカオティックさの中に歌心を持ち込んでいるし、日本語詞で激情のシャウトを見せた瞬間に、ブルータルさを放棄して神秘性が花開く瞬間は聴いてて美しさを感じるし、バンドの神秘性を良い具合に高めてもいる。第3曲「The Blood Rose」では完全にポストロックの領域にある深海へと静かに潜り込む様な感傷が静かな波紋として広がっているし、そこからビッグバンを起こしたかの様な轟音の洪水へと雪崩れ込み、第4曲「If We」は完全にマスロック系のエモになっている。前半の4曲はバンドとしての新境地を打ち出した楽曲が並び、自らの音楽性の幅を広げるだけでなくて、更に深みも増した壮大さもアピールしている。もうDjentとしての枠組みだけではCyclamenは語るのは不可能だし、Djentの代表格の一つとして登場しながら、それを軽々しく超える力量を見せ付けている。第5曲「Saviour」は見事なDjentサウンドを展開しつつも、日本人特有の歌心も前面に出し、彼等が以前から持っていた、メロウな歌物としてのDjentサウンドをより突き詰めた印象。激テクニカルな第6曲「.Never Ending Dream」もサビでは下手したらアニソンの領域にまで片足を突っ込んでしまってるポップさをカオティックさの中で発揮しているし、そして壮大な激情という今作で生み出した方程式を展開。第7曲「It's There」なんてスクリーモ系のファンとかにも普通に受け入れられそうな感じもあるし、より多くの人を取り込む器の大きさを手にして日本進出を見事に果たした作品だと思う。
Cyclamenの魅力はヘビィでテクニカルなDjentサウンドに、Envy系の日本人らしい歌心ある激情系ハードコアと、Suis La Luneの様なマスロック的テクニカルさをクリーンなエモーショナルさで見せるクリアな激情、そして日本人であるイマニシ氏だから歌える魂を震わせる激情。そしてテクニカルさやヘビィさ以上に本当に多くのリスナーを虜に出来る独自のポップネスと神秘性が確かに存在するのだ。このバンドは単なるDjentの一角では絶対に終わらないだろうし、この日本でも多くの支持を集めると思っている。
■SHIBUYA CYCLONE 15th ANNIVERSARY & PULLING TEETH 15th ANNIVERSARY(2012年11月17日)@渋谷CYCLONE
・THE CREATOR OF
という訳で僕がハコに到着した時間は丁度AWAKEDが熱いステージでフロアを盛り上げてる最中で彼等の全身全霊のアクトは中々の好印象だった。それでしっかり観たのは今年最後のライブとなったTCOから。今回は持ち時間も少し少なめだったのと、持ち曲の尺が長い事もあってか全3曲のアクトだったが、初披露の新曲をまずプレイ。ループするビートの高揚感を静謐な音色とダウンテンポのビートで徐々に陶酔させていくというスタイルのこの新曲はTCOの新たな新境地となっていたし、これからの必殺の曲になる予感を感じた。そして2曲目にプレイした「Hi On」はもう観る度に洗練されているし、ヘビィなサウンドがプログレッシブにアッパーとダウナーを繰り出す様は圧巻だった。また今回は照明も良い効果を出しており、後光しか差してないステージはフロアから見たらメンバーの影しか見えないし、バンドの神々しさを良い感じに助長させていたとも思う。ラストの「AGAIN」も新たなアレンジでプレイされ、より壮大さと不穏さが増長しながらも、持ち前のメロウなダイナミックさも健在で、本当にバンドは良い状態にあるんだなって事を再認識した。今年はライブとレコーディング中心の活動だったが、来年にはいよいよ新しい音が世に出ると思うし、凄い楽しみである。
・EDGE OF SPIRIT
そしてこちらは一年振り位に見るEDGE。凶悪なメタルコアサウンドで他が束になっても太刀打ちできないサウンドを展開するバンドだが、今回もその圧巻のライブは健在どころか、ますます凶悪になっている超爆音で叩き付けるブルータルさと、ほんの少しのメロウさが絶妙に噛み合い、それをブルータルなサウンドにして放出し、怒涛のメタルコアとして打ち鳴らす。鬼のツインギターの刻みのリフと正確無比な高速のビートが重戦車の如き音圧で攻めてくる。SHO氏は何度も客席を煽り、鬼神の如しシャウトで叫ぶ!叫ぶ!!雷鳴が直下していく様な感覚で音は終わり無く降り注ぎ、本当に怒涛のライブを展開していたと思う。益々磨きがかかるメタルコアサウンドは唯一無二だし、甘えなど一切無いストイックさを持ちながらもどこまでも本気で楽しむスタイルは多くのフロアにいた人間を熱くしていたと思う。
・PULLING TEETH
そしてトリは本日の主役でもあるPULLING TEETHのアクト。もう15年もやっているベテランではあるが、恥ずかしい事にライブを観るのは初めてで、今回楽しみにしていたが、とにかくスラッシュメタルとハードコアを融和させてパンキッシュにしたサウンドは破壊力抜群!リフで攻めて、ベースは高速フィンガーピッキングとゴリゴリのスラップベースを交互に織り交ぜ、シュートカットな曲をノンストップで繰り出すスタイルは純粋に格好良いと思ったし、肉体に直接訴える音は確かな底力もあった。最後の最後で今回の主役に相応しい貫禄を見せてくれたし、良いライブだった。観ていて凄い楽しくなったよ。
そんな感じで今回も駆け足のライブレポになってしまったが、凄い楽しい夜を過ごさせて頂いたのは確かだし、一つのバンドだったりライブハウスが15周年を迎えるって簡単に見えて実は凄い大変な事だとも思うし、長く続けていくってのは凄い格好良い事だと僕個人は思う。なによりも久々に観たEDGEと今年も何度もライブに足を運んだTCOのアクトが凄い良くて、個人的に良い夜になったのでした。
■Koi No Yokan/Deftones
![]() | Koi No Yokan (2012/11/13) Deftones 商品詳細を見る |
前作「Diamond Eyes」にて第二の黄金期を迎えたモダンヘビィネスの孤高の帝王であるDeftonesだが、そんな彼等の待望の新作は「Koi No Yokan」である。もう意味が分からないし、完全にアホとしか言えない馬鹿なタイトルを自らの作品に名付けてしまったのだが、しかしそんな残念な作品名とは裏腹に今作は第二の黄金期を迎えた彼等の更なる進化を見せる作品であり、前作以上の深みを持つ屈指の作品だ。孤高の帝王の余裕と貫禄しか無い作品だと言える。
前作では深みを持ちながらもヘビィさを押し出していたが、今作はヘビィでありながらも、円熟と深みを見せる作品に仕上がっており、なおかつフロントマンであり屈指のボーカリストであるチノの世界遺産レベルの歌声を最大限に生かした作品になっている。Deftonesの魅力の一つとしてチノのボーカルは絶対に外せない要素だが、それを今までの作品以上に前面に押し出し、楽曲と見事な調和を生み出してもいる。第1曲「Swerve City」ではイントロではゴリゴリのリフで攻めているが、チノのボーカルが入った瞬間に円熟の旨みと粗暴さが絶妙な調和を果たすDeftonesにしか生み出せなかったヘビィネスが描かれる。効果的に用いられたエレクトロニカな効果音も今作ではかなり大きな役目を持っており、ステファンのギターワークもヘビィさとメロウさを行き来し、美しく重く、そしてスッと耳に入り込む優しさもありと更に磨きがかかっている。第2曲「Romantic Dreams」では彼等らしい陰鬱さも見せており、持ち前の耽美な美しさは更に進化を遂げている。今までの彼等の作品とかに比べたら「7 Words」の様な一撃必殺的な楽曲はあまり無いのかもしれないけど、それでも見事なスルメ盤になっており、一周目はスッと全ての音が入り込み、チノのボーカルに酔いしれ、そして何回も再生する度に、今作の旨みと深みは聴き手の中で広がっていく。それに第3曲「Leathers」はゴリゴリのギターワークが光るキラーチューンにもなっているし、更にサビではその重苦しさから開放されて、あらゆる音が煌きを見せ、チノは激情のシャウトから、あらゆる感情をダイレクトかつ繊細に歌い上げる至高のボーカルを聴かせる。ヘビィさと耽美さを行き来しつつも、更にエロスと繊細さを高次元で彼等は表現しているし、打ち込みを前面に押し出した第5曲「Entombed」なんかはチノのサイドプロジェクトの一つである††† (Crosses)で培った物をdeftonesに持ち込み、自らの表現の幅を更に広める事に成功しているし、第7曲「Tempest」ではパライノイア的陰鬱を押し出すヘビィネスとしてのDeftonesの真骨頂が発揮されており、殺気に満ちていながらも、どこか物悲しくて哀愁に満ちているという感情の坩堝を音楽とボーカルで見事に表現している。第8曲「Gauze」では前作で見せたDeftonesのヘビィネスの更に先を突き詰めた楽曲にもなっているし、第9曲「Rosemary」は見事なヘビィネスバラードであり、最終曲「What Happened To You?」ではどこか安らかさすら感じさせるたおやかなエンディングを迎えている。
今作を通して聴いて、あらゆる感情が交錯するからこそ、怒りも悲しみも喜びも幾度と無く繰り返されて、それをヘビィロックとして確かな形にした作品なのだ。何よりも全編通して本当にチノのボーカルが過去最高のレベルに達しているし、どこまでも歌物の作品でもあり、自らの持つ感情が繊細に交錯するヘビィロックを極めてもいる。間違いなく第二の黄金期にある彼等の円熟は最高の形で迎えていると思うし、まだまだ渋みと貫禄を増して進化していくのだと思う。誰も追いつけない孤高の帝王の生み出した至高の作品は本当に何度も末永く聴ける深みに満ちているし、やはり彼等は別格の存在なのだ。本当に素敵なアルバムだと思う。
(タイトル以外は)
■Sentinels/Amber Daybreak

日本のHeaven in her Arms、Endzweck、Liteとも競演した経験もあるベルギーの激情系ハードコアバンドであるAmber Daybreakの09年リリースの1stアルバムであるが、これがもう1stとは思えないレベルで完成されまくった作品であり、透明感とエモーショナルさを兼ね揃えた激情系の中でも屈指の作品だと言えるだろう。ベルギーと言えば激情・激重の素晴らしいバンドを多く生みだしている国であるが、まさかこういったエモ系激情の素晴らしいバンドも登場していた事実に驚きだ。
彼等はKidcrash、Suis la lune、La Quieteに影響を受けたらしく、彼等のサウンドは透明感に満ちたクリーントーン主体のギターフレーズとクランチ気味の歪みの音色を組み合わせたギターワークが展開されているし、ハードコアの疾走感を持ちながらも、ポストロックの静謐さや、マスロック特有のテクニカルさも盛り込んだ物になっている。そこら辺はKidcrashの影響が大きいとは思うが、ある意味お約束なサウンドである筈なのに、彼等がテンプレ激情で終わらないで確かな個性を持っているのは、恐らく楽曲の中で焦燥感と緊張感が常に充満しているからだと僕は思う。少しペラペラした音作りでもあるけど、それでも彼等の楽曲はマスロックの叡智を吸収したからこその目まぐるしい展開と、緊張感に満ちたアンサンブルが確かに存在しているし、それをハードコアのフィルターを通して鳴らしているからこそ、その瞬間の激情をどこまでも哀愁と瞬発力を全開にして打ち鳴らしているのだ。時には複雑なフレーズを巧みに絡み合わせているし、ポストロック・マスロック的パートを上手に組み込み、そのパートはここぞという暴発疾走パートを最大限に生かす役目も果たしている。第1曲「Winter Seems Longer」は序盤からいきなりマスロック的サウンドが花開いたと思ったら、すぐさまハードコアパートへと雪崩れ込み、少しばかり静謐なパートを入れたと思ったら、マスロックフレーズも加えたハードコアパートへと突入し、そしてポストロックパートへと行き着き、シンガロングパートから再びハードコアパートへと雪崩れ込む。3分間の間で本当に目まぐるしい展開を見せるのに、常に青い衝動に満ちており、どこまでも胸を突き刺してくる。第5曲「Boat Trip」の焦燥感に満ちたクリーントーンのギターのストロークとハーモニックスからいきなり持っていかれるし、そこから一気に激情を爆発させて、ハイトーンの少しナヨいシャウトと、クリーンでありながら、激情が咲き乱れるギターの轟音に一発でやられてしまうだろう。全8曲共に常に予測不能な展開を見せるという意味で彼等はカオティックであり、同時に鬼気迫る殺意の音では無くて、徹底してクリーンで青く透明な旋律を聴かせてくれるし、本当にハイブリットなバンドだと思う。第8曲「No One On Arrival」の胸を焦がす壮大な激情で今作が終わるのもまた良い。
とにかくクリアでエモーショナルな激情系の良い所を全て取り入れた末に自らの物にしてしまったとしか言えない彼等だが、恐ろしいのはこれが1stアルバムだと言う点だ。1stでLa QuieteやRaeinの迫る勢いの完成度の作品を生み出してしまっているのだから、そこいらのバンドが逆立ちしても太刀打ち出来ないであろう、青い衝動をどこまでも緻密かつ衝動的に鳴らす彼等は本当に素晴らしいバンドだと思う。
■東京BOREDOM#9 〜THE ROLLING BOREDOM〜(2012年11月10日)@新宿LOFT
・the mornings
という訳で一発目はオルタナティブ・ポストパンクの遺伝子の突然変異であるthe morningsからスタート。ポストパンクをぐちゃぐちゃに分解しながらも非常にキャッチーでエネルギッシュなアクトは相変わらず、ワタナベ氏は早々にフロアに飛び込んだりというハチャメチャっぷりも相変わらずだが、テクニカルさを持ちながらも、それを難解に聴かせないのに、スッっと耳に入りこませ無い一筋縄のいかなさも流石。狂騒と笑顔のアバンギャルドパンクサウンドはライブではさらにハイボルテージだし、だからこそ、このようなイベントに凄い嵌るバンドでもあるのだ。のっけからモッシュを巻き起こし、そして会場の熱量を最高潮まで高めてくれてた。
・worst taste + specialmagic
毎回毎回奇天烈ポストパンクサウンドで、Boredomを盛り上げてくれてる彼等だが、今回はspecialmagicというターンテーブル奏者をゲストに迎えてのアクト。躍動感溢れるテクニカルかつズ太いベースラインとダンサブルなドラムが楽曲を引率する彼等のサウンドだが、切れ味鋭いスクラッチと、ノイジーな効果音が加わり、更なる混沌のダンスサウンドへと変貌を遂げていたし、シンプルでありながらも、変則的でぐんにゃりとしたギターフレーズの奇怪さが更に加わってごった煮ポストパンクサウンドが更に制御不能の方向へと飛んでしまっていた。それをこちらもハイテンションで鳴らしてるから妙にガツンとくるし、見事なダンス天国を生み出す起爆剤として彼等は今回も大活躍だった。
・folk shock fuckers
全く名前を知らない状態で今回ライブを見たが、ステージにいたのはU.G MANのメンバーでもありless than TVの社長の谷口氏とLimited Express(has gone?)のゆかり嬢と武田氏、そして谷口氏は超ざらついたセミアコのディストーションサウンドで弾き語り、歌い始める。このバンドは谷口氏とゆかり嬢の夫婦バンドでもあり、パンキッシュフォークバンドでもあるのだ。しかしフォークバンドにしては幾らなんで歪でパンキッシュであるのだ。ギターは歪みまくってるし、楽曲の核になるのはリズム隊の音で、それが前面に出てるし、しかし谷口氏はしっかりと歌っているしという何とも不思議であるが、妙にしっくりくるフォークバンド。場末の酒場のフォークサウンドとして非常に有効だったし、最後にBoredomに捧げる歌を歌い(何故か客に歌わせてた)、さっきまでの狂騒とは違う妙にほっこりとして空気を作り出してたし、気付いたらそれに飲まれてしまっていた。
・moools
アクトが始まる前にテキーラサービスがあり、乾杯の音頭から始まったmoolsのアクト。かれこれ15年に渡って活動する超ベテランバンドだが、どこまでも胸を掻き毟る哀愁のギターロックバンドでもあり、普遍性に満ちたロックバンドでもありという、日本の隠れた猛者であるが、どこまでも丁寧でありつつも大胆なアンサンブルが輝き、ピュアなイノセンスを放つ。もう必殺の「分水嶺」のエモーショナルな歌と轟音はライブで聴くと圧巻の物があるし、そんな楽曲で始まりながらも、非常にフォーキーな曲も、ロック色の強い曲も全て自然な流れとして存在させてしまうのは長年戦い続けた猛者だからこそだと思う。しかし一番の盛り上がりはラストの「SMAPのカバーです」と言って演奏された「黒セロリ」だろう。ハードコアライクであり、ハイトーンシャウトで「育った環境が…うるせえ!!」と叫ぶし、曲は全くカバーじゃなかったりするが、何かもう色々と卑怯過ぎるし、これは否応無しにテンションが上がるしか無かった。初めてmooolsをライブで観たが、本当に良いバンドだと思う。
・SLIGHT SLAPPERS
繰り出されるショートカットチューン、ほぼノンストップでハイテンションで暴れ狂い、ファストかつヴァイオレンスなハードコアで今回初参戦を果たしたスラスラだが、もう彼等に関しては野暮な感想なんて全然いらないとすら僕は思う。とにかくライブ中は常にモッシュ!モッシュ!!モッシュ!!!の嵐だったし、暴れ回る狂騒のハードコアは音源なんか比にならないレベルでヴァイオレンスさを極めていた。何かもう単純に格好良い!!とか凄い!!とかそんな感想で良いとすら思うスラスラに関して言えば。とにかく彼等のライブの凄さは言葉では本当に表せないし、是非とも一度ライブに足を運んでみて欲しい。狂騒と破壊と混沌。それに彼等のライブは全て集約されているから。
・s-explode
熊谷が生んだ狂気のダンサブルパンクバンドs-explode。ジャンクでありながらダンサブル、とにかく徹底して冷徹なサウンドとアンサンブルはもう見る度に極まって来ているんじゃないかと毎回思う。予測不能のカタルシスの中で冷や汗を流しながら踊る感覚は人間の奥底にあるプリミティブで粗暴な感覚を思い起こさせるし、多くの人を踊り狂わせるだけの力を彼等は持っている。そして緊張感がバーストした瞬間のカタルシスはいつ観ても凄いと思うのだ。
・Z
激情から誰も追いつけないカタルシスを生み出しているZ。「二回目で最後のロフト、始めます。」といMCもあったが、いよいよ解散へのカウントダウンが始まったZだが、とにかく今のZのライブは凄い。魚頭氏のギターの音の破壊力は存分にパワーアップし、グルーブと分解と混沌が同時に押し寄せてくるサウンドは正に全てを置き去りにするハードコアその物。セットリストは最終作「絶塔」の曲を中心にプレイしていたが、音源よりも更にダイナミックに迫ってくる音の死刑宣告、終盤に演奏された「新今日」収録の「USO村」もスラッシュメタルを独自解釈したリフが更に暴れ回り、抜け出せない奈落へと確実に誘っていた。そしてラストの「蛇鉄」で完全に昇天!!個人的には今回の一番のベストアクトだったと思うし、そして最後の日までZは追いかけて行くつもりだ。
・Limited Express(has gone?)
ポップでチャーミングでパンクバンドであるリミエキだが、実はライブを観るのは本当に久しぶりだったりもした。しかし久々に観たライブでも彼女達のスタイルは何も変わっていない。男女ツインボーカルで叫びまくり、3ピースのシンプルなサウンドでありながらも、骨太のグルーブでグイグイ引っ張り、それでいた切れまくっているのにポップさとキャッチーさを忘れない音は正に一撃必殺だし、オルタナティブが何なのかというのを誰よりも分かっているからこそ生み出せる音なんだと思う。久々にライブでしたが、本当に無心で楽しめた!!
・BOSSSTON CRUIZING MANIA
反復と構築を際限無く繰り返し、それをドープなダンスミュージックとして吐き出すボストンのアクトだが、相変わらずというかもう安定してアンサンブルが鉄壁過ぎる。ダブやニューミュージックを分解と構築を繰り返し、変則的過ぎるビートを繰り出しながらも、踊り狂えるダンスミュージック。破壊の先にあるのは酩酊の世界であるというのはボストンのダンスミュージックの核になっているし、だからこそ踊れないのに踊れると言う矛盾を生み出せるのだと思う。
・GROUNDCOVER.
そしてトリはGROUNDCOVER.のアクト。今回も6人編成でのライブであったが、とにかく巨大なミキサーを操作し、オルタナティブ・パンク・ハードコアをダブの遺伝子で分解し、それを再構築すると思いきや、そんな事はしないで、そのまま放出する混沌のサウンドは前回見た時以上に極まっていたとも思うし、なによりも、その行き先は原始的なトランス的開放と解脱だと僕は思ったし、トリと言う事もあって、今回のイベントで一番の盛り上がりを見せていたが、音楽性で言ったら決して盛り上がりやすい物でも無いとも思う。しかし狂騒のエクスペリメンタルが人間の奥底にある狂気を加速させているからこそ生み出せている物だし、そんな音で狂騒を生み出しているから本当に凄いバンドだと改めて思った。
と言った感じでイベントの終了は朝の7時前だったし、今回もかなり体力勝負なイベントだったとは思うが、ノンストップで繰り出される各バンドのアクトは本当に濃密であったと思うし、だからこそ一筋縄じゃいかないイベントとして東京Boredomは存在していると僕は思う。かなり駆け足のライブレポになってしまったが、このイベントのごちゃ混ぜの狂騒は足を運んでみたら嫌でも分かると思うし、是非とも次回の開催の際は更に多くの人に足を運んで欲しい限りだ。