■2013年11月
■THE CREATOR OF、鈴木重幸ロングインタビュー

本当に衝撃のアルバムになったと思う。ヘビィロックの最果てからその音を鳴らすTHE CREATOR OFというバンド、本当にこのバンドはまた最高のアルバムを作り上げてしまった。日本のヘビィロック史に残る金字塔である2ndアルバム「IN RESRVOIR」から実に11年振りの3rdアルバムは、ヘビィロックの新たな可能性をこじ開ける改心の作品になった。最早ヘビィロックの概念すら覆し、静謐で美しい音から生み出す神秘的情景、ポストロックやサイケデリック等の要素にまで足を伸ばし、世界レベルで最先端の音を鳴らし、それらのバンドとリンクしながらも、そこからまた独自に新たな音を生み出す進化の結晶。それがTCOの3rdアルバムである「LIGHT」だ。11年という歳月を経てのリリースとなったが、作品については当ブログのレビューを参考にして頂ければ幸いだが、自らで生み出した「IN RESRVOIR」という最果てを、更なる彼方の音へと進化させた本当に一大傑作となった。
そして今回バンドの創設者であり、フロントマンである鈴木重幸氏にインタビューをさせて頂く事になった。長い活動休止期間からの復帰から、アルバムについてまで、本当に色々伺ったが、重幸氏は言葉数こそ多くは無いけど、TCOというバンドと新作「LIGHT」について語ってくれた。最新で最果ての音を鳴らし進化するTHE CREATOR OFというバンドについて今回のインタビューで少しでも伝われば幸いだし、そして少しでもTCOの音に興味を持ってくれたら本当に嬉しく思う。
■先ずはTCOを知らない方の為に、TCOが再始動してから、現在に至るまでを簡単にお話して頂きたいです。
俺がずっと何処にいるか分からなかった武田を探していて、地元の日立で暮らしてるって情報があって、やっと合流できたのが六年前。そこからスタート。
久々に会ってもギターの腕は落ちていなかったよ。流石だ。それでギター2本、2人でスタジオに入り始まって、やっぱすぐバンドやりたくなってドラムを海野初代TCOドラムに頼んで水戸のソニックで今のベースのサカモトが働いてるって聞いて、リハビリがてらライブ活動をスタートさせた。
■その頃には新曲を作るみたいな構想はあったのですか?
まだまだ全然。先ずは立ってギターを弾いて歌う練習。武田はギターをやりたい、でもライブやるにはベースがいない、海野はライブやれるほどのドラムは叩けない。そこでベーシストのサカモトがドラム、ギタリスト武田がベース、俺かギターボーカル。スリーピースで始めたんだよね。
■そして茨城で地下活動を続けていたという訳ですね。
うん。そんな時、ドラマーのSAKURAを紹介してもらい、晴れてツインギターでのライブデビュー。そんで2009年頃から本格的にライブを再開した。
■僕はその頃に再始動を知って2010年の春に初めてTCOのライブを拝見したのですけど、その当時はまだ4人でライブをしていて、新曲は全然やってない感じでした。当時はTCOが活動再開した事が大きくて、これからどんな音楽をやるかとかは想像出来なかったです。
インストの新曲を増やすつもりだったから、早くメンバー固めて曲作りをしたかったんだけど、なかなかなかなか。今のドラムのヒロキになって、やっと、本格的に新曲作りに入れたよね。
■そして紆余曲折あって、2011年に鈴木さん武田さんに加えて、ベースに植田さん、ドラムに佐川さん、マニピュレーターに古谷さんが加わって5人編成のバンドとして本格的に動き始めました。その頃からTCOの新しい音が見えてきた感じはあります。これまでのヘビィネス的な音からグルーブの重みを感じさせながら、より静謐で綺麗な音が増えました印象があります。個人的には良い意味で毎回違うライブをしていたなと思います。
そうだね、AKSKは最初から来てくれてたよね。その頃のライブレポは、自分達をチェックするのにすごく役立ってた。新曲は2ndで言うと「Resonance」、「Acoustic」、辺りかな。そこら辺の曲と繋がってるかな?
■鈴木さんの挙げた2ndの楽曲の先を感じる音になってましたし、その中で時には空間的美しさ、時にはヘビィネス的な覇気を感じさせる音、毎回のライブが違って見えましたね。そして新たなTCOを生み出そうとしてるのも感じました。
そのころは、毎回試すことが多くてやりがいがあったよ。これから先も、これまた楽しみ。
■その中で今回の新作のタイトルになっている「LIGHT」をライブで披露する様になりましたけど、この曲は現在のTCOを決定付ける曲になったと思います。ほぼインストで、これまでのイメージを更新しながらも、核の部分を変えずに、より情景的な音を鳴らす様になったと。そしてTCOのポストロック的アプローチが今まで以上に大きく前に出たという印象です。
「In Reservoir」のラストの「Narcolepsy」。この感じだよね。
■そうですね。それの発展系の音が今のTCOだと思います。mogwaiとかJesuとかあそこら辺のバンドと共振しながらも、それの模倣では無くて、あくまでもTCOというハードコア・グランジのバンドとしての回答だと僕は思います。
まるっきりパクるのは簡単だよね。でもその方が伝わりやすいんだろうな。
■でもパクりでは無くて、その流れを継承しながら発展・進化させて新たな音にしていく。これは1stの頃から全く変わってないアプローチだと思いますし、だからこそTCOらしさが出るんじゃないかなって僕は感じます。
Sigur Rosそっくりなバンドとか、トムヨークの歌真似とか、おれはやらないよ。
■何回かブログにも書きましたけど、TCOの核は進化の精神だと思ってますし、だからこそ受けとる側からしたら今の音はかつてとは違うでしょうけど、それは当然だと思いますし、だからこそTCOの核はブレないんでしょうね。
まあ、むかしはTOOLに似すぎてた感はあるかな?あは(笑)
■でもその頃からTOOLに無い物をTOOLを受け継ぎながら生み出していたと思います。
そう言ってもらえるのはすごく嬉しいね。
■そして話を少し戻しますと、今年に入ってからベースが植田さんからサカモトさんに変わり現在の編成になりましたね。その頃にはライブでの足元がかなり多いバンドになったりしながらライブでのセットも今回のアルバムに収録されている曲中心になりましたね。それらの楽曲はどの様なイメージだったり、どの様な過程で作られましたか?
まず、「Light」が最初に出来た新曲。つぎに「Pass Away 」、「Black Star」そんで、「Wind Up」かな。今年に入って「You Are」 ,、「Out for Three Days Straight 」、「Settle」。ライブでの新曲のやり方は、まだまだたくさんありそう。エフェクターもどんどん買い足していくだろうから、楽しみだよ。今の形に固執するつもりはない。常に楽しく演奏したいからね。
■時系列で見ると今回のアルバムの中で歌物と呼べる「Wind Up」と{You Are」はアルバムの中では大分後に出来た曲なんですね。
そうだね。
■特に「You Are」は今回のアルバムの中ではかなり異色だと思います。ヘビィさを際立たせながらもキャッチーでありますし、同時に新たなTCOの流れも汲んでる曲ですし、今後のTCOにとって大きな曲になる予感がします。
New Orderみたいなテンポ感の曲をやってみたくて。ドラムの音なんかは数年後にはデジタル音になってライブしてるかも。
■確かにそれも凄い合いそうですね。今回のアルバムは鈴木さんのそうゆう趣味も大きく出てると思いますし、それをバンドサウンドでやるからこそまた新鮮さもあるかなと。本当に聴きこむと凄い多岐に渡る音なんですけど、それを見事に統率しているのは本当に凄いと思います。 Massive Attackとかあそこら辺の流れをここまでバンドで消化するのはかなりの物じゃないなかと。
ライブでどんな風に聴かせるか、それをいつも考えてるよ。はやくデカい会場でやってみたいな。
■今回のアルバムはポストロックに振り切った作品ですけど、鈴木さんの中でポストロックはどのような物だと思ってますか?また自分自身で鳴らしたいポストロックとはどんな物ですか?
このアルバムを「ポストロックに振り切った作品だ」っていうのはAKSKの感覚で、バンドとしてそういうわけではないのよ。
ポストロックってよくわからんが、mogwaiのことだろ?mogwaiと同じジャンルならポストロックだよね。このアルバムのジャンルはなんだろな。
■今回のアルバムの曲は本当にライブでまた大きく変わる曲ばかりだと思いますし、1stの「Hi On」が現在大きく進化したみたいにこれからライブを重ねてまた新たな進化が見れると思います。
そんな風に楽しんでもらえたら、俺ら的には最高だよ。毎回ライブに来て欲しい。昔みたいに、おれがラリってダメダメなライブは、もう見れないけどね。
■そして今回のアルバムは2ndの時とメンバーが一新した編成での作品になりましたが、現在のTCOのメンバーである武田さん、サカモトさん、佐川さん、古谷さんが加入した事で変わった事とかありますか?
武田と合流できて良かったし、元ラルクのSAKURA兄さんやchestholeのシモくん、アルバム作りの途中に失踪(笑)した植田、周りのミュージシャンには凄く感謝してるよ。ヒロもこないだひょっこり新宿のライブに来たし。すいませんでした~だって(笑)ぶっ飛んだやつだわ(笑)
■そういった方々の支えだったりサポートは本当に鈴木さんにとって大きかったと思いますし、全く新しい編成になったからこそ、TCOの音楽は新たなステージへと進化したと思うのですよ。そこはどう感じますか?
古谷くんはずーっと切れることなく俺をサポートしてくれてた。Erimin5(鈴木氏のソロのミニマル。アンビエントのユニット)だったりTCOだったり。
バンドやれてない間は2人でダンスイベントでエレクトロのライブやってたよ。流石はkuroi mori。発想が奇抜で、常に面白いんだよね。
■ではまた作品の話に戻りますけど、今回は大半の楽曲が独自のポストロック的アプローチをしている中で、「Wind Up」や「You Are」みたいなグランジ・ヘビィネスを独自に発展させた曲もあったりという作品に仕上がりましたが、アルバム全体として鈴木さんの中ではどのような物になったと思いますか?
将来、鉄板のインストジャムバンドになって、野外フェスで何時間も演奏するようなバンドになりたいから。通過点的な感じで見て欲しい。次のアルバムのことも既に考え始まってるよ。
■これまでSlipknotやMarilyn Mansonといった海外バンドとも共演しましたけど、これからの活動で海外を視野に入れた活動をしたいとかはありますか?
勿論、チャンスがあれば海外でやってみたいなあ。
■ここまで色々伺いましたけど、鈴木さんにとってTCOは自分の中でどんな存在ですか?自分の中でこれぞTCOだって物があるなら、それは何でしょうか?
音楽は素晴らしいものだよね。暮らしの中に自然に溶け込ましたい。無理せずマイペースにやっていくよ。バンド名を変えずにいるのは、こんなこと考えさせてくれるからかな。洋服なんかも昔から物持ちがいいんだよね俺は(笑)大事にするからね。
■では最後に今後のTCOの展望やライブ活動について教えて下さい。
12月にNoLAの企画に出て、年明けにレコ発のライブを2本やるよ。毎回良いライブが出来るように、常にしっかり準備していくよ。

常に先の音を鳴らし続けているTCOは今回のアルバムもあくまで通過点であり、まだまだバンドとしての進化は止まる事は無さそうだ。これから生み出される新曲もそうだが、今回の「LIGHT」の楽曲もこれからライブでどう進化を遂げていくか。それも含めて本当に楽しみである。TCOは年内はNoLAの企画に出演し、年明けの1月と2月にレコ発のロングセットのライブが2本控えている。ライブも含めて別格のバンドであるTCOだからこそ、最果ての音を美しく力強く鳴らすライブは本当に必見だし、ライブ活動も含めて、これからのTCOの動向には是非とも注目すべきだと思う。数年に渡ってTCOを追いかけて来たが、僕はこれからもTCOを追いかけ続けていくつもりだし、本当に底知れぬこのバンドは更なる飛躍と進化を遂げる事を確信している。
【THE CREATOR OFライブスケジュール】

2013年12月8日(日)@新宿ANTIKNOCK
NoLA presents "抉"
出演
・NoLA
・BIRUSHANAH / 大阪
・THE CREATOR OF
・GROUNDCOVER.
・Horse & Deer
開場 18:00 / 開演 18:30
前売 1,700 / 当日 2,000 (+1D)
2014年1月25日(土)@渋谷CYCLONE(レコ発ロングセットライブ)
2014年2月22日(土)@三軒茶屋HEAVEN'S DOOR(レコ発ロングセットライブ)
【official website】http://thecreatorof.net/
【facebook】https://www.facebook.com/thecreatoroflight
【sound cloud】https://soundcloud.com/the-creator-of
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本当に想像を超える作品が生まれた。日本のヘビィロックを代表するバンドであり、孤高の存在であるTCO、07年に編集盤の「Dust To Dust」のリリースこそあったが、長らく活動を休止していた。しかし09年にライブ活動を再開、メンバーを一新して5人編成で再始動したが、そんなTCOの新たな始まりを象徴する、実に11年振りの3rdアルバムが遂に生まれた。闇から怒りと殺意を放っていたTCOの最新作はまさかの「LIGHT」だ。これまでのTCOの音を確実に覆しながら、2ndである「In Reservoir」の流れも確かに受け継ぎながらも、ヘビィネスからポストロック・ポストメタルを想起させる音になり、しかしそれらのバンド達とは確実に違う、ヘビィロックバンドとしての「ポスト」に対する確かな回答だ。この音は2013年の必然であり、そして進化の精神を核とするTCOの新たな進化であり、確かな始まりの幕開けだ。
2ndでもその傾向は確かにあったが、今作は大半の楽曲がインストの楽曲になっている。そして5人編成となった事による音の色彩の増幅、その音の緊張感こそ不変でありながらも、光とかそういった言葉を想起させる音や旋律が格段に増えた。ヘビィロックバンドのセオリーを嘲笑いながらも、そのグルーブは正にヘビィロックであり、その中で「先を行く」という点に於いて本当に凄まじいレベルに達した作品である。例えるならmogwaiだとかJesuだとかISISだとか、そういったバンド達の流れにありながら、それの模倣ではない。世界レベルの猛者の音を受け継ぎながら、そのどのバンドとも違う音であるし、そしてそれを完全に自らの物として昇華した作品、それが今作「LIGHT」である。
今作のタイトルトラックでもあり、今作を象徴する楽曲である第1曲「LIGHT」が先ず本当に素晴らしい出来だ。Kuroi Moriとしても活動し、新生TCOの新たな核でもある古谷氏の幽玄なるピアノの調べから、これまでのTCOのイメージは確実に覆されるだろう。そして静謐で繊細でありながら力強いドラムとベースが生み出すグルーブ、武田氏の柔らかでオーガニックなギターの調べ、ダウンテンポのグルーブと、美しくシリアスな調べが絡み合う様、徐々に熱を帯びていくドラマティックなアンサンブル、そしてディストーションのギターが入り込んだ瞬間の高揚のカタルシス、柔らかでありながらシリアスな緊張感を孕んで進行する音が爆発を起こし、そして新たな始まりの光を生み出す。この1曲だけで、今作があまりにも凄い名盤である事を語っているし、そのドラマティックさは凡百のバンドには逆立ちしても生み出せない物だ。
「LIGHT」の感動的な始まりからそれに連なる形でインストの楽曲が続く。第2曲「Black Star」は多くの音が浮遊し交錯しながら、クリーンさと歪みの対比が見事で、重苦しいグルーブと、ある種の性急さも感じさせるギターフレーズが美しく花咲き、闇と光の交錯するプリズムの結晶の様だ。第3曲「Resonance」の2ndの「Acoustic」の更なる発展系とも言えるトライヴァルなビートとオーガニックさ、ヘビィロックの真髄を持ちながらも、そこに収まらないで音のみで全てを語り、柔らかでありながらも、貫くサウンドの高揚感は本当に鉄壁の一言。第4曲「Out For Three Days Straight」のデジタルな感触で録音されたドラムと、その無機質さに反してサイケデリックといった要素へと侵食し、揺らぎと揺らぎの断層を生み出す情景、第6曲「Pass Away」の今作で一番メロウでストレートなポストロックサウンドを放ちながら、幽玄の音のシャワーから全ての音が純白の洪水へと変貌していく様、第7曲「Settle」のポストロックの中からオーガニックさを極め、そして聴き手の意識をトランスさせ、電子音とヘビィネスと白銀の旋律が生み出す結晶は個人的にJesuのそれに迫るだけの完成度があると思う。
それぞれの楽曲の存在感が凄まじいインストの楽曲郡を越えた先にある終盤の2曲は、アプローチを変え、歌物の楽曲になっているけど、その2曲では更にヘビィネスの先という物を生み出している。第8曲「Wind Up」では今作の大きな肝になっているダウンテンポの重苦しいグルーブをより前面に押し出し、のっけから雷鳴の如しディストーションサウンドが展開されているけど、そのサウンドの中にある厳かさ、そして闇が渦巻く序盤から、それを切り裂き新たな光が差し込む瞬間のエモーション、シリアスでありながらも絶望的ではなく、闇の底から微かに差し込む光をこの手で掴む様なポジティブな強さ、終盤では轟音が炸裂しながらも、それが軽やかに羽ばたく瞬間が確かに存在し、その音は非常に神々しい。
個人的に今作のハイライトであるのは第9曲「You Are」だ。引き摺る歪みを生み出すギターのリフの重さ、それに反して浮遊感溢れるボーカルを聴かせる鈴木氏、武田氏の繊細なアルペジオが入り、リズム隊の音も入り込むと、そのアンサンブルは更に強固になり、そして静謐さから今作屈指の強さを誇るギターリフとビートの応酬はTCOというバンドが新たな扉を開く瞬間であり、グランジから始まり、ヘビィロック・ポストロックも飲み込み、そして進化を遂げたTCOの本質は11年前と何一つ変わっていない事に気付く。高揚感とキャッチーすら感じさせ、鈴木重幸というリフ作りの鬼才の才能が炸裂し、そしてもうこれはTCO自身が完全にポストメタルを独自に解釈し、そしてそれを確かな形にした証明であり、先を行く音でありながら、鈴木氏のルーツであるグランジに帰結する。そして最後は最終曲「Requiem」のアンビエントな音像だ。壮絶かつ美しい今作をミニマルな音の反復と共に、眠る様に終わる。
今作は本質的な意味で「オルタナティブ」であるし、本質的な意味で「ポスト」な作品だと断言する。その方法論は確かにポストロックにかなり接近しているとは思うけど、それはあくまでもTCOが新たな進化を遂げるための手段であったに過ぎないと僕は勝手に思っているし、形骸だけ模倣したポストロックバンドなんかじゃ、この音は絶対に生み出せないのだ。これまで・現在・これから、その全てを繋ぐ音だし、TCOの核である進化の精神が見事に形になっているのだ。だからこそTCOは11年経っても本質は何も変わらないし、そして全てを置き去りにして先へと突き進んでいる。2013年に今作が生まれたのは必然であるし、そして今作は確実に現在のシーンを揺るがす「In Reservoir」に続く金字塔になる筈だ。進化の精神としてのヘビィロック・ハードコア、TCOの絶対正義が正に実を結び、強靭かつ美しい音の結晶となったのだ。先駆者はやはり自らの手で新たな道を切り開く。2013年の国内ロックの最重要作品の一つだ!!
■split 12"/Khmer×After Forever

世界各地のネオクラスト・激情系ハードコア等の音源を扱うディストロである俺達のLong Legs Long Armsこと3LA、そんな3LAが遂にディストロだけでなくレーベルとして本格的に始動!!そして3LAのレーベルとしての記念すべきリリース第1段はスパニッシュネオクラストバンドであったIctusのメンバーが在籍する昨年スペインにて結成されたブロッケンハードコアであるKhmerと、日本の伝説的カオティックハードコアバンドであり、昨年復活した千葉のAfter Foreverのスプリット12インチ。いきなりスペイン×日本のスプリット音源のリリースとなった。盤の方もClear Vinylであり中々凝っているし、ダウンロードコードもしっかり付いている。そして内容も3LAリリース第1段を華々しく飾るに相応しい物だ。両バンド5曲ずつ提供の全10曲の濃密濃厚スプリット!!
先ずはスペインのKhmer。Ictusだけでなく、El Ego,Another Kind Of Death,Become Wealthのメンバーで構成されているバンドで、ネオクラストだけでなく、メロディックやデスメタルのバンドのメンバーも在籍しているバンドだ。今作で初めてKhmerを知り、その音に触れたが、これがもう本当に突き抜けた格好良さ!!基本的なサウンドは凄いクラストだし、獰猛なDビートを基調としてカオティックなビートがまず猛りに猛るサウンド。そして荒々しく突き刺すリフ、ストレートな疾走とリミッター解除な暴走、荒々しくありながらも、凄いメロディアスなギターフレーズの応酬。熾烈ながらもキャッチーなエモーションが本当にナイス!「Volver a empezar」から全てを貫くハードコアサウンドが展開され、テンポダウンも疾走も暴走も絶妙に使いこなし、ノンストップで薙ぎ倒す様は圧巻だ。「Restos de un naufragio」だけは短い楽曲が並ぶ中で唯一6分の尺の楽曲で、美しいアルペジオの調べから曲は始まり、神々しい轟音のエモーションが炸裂するけど、そんな楽曲でも決して日和る事は無いし、持ち前のサウンドにドラマティックさを加えて展開されていく。これは本当に悶絶物!!
そして日本のAfter Forever。これまでリリースされたのは廃盤になってしまっている3cm tourとのスプリット音源のみで多くの人が待ち望んだ新音源となるのだけど、彼等のサウンドは本当にモロで最高なのだ。先ずカオティックではあるけど、カオティック成分を前面に押し出しているのでは無く、あくまでも直情的なハードコアサウンドの中に絶妙な味付けとしてカオティックを取り入れているのが良い。ザクザクと切り刻むリフも良いし、またストレートなハードコアサウンドの中でエモーショナルなメロディアスさを感じさせているのはKhmerと共通していると思う。何よりもそのコーラスワークは堪らない!!NOFXのカバーである「dying degree」も、原曲のメロディックな持ち味を生かしながら、より暴走するカオティックさを押し出しているナイスなカバー!!「times of grace」のエモーションも本当に堪らないし、今作に提供した楽曲の中で一番不穏なカオティックさを感じる「away」のミドルテンポで進行しながら、冷徹な断罪サウンド、そして終盤のツインボーカルと化したボーカルの絶唱と共に、不穏さの中からの熱いメロディアスさ、国内劇場・カオティックの黎明期から活動しているバンドなだけあるし、本当に有無を言わせない説得力を強く感じる。最高に格好良いじゃないか!!
「未知かつ良質な音楽を探求しお客様と喜びを共有すること」、これをテーマに掲げてこれまでディストロを行ってきた3LAだけど、レーベルとして新たなスタートを切っても、その信念は絶対に変わっていないと思うし、ディストロとしてもレーベルとしてもそういった信念に基づいて行動を続ける3LAには本当に尊敬の念しか無い。リリース第1段から最高のスプリットをリリースしたのだけど、これからもまだまだリリースは控えているらしく、3LAという新たなレーベルが国内国外問わずに、大きな波を起こすのは既に決定的だと思う。今作はこちらの3LAのページから購入可能であるし、またこれからのリリースのアナウンスもあるので、是非とも随時チェックして欲しい。
■Ashura/Cyclamen

現在はタイに在住する今西勇人氏率いるCyclamen。一度はバンドとしては解散してソロユニットになったが、再びバンドとして活動を再開、そして少しずつ日本でもその名を広げているが、そんなCyclamenの3年振りのリリースとなる2ndアルバム。EP作品「Memories, Voices」からは一年振りの音源だ。Djentのムーブメントの一角として登場した彼等だけど、今作は「怒り」をテーマにしており、これまでの作品で一番攻撃的な作品になっている。
Cyclamenと言えばDjentのバンドでありながら、激情と多様性とポップネスが本当に大きな武器になっているが、今作ではそのポップネスと多様性の要素は影を潜め、変わりによりカオティックで攻撃的なサウンドが本当に全面に出ている。これはこれまでのCyclamenを知っている人は戸惑いを覚えてしまうかもしれない。しかし怒りに特化したサウンドの説得力と破壊力はやはり凄く、Cyclamenの変則的かつカオティックに展開されるサウンドと、より烈火の如く攻める激烈な音はまた違うインパクトを与えてくれるだろう。そしてこれまでで一番統率されたサウンドはアルバムとして大きく纏まっているし、その中でドラマティックにアルバムは進行し、攻撃性を高めつつも、彼等の激情は更に極まっている。
楽曲のタイトルもこれまでの英語のタイトルと違い、全曲四文字熟語のタイトルになっていて、それだけでも作品として一つの統率を感じさせるけど、第1曲「破邪顕正」からそのコンセプトになっている怒りを感じさせる。これまで以上にブルータルの成分を感じさせる。今西氏のボーカルも今まで以上にシャウトをかましているし、その歌詞も悲しみと怒りを強く感じさせる物になっている。カオティック成分が本当に大きく増幅しており、変拍子でテクニカルにアンサンブルを奏でながらも、とにかく攻めに攻めまくっている。サビではこれまで通りにクリーントーンの歌を聴かせているけど、それでもアンサンブルの攻撃性は変わらないし、煉獄のサウンドが展開されている。
序盤の4曲はそんな楽曲が続くが、第5曲「悲歌慷慨」からはダウンテンポで進行する楽曲になり、そしてより悲壮感を強烈に感じさせる。前半の怒りの楽曲から中盤の悲壮感の楽曲の流れはドラマティックさを強く感じさせる。第7曲「余韻嫋々」ではそれが本当に痛烈に放たれている。そして今作の核となるのは、アルバムの終盤を飾る3曲だと僕は思う。そのタイトルに恥じない怒涛のサウンドが炸裂する第8曲「疾風怒濤」はCyclamen至上最強のサウンドを見せ、目まぐるしく展開されるサウンド、怒涛の勢いで攻める音、そんな攻撃性の中で感じるエモーショナルさ、リフとビートの応酬といい、その展開といい本当に強烈なインパクトを残す、そんな楽曲に続く第9曲「神武不殺」は今作のハイライトを飾るに相応しい楽曲であり、序盤のカオティックサウンドから楽曲は急激に静謐な美しさが姿を現し、これまでの烈火のサウンドから一転、Cyclamenのもう一つの持ち味である、神秘的でドラマティックな激情のサウンドが開花、今西氏の叫びと共にドラマティックなサウンドが本当に繰り広げられており、その情景は熾烈なる今作の中でも大きな救いであり、神々しい光が本当に差し込んでいる。そしてアコースティックギターの美しい旋律と今西氏の歌が静かに美しい波紋を生み出す最終曲「空即是色」の優しさ、熾烈なアルバムではありながら、終盤の三曲が本当に素晴らしく、そのクライマックスは本当に鳥肌物だ。
これまでの作品とは路線がまた違う作品ではあるけど、Cyclamenというバンドの持つ激情はブレていないし、それはより際立った印象を受ける。コンセプト作品だからこそ楽曲では無くて、作品全体で聴かせる作品だと思う。本当に終盤の3曲の完成度は高いし、本当に胸を打つ激情が見事だ。これまでのイメージを覆しながらも、その中でも確かに存在する激情、今作も見事な1枚だ。また今作はbandcampページにてname your priceで販売されているので是非チェックを。盤の方もいずれ日本でも販売される予定らしいので、そちらもチェックをして頂きたい。国外で活躍する今西勇人氏が生み出す音は、やはり枠に囚われず、自由に大胆に展開されている。そんな今西氏に同じ日本人として改めて大きなリスペクトを。
■第五作品集『無題』/downy
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遂に遂にdownyが帰ってきた!!まだ日本でポストロックという物が市民権を得て無かった00年代前半に活動し、その独自の音で人気を獲得していたdownyだが、04年に活動を休止、メンバーはそれぞれ音楽活動をしていたが、それが再集結し、そして遂に新作をドロップして完全に帰ってきた。実に9年振りの5thは今回もタイトルは「無題」そのアートワークむ含めて相変わらずdownyだ。そしてその内容はこれまでのdownyを更新し、9年の歳月を経て、また新たな地平を切り開く傑作だった。
9年振りのアルバム、その間にシーンも大きく変化した。downyはライブでVJを取り入れてる先駆者だったが、そんなバンドも珍しくなくなった昨今、今の時代にdownyはどんな音を繰り出すか、本当に読めなかったし、楽しみであったが。この新作は見事にdowny節全開でありながら、これまでの音を更に発展させる作品に仕上がっている。完全にポストロックに振り切った3rd、そしてインダストリアルさも手にした4th。今回の新作は4thの時にあった無機質な人力のビートのおぞましさをそのままに、少しばかり3rdの頃の路線に回帰したのが、先ず初めに聴いて受けた印象。打ち込み的な方法論をバンドサウンドで繰り出すdownyの音は相変わらずだ。でも今作はそれをより歌物の方向へとシフトさせた印象も非常に大きい。ギタボの青木ロビンのおぼろげで歌詞なんて聞き取れないあのボーカルも相変わらずだけど、今まで以上に歌の方向へとシフトしてる印象もある。今作で感じたのは先駆者が自らの音を更に洗練させたという事だ。
downyのリズム隊は本当に凄まじい事は言うまでも無いけど、今作ではそのリズム隊の進化が本当に凄い。実質オープニングを飾る第2曲「赫灼セルロイド」からそのリズム隊の凄みは炸裂。ほとんど打ち込みに近い無機質で正確無比な秋山氏のドラムは更にキレまくってるし、仲俣氏のベースは本当に奇抜さと安定感と重みを感じさせる。更に鉄の切れ味を感じさせるリフと、浮遊するギターがまた格好良くて、のっけから斬り捨て御免だ。第3曲「曦ヲ見ヨ!」なんて完全にドラムンベースとかそっちの方向に行ってるドラムがまた印象的であり、downyのビートの美学が更に研ぎ澄まされている。その中で冷徹な哀愁を感じるギターの音色と歌が見事な調和を果たし、そして全てを分断する鋭さも凄い。
そんなオルタナティブロックの色を見せながら新機軸を魅せる序盤の2曲から持って行かれるけど、第4曲「下弦の月」からは今作の核へと入り込む、全ての音が無機質さの中で揺らぎを見せ、不穏な静謐さと、より歌を前面に押し出しているし、これまでの作品で見せて来たアプローチや方法論を見事に昇華した第5曲「時雨前」の微かなエモーショナルさ、ダウナーなビートと、陰鬱さが際立つ第6曲「黒」、これまで浮遊感を押し出してきたギターのアプローチが、陰鬱で美しいアルペジオと不穏に入るアンビエンスさで変化し、ほぼシンセと化したフレーズの奇妙高揚、そしてここでも際立つ歌が沁み込む第7曲「春と修羅」は本当に素晴らしい。青木裕のギターはこれまでの鋭利さを持ちながらも、轟音のアプローチ以上に不穏な浮遊感を感じるギターワークが今作ではかなり増えているし、3rdで見せたあのギターワークを更に発展・進化させている。それが青木ロビンのギターフレーズと調和を果たし、更に神秘性と陰鬱さを高めているのだ。
終盤の第10曲「或る夜」はよりフリーキーさと断罪の様な鉄槌、そして秋山氏の凄まじいドラム捌き、今作の中では特に4thの路線に近い楽曲だけど、それもまた新たな形で進化させている。最終曲「椿」はまさかのオリエンタルなアコギのフレーズを全面に押し出した楽曲だが、そんな楽曲が今作で一番の歌物で、柔らかで優しい音色に包まれて今作は終わる。
実に9年振りのアルバムだし、本当にどんな作品になっているか全く想像が出来なかったけど、いざ作品を聴くと、これまでのdowny、そしてこれからのdownyであり、自らのこれまでのキャリアや音を踏まえ、そしてそれを一番確かな形で進化させた作品である。9年の歳月を経てもdownyというバンドは何もブレてないし、そして今作の音はやはり先を行く音だ。これはdownyが孤高の先駆者だからこそであり、そして2013年現在でdownyはそうであり続けている。本数こそ少ないが年末にはライブを控えているし、downyの音は今こそ本当に有効だと思う。孤高の先駆者による孤高の傑作だ。
■isolate presents -THE SECRET Japan Tour(2013年11月17日)@新大久保EARTHDOM

The Secret来日という本当に大きな事件。そのジャパンツアー2発目のブッシュバッシュでのライブに足を運んで、それが事件である事を確信したのだけど、今回はそのツアーファイナルであったが本当に事件であった。The Secretと彼等を招聘したisolateは勿論だけど、世界レベルで御馴染みのデスドゥームバンドであるCoffinsと生きるハードコアレジェンドであるMILKCOWとisolateの盟友である激情・カオティックの最右翼バンドであるweeprayが一同に会するというのも事件だ。小岩に続いて、このツアーファイナルも足を運んだが、本当にこの日のライブは事件すら越えた一つの何かだったと思う。ここにその一部始終を記す。
・weepray
のっけから本当にとんでもない物を観てしまった。先ずは7月のwombscapeの企画以来に見るweeprayだが、もういきなりなんじゃこりゃ!!ってなった。狂気とメンヘラ具合とか劣情とか愛と憎しみを激情・カオティックとして放つのがweeprayだが、その音もステージングも本当に段違いに進化していた。ボーカルの笠原さんはそのステージでのアクションも含めて本当に世界を生み出すし、ツインギターの熾烈なリフの応酬、それだけでも十分凄いし、完成度の高い楽曲を、更に高次元で再現するライブは流石であるけど、もうなんというか本当に笠原さんは勢いで客を数人位ブチ殺してしまうんじゃないかっていう殺気を放っていた。「この手とその手」をプレイしている時には感情を高ぶらせて「かかってこいよ!!!!!!!」って絶叫まで飛び出し、ラストにプレイした「彼岸花」の時はステージを乗り出し、最前にいた僕の体を抱き寄せて叫ぶというパフォーマンスまでしていた(そんな僕も一気に高まって一緒に叫んでしまったけど)。披露したのは音源としてリリースしている3曲のみであったが、本当にドロドロと渦巻くマグマみたいな感情をここまで表現できるバンドはいないと思う。いや、最初から凄いライブだったんだけど。何だよ本当に。

・MILKCOW
お次はハードコアパンクの生きるレジェンドであるMILKCOWだったけど、6月の浅草で観た時の、もう全てがフリーダムなライブを目撃してしまっているし、ある種の不安と期待が入り混じる。まあ結論から言うと更に自由になってました。その音自体はグラインドを取り込み、キャッチーさと速さとこれでもかと繰り出す安定の格好良さだったけど、案の定ボーカルの鶴川さんはもうボーカルすら半ば放棄していたし、本当に自由過ぎる。先ずマイクを投げた回数は数え切れず、フロアの床で死体ごっこするわ、アースダムのゴミ箱の蓋を被るわ、野郎の客ばっか狙ってキスをするわ。しかもドラムの人がドラム叩くのすら放棄してフロアに飛び出し、鶴川さんとギターの人と一緒にフロアでモッシュしてた時は本当に笑ってしまった。決定打は鶴川さんが適当にあったビニール傘をさして、客の女の子とデートごっこしたた時で、これがハードコアパンクのレジェンドのライブだって考えると、もう何か凄い。MCでは相変わらずお茶目さ全開だし、「俺たちがイタリアから来たThe Secretだ!!」とか「weepray格好良かったね、やりづれえよ!!」とかそんな感じだったし、もう色々通用しない。でもそんなライブが最高に盛り上がるし、楽しいし、そのフリーダムさが許されるのもMILKCOWなんだなって改めて思った。因みに最後に披露した新曲のタイトルは「メロンジュース」らしいです。

・Coffins
自由過ぎるMILKCOWのライブがweeprayの生み出した空気をブチ壊した後に、その空気をまたブチ壊したのがご存知世界レベルで御馴染みのCoffins。Noothgrush来日公演からあまり間を開けないでまた彼等のライブを観たが、本当に相変わらずの圧巻のライブ!!この日はいつもに比べるとフロアは大人しくてモッシュこそは起きなかったけど、それでも多くの人が何度もメロイックサインを突き上げる盛り上がりはあったし、本当にヘビィミュージックとして抜群の格好良さをこのバンドは持っている。デスドゥームだとか云々以上に、本当に音の全てが単純に強い!!とんでもない重量で暴走するビートとグルーブが何度観ても半端じゃ無いし、ギターリフの格好良さと重さと強さも本当に折り紙付きだと思う。そして本当にバンド脱退が改めて残念になるRyoさんのフロントマンとしての貫禄と凄み。何度も言うけど、本当に世界レベルのバンドだからこそ他を寄せ付けない強さがあるし、ストイックに自らの音を長年に渡って鍛え続けて来たからこそ生まれる有無を言わせない説得力がやはりCoffinsにはあると思うのだ。熾烈なるデスドゥームサウンドは今回も激烈過ぎたし、このバンドもまた別格の存在なのだ。

・isolate
いや小岩の時に、これまで観た中で一番のライブだって言ったけど、それをたった二日後に更新してしまうとは思ってもいなかった!!トリ前は今回The Secretを招聘したisolateのライブだったけど、もう何と言葉で表せば良いか本当に見つからない位のライブが目の前で繰り広げられていた。披露したのはINFORESTとのスプリットの楽曲と最新EPからの楽曲だけど、その披露した楽曲全てが本当に限界値すら振り切った物になっていたし、フロアの狂騒も本当に半端じゃ無かった。何度も言っているけど、isolateと言えば美轟音と速さとトレモロを激情として繰り出すサウンドが本当に凄いバンドだけど、もうそんな言葉すら不要だし、全てに於いて振り切った音しかこの日のライブには確実に存在していなかったと思う。ボーカルのアンドウ氏は勿論だけど、メンバー全員が繰り出す音の全てに本当に魂という魂が詰め込まれていたし、それが本当に一つの音塊として繰り出されている様は感度的ですらあった。今回のアーで積み重ねてきた物のあるだろうし、これまで積み重ねてきた物もあると思う。isolateというバンドの全てを出し尽くす完全燃焼のライブ。激情とかそうゆう言葉すら生温い、本当の意味での魂のハードコアが確かに存在したんだよ!!isolateを知ったのは今年2月の「壁画」ツアーのファイナルで、僕は彼等を知ってから全然日が浅い人間ではあるけど、それでもこの一年で何度もライブを観たし、それだあけの短期間でここまで凄まじいライブをするバンドに進化したのだ。今のisolateは本当に凄い!!全てが別次元だよ!!

・The Secret
そしてThe Secretのライブ。今回も小岩同様にギターはヘッド2台キャビ4台という凶悪なアンプのセットだったけど、小岩の時も凄かったけど、このアースダムでのライブはっその倍は凄かったんじゃないかな?小岩公演同様に不穏なギターのハウリングのループから始まり、本格的に曲が始まった瞬間に下される鉄槌。更にドスを効かせたビートとギターのリフ、その強さもそうだし、ダークサイドに振り切った音もそうだし、漆黒の鉄槌を下しながら、そのアンサンブルが生み出す濁流が観る物を押し流し、更に止めに岩石ブン投げているみたいな意味の分からない感覚を本当に覚えてしまった。終始ダークな赤色で照らされる照明がまた良い感じで雰囲気が出ていたのもグッド。そんなダークサイドハードコアでありながら、本当に観る物の野生の本能を覚醒させるハードコアサウンドは激音と呼ぶに相応しかったし、ダウンテンポのパートからクラスト色を全開にして暴走していくパートに入る瞬間なんて本当に絶頂射精不可避だった。勿論フロアはこの日一番の盛り上がりでモッシュも凄いわ、ダイバー続出だわの大盛り上がり。そんなフロアを観てメンバーが何度も感謝の言葉を述べ、そしてよりスリリングかつ凶悪に膨張していくエネルギーと研ぎ澄まされるアンサンブル。アンコールを含めても40分あるかないかという決して長い時間のライブでは無かったけど、観る物に強烈なトラウマを植えつけるには十分過ぎる時間だった。これがイタリアが生み出した猛威のライブ、今回の最高のライブを最高の形で締めくくってくれた。


本当に事件すら越えた事件と呼ぶべき今回のThe Secretの来日公演のツアーファイナルは、主役のThe Secretの圧巻のライブも、招聘したisolateの完全燃焼の魂のライブも、他の国内バンド3バンドがそれぞれのやり方で魅せるライブも、全てを含めて事件だった。集客の方もかなりあったと思うし、本当に多くの人が今回の事件の目撃者になった事は本当に単純に幸福な事だと僕は思う。そして何よりも今回の記憶に残り続けるであろう最高の夜を生み出す為に行動して下さったisolateの皆さんには本当に感謝の言葉しか浮かばない。今回は本当にバンドの個人招聘でThe Secretを日本に呼んだ事も、そのライブも、全てが日本のシーンにて語り継がれる伝説になると僕は思っているし、そういった動きがあるからこそ、これからもっともっとライブハウスシーンは面白くなっていくと確信している。まだまだこれで終わりではないし、今回の事件は新たな始まりだと僕は思う。
■isolate presents -THE SECRET Japan Tour(2013年11月15日)@小岩bushbash
・wombscape
ライブはほぼオンタイムでスタート。先ずはwombscapeのアクトから。ここ最近のライブで籠型のライトをステージに導入し始めて、キャビのペイントや、バックのバンドロゴのフラッグも含めて、視覚面でもより芸術性を追及し始めていたりもするが、肝心の音は本当に相変わらずの芸術的美しさを漆黒として鳴らすおぞましさ。今回のライブもセット自体は前回僕が観た時のライブと変わってはいなかったけど、メンバーそれぞれのステージングも含めて、よりwombscapeとしての核が強固な物になっている印象を受けた、カオティックハードコアなパートも、アンビエントなパートも、煉獄の様なノイジーさと狂気を描くパートも本当にアートとして洗練され始めていると思う。ライブ自体は長くはなかったのしても、やはり何度もてもそのステージには確かなインパクトがあるし、ライブを観る度にこのバンドの次の一手が本当に楽しみになるのだ。

・Butcher ABC
のっけからwombscapeの暗黒劇場が良い感じでダウナーにして、続く国産デスグラインドの大御所のButcher ABCだ。今年六月の浅草で観て以来だけど、このバンドは本当に良い意味で大御所らしい安定感と格好良さがある。ブルータルにひたすら攻めるリフもそうだし、デスメタルの引き摺る重さと、グラインドの暴走を交互に繰り出し、速さと重さの緩急がとにかく見事なのだ。それでいて徹底してブルータルで血の匂いをプンプンとさせながら、殺人鬼的な狂気を確かな音にしていながらも、そのライブでは絶妙に観る物のテンションを確かに上げるステージだったり、曲の格好良さが本当に見事。新曲も今回披露されたが、そっちも相変わらずButcher節が見事に炸裂していてやはり格好良かったし、暗黒肉屋デスグラインドはこの日の面子の中では少し浮いてたけど、そんなのお構い無しに自らの音を見事に展開していた。何度もメロイックサインを掲げてブチ上がってしまったよ。

・ENSLAVE
そして光速クラスト激情を放つENSALVEのライブ。もうこのバンドは観る度に本当に熱くなってしまう。ツインギターで光速のトラッシュなリフを放ちながら、そのリフは本当にメロディアスでありドラマティックであるし、それがクラスト・ジャパコア仕込みなビートに乗せられて繰り出されるから、本当に堪らない。でもそんなサウンドだけでも十分に格好良いけど、やはりこのバンドは男女ツインボーカルの絶唱が最高なのだ。特に男ボーカルの陸JEEP王氏はその巨体で暴れ狂い、鬼神の如し気迫を見せ、本当に魂を燃やしてメッセージを放っているとしか思えないのだ。そんな全身全霊のライブを見せられたら、こっちも燃え上がるしかなくなるし、ENSLAVEのライブを観てると本当にめちゃくちゃ暴れたくなるし、本当に何度も何度も拳を突き上げてしまうんだ。ハードコアとしての肉体へと訴える力と格好良さは勿論だけど、本当にドラマティックで熱くて泣きそうになるライブをするバンドなんて他にはいねえんじゃねえかと思ってしまう。本当にENSLAVEは今こそライブを観るべきバンドだと思うし、ここまで感受性全てを覚醒させるバンドはいない。The Secretを前に燃え尽きそうになっちまったぜ。

・The Srcret
そして本日の主役であるイタリアからの刺客であるThe Secretのライブ。先ずギター一本なのに、アンプがキャビ4台にヘッド2台というセットにド肝を抜かれるが、そんなセッティングもあるし、もう本当にギターの音圧がヤバい!!リズム隊の音も本当に屈強過ぎて、ベースの一音が一々腹に来るし、ドラムの一打が本当にガツンと来る。そんな屈強過ぎる音から繰り出されるライブは本当に凄いに決まってるじゃないか!!不穏なハウリングのノイズのループから始まり、ダウンテンポでおぞましく繰り出されるビートが本当に強いし、そこから極悪なリフを極悪な音圧で叩き出してくるインパクトは本当に凄い。曲自体は基本的にそんなに大きな変化は無いし、基本的な音の方向性はダークなクラストサウンドの一本なんだけど、ここまで強い音でそれを繰り出していたら、本当に全てをカチ割られてしまうのは必至だし、そしてカオティック!!本当に一本の筋が通った音は、その激烈さのみで全てを殺すし、ハードコアバンドとしてThe Secretは本当に強すぎる!!最後はメンバーがダイブし、フロアも本当に大きな盛り上がりを見せただけでなく、まさかのアンコールにて漆黒のハードコアの煉獄で全てを燃やし尽くした!!イタリアからの刺客は国内バンドの熱いライブに応えてくれるかの様に、その猛威を十分に見せてくれた!!

・isolate
トリは今回The Secretを招聘したisolate。The Secretの圧巻のライブの後のライブだったが、これが本当に凄すぎるライブだった。アンコール含めてライブ時間は約20分あるかないか、本当に披露した曲は多くはなかったと思う。しかし今回のisolateのライブは本当に短い時間で全てを出し尽くす本当に渾身のライブだったし、これぞ正に瞬間のカタルシスその物だったと思う。プレイした楽曲は新作EPの「また創るその時のために」中心で、そのより美しく研ぎ澄まされた音は本当に凄いし、isolateとしての進化を本当に見せ付けるEPであったけど、今回のライブは本当にその美しさは勿論だけど、彼等の持ち味であるトレモロの美学を発揮しまくった速さと熾烈さが本当に凄かった。何よりもボーカルのアンドウ氏の気迫が本当に凄まじかった!何度もステージから飛び出しそうになり、ゴリラの如く暴れ回りながら怒りとヘイトをこれでもかと放つボーカル、これまで何度かisolateのライブは観て来たけど、この日のライブはこれまで観た中では一番のライブだったし、The Secretという猛者を呼んだバンドとして本当に最高のライブをしていた。アンコールの「Tragedy Of The Ruin」なんてisolateの持ち味である美轟音と速さとヘイトが正面衝突した末の激情をたった2分で繰り出し、本当にその瞬間にとんでもないエネルギーが暴発していた。本当にこのバンドは数多くいる激情のバンドの中でも確かに唯一無二の存在だ。凄い!!

主役のThe Secretは勿論だけど、国内バンドも本当に熱いライブを繰り出し本当に大きな盛り上がりを見せた素晴らしいイベントだった。isolateが個人招聘という形でThe Secretを呼んだ意味は本当に大きいし、それは確かな事件だ。そして11/17の夜はツアーのファイナルとして新大久保Earthdomにて再び東京公演を行う。この記事がアップされる翌日ではあるけど、絶対にThe Secretのライブ、そして国内の猛者のライブは絶対に観ておけ!!
■Black Sea Of Trees/○(circle)

ドイツを中心に多国籍に渡るメンバーによって構成されているポストロック集団である○(今作を購入させて頂いたディストロである3LAさんによると読みはcircleらしい)の2012年リリースの1stアルバム。Light BearerやRekaやDownfall Of Gaia等のとんでもない猛者ばかりの音源をリリースしているAlerta Antifascista Recordsからのリリース、アルバムタイトルやジャケットがモロだったりするけど、今作は青木ヶ原の樹海をテーマにした作品でもある。
そして肝心の音の方だが、これがまた本当に素晴らしい物だ。全5曲で一つの作品としての物語性を感じさせてくれるけど、序盤は正に樹海に迷い込んだ様な不穏なアンビエントなサウンドから始まり、そしてポストロック的なアプローチへと変化していく。それが本当に神秘的なサウンドでその美しさに思わず陶酔してしまう。美麗なるギターフレーズの残響や鍵盤の音色と、練り込まれた楽曲構成の手腕が光る第1曲「Jesus Belongs To Ghost」、正統派轟音系ポストロックなアプローチをしている第2曲「Sea Of Trees」の幽玄の世界から光を感じさせる音へと変化し、お約束の轟音パートへと移行していく様は、正統派ながらもやはり酔いしれる美しさがある。
しかしそんなアプローチをしているのは前半の2曲のみで、第3曲「Interlude」の鍵盤の静謐な音色と、不気味で不穏なドローンなアンビエントさから流れが変わる。第4曲「Riders On The Storm」では霧の様に漂う音から少しずつ陰鬱さが滲み出て来て、絶望的な音色が見え隠れし、美麗のトレモロが入り込み、そして激情の叫びが木霊する。そのアプローチは単なるポストメタル・ポストロック的アプローチでは無く、徐々にその絶望感が苦しい叫びとなり、そして漆黒の樹海に迷い込み、そしてその精神的苦しみから生まれる叫びであり、叫ぶボーカルと、トレモロのフレーズの高揚と絶望が本当に良い空気を生み出しているのだ。そして最終曲「Waiting For The Sun」は圧巻の名曲で、その陰鬱なポストロックサウンドが一層際立ち、濃霧の中で立ち尽くす感覚を覚える音からダイナミックかつ厳かなビートが引率しながら、オーケストラチックな幾重にも重なる轟音系のギターフレーズ、そして楽曲も後半になるとビートの躍動が更に顔を見せ、そして最後の最後のパートが本当に圧巻の格好良さなのだ。ブラストビートとこれでもかと掻き鳴らされるトレモロ、一気に激情系ハードコアなアプローチになり、そしてそんな轟音の奥底から聴こえるスクリーム、これまで美しく統率されていた音が暴走し、漆黒の濃霧で全てを埋め尽くすだけで無く、その中で煉獄を生み出すかの様な情景は本当に圧倒的であり、今作の締めくくりには本当に相応しいんじゃないか。
3LAさんでは富士樹海系ポストロックと紹介されていたけれど、今作はこれ以上に無い位に確かなコンセプトアルバムだと思うし、全5曲が確かに繋がり、一つの迷いの森へと迷い込んだ体感を音で表現している。美しさと不穏と激しさを一番確かな所で使いこなし、見事な表現力でそれを生み出す手腕に脱帽だ。流石はAlerta Antifascistaからリリースされているだけあるし、今作が生み出す体験は本当に飲み込まれる事は必至だ。
■RUGGED EX/Thread Yarn

爆裂ポストハードコアバンドであるThread Yarnの実に4年振りの2ndアルバム!!彼等の地元である福岡のimomushi recordsからのリリースとなった今作だが、このバンドは本当に新たな地平を切り開いてしまった。ドライヴィンかつ暴走するディスコードサウンドが炸裂していた1stから更に新たな領域へと踏み出し、ポストハードコアの独自解釈であり、これまでに無い個性と圧倒的馬力を手にした作品だ。
1stの彼等は爆走するポストハードコアサウンドが本当に大きな魅力であったけど、今作でもその疾走感は全然健在であるが、本当に一つ一つの音が太く重くなったと言える。分かりやすいポストハードコア的なリフ以上に、更にプリミティブで粗暴なリフが増えた印象もあるし、その音はポストハードコアのそれである筈なのに、こう上手くこれという言葉がやバンドが今作を聴いていると出てこないのだ。
第1曲「Harder」からもう本当に脳天を割られてしまった。ミドルテンポで進行していく楽曲だけど、本当に音の厚みだったり、グルーブだったり、不穏な空気だったり、ディスコダントさだったり、這い回りながら爆走していく重戦車の様でもあり、変則的に変化していくリフが一々とんでもないキラーリフだったりと、このバンドは本当に国内ポストハードコアの中でも別格のバンドに本当に進化したんだと思う。弾き倒されるベースラインから始まる第2曲「E.D.G.E」の鋭利なリフが高速回転していくサウンドは正にThread Yarn節だと思うけど、これまでの楽曲の流れを引き継いでいるこの曲も、より変則的な展開やコード進行を見せているし、こういった音が好きな人を確実に殺す音ばっかり放ちながら、その手の音が好きな人を良い意味で裏切っている感じなのだ。
今作のリードトラックにもなっている第4曲「246」は不協和音のフレーズから始まりながら、ツインボーカルのコーラスワークを生かしながらダイナミックな躍動を生み出す展開を見せ、やたらキャッチーなサビのパートだったり、疾走とミドルテンポの重みの対比が見事だし、終盤のパートなんて鳥肌物の格好良さだ。第5曲「Life Liner」の爆走するカオティックサウンドはもうブチ上がるしか無いキラーチューンだし、暴走とミドルテンポになるパートの対比、断罪の様なキメだったり、そしてリズム隊のグルーブの重みと必殺のリフしか存在しない激熱ギターワークの数々、これを独自の形で昇華してしまった所が今作の凄い所だと僕は思う。
4年の歳月を経て届けられただけあった、本当にとんでもない力作に仕上がっているし、国内のポストハードコアを見事に更新してしまうだけの物を確実に持っている。これはポストハードコアの新たな発展系でもあり、同時にThread Yarnというバンドが本当にとんでもない破壊力と殺傷力を持ったバンドだからこそ生み出せた作品だ。刺し殺されるし、殴り殺される。本当にここまでスリリングで格好良い音は無いよ!!
■エコロジーを壊せ/killie

最早国内激情系ハードコアの代表格バンドとして語るまでもない存在になっているkillie。誰もが待ち望んでいたであろうkillieの久々の音源は今年初頭の台湾でのライブに向けて製作された物らしく、それを国内でも販売される事になったという形だ。現在では流通には乗っておらず、killieのライブ会場にて入手出来る。しかしその新作がまたkillie節全開だ。写真の通り、まさかのカセットテープ音源で、缶バッジが付いたデニム生地の袋にカセットと、台湾語にて書かれた文が掲載されたペーパーと、国内向けであろうBALLOONS塩川氏とkillieの伊藤氏本人のライナーが掲載された歌詞カードが封入されている。
しかしその音源の方は更にkillie節全開だ。収録曲はここ最近のライブでもやっていた「エコロジーを壊せ」のみで、カセットのA面とB面にその「エコロジーを壊せ」がそれぞれのバージョンで収録されているという物。その曲名もそうだし、カセットでのリリースもそうだし、歌詞カードに書かれている歌詞もそうだし、もう徹底してkillieだなあって印象を改めて受けた。そこら辺のやり方に関してはそれぞれがそれぞれ感じたことを勝手に感じれば良いだけだし、僕自身は相変わらずだなって感じだったので、この辺にしておくけど、今回収録されている「エコロジーを壊せ」はやっぱりもう安心してkillieのカタルシスが詰まりに詰まった名曲だと思う。
今回の新曲「エコロジーを壊せ」はこれまでのkillieの暴力的なカタルシスを更に惜しみなく吐き出す楽曲であり、曲の尺自体は10分越えの長尺曲であるが、これまでのkillieの長尺曲である「キリストは復活する」とか「一億分の一」みたいな楽曲とは全く違う。美しい残響音と不穏さを生み出す静謐で美しいパートも無いし、静さと動の落差から生まれるカタルシスも無い。言えば最初から最後まで動のパートでひたする展開されていく楽曲だ。しかしながらそこはkillieだ。動のみで展開されながらも転調や変則的展開は多いし、性急なパートを盛り込みながらも、絶妙に流れを変えていく手法や、長尺の中で全くダレずに展開し、徐々にその熱を高めて暴発していく瞬間は本当に凄い。あと個人的に大きく変わったと思う点は、楽曲構成こそ複雑であるけど、やっている方法論としてはもっとダイナミックに分かりやすい音が増えたという事だと思う。鋭利なリフとパワーコード主体で展開する2本のギターによるリフだったり、動のみで突き進むからこそ生まれるドラムのダイナミックさだったり、こう更に肉体的に訴えるだけの力量とか表現力が凄いシンプルに伝わる楽曲になった印象。特に曲の終盤の終わり無く続くギターのコード弾きのストロークから、リズム隊の音が入り、伊藤氏と吉武氏のツインボーカルの絶唱のパートなんて焦らしに焦らしての暴発だし、本当に待ってましたとばかりの高揚感がとんでもない。B面に入ってる別バージョンでは、そのパートにロングギターソロが挿入されており、それがまた純粋にロックしているソロで普遍的な格好良さがあるのだ。
そんなこんなで久々の新作音源は実質1曲のみのまたしても歪な形に見えるリリースにはなっているが、killieというバンドの底力とかハードコア・ロックバンドとしての凄みを十分に感じさせる力作になっていると思う。今年は結構精力的にライブをしている印象もあるし、これからまたkillieは大きなアクションを起こす予感もするし、まだまだ目が離せないのは確かだ。