■2014年02月
■SeeK、Suguru Inomotoロングインタビュー

初めてSeeKというバンドに触れたのは昨年7月のwombscape企画である「瞼の裏」だった。この日はwombscapeの他にweepray、isolate、オーストラリアのThe Broderickというとんでもないバンドのみが集結した闇の宴だったのだけど、その中にSeeKがいた。そして僕は完全にブチ殺された。ツインベースの激重のグルーブの凄まじさ、とにかく強いドラムのビート、ハードコアを通過しながら強靭でスラッジであり、そして美しいギター、何よりもとんでもない激重の音が爆音で放たれているにも関わらず、とにかく凄まじい声量で痛みを放つSuguru氏のボーカル、もう全てが桁違いだったし、僕はそのライブを観て一瞬でSeeKというバンドの大ファンになり、その日の物販で音源を購入した。
大阪という都内のシーンとはまた違う磁場が存在しながら、とんでもない個性派のエクストリームなバンドが蠢く地だが、SeeKはそんな大阪のバンドだ。激重だとか激情という言葉じゃ足らない。スラッジだとかポストメタルだとかカオティックという言葉でも足りない。とにかく常に熾烈極まりない圧殺の音を激重のままに放ちながら、ドス黒いグルーブの中で生れる熾烈さの向こう側の美しさ。時にブラストビートも繰り出しながらカオティックに暴走し、時にスラッジな熾烈さもポストメタルの美しさもダウンテンポで放ち、しかし一貫しているのはとにかくドス黒い濁流だという事。「朽ちていく中で」と「崇高な手」という2枚のEP(当ブログでの紹介はこちら)をこれまでリリースしているが、その2枚は大作志向と、ハードコア志向とそれぞれ別のベクトルを向きながら、一貫してダークだし、僕はこのバンドには本当に全盛期SWARRRM級の熾烈さがあると本気で思っている。昨年大阪まで遠征と言う形で足を運ばせて頂いたSTUBBORN FATHERとの共同企画である「孔鴉 -koua-」でもその日の出演バンドの中でも屈指のライブを見せていたし、本当に僕はSeeKというバンドの虜になってしまった。
そして今回、当ブログでSeeKのボーカリストであるSuguru Inomoto氏へのインタビューをする運びになったのだが、Suguru氏にはSeeKというバンドの歩み、これまでリリースした2枚のEPについて、SeeKというバンドが生み出す熾烈なる音の根源、STUBBORN FATHERとの共同企画である「孔鴉 -koua-」についてと色々とお話を聞かせて頂いた。このインタビューで大阪というエクストリームミュージックの煉獄から必然として生まれたSeeKという化け物の事が少しでも多くの人に伝われば幸いである。
また当ブログでも御馴染みの激情激重ディストロ・レーベルでもあるLong Legs Long Arms(通称3LA)の方でも過去にSuguru氏へのインタビューを行っているので、こちらも是非ともチェックして欲しい。
■先ずはSeeKを知らない方の為に、SeeKの結成から現在に至るまでの経緯を簡単に教えて下さい。
2002年にNogu(Ba)とWakkie(Dr)と結成しまして、大阪を中心に活動してます。何回かメンバーチェンジを経て、現在はYama(Ba)とTetsu(Gt)を加えた5人編成になります。
■SeeKというバンド名に由来はありますか?
由来は無いんです。バンド名を考えてる時に、友人が適当に思いついた言葉をそのまま使いました。
結果としてたまたま英単語で「探し求める、熱心に見つめる」といった意味合いがあるみたいですけど、それは後付けですね。
■SeeKはメンバーはそれぞれどの様なバンドの影響を受けたのでしょうか?また結成当初はどの様な音楽性でしたか?
色々ありますけど、最近で言えばMouth of the Architectとか、Light Bearer、The Secret、this gift is a curse、とかですね。
NoguはGodspeed You! Black Emperor、Yamaはtool、Meshuggahとかですかね。結成当初の音楽性は、当時よく聞いてたヘビィロック等の影響が強かったと思います。
■現在の様な音楽性になった切欠等はありますか?
当時聞いてた音楽の影響が凄く強くて、このままじゃ物足りないなと思ってたんです。固定概念に縛られてる様な気にもなってましたし、1から構築し直したいというのがありました。吸収しつつももっと自分達なりの表現がしたいと思ってたので。
■現在のSeeKと言えば5弦ベースと6弦ベースのツインベースが観る人に非常に大きなインパクトを与えてますけど、これはどうしてこの様なツインベース形式になったのでしょうか?
何か計算し尽くしてツインベースにした訳では無いんですけど、4年程前にギターが脱退した時に活動休止してたんです。その時間が自分にとって苦痛だったので、ギターレスで活動再開したんです。出来る事を思いきりやれば良いと思えたので。
でも今まで通りのベースの音じゃ体現しきれない曲、これからの曲のイメージもあって、その時にNoguも6弦ベースに変えて音のレンジを広くして、なんとか既存の曲も体現できまして、1年位その構成で活動してて、このままで良いかなと思う時期もあったんですけど、やっぱりもっと曲に奥ゆかしさみたいなものも出したいと思ったので。
で、その時にサポートでギターも見つかったんですけど、Noguの機材もベースにしたら特殊な形になってましたし、音もギター寄りなアプローチだったので以前のbassの音に戻る事の方が違和感があって。低音をしっかり出せる様にもう一人のベースを入れようってなったんです。この音で入れたらどうなるかなって好奇心もありましたし。
それでベーシストを探してたら昔からの知り合いのYamaがその時丁度バンドをやってなくて、スタジオに遊びに来てくれたんです。実際、ベースがあるとやっぱり単純に気持ち良くて。Yamaとは長い付き合いで、SeeKを何度も観てくれてたのもあって曲のイメージもスムーズで、Yamaも加入してくれる事になってそこからツインベース体制になりました。
■曲の方はどの様にして作られてますか?
今は主にNoguが作ってきたものにそれぞれのパートで肉付けしていく感じです。展開などはスタジオで皆でイメージを探り合って、共有しあったりもします。
■お話を昨年リリースしたEPである「崇高な手」の方に移させて頂きます。こちらの作品は、前作「朽ちていく中で」から6年の歳月を経てリリースされましたが、比較するとポストメタル要素もありながらも、より熾烈なハードコアとしての強度を強く押し出した作品であり、聴く人に本当に大きなインパクトを与えたと思います。前作「朽ちていく中で」からはどの様な変化を遂げたとご自身では考えてますか?また何故大作志向だった前作から打って変わってコンパクトな楽曲が増えたのでしょうか?
変化はまず編成が変わると共に曲作りがNoguメインになっていった事ですかね。「朽ちていく中」での時は結構僕が口出ししたりしてましたから。そこで質感が変わってくる部分はあると思います。あと3人編成になった時に音像が変わったので、その時にボーカルのメロディも無くしていったんです。その流れが今でもありますね。
曲がコンパクトになっていったのは、次はシンプルに展開してみようって気持ちも多少はあったとは思いますけど、特に思う事があったわけではないんです。「朽ちていく中」ではスタジオでイメージを膨らまして具現化する作業に長い時間を費やしてましたし、歌詞のイメージ的にもある程度の尺が必要でした。
■逆に前作「朽ちていく中で」についてお伺いします。作品自体はもう7年も前の作品ですが、こちらの作品は個人的にはLight Bearer等に代表されるポストメタルの新鋭のバンドと非常にリンクしている作品だと思ってまして、今だからこそ凄い有効な音を放っています。しかし根底にあるハードコアの熾烈さもやはり強く感じます。「朽ちていく中で」は当時、どの様な心境で、またはどの様な事を意識して製作されましたか?
もっと自分達の音を突き詰めようって思って最初に出来たのが「朽ちていく中で」でした。その時に意識してたのは先にテーマがあったので、聴いて、音でその風景が描ければ良いなと当時は思ってましたし、旋律を凄く大事にしてました。この音源から歌詞も少しずつ日本語になりだしたんですけど、それも自分の表現を突き詰めた結果ですかね。「朽ちていく中で」の曲をライブでやり始めた時に前の方が良かった、曲展開が多すぎてよく解らん、とか言われたりもしたんです。
極端な話これが自分達の音楽だと言いながら、聴く人がいなければ本末転倒な訳ですけど、それでもそうゆう声が耳に入っても当時は一切ネガティブにはならなくて、自分の中で「朽ちていく中で」という曲がそれだけ自然でリアルなものだったので。収録されてる他の2曲もその気持ちに従って作っていきました。
■「朽ちていく中で」と「崇高な手」は核となる部分こそ凄くブレてなくて、僕個人は一つの「向き合わせる音」だと思っているのですけど、この二つの作品を通してSeeKが一貫している部分や核がありましたら是非とも教えて下さい。
僕で言えばですけど歌詞において負のものがあったとしても負のまま終わらない事ですかね。そこに拘ってる訳じゃ無くて、自分に起こる物事に対して今はそう思えるからなんですけど。
例えばですけど、「水が無い」って書くんじゃなくて「水が欲しい」って書きたいし、「嘆く」のではなくて、「渇望したい」と。そこは2作共、自分の中で結果として一貫しているかなと思います。
■さてお話をSTUBBORN FATHERとの共同企画である「孔鴉」の方に移させて頂きますが、「孔鴉」はどの様な切欠で開催するという事になりましたか?
STUBBORN FATHERのVoのShigeさんと色んなやりとりをしてる中で自然な流れだったんですけど、STUBBORN FATHERと共通して知っているバンドも居てますし、共通していないバンドも居て、そこを呼び合う事で何か面白い事ができるんじゃないかって話してて、開催する事になりました。
■STUBBORN FATHERとSeeKはどの様な形で繋がり、今回の様な共闘体制になったのでしょうか?
初めての対バンはかなり昔にしてたんですけど、その時のイベントのバンド数が多かったのもあって、その時は深く絡む事は無かったんです。
それで、1年程前にまた対バンする事になってその時には僕も音源を持ってたりして、凄くカッコイイと思ってたので、ライブ前にたまたま会った時にあらかじめ挨拶してたんです。初めましての様なものだったんですけど。STUBBORN FATHERはそのライブ当日におそらく初めてSeeKを観てくれて、繋がれたのはその時ですね。
その後すぐに、VoのShigeさんが4way splitの話をくれたり、僕が元々Shigeさんのアートワークが好きだったんで昨年出した僕らの「崇高な手」、Tシャツ、ツアーポスターとか一連のアートワークをShigeさんにお願いしてて、そのやりとりの中で色々な音楽の話も自然としますし、そこで僕なりに共感する事も一杯あって、何か一緒にしたいなって思いましたし、孔鴉の話もその流れの中でやろうってなりました。
■僕自身も昨年の11月の第1回の「孔鴉」には東京から遠征という形で足を運ばせて頂きました。それで実際にその企画を観て、本当に全バンド凄まじいライブをしていて、僕の中で記憶に残るイベントになりました。「孔鴉」に出演されるバンドは、どの様な部分を重要視して選んでいますか?
その時はありがとうございました。出演バンドはシンプルに自分達がカッコイイと思うバンドを集めようって事ですかね。繋がりが無くても直接コンタクトとって誘ったりもしてました。
あとはなるべく各地から呼びたいって気持ちがあります。僕もそうなんですけど、普段大阪でなかなか観れない組み合わせとかテンション上がりますし、そうゆう感じは出したいですね。
■3月頭には第2回の「孔鴉」の開催も決定していますし、これから企画として定期化していくと僕は勝手に思ってますが、Suguruさんの中では「孔鴉」はどの様なイベントにしたいとかいう展望がありましたら教えて下さい。
定期化するつもりです。基本的には激情だったりカオティックだったりグラインド等のバンドが多いんですけど、そうゆうのが好きな人が心底楽しめて、思いっきり遊べる場所にしたいと思ってます。
■現時点で「孔鴉」はSeeKとSTUBBORN FATHERの活動拠点である大阪での開催ですが、今後東京の方での開催等は視野にありますか?またその場合は大阪での「孔鴉」とは別物にしたいとかというビジョンはあったりしますか?
いつか東京でやれたら面白いなって話したりはしてました。でもシビアな現実面も勿論あるので、そこは色々整ってからじゃないと厳しいですけど。
意味合い的には別物にしたいとかは思ってませんけど、東京でやるとなると呼べるバンドも変わってくるので、何かその時なりの面白さが出るんじゃないかとは思ってます。
■「孔鴉」についてのお話から繋がる感じでライブについてお伺いします。僕個人は昨年のwombscape企画で初めてSeeKのライブを観て圧倒されたのですけど、SeeKがライブと言う場に於いて、意識している事や拘りなんかがありましたら是非とも教えて下さい。
ありがとうございます。その時のライブは一度きりですし解放しきる事が全てだと思ってます。何よりライブに遊びに来てくれた人達とそれを共有したいなって、最近は特にその気持ちが強いです。
■SeeKと交流があるバンド等がありましたら教えて下さい。
主に大阪ではSTUBBORN FATHER、PALM、CYBERNE、BIRUSHANAH、Knellt、AGHARTA、decalt、soil (((in))) my venom under the sky、東京はwombscape、weepray等です。
■SeeKは大阪のバンドではありますが、これから東京を始めとして、他の地域のシーンにどの様にアプローチをしていきたいとかありますか?
情報等は発信しやすい現在ですし、何よりライブを通してもっと色んな土地へ行きたいと思ってます。
■ずばりSeeKというバンドが目指す先は何でしょうか?
自分達が心底良いと思える事を基準に、音を追求し続ける事ですかね。
■SeeKは今後どの様なバンドになっていくと思いますか?また自らの音をどの様に広めていきたいと考えてますか?
どうしようもない時でも会おうと思えるバンドになりたいですかね。自分がそうゆう音楽に会えたみたいに。
地方へ行く事がまだまだ少ないので、もっと色んな場所でライブがしたいって強く思ってます。地方も海外もその土地の文化であったり人であったり、様々なものを肌で感じたいし、そうゆう経験が自分を豊かにしてくれると思うんで、色んな場所に行きたいし、身を以って自分達の音を広げたいです。
■最後に今後の展望やリリースについて何かありましたらお願いします。
リリースは少し延びてしまってるんですけど、STUBBORN FATHERとアメリカのThetanとAltar of Complaintsとの4way LPがおそらく今夏前後にはアメリカのmeat cubeからリリースします。
そして今はフルアルバムに向けてを曲を作ってますので、リリースされる際はチェックしてもらえたらと思っています。今年も幾つか地方に行くことがありそうなので、その時は是非ライブに遊びに来て欲しいです。

STUBBORN FATHERとの共同企画である孔鴉は今後も開催され定期化の予定であるし、これから新たなリリースや大阪以外でのライブの予定も控えているSeeK。大阪という猛者ばかりなエクストリームな音楽の地で必然として生まれたSeeKが放つ音はハードコアの極北に存在しているし、何よりもそのライブは本当に圧巻の一言に尽きる。大阪近郊在住の人は勿論、都内や他の地方に在住の方々もSeeKがその土地でライブをする時は是非とも足を運んで欲しい限りだ。本当に全てを圧倒する熾烈で激重の音を彼方から放ち、そして闇の奥深くから痛みを放ち、その先にある救いを見せるSeeKのライブは感動的であるし、涙すら流れるレベルの物なのだから。

2014/03/01 (sat)
at 大阪心斎橋 HOKAGE
"heaven in her arms x COHOL split CD "刻光" release GIG"
[孔鴉-koua-]
・heaven in her arms
・COHOL
・BIRUSHANAH
・ネム
・SeeK
・STUBBORN FATHER
Open/17:30 Start/18:00
Adv/2000yen Door/2500yen
18歳以下/500yen※要学生証
【オフィシャルサイト】http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=seek49
【bandcamp】http://seekjp.bandcamp.com/
【twitter】https://twitter.com/seek49
【Facebook】https://www.facebook.com/Seekjpn?fref=ts
【孔鴉 -koua-特設サイト】http://www9.ocn.ne.jp/~stubborn/koua.html
【孔鴉 -koua-Facebookページ】https://www.facebook.com/pages/孔鴉-koua/650304064988927
photographer : ミツハシカツキ
http://www.flickr.com/photos/xscherzox/
■heaven in her arms x COHOL Split CD 「刻光」release tour(2014年2月23日)@渋谷eggman
・Boris
一番手はのっけからBorisという時点で今回のライブが先ず色々おかしいんだけど。Borisは最初からやらかしてくれた!!客電が落ちると同時にステージにはお約束の大量のスモーク、そして1曲目からBoris流のストーナー絵巻「あくまのうた」でキックオフ。爆音で引き摺るドゥーミーさが生み出すサイケデリックな音像に先ず意識を奪われるけど、そこから一気にBPMを上げてストーナーにブギーしていくサウンドは最高に格好良いし、荒々しく猛り狂うサウンドはヘビィロックの最果てへと観る物をいきなり引き摺り込む。かと思ったら続く新曲である「黒猫メロディ」は一転してここ最近のエクストリームさからポップネスを放つBorisならではな曲という落差。しかし「あくまのうた」の余韻は全く壊さずに、あくまでもヘビィロックとして歪みまくった爆音のサウンドでポップさをこれでもかと放つエクストリームさは今のBorisの本当に大きな武器だと思うし、初めてライブで聴いたけど、純粋に格好良い!!そしてそのポップネスを引き継ぎながらもサイケデリックさを強く感じる「vanilla」という流れで攻めに攻めまくる。ヘビィなだけじゃない、サイケデリックなだけじゃない、ポップなだけじゃない。その全てを独自に解釈して放つBorisのサウンドがこれでもかと炸裂し、空気を良い感じに温めて必殺のヘビィロック「Statement」の刻みのリフが鳴った瞬間は会場も一際大きなリアクション!!何度ライブで聴いても、この曲は本当に痺れるッ!!
Atsuo氏の「闇をお見せします。」というMCから「あの人たち」、「Quicksilver」とヘビィネスとポップネスの正面衝突が何度も発生し、しかもライブだからこそのサイケデリックな感触も充満。それだけで何度も昇天しそうになったけど、本当に本番は最後の最後に繰り出された初期の極悪激重ドローン絵巻「Vomitself」だった。一気にスモークの量が増幅し、しかもただでさえ爆音だったサウンドが更に音量が上がり、そしてTakeshi氏とwata嬢のギター2本のみで生れるドゥームリフの反復のみが生み出す地獄。とんでもなく爆音で終わり無く繰り返すリフがヘビィさもサイケデリックさも完全にボーダーを振り切って、比喩でもなんでもなく意識が完全にトランスし、五感が完全に麻痺する感覚を僕はずっと感じていた。この1曲だけでもう完全にBorisは全て持っていったし、ライブが終わるまで意識はまともに働かなかった。そしてライブが終了したらあまりのスモークの量に火災報知機が発動するというギャグみたいな事が発生(Coholの転換中ずっと鳴ってた)。これまで何度もBorisのライブを観たけど、その中でも一、二を争う位のベストアクトだったし、ヘビィロックの最果てをスモークの向こう側から確かに見せてくれたんだ。

・COHOL
そして本日の主役の一つ目であるCOHOL。ライブを観るのは随分と久しぶりになってしまったけど、HIROMASAさんがアーティスト写真でも被ってるボロボロの謎の布をライブでも被っていて、より異形さを感じさせるルックスになっていたのが先ず凄い印象的だった。そしてのっけから必殺の「底知れず吠える軟弱」からキックオフ。KYOSUKEさんのドラムが先ずこれまで見たライブよりも更に研ぎ澄まされていたのが凄く印象的。ブラックメタル成分をより前面に押し出しながらも、ハードコアバンドとしての血肉も強く感じるドラムを叩き出していたし、これまで以上に音に熾烈さが加わって加速していたと思う。HIROMASAさんの高速フィンガーピッキングのベースが不穏なうねりを生み出し、地獄みてえなボーカルで吐き出す痛みと闇、何よりもギターのITARUさんが完全にブチ切れてた。そのパフォーマンスで客のボルテージを上げながら、その存在を認識した瞬間には切り刻まれそうなギターフレーズの数々、空間的不穏さも見事に打ち出しながらも、より鋭利さを増幅させたフレーズの数々の応酬は凄まじさしか無かった。スプリットの曲である「疎外」はより怨念が加速し、メタルな格好良さを非常に強く感じさせながらも、そこだけで留まらないし、邪念の音が増幅して渦巻く瞬間の連続と、奈落へと突き落としていく音の濁流に完全に殺されたし、一転して「変わらぬ誤解変わる嘘」のカオティックに圧倒的情報量の音が光速で落下していく様はカタルシスに満ちていた。
そんな音を繰り出しながらもITARUさんは本当に熱いMCをしていて、今回のライブに対する確かな覚悟を強く感じた。そして「諦めに届かぬ反復行動」で激情成分が一気に増幅し、空間的アプローチの中でいり際立つ痛みと熾烈さ、それが痛々しくて闇に満ちていたのに、どこか美しくて感動的だったし、そこから破滅のクライマックスに向かって繰り出された「不毛の地」は目の前に煉獄が広がっているとすら思えるレベルの負の感情を掻き集めたみてえな混沌が広がり、激情だとかブラックメタルを超えた、とにかく熾烈極まりない音塊が全てを犯していく憎悪の塊、それはCOHOLが最果てのバンドになった事の証明だったし、ラストに披露した新曲ではそれが更に際立ち、とにかくその光速の悪夢の様なライブは観る物の心を黒く染め上げたに違いない。闇と痛みの向こう側へ急降下するCOHOLのライブはBorisに負けずに圧巻だったし、このバンドは暫くライブを観ない間にとんでもない進化を遂げていた!!本当に底知れなさに恐怖を覚えてしまったよ。

・heaven in her arms
そしてトリはもう一つの主役である国内激情最高峰のバンドであるHIHA。BorisにCoholと両者が最高のライブを見せてくれたが、この日は完全にHIHAが持って行ったし、これまでHIHAの行けるライブは全部行く様にしてて、何度もそのライブを体感していたけど、久々の東京でのライブは陳腐な物言いにはなってしまうけど、完全に神が降りていた。ケント氏が簡単にお客さんに感謝の言葉を述べてそして「縫合不全」のあの美しいイントロのアルペジオが響き渡った瞬間にeggmanは完全にHIHAの美しくドラマティックな激情の世界に染め上げられる。不穏のドラムのビートとベースラインが曲を引率しながら、ギターが美しくアルペジオを奏で、その静謐な美しさから一転してディストーションギターがスラッジに鳴った瞬間にドラマティックな激情が完全にその姿を見せ、シューゲイジングする3本のギターの轟音とケント氏の痛みに満ちた叫びが響き渡り、長尺だからこそ展開するドラマティックなストーリーはライブではよりダイナミックなドキュメントとして鳴らされ、その美しさはこの世の物とは思えないレベルだった。その余韻を残さず雪崩れ込む様に「声明」の断罪のギターリフが鳴らされ、新たな痛みのドキュメントの予告編へ、そして必殺の「痣で埋まる」へと雪崩れ込んだ瞬間に剥き出しの痛みが爆音で鳴らされる3本のギターの断罪のハードコアリフと黒々しく轟くトレモロリフの轟音の洪水が目の前に広がり、ケント氏の叫びと共に熾烈で感動的な激情絵巻へと発展。何度も「痣で埋まる」はライブで聴いているけど、何度聴いても屈指の名曲だし、最初からフルスロットルで放たれる圧倒的情報量の激情の轟音が奈落へと全てを突き落とし、怒涛のビートと轟音と共に終わりへと突き落としていく。「交差配列」を挟んで繰り出した「鉄線とカナリア」も最早言うまでも無くHIHAの必殺の名曲だし、3本のギターが美しいフレーズの反復を繰り返し、ポストロック然としてリズムセクションもかなり整合的なアンサンブルを繰り出し、その音の余韻すら聴かせる美しい旋律の連続は耽美であり、しかし悲壮感に溢れている。そして轟音になり、痛々しいリフの応酬になった瞬間のカタルシスと血生臭い感情をそのまま音にしたみたいなアンサンブルと叫び、しかし歪みまくっていながらも美しさもかなり際立っていたし、沸点を超えた激情から再び静謐な美しさを見せた瞬間に、何かもうよく分からないけど、本当に泣きそうになってしまったし、何でこんなに痛々しいのに優しくて美しい音をこのバンドは鳴らせるのだろうかと何度も思ってしまった。
ケント氏が「スプリットの曲全部やる。」とMCし、スプリットからHIHA流のポストロック「黒い閃光」へ。HIHAが持っているポストロック方面の美しさを前面に押し出したこのインスト曲は、これぞHIHAという美しい旋律がシリアスに響き渡り、完全に轟音系ポストロックと化した静謐さから轟音という王道な曲でありながら、HIHAにしか生み出せない美しさをライブでも放っていたし、SEである「繭」を挟み、一転して本編ラストはHIHAの数多く存在する名曲の中でも屈指の名曲である「終焉の眩しさ」へ!!のっかからトレモロリフが轟き、最初からクライマックスとも言える泣きに泣きまくったギターフレーズが黒い音塊となって放出され、ブラストビートの応酬が熾烈さを更に加速させると言うポストブラックな名曲だけど、僕はこの曲でHIHAは本当に前人未到のバンドになったと思っているし、クラシカルさすら手に入れて、その音は本当に神々しい闇を放ち、しかしその闇の先には光が確かにあったし、これでもかとドラマティックに展開される楽曲の凄まじさ、特に後半からはもうハイライトの連続!!もう言葉にすらできねえよ!!!!!そしてアンコールでは必殺のシューゲイジング激情「赤い夢」!!メンバーは何度も何度もステージ前に出てきて客を煽り、そして更なるドラマティックな美しく熾烈な激情を、いや終焉の眩しさの向こう側にある痛みの先の救いを鳴らしたんだ。こうして圧巻のライブは終了。客電が点いてもHIHAの激情の余韻から全く抜け出せずにいたし、このバンドは本当に凄いバンドだと改めて思った。もうずっと大好きなバンドなんだろうし、HIHAが好きで良かったと本当に心から思う。その痛みのドキュメントとして繰り出されたライブの終焉の眩しさの向こう側に、僕は確かに立っていた。

3バンドそれぞれが見せた向こう側の世界は本当に脳裏に焼きついているし、Borisの見せたスモークの向こう側、COHOLが見せた闇と痛みの向こう側、そしてHIHAが見せた終焉の眩しさの向こう側、それは正に別世界の情景だったんだ。三者三様の素晴らしいライブだったけど、本当にHIHAのライブが神が降りていたし、もうこのバンドからは得体の知れない何かしか感じない。今回集客もかなりあったと思うし、まだまだこうした音楽の力には可能性があると思う。BorisとHIHAは世界進出を果たしているし、COHOLも世界進出が決まっている。この日本の3バンドが日本だけじゃなくて世界にその向こう側の音をこれからどう見せていくのか本当に楽しみだ。そんな事を考えながらこの日のライブの情景が僕はまだ脳裏に焼きついている。本当に最高の夜だった。
■BLACK STAR(2014年2月22日)@三軒茶屋HEAVEN'S DOOR
・tomy wealth
先ずはゲストのtomy氏のライブ。先月のTCOのレコ発以来一ヶ月振りにライブを観るが、先ず結論から言うと一ヶ月前より更に凄まじいライブを繰り出していた。今回は先月のサイクロンの時よりも更に長くライブをやっていたし、結構な曲数をやっていたとも思う。しかし今回のライブは曲をほぼノンストップで繰り出すスタイルのライブだったし、何よりも緊張感が前回のライブより更に増幅。もうドラムとベースとトラックだけで一つのアートとすら呼べるだけの世界を生み出すライブだった。ヒップホップを機軸にしたトラックを分解し、再構築して、更に美しい流れる音の流線を作り出し、その美しさにとんでもない生のグルーブの躍動をブチ込んで新たな世界を描くのがtomy氏の音楽だけど、今回のライブはドラマーtomy wealthの凄みをこれまで観たライブの中でも一番感じたし、もうこの人はドラムだけでも芸術を生み出すレベルだって気づいてしまった。今回のライブはtomy氏のドラムの一音一音からこれまで以上に強靭な美しさを感じたし、これはもう上手く言葉では表現出来なくてもどかしいんだけど、tomy氏のドラムが完全に一つの生命体として完成していたと思う。精密かつダイナミックなだけでなく、ドラムが歌っているだけではなく、もう本当に人間としてのありとあらゆる感情をドラムで表現する。これははっきり言ってとんでもないし凄い。正直上手くまとまった事なんて言えないけど、tomy wealthが生み出す新たな命を今回のライブでははっきり痛感したし、その誕生の瞬間すら表現するトラックとグルーブの世界は圧倒的過ぎた。
・THE CREATOR OF
転換中にGOJA氏の不穏でありながら踊れるトランスのDJがあり、そして素晴らしいDJが終わって本日の主役であるTCOのライブへ。上手に佐川氏と武田氏、中央に坂本氏、下手側に鈴木氏と古谷氏という前回のライブ同様のセッティング。しかし今回はヘブンズでのライブだからまた違う空気を感じた。そして鈴木氏の「THE CREATOR OFです!」という挨拶からライブは始まった。
サイクロンでのライブは精密かつダイナミックに組み立てられる音が幾重にも重なって生まれる神秘的でありながら新たなる秩序としてのライブ。これは今になって僕が思った事なんだけど、今回のライブは違った。セットは前回のサイクロンの時と全く同じだったにも関わらず、その印象は大きく違ったと言えるだろう。今回も1曲目を飾った「Resonance」も確かにトライなヴァルなビートとアルペジオが生み出す神秘的な空気から徐々に熱量を高めてビッグバンを起こしていく情景はのっけから凄みを感じたけど、いやそれでも違った。創造の果ての再構築の為の破壊と言えば良いのだろうか、その再構築に向かう為の一つの秩序を更新していく破壊が今回のTCOのライブだった様に僕は感じた。「Resonance」の時点でそれは本当に強く感じたし、「Pass Away」の幽玄の世界の再現度の高さはやはり圧倒的な次元であったけど、それもより強靭になった音が本当にまた創る時の為の破壊だと僕は感じたんだ。そんな創造を想起させる2曲から「The Revival」を挟んでの今回の企画名にもなっている「Black Star」が先ずは最初のハイライトだったと思う。これまでのライブでも観る度に進化しか感じなかったリズム隊が、更にそれを更新するグルーブを生み出していたのが本当に強く印象に残っているし、3本のギターは神秘的空間を生み出しながらも大きく暴れ狂っていた。しかしこれは負の感情による破壊ではなくて、本当にポジティブな意味での破壊であるし、「LIGHT」での静謐な美しさから新たなる始まりを光と共に告げる轟音の嵐はそれこそあらゆる負を乗り越えた先にある光を掴む瞬間だったし、TCOの逆襲とは新たな世界の創造であると僕は実感させられた。その瞬間に僕の中でのTCOはまた大きく更新されたし、轟音も静謐なる音色も美しさも熾烈さも、全てを司どる、正にバンド名同様に創造者としての音楽が目の前にあった。「Settle」のサイケデリックさも一つの本質的な意味でのトランスであるし、宇宙的でありながらも、同時に大地の様でもあるし、異次元と言う言葉が安直にはなってしまうけど、一番相応しい。そんな情景が色を変えながら続いていくし、だからこそ感動も大きかった。
そして後半に入ってからは本当にずっとハイライトが続いているみたいなライブだったと思う。もう完全にTCOのライブでは必殺の1曲になっている「You Are」は歪んだリフが生み出す熾烈さもそうだけど、TCOの中でも特に悲哀を強く感じる名曲だと思うし、しかしその悲痛さの奥にある救いは熾烈なる音の向こう側に確かに存在している。鈴木氏が音源とは打って変わって完全にシャウトで歌い上げるのも非常にエモーショナルだし、躍動の中から生れる神秘性も、リズム隊が生み出すグルーブの凄みも全てが音塊となって一気に迫ってくる様は圧倒的でありながらも、そこから感じるのはおぞましさではなくて、新たな希望だった気もする。「Narcolepsy」のアンビエントで静謐な音色から静かに轟音が美しく渦巻く情景は、その曲名に反して、眠りの後の新たなる始まりを想起させるには十分すぎたし、TCOというバンドはダイナミックな音の凄みだけでなくて、一つ一つの音が確かな役割を持ち、それらが本当に豊かに語り、新たな色を次々と加えていくライブを展開するバンドに完全に変貌を遂げていた。そんな破壊と新たな創造の流れの中でも特に異彩を放っていたのは「Hi On」だったと思う。今回のライブは最新作の曲中心のセットだったが、その中で唯一1stからプレイされたこの楽曲は、より密教的空気を濃密に放つ楽曲に進化したと思う。音源とは完全に違う楽曲になり、クリーントーンのギターが増えながらも、それが余計に不穏な旋律の妖しさとかダークネスを増幅させるし、鈴木氏のボーカルが完全に読経的な物に変わっていたのもかなり大きな変化だと言える。15分の中で複雑かつプログレッシブに楽曲が展開し、そして最後の最後に持ち構えるのは地獄の様なビートとグルーブとギターリフの終わりの無い応酬。完全に観る者を涅槃へと引きずり込むだけの鬼気迫る物があったし、今回のセットの中ではかなり異質な1曲でありながら、だからこそその破壊的な音が五臓六腑に叩き付けられた感じはある。
そして終盤3曲はまた新たなる創造の世界へ。もうライブでも恒例になっているし、最新作で一番の歌物であり、悲哀の先のポジティブな希望をシリアスでありながらも美しく鳴らす「Wind Up」は正に至福の白銀の音のシャワーでありながら、同時にロックとしての格好良さを改めて実感させられたし、その流れを引き継ぎながらの「Out For Three Days Straight」へと流れていくのはもうなんかズルかった。そして鈴木氏が「ありがとうございました!最後です!」と観る人々に感謝を述べてラストは2ndから「Acoustic」。永い眠りから目覚めたTCOの始まりは僕個人はこの曲だと思っていて、再始動から4年に渡ってずっとプレイされたこの曲でその4年間の集大成とも言える今回のライブを締めくくる意味は本当に大きかったし、この曲にこそ今のTCOの秩序を破壊し、新たなる法律を生み出す創造神としての音楽が確かに詰まっていた。最後の最後に全ての音が完全にぶつかり合った末に融合して、強大なるエネルギーとなっていく情景は本当に心を奪われたよ。こうして全12曲一時間半のライブが終わった。サイクロンでのライブが完全なる秩序だとしたら、今回のヘブンズのライブは破壊の先の新たなる光だったと僕は思う。
セットリスト
1.Resonance
2.Pass Away
3.The Revival
4.Black Star
5.Light
6.Settle
7.You Are
8.Narcolepsy
9.Hi On
10.Wind Up
11.Out For Three Days Straight
12.Acoustic
再始動、新作アルバムのリリース、そして今回のレコ発ライブと4年の歳月を経て完全にTHE CREATOR OFというバンドは帰って来たし、それをずっと追いかけてきたからこそ、この日のライブは何度も何度も感慨深くなる瞬間ばかりだった。サイクロンの時のライブを観て、進化の象徴は遂に新たなスタートを切ったと思ったけど、たった一ヶ月でそれを更に更新するライブを見せてくれたし、新たな地平をこれからもずっと切り開いていくという覚悟がこの日のライブにはあったのだ。オルタナティブロック・ヘビィロック・ハードコア・ポストロック、それらの先を見据えながらも化け物はこれからも進化を続けていく。これからのライブも、これからも生み出されていく新曲も、その全てがまたこの日のライブの先を行く物になるんだろう。僕はこれからもずっとTHE CREATOR OFというバンドを追いかけていくし、このバンドはまだまだこんな物じゃないとすら思う。進化の怪物が目指す先は遥か彼方の前人未到の世界なのだから。
■Dead To A Dying World/Dead To A Dying World

アメリカの7人組極悪ネオクラストバンドの2011年リリースの1st。Phillip Cope(Kylesa)がプロデュースし、VestigesやDownfall Of Gaiaともツアーをしているらしく、その手のバンドが好きな人には完全にドンピシャなバンド。まずこの音源は毎度御馴染み俺達の3LAで購入させて頂いたのだけど…

この写真を見ての通り、重量版の抹茶色のクリアヴァイナルのLP2枚に、とんでもなく豪華な仕様。レコードとは思えない位に外箱は厚いし、これ配達屋さんから受け取った時に「重っ!」って思わず声を出してしまった。1stアルバムでありながらバンドの拘りがアートワークの方でも発揮されており、もう凄いとしか言えなかった。幾らなんでもここまで凝った仕様にするバンドは中々いないと思う。
そんな芸術意識が滅茶苦茶に高いアートワークもそうだけど、肝心の作品の方もそれがかなり現れている。先ず全3曲の作品なのだが、約7分の第2曲以外の残り2曲は余裕の10分越え、というか第1曲は15分近く、第3曲は23分近くもあるという超大作志向だ。1stでありながら、アートワークだけじゃなくてその音も色々と壮大すぎる。更にチェロやアップライトベースを大胆に導入しているし、ボーカルは複数いるしと、もう完全にオーケストラでもやりてえんじゃねえかっていう編成。色々と凄い。
しかし本当にサウンドがネオクラストのバンドの中でも屈指の熾烈さを誇るのだ。Fall Of EfrafaやDownfall Of Gaiaの様にネオクラストからポストメタルへと移行し、芸術性を追及するバンドは決して少なくないし、彼等もネオクラストからそんな大作志向になったバンドの一つなんじゃねえかと勝手に予想していたりするけど、それらの大作志向のネオクラストバンドを全て漆黒の炎で葬り去る位の熾烈さがこのバンドの凄みだ。
第1曲「Concrete and Steel」はチェロの調べから始まり、Grailsが闇に染まったみたいなギターの静謐な調べと、チェロの調べが壮大に絡み、厳かな美しさを強く感じさせ、それだけでもかなりの眉唾物なんだけど、曲が5分程進行し、繰り返されるチェロとギターの幽玄の調べが一転!ブラックメタル色の強い音階をかなり色濃く出しながらも、熾烈なクラストとポストメタルが正面衝突したギターリフの応酬、ドラムのビートはポストメタルというより、ハードコア色を色濃く出しながらも、スラッジなリフと共鳴し、同時にチェロの旋律がより壮大さを繰り出す、クラストなドスの効いたボーカルだけじゃなくて、ブラックメタルながなり声ボーカルも登場し、一旦引くパートでも残酷な余韻が強く、そこから最近のAmebixにすら匹敵するであろうプログレッシブで密教的な世界へと繰り出す。しかし一貫しているのは、序盤のパート以外は引くパートですら熾烈に歪んだサウンドが響くし、美しいチェロと歪みながらも芸術的なギターが絡みながらも、あくまでもクラストな感覚を残して奈落へと急降下していくのだ。終盤なんて激重サウンドが本当に怒涛のテンションで叩き付けられ、完全に全てを焼き尽くす。この1曲だけでも、このバンドが、1stでありながら、ネオクラストを越えた壮絶なる音塊を生み出す化け物だという事が分かるだろう。
第2曲「Stagnation」は一転して、より不穏になったギターとチェロの旋律が不安を煽る形で鳴り響くが、直ぐにブラックメタル×クラストな寒々しく熾烈なリフの応酬へと雪崩れ込み、地獄の奥の奥から響き渡る複数のボーカルの応酬、時にプログレッシブなキメを繰り出し、変則的に展開しながら、混沌の中で更に混沌が生まれる様な強靭過ぎる音の乱発はもう完全に絶頂必死!!中盤からはスラッジさを前面に押し出し芸術性もアピールしながらも、その熾烈さの奥の美しさに酔う事すら許さない煉獄へと再び雪崩れ込んで行くし、今作でも屈指の混沌がそこにある。
そして決定打は20分以上にも及ぶ最終曲「We Enter the Circle at Night... and Are Consumed by Fire 」だ。美しいギターの調べから一転、これまで以上に圧巻のダークサイドクラストサウンドへ!!ギターのリフはドス黒いのにメロディアスで、痛々しさを増幅させ、ブラストビートと共に奈落の先の更に地下深くへと聴き手を完全に道連れにする、トレモロとブラストとジェットコースター、それが圧倒的強靭さと音圧で迫ってくるのだからも、本当に凄い。随所随所にポストメタル的美しさを感じさせるフレーズを盛り込みながらも、既存のポストメタルを全否定する様な暗黒クラスト地獄。しかも単に強いだけ出なくて、闇の世界の美しさとしてそれを描くし、暴走するパートと共にスラッジさを全開にしたポストメタルな要素もあるし、そんなパートでもナヨくは全くならないし、熾烈だ。合間合間に箸休め的な静謐なパートを入れながらも、それは全然冗長にしないで、あくまでも熾烈さを前面に押し出し、突如として急降下していた光速のギターフレーズが金切り声と共にスラッジになったり、中盤でのアップライトベースの重みから、再び美しいギターとチェロの調べの美しさで微かな救いを感じさせ、それを嘲笑う様に完全にブラックメタルなトレモロとブラストの応酬のパートへ。そのパートがまた今作でも一番のカタルシスを感じさせえる瞬間であり、そして最後は圧巻の結末とも言えるポストメタルな壮大さが爆発し、アップライトベースとチェロの残響で締めくくられる。作品自体は合計44分とそこまで長い訳じゃないんだけど、それでも全3曲に渡って繰り出される奈落のブラッケンドクラストはポストメタルもブラックメタルもアンビエントも喰らい尽くし、強靭なるキメラとして目の前の物を全て邪炎で焼き尽くす。
1stアルバムでありながら、とんでもなく大作志向であり、しかもその芸術性もそうだけど、ほぼ全編に渡って繰り出される熾烈なる暗黒クラストの煉獄は他に例を見ない凄まじい物だし、ネオクラスト好きは勿論だけど、ここ最近のAmebix好き、ブラックメタル好き、スラッジ好きと数多くの激烈音楽を愛する者を虜にする壮絶なる一枚だ。個人的にネオクラストの重要作品に上げたい位な屈指の名盤。また今作はバンドのbandcampページにて公式でフリーダウンロードで配信されているが、個人的には聴いて気に入った人は、そのバンドの拘りを強く感じるLPの方で是非購入して欲しい。これマジで凄いわ。
■CON LA VENDA HACIA LA PARED/SL'S3

昨年にディストロとしてだけではなくてレーベルとしても本格始動した俺達の3LA!!そんな3LAのレーベル第2段となるリリースはスペインのア・コルーニャ出身のネオクラストバンドであるSL'S3の04年リリースの10インチアルバムの再発音源!!Madame GermenとNashgulのメンバーによって結成されたこのバンドは一枚のデモと今作を残して解散してしまい、今作も長らく廃盤になっていたらしいけど、リリースから10年の歳月を経て遂に3LAによって再発!!「新譜のリリースだけにこだわらず廃盤で入手困難となっている過去音源を日本盤で再プレスし、より多くの人に聴いてもらえるようにする」という#LAのレーベルとしての大きな意義を持つリリースでもあるし、今作の再発によってこの日本でもSL'S3は日の目を見る事になるだろう。
そして肝心の音の方は今作が04年リリースだって事を感じさせない現在でも十分に有効すぎる音なのだ。叙情的なメロディをこれでもかと感じさせる正統派に激情系ハードコアなサウンドが先ず最高に格好良いし、泣き叫ぶ様なボーカルがまたエモティブさを更に増幅させまくっている。音質の方も少々ロウなのがまた良い感じにハードコアな荒々しさを出しているのもナイス。第1曲「Delirio Normal」からそんなサウンドが炸裂しまくっているし、ハードコアな暴走サウンドと叙情性が見事に結びつき、暴走パートだけでは無くて、これでもかとあざといアルペジオのフレーズを入れてきたり、楽曲の展開が短い尺の中でドラマティックに繰り出されるのも素晴らしい。第2曲「Con La Venda Hacia La Pared」もスパニッシュネオクラストらしいメロディアスさとハードコアな疾走感が駆け巡る感じがグッド!第3曲「Vocas Muertas Suministran Tu Alimento」なんてイントロのアルペジオから持っていかれるし、そこから瞬く間にトレモロリフの轟音サウンドが吹き荒れる一つの美しき混沌を見せ付けた後の、Dビートと共に急降下で暴走するサウンド、ハードコアでありながら混沌としており、そしてメロディがとにかく美しいのに荒々しく猛っている。単なるスパニッシュサウンドではなく、それの良さを生かしながら、その先を彼等は目指していたのだろう。随所随所のポストなアプローチだったりとか、クロスオーバーさも感じ取れるし、もっと乱暴に言うと1stの頃のheaven in her armsをもっと荒々しく凶暴にしたみたいな感覚を僕は覚えた。
前半の楽曲は荒々しく猛り狂う楽曲が並ぶが、第4曲「Policía De Ti Mismo」はその荒々しさの中でもより叙情性を強く感じさせる楽曲であり、目まぐるしく展開していく楽曲、悲壮感とか痛みをその歌詞同様に強く感じるサウンド。サウンド自体はネオクラストのそれなのおに、僕はどこか彼等にポストメタル的な美意識すら感じてしまったし、しかしその整理されてなんかいない混沌とした美意識こそが彼等の目指した「ポスト」なクロスオーバーサウンドの証明であるとも勝手に思ったりもした。第6曲「La Habitacíon De Espejos」はよりポストロック的なアプローチから始まり、それがドラマティックに歪んだサウンドとなり、泣き叫ぶサウンドと共にこれでもかと痛みを放ってくる。この痛々しさも彼等の魅力であるし、その剥き出しの音が酷く美しいのだ。そして終盤の2曲は更にドラマティックなクライマックスへと雪崩れ込む。第7曲「Muros Altos」も序盤は静謐なポストロック的アプローチを見せながらも、勿論冗長にはしないで即爆音のサウンドとなり、そしてDビートと泣きのギターが主演の惨劇と変貌していく。そして今作で最もドラマティックな最終曲「Arrastrando En Sacos Tus Necesidades」にて痛みのハードコアは見事な終末を迎える。どの楽曲も3分未満とコンパクトでありながらも、多くのアイデアが詰め込まれているし、しかもそのどれもが整理なんかされてないし、混沌とした荒々しさがある。だからこそダイレクトに悲壮感が伝わってくるし、熾烈でありながら泣けるハードコアとして今作は非常にドラマティックなのだ。
スペインのネオクラストは廃盤などによって日の目を見ないまま正当な評価を受けていない作品が多く存在しているらしいし、こうして3LAの手によって一つの名盤が日の目を見たという意味は本当に大きい。しかしながらSL'S3の荒々しく熾烈で泣ける激情は、この手の音が好きな人なら間違いなくストライクど真ん中な音だし、この日本でも今回の再発を機に大きく評価されるだろう。新作のリリースだけではなく、素晴らしい音源の数々をこれから新たに再発していくという3LAの活動方針を僕は全面的に支持したいし、3LAの動きがあったからこそ、僕は今回SL'S3と出会う事が出来たのだ。何よりも何度も言うけど、本当に叙情的で混沌としたその音は多くの激情系・ネオクラストのファンを虜にするだけの物が間違いなくある。今回の再発を機に是非ともチェックして欲しい一枚だ。というかしろ。
■GigGeeks Vol.2 -the H-(2014年2月15日)@新宿ANTIKNOCK
・weepray
先ず一発目はweeprayのライブ。今回の大雪の影響は無事に辿り着けたバンドにも大きな影響を及ぼしていてweeprayは上手ギターのタクミ氏が地方在住で、大雪の影響でアンチノックに辿り着けないという事態が発生してしまった。なので今回はタクミ氏抜きの4人編成で、プレイした曲も「この手とその手」と「彼岸花」の2曲というバンド側としては不完全燃焼な事態になってしまった。しかしだ!こんな逆境にも関わらずweeprayは見事にやってくれた。やっぱりツインギターの刻みの絡みが無いと言う物足りなさは普段のweeprayのライブを見ている僕としては少しだけ物足りなさはあった、でもたくみ氏の不在を残った4人の気迫で補うステージはweeprayの負の憎悪と愛を吐き出すハードコアをより濃密な物にしていたと思うし、特にベースとアタケ氏とボーカルのケイゴ氏からはそれを強く感じた。ケイゴ氏はマイクスタンドをフロアに投げ捨てるという事までやらかし、「彼岸花」では本当に殺気に身を任せながら怨念の言葉を吐き出す。やっぱりタクミ氏の不在は大きかったにしても、weeprayというバンドの核は十分に伝わるライブだったし、メタリックでダウナーなサウンドが生み出す混沌は窒息寸前のカタルシスしかなかった。十分過ぎる位に良いライブをしていたし、だからこそまた改めて5人での完全な状態でのライブを観たいと心から思う。
・HAMMERHEAD SHARK
続いて北海道のdjentのバンドであるHAMMERHEAD SHARK。確かにその音はdjentのそれに間違いはない。バキバキに変拍子でキメにキメまくる変態サウンドが特徴的だし、とにかく情報量が多い。しかしライブをいざ観てみたら、誤解を招く言い方にはなってしまうかもしれないけど、もっとキャッチーな印象を強く受けた。オートチューン担当のメンバーもいたりする事も大きいのかもしれないけど、もっとキラキラした感じの音を放っていたし、もっと素朴なラウドさという点も凄く強かった。変態的なタッピングフレーズをガンガン使っていながらも、それらもポップな要素として機能していた感じもあったし、僕自身は今回初めて彼等の音に触れたけど、楽しそうにライブをするメンバーもそうだし、観ていて純粋にラウドロックとしての楽しさが確かにあった。
・Arise In Stability
こちらはCyclamenのヒロシ氏も参加しているArise In Stability。このバンドは更に純粋なメタルコアなサウンドを展開。ビートダウンパートなんかもあったりするけど、このバンドも僕は予備知識ゼロの状態で観たからなんだろうけど、もっと純粋なヘビィネスという点を強く感じた。djent的な要素と言うより、本当にプログレッシブメタルな要素を強く感じたし、もっと純粋なメタルな感覚をこのバンドからは色濃く感じた。勿論変態具合はdjentなバンドに何も負けてないし、馬鹿テク具合もガンガン押しまくってくる。でもそんな暴力的カタルシスを放つサウンドには確かな情緒もあったのも事実であるし、このバンドとCyclamenが繋がるのも何だか納得してしまった。こちらも初見であったけど、十分楽しませて頂いた!
・killie
killieのライブを観るのは、昨年7月のPDSのリリースツアーファイナル以来だから結構久々だったけど、このバンドは本当に観る度に何か凄まじい事になっている。先ずは「脳死は俺の側に」から始まったけど、killieの持ち味である怒りとしてのメッセージを伝えるハードコアは益々ブチ切れまくっていると思った。ベースの吉武氏はのっけからとんでもないテンションで暴れまわっていたし、伊藤氏が吐き出す言葉は本当に怒りに満ちていて尖りまくっていると実感した。ライブだと歌詞は全部聞き取れないし、killieのメッセージ全てを俺がちゃんと理解出来てるかなんて実は俺は分かっていないのかもしれないけど、でもその音と殺気は十分過ぎる位に伝わってくるし、蛍光灯が照らすステージは一つの現場であった。目の前似合ったのは、スリリングに展開される楽曲たちが生み出す緊張感だし、常に次は何が起こるか分からない空気、各楽器の音が暴れ狂いながら生まれていくカタルシスの連続、だからこそkillieは最高に格好良いと僕は思っているし、何どでもその瞬間を味わいたいからライブに足を運ぶんだと思う。「歌詞は客の耳に届かない」はこれまでライブで観た中でも一番殺気に満ち溢れていたし、伊藤氏のパフォーマンスとボーカルからそれは嫌でも体感するしかなかった。そしてラストの「落書きされた放置死体」で完全に絶頂!今回killieのライブを観て僕が改めて思ったのは、killieのライブはその言葉や音と自分自身で向き合って本当に意味があるんだなって事、例え歌詞の全てが聞き取れなくても、音楽理論だとか楽器の事を知らなくても、目の前から放たれる音と言葉と向き合う事に意味があるし、何よりもkillieは単純に激情系ハードコアとして本当に格好良い。つまりはそうゆう事なのだ。
・Cyclamen
そして今回本当にライブを観るのを楽しみにしていたCyclamen。ステージに立つ5人は、見るからに激情系ハードコアな感じでありながら、メタラーっぽさもちょっとある今西さん、ベースのArise in Stabilityのヒロシさんは仙人みたいだし、下手ギターのカツノリ君(何とまだ21歳の現役大学生!)は童顔で爽やかなイケメン、上手ギターのタカオさんは背もめっちゃあるし、気が良い兄ちゃんって感じで、サポートドラムの大山俊輔さんは見るからにメタラーって感じでメンバー全員のタイプが見事にバラバラだったりするのが先ず印象的。そして今西さんの「Cyclamen始めます!」って宣言と共にライブはスタート!先ずは新作「Ashura」の一発目を飾る「破邪顕正」から、分かっていたけど、やっぱり個々の演奏技術が本当に凄い!音源より更に自由に動き暴れまわるベース、タカオさんの安定感に満ちたバッキングにカツノリ君のテクニカルなタッピングの嵐!しかしCyclamenは単なるテクニック志向バンドでは無い。あくまでも楽曲の世界を高次元で表現する為の技術であるし、今西さんが描く物語こそがCyclamenの音楽の核だし、今西さんのボーカルは本当に全身全霊という言葉しか浮かばない。熾烈なる叫びを繰り出しまくりながらも、クリーントーンのパートでは本当に優しく歌い上げる。続く「百折不撓」はモロにdjentなカラーを押し出した楽曲でありながら、音源とは全然違った。確かにCyclamenは卓越した演奏技術を持っているけど、良い意味でカッチリしてないのだ。ライブならではの荒さを全然隠してないし、方法論的にはマスな部分も多いけど、それを前面に押し出すのではなくて、あくまでもハードコアバンドとしての表現だし、それがライブでは本当に色濃く出ていたのは熱かった!何よりも凄く印象的なのは、全身全霊のパフォーマンスを繰り出す今西さんもそうだけど、弦楽器隊の3人が本当に楽しそうにライブをしている事だった。メンバーはとんでもなくエグいテクニカルなフレーズを乱発しながらも笑顔を浮かべているし、ヒロシさんとカツノリ君が横に並んで演奏している時は何だか親子みたいに見えてしまった。
勿論新作の曲だけじゃなくて、過去曲もガッツリプレイしてくれたし、1stに収録されている僕がCyclamenを知った切欠の曲である「With Our Hands」はやはりCyclamenが最高の激情系ハードコアバンドである事を証明していたし、ポジティブなエネルギーに満ち溢れていた。EPの楽曲である「Memories」は美しく壮大な世界観を見事に表現していたと思う。今西さんがMCを終える前に楽器隊が演奏を開始して今西さんがMCを放棄してそのままボーカルを始めるなんていう微笑ましいアクシデントもありつつ、描く世界は熾烈で神々しいのに、バンドとしての人間臭さが本当にライブでは凄い伝わってきた。今西さんは全身全霊のボーカルも、それに反してMCでの物腰の柔らかさもそうだし、凄くザックリした言い方にはなってしまうけど、Cyclamenのライブには人間の熱さや、温かさと言う物が凄い伝わってきたし、それこそがCyclamenのハードコアだなって僕は勝手に思った。ラストの「Never Ending Dream」はそんなCyclamenのライブを締めくくるには最高の楽曲だったし、テクニカルさもポップさも壮大な物語もそこにはあった。もう本当に心に焼き付いて離れない位に最高のライブだったし、こうしてCyclamenのライブを観れて本当に嬉しかった。人間としての力=ハードコアである事をCyclamenは教えてくれたんだ!!
・bilo'u
そしてトリのbilo'uはライブを観るのは一年振り位だったんだけど。上手く言葉に出来ないけど、完全に違うバンドになってしまっていた。最早既存のテクデスという物では計れないバンドになってしまっていた。一言で言うなら、良くこんな音楽やっているなって思ってしまっていた。もうやってるbilo'uも観る客も完全にドMだと思う。展開と言う展開が本当に全く先読み出来無すぎるし、変拍子だらけなのは前からだったけど、本当にマッドなバンドになってしまっていた。突如クリーントーンの音が入ったと思えば、カオティックなタッピングへ、ジャジーな要素のあるフレーズが来たらまた変拍子駆使の刻み地獄、それぞれの楽器の音がやっている事がとんでもないし、しかもそれをライブで再現出来てしまっているという事実が恐ろしい。何よりもそんな楽曲に見事にシンクロする変幻自在のボーカルも凄まじかった。ライブもMC全く無し、ただひたすらストイックに自らの音を放ち続けていく。しかしライブしていた30分の中で訳が分からなくなる瞬間が何度も何度も訪れていたし、しかもその訳の分からなさを最高に分かり易い形でアウトプットしているのがまた凄いのだ。テクニカルだとかド変態とかいう要素も凄いあるけど、純粋にラウドミュージックとしての本当にシンプルな馬力もbilo'uには存在していると思うのだ。そして本編で終了と思わせて時間差でアンコール、最後にはモッシュも発生し大きな盛り上がりで終わった。しかし暫く観ない間にとんでもないバンドになってしまったな。今回の特濃な変態の宴を締めくくる圧巻のライブだった。
大雪と言うアクシデントもあったけど、本当にこれだけの変態イベントがに多くの人が集結したと言う意味は大きいし、一つのジャンルに固まるのではなくて、またそれぞれの方面で猛者が集結したイベントは中々無いと僕は思う。しかしこの日はやはりCyclamenのライブが全部持っていったと思うし、あのバンドが持つ熱さをこの日ライブを目撃した人は強く実感した筈だ。いつになるかは分からないけど、Cyclamenのライブがまた日本である時は絶対に足を運びたいし、Cyclamen以外の参加バンドもどれも良かった!!そして今回イベントを主催したbilo'uのマキト氏に改めて感謝と敬意を。
■And Baby / Safe Crusades / No Judgements/The Caution Children

美轟音・激重・激情音源をリリースする俺達のTokyo Jupiterの2014年一発目のリリースは、本当に素晴らしい作品だった。ベルギーのThe Black Heart Rebellionと共にTokyo Jupiterのレーベル設立最初期からのバンドであり、彼等の歴史はTokyo Jupiterと共に歩んできたと過言ではないThe Caution Childrenの2014年リリースの3rdアルバムは本当に進化の作品だった。今作は新ギタリストを迎えての5人で製作された作品であり、レコーディングにComadreのJack Shirley (Deafheaven, Loma Prieta) 、マスタリングにJosh Bonati (Asobi Seksu, La Quiete) を迎えている。
先ず率直に言うと今作でTCCはハードコアバンドとして本当に強くなったし、これまでの2枚のアルバムで見せ付けた美し過ぎる激情を研ぎ澄まし、完全に物にしたと言えるだろう。バンドとしての方法論自体は正直に言うとこれまでの作品と全然変わらなかったりするんだけど、これまでに作品とは明らかに違う。激情系ハードコアを機軸に、シューゲイザーやポストロックといった要素をクロスオーバーさせて、近年のEnvyの様な美しいスケールで激情を描いていたけど。今作の楽曲はほぼ約3分程度のコンパクトな楽曲ばかりだし、スケールはそのままに最初からクライマックスとばかりにのっけから圧倒的な激情を力強く鳴らすバンドになったのだ。今作のあるのはもう眩いばかりの光ばかりで、そこに闇は存在しない。闇を切り裂き、希望の光をハードコアとして高らかに鳴らしている。
第1曲「The Same Thing in Three Parts」から既にクライマックスであり、オープニングから全ての絶望を焼き払う旋律と共に、美しい新世界の幕開けを高らかに宣言。そして第2曲「Psalms」へと雪崩れ込んだ瞬間にはもう目の前には希望しかない。疾走感と共にシューゲイジングしながらも確かな重みを感じるギターの音、希望の先へと走り抜けるビートは本当に力強く。持ち前の繊細な美旋律を生かしながら、よりハードコアバンドとして威風堂々とした佇まいを見せ、何度も何度も拳を突き上げたくなる希望のマーチが確かに存在し、本当に全ての音が強くなった。これまでの作品は繊細な美旋律こそ素晴らしかったが、少しばかりハードコアバンドとしての力強さと言う点は正直に言うと少し弱かったりもしたけど、それを完全に覆し、繊細で美し過ぎる激情のまま、強くなった事が本当に大きいし、アプローチも堂々と突き抜けるハードコアさが漲っていて何とも頼もしいじゃないか。第3曲「Over-Under」ではアンビエントな小品として揺らぎと浮遊感からの美しさをアピールし、その流れを受け継ぎ、柔らかで繊細なギターフレーズから、それを突き破り力強い轟音の鐘が響き渡る第4曲「Shouldn't Have Used Black Magic」のドラマティックな流れは眉唾物。第5曲「Secret Kings」では更に疾走感も加速し、La Quieteにも通じる突き抜ける青き疾走を見せ、同時にザックリとした刻みのギターなんかも入れていたりして、普遍性のあるハードコア性もアピール。最初から突き抜けているのに、轟音に轟音を重ねながら、肉体性も強く、美しさの先の強さを十分に感じるだろう。
今作で唯一の少し長めな第6曲「Middle Missing」は6分近くある楽曲で、完全にポストロックなトレモロの美旋律にまず耳が奪われる。更にアコギの爽やかで少し憂いのある調べも加わり、後半は見事なまでの轟音バーストというモロに轟音系ポストロックな良い意味であざとい展開を見せるけど、ポストロック方面に振り切った楽曲でもやっぱり最終的には感動的なクライマックスに行き着いてるし、やっぱり強さを感じる。浮遊する音色とアコギの調べが優しく包む第7曲「Moon Museum」を挟み、終盤の3曲は本当に最高のクライマックスの連続だ。近年おEnvyに匹敵するキャッチーさと美しさと強さの融和とも言える第8曲「Knowing About Bombs」は本当にエモーショナルで涙が溢れそうになるし、最高の結末を予感させるアンビエントさから轟音へと変貌する小品な第9曲「Superb Lyrebird Recording」、そして最終曲「Letter to My Child」はこれまで何度も何度もあった感動的瞬間すら越える、本当に3分間に感動しかない大名曲で、生きる力その物が音になったみてえな曲だし、この曲を聴いてTCCは本当に激情系ハードコアとして強くなったと改めて実感した。また今作はこれまでの作品と違うのは矢張りミックスの点だと思う。これまでの美旋律を前面に押し出す音とは違い、バンド自信の進化もあるけど、繊細な旋律を生かしながらも、強さを前面に押し出したミックスは今作の素晴らしさを更に確固たる物にしている。
個人的には同じくTokyo Jupiterの最初期からのバンドであるベルギーのThe Black Heart Rebellionが既存の激情系ハードコアを完全に捨て、民族音楽等を取り入れ、エクスペリメンタル方面に突き抜けて、これまでに無かった激情系ハードコアを生み出したのに対して、TCCはあくまでも王道を突き進む事を選び、美轟音の先の強さをただひたすらに求めて、その結果自らのスタイルはそのままにハードコアバンドとして本当に大きくなったというのは面白かったりもする。共にツアーをしていたりした両バンドが、それぞれの形で進化を見せつけ、そしてTokyo Jupiterと共にそれぞれ素晴らしい音を生み出してバンドとしてとんでもなく進化したという事実は、何とも感慨深いじゃないか。とにかくTCCは美し過ぎる激情系ハードコアから、美し過ぎて強い激情系ハードコアバンドに見事なまでに進化した。2014年の激情系ハードコアを代表する一枚になるのは間違い無いだろう。今作は勿論Tokyo Jupiter Recordsの方で購入可能だ。
■Republic of Dreams/Republic of Dreams

ドイツとポーランドと国境を跨ぐ3ピース激情カオティックハードコアバンドであるRepublic of Dreamsの編集盤。Louise Cyphre、Resurrectionistsのメンバーも参加しており、メンバーはそれぞれ数多くのバンドに参加していたりもする。収録内容はCloud Ratとのスプリットの楽曲とBeau Navireとのスプリットの楽曲の全10曲。
さて肝心の内容の方は、一言で言うと正しくカオスが凝縮された音だと思う。Louise Cyphreの流れは間違いなく受け継いでいる音だとは思うけど、本当に混沌だ。全10曲で合計14分という収録内容からも伺えるけど、ほぼ全曲が2分未満で、しかも楽曲の展開は本当に目まぐるしい。上手く形容するならThe Third Memoryの美しくも暴走する疾走をより混沌とさせた印象だ。少し強引だけど、日本のバンドだとkillieに近い物は少なからず感じる。クリーントーンと歪みの狭間にあるクリアに突き抜けている筈なのに、歪みまくったギターの音色もそうだけど、そんな中で楽曲自体は本当に怒涛。ギターもベースもドラムも常にとんでもない熱量で暴れまわっている。変則的なキメをこれでもかこれでもかと乱発させていながらも、ショートカットかつファストに音は暴走している。短い楽曲の中で目まぐるしく展開していくサウンドはLouise Cyphreでもあったけど、それがより凝縮されているとも思うし、Resurrectionistsの流れにあるヴァイオレンスさもあるし、両バンドの良さと言う良さをこれ以上に無い形で継承して放っているのだ。そんなエモヴァイオレンスでカオティックな音が好きな人には間違いなく大ヒットな音だと思うし、カオティックに暴走する熾烈さは本当に凄まじいとは思うけど、個人的にはそんなヴァイオレンスな熾烈さの中にある一つの美しさにとても心が惹かれてしまう。変則的で暴走しまくっている音なのに、そのメロディは本当に美しく、それに熱き激情が見事に結びついているからこその物だと僕は思う。ブラストと転調を繰り出しまくる音は本当にジェットコースターだし、ギターも必殺のフレーズとキメを繰り出しまくりだけど、その瞬間に全てを焼き尽くしてしまいそうな激情に美しさを見出すのは僕だけでは無いと思う。
瞬く間に駆け抜ける全10曲14分は本当にカタルシスに続くカタルシスだし、ジャーマン激情の凄みを見せつけながらも、その熾烈さの先の芸術的美意識も見逃してはいけない。本当に一蹴で全てを焼き尽くす混沌と激情が心も肉体も焼却する熱きカオティックでファストでショートカットでヴァイオレンスな美しき音の乱打には震えてしまう。
■叛物質/MOTHER

1stアルバム「The Living Dead」が本当に素晴らしい名盤だった京都の激情ポストハードコアバンドであるMOTHERの2013年リリースの3曲入新作EP。リリースは自らのレーベルであるSPEED EMPERORSとアメリカのmeatcube labelとstrange talesの3レーベル共同のリリースで限定500枚プレス。ベラム紙+PVC特殊ジャケットやクリアヴァイナルの盤とパッケージの方もかなり凝った物になっている。またMP3ダウンロードコード付属。
さてジャケットや盤の方もかなり拘りを感じてナイスなんだけど、肝心の音の方は名盤1stを越えて、自らの持つ攻撃性を更に研ぎ澄ましたと言える作品だ。元々彼等はポストハードコアの血肉を完全に自らの物にしていたバンドだし、自らの激情をオーバードライブするサウンドと共にツインボーカルで歌い叫んでいたバンドだ。今作リリースまでにメンバー脱退のピンチもあったらしいが、そんな事なんて全く感じさせない位に今作に収録されている3曲は兎に角ブチ切れている。「The Living Dead」で自らが生み出した音を生かしながらより尖りに尖った攻撃性を手に入れ、更に止まらなくなってしまったのだ。
第1曲「楽園」の4カウントから始まり、いきなり必殺のキラーリフが炸裂し、激情の叫びが響いた瞬間にもう完全にMOTHERの完全勝利だと言える。正統派ポストハードコアなドライブしまくる2本のギターリフの鋭さが本当に研ぎ澄まされていると言えるし、ツインボーカルの絶唱バトルは更に限界突破してしまっている、そんな攻撃性を常にフルスロットルでブチ撒けながらも、「The Living Dead」で見せたメロディアスさや歌心の方もより研ぎ澄ましているし、常にサウンドはバーストしながらも、心を突き刺すメロディと歌心が兎に角堪らないし、この曲だけでMOTHERの更なる進化を実感する事になるだろう。第2曲「麻薬」ではより間口の広くなった印象を受けるし、鉄の匂いを感じさせる片方のギターと、疾走しながら泣きまくるメロディアスに刺すもう1本のギターのツインギターの絡みも堪らないし、ひたすら突っ走りながらも、絶妙な場所でキメを入れてくるビートもまたMOTHERの魅力だし、そちらの方も更に殺傷力を上げている。第3曲「親愛なるメイファンへ」は今作では一番エモーショナルな歌物の楽曲になっているが、こちらでものっけから疾走感が凄まじい事になっているし、楽曲の完成度の高さもそうだけど、これぞMOTHER節とも言えるツインボーカルの絶唱と泣き、後期COWPERSの様な器の大きさを感じさせる名曲になっており、非常にドラマティックでもあり、MOTHERという急速に進化を続けていくバンドの凄さを痛感させられる。
EP作品でありながら全曲必殺の曲しかないし、これは来るべき2ndアルバムも本当に楽しみになる。渾身の全3曲。まだまだ活動暦が長いバンドではないし、全然若手バンドなMOTHERだけど、限界なんて何処にも無いとでも言いたいのかってレベルで更なる進化を見せ付けた作品。全ての音が文字通り必殺だ。
■2: As Zeitgeist Becomes Profusion of the I/Viscera///

イタリアのポストメタルバンドの2010年リリースの2ndアルバム。元々はグラインドコアをやっていた連中らしいけど(過去作は未聴)、今作はかなり実験性の強いポストメタル作品になっていると思う。ポストメタルの要素にサイケデリックさを加え、更には雑多な要素の音をブチ込んで非常に実験的な音を鳴らしている。
ポストメタルのバンドらしく全4曲どれも長尺の楽曲が並んでいるけど、今作に収録されている4曲はどれもアプローチが全く違う。一貫して言えるのは雑多で実験性が強く、同時にサイケデリックな音を鳴らしているという事。割と従来のポストメタルから絶妙に外れたアプローチをしているバンドだとも思ったし、今作の音は中々に斬新さを感じさせる。先ず第1曲「Ballad of Barry L.」を再生した瞬間に耳に入り込んでくるのは引き摺るスラッジさを更にサイケデリックにしたギターリフだ。重心がかなりあるダウンテンポのビートとスラッジなギターリフはかなりドゥーミーな要素を押し出しているけど、同時にポストメタルらしい美意識も感じさせる。そんな音を機軸にしていながら、曲が進行していくと、サイケデリックな音色の反復もかなり増え、こちらも反復するリフとビートが脳髄を揺らし、まるで浮遊感の中で沈んでいく様な矛盾した感覚が音に表れる。終わり無き反復の音がサイケデリックさを助長し、脳細胞を確実に侵食しながら、より音圧を高めて絶頂へと導く。そこら辺の音は同じイタリアのUfomammutにも通じるけど、彼等はより謎な宇宙的感覚を音で表現していると思う。第2曲「Hand in Gold」は這うベースの重低音と、極限まで音数を削ったギターのアルペジオのサイケデリック音階で始まり、よりサイケデリックさを前面に押し出したアプローチをしながら、その音は一転して高揚感を持ち始めて、アンビエントな音色を生かしながらも、やたら哀愁を漂わせるボーカルがまた印象的だし、割と正統派なポストメタル的アプローチを繰り出しのながらも、徐々に加速し始める音、しかも中盤は完全ブラストビートに変貌し、カオティックな暴走ハードコアなパートが突如表れ、聴き手の意識は別の方向へと持っていかれてしまうけど、再びポストメタルな音へと自然に変貌していくし、最後は高揚感が一気に充満していく一転して一つのアッパーさを感じさせる曲だ。
しかし更なる驚きは第3曲「Um Ad-Dunia」で待ち構えている。こちらもスラッジな激重リフから楽曲が始まり、そしてサイケデリックな高揚感をより肉体的にしたサウンドで蹂躙。ボーカルも完全にブラックメタル的ながなり声のボーカルになり、ギターリフにブルータルさが出始めたと思ったら、いきなりダウンテンポから加速し、カオティック成分が加わり、ブラストビートで加速するパートまで出てくるし、それがまた絶妙にポストメタルに回帰した音となり、やたらメロディアスな旋律へと変貌していく。楽曲も後半はよりブルータルさが出始め、断罪のギターリフがハードコアライクに繰り出され、更にはトレモロリフの応酬なブラックメタル要素まで出てくるという何でもアリな感じ。本当に雑多な要素を詰め込んだ楽曲だし、突拍子も無い展開ばかりなのに、それらが全て自然に繋がり、一つの壮大なストーリーとなっているから凄い。最終曲「They Feel Like C02」は今作で最も長尺な15分近くにも及ぶ大曲であるが、またサイケデリックなポストメタルサウンドを鳴らし始め、容赦無く落とすパートと、静謐な美しさを見せるパートと、絶唱と共に高揚感を生み出すパートがそれぞれの役目を持ち、ブラストビートで暴走するカオティックハードコア・激情系ハードコアなパートもあり、今作の中でも最も音は目まぐるしく変わり、それらの音が混沌として変化しながら繰り出され、全てを蹂躙し尽くした果てに最後はハウリングノイズのエンディングを迎える。
ポストメタルとして見たら実験性が強い筈なのだけど、元々がグラインドコアのバンドだった事もあって、随所随所にカオティックハードコアなパートも入っているし、単にサイケデリックさやアンビエントさを追求するだけの実験性では無くて、本当に闇鍋みたいに雑多な要素を盛り込みながらも、楽曲や作品には何故か一貫性を強く感じたりもする。サイケデリックなポストメタルとしても非常にナイスな作品だとは思うけど、実験性だけで終わらない。ハードコアな粗暴さをしっかり打ち出している点も大きく評価したい。ポストメタルの隠れた名盤だと思う。