■2015年03月
■Epicureans/Yumi

昨年末に来日を果たし最高に熱いライブを繰り広げたシンガポール激情系ハードコアYumiの2014年リリースの1stアルバム。この日本ではheaven in her armsとのスプリットでその名を知った人も多いのではないだろうか?今まさに勢いを増している東南アジアハードコアではあるけど、今作はそんな東南アジアハードコアの正に決定打となる名盤だと思う。日本のバンドにも大きく影響を受けているらしく、日本人好みするセンスを持っているけど、それを東南アジアから鳴らし、日本のバンドとはまた違う衝動と激情を鳴らしている。
HIHAのスプリットではポストブラックメタル×激情系なサウンドを聴かせていたけど、今作は正に王道を往く激情系ハードコアとなっている。それも現在進行形の激情とは違い、それこそ「君の靴と未来」の頃のEnvyだったりとかに代表される00年代初頭の激情系だったりとか、激情黎明期である90年代US激情だったりとか、エモヴァイオレンスだったりとか、そういった多くのバンド達の影響を受けている音だと思う。そのサウンドは斬新かと言えば違うんだけど、Yumiの音はこういった音を出すバンドっていそうでいなかったって感じだし、懐古主義のサウンドでは無くて、過去を現在へと繋げる音だから説得力がある。のっけから絶叫とエモヴァイオレンス感溢れるギターフレーズにガッツポーズな第1曲「Mountains」が必殺過ぎる。クリーントーンのパートではポストロック的な音に走らないで、ハードコアの荒い感触と美旋律をちゃんと両立させているし、こういった部分はここ最近のジャーマン激情のバンドとかに通じるんじゃねえかって思うけど、Yumiの場合はそのセンスの良さをもっと荒々しく初期衝動に溢れたサウンドで放ってくるから格好良い!!あざといメロディセンスは全編通して冴えまくっているし、それを90年代US激情らしいリフと自然と同居しているから凄い。
HIHAとのスプリットの楽曲の様にバンドの美意識と構築美を重視した第2曲「Keeley Davis」では一転してクリーントーンのサウンド主体の壮大な轟音系サウンドではあるけど、そんな楽曲でも衝動的な荒さがあるから信頼出来る。一方で第3曲「弓」はベタベタに泣きまくったギターフレーズと疾走するビートがガツンと来るキラーチューン。まるで初めてEnvyだったりとかIctusを聴いた時の様な新鮮な感動がありつつ、でも真新しい事は特別していなかったり、これはもうバンドの持つサウンドの純度の高さが為せる技だとしか思えない。第4曲「HH」もソリッドなリフと共に暴走する叫びとビートがのっけから絶頂しまくっているし、しかしメロディセンスは抜群。この猛る疾走感とエモティブなメロディセンスの見事な融合は個人的にフランスのThe Third Memoryにも通じる物があるとすら思った。
そして作品の後半はいよいよ壮大にエンディングへ。激と美が織り成すドラマである第5曲「Swarm of Wasps」の王道の壮大な激情系サウンド、今作屈指のヴァイオレンスなサウンドで咲き乱れる第6曲「Dissipate」、そして最終曲「Sound of Feeling」のアクセル全開にしまくり混沌としたサウンドで攻めながらも、The Caution Children級の美旋律を見せつけ、引きのクリーンパートからの大団円な激情のラスト。最初から最後まで完璧すぎる流れだ。
激と美が同居し、これぞ激情系と言わんばかりの王道サウンドで攻めまくり、荒々しさをしっかり感じさせながらも洗練された音。王道サウンドでありながら、バンドとしての武器の多さ、東南アジア激情もいよいよここまで来たかと思ったし、シンガポールの激情系の歴史を受け継ぎながらも、その先を行く音を生み出している。というか東南アジアだとかシンガポール云々なんて関係無いし、こんなに初期衝動に溢れながらも美しく熱いサウンドを現行で鳴らすバンドっていないとすら思う。激情系好きは絶対にマストな一枚だろう。
■OSRUM/OSRUM
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正に再生の歌がそこにあった。2012年のAS MEIAS解散、2013年のZの解散を経てスーパーギタリスト魚頭圭が、ex.NAHTの羽田氏とBALLOONSの藤本氏と新たに結成したOSRUMの2014年リリースの1stアルバムが今作だが、この重鎮三人が集まったらこんな音になるって納得するしかない音でありながら、同時に魚頭氏がとうとうこの境地にまでたどり着いてしまったのかと驚く作品にもなっている。魚頭氏はこれまで数多くのバンドで活動して来たけど、これまでのキャリアの中で一番のグッドメロディ、そしてシンプルさと深みを持つ音になっているのだ。
魚頭氏はゼアイズやZでもボーカルを取った事はあったけど、OSRUMではギターボーカルとして全てのボーカルを担当している。そして時にエモーショナルな叫びに近い歌を聞かせたりもしながらもほぼ全てクリーントーンのボーカルになっている。3ピースって編成もあるけど、サウンドはこれまで以上にシンプルに削ぎ落とし、魚頭氏もこれまでプレイして来た変態的フレーズはほぼ封印し、本当にシンプルなコードストロークのサウンドを基調にしたギターを聞かせてくれる。メンバーそれぞれが90年代のハードコアやエモやグランジなんかをルーツに持っているのもあるだろうけど、その空気感を現代のエモリヴァイバルな空気を融合させ、そこに渋みを加えたのがOSRUMというバンドだ。楽曲はほぼミドルテンポ、分かりやすい激情爆音サウンドはほぼ無し、あるのは長年シーンの最前線で戦った3人だからこそ生み出せた誰にも壊すことの出来ないアンサンブルの美しさ、波紋を作りながら浸透する優しいメロディと歌、たったそれだけだ。いやそれだけで十分だとすら言える。
第1曲「2013」を聴いて僕は涙が止まらなくなってしまった。2013年は正にZが解散した年であり、今作で魚頭氏が日本語詞で歌っているのはZ解散からOSRUMを結成し再びステージに立つまでの再生の物語なのだから。勿論この3人の描くアンサンブルも凄い。魚頭氏はZやAS MEIASでも聞かせていたエフェクトワークこそあれど、フレーズは本当にシンプルなフレーズで攻める。そして機材の鬼でもある魚頭氏だ。ギターの鳴りが本気で泣いている。藤本氏のドラムは決して自己主張をしている訳では無いけど、ミドルテンポの重みをドラムで体現、羽田氏はズ太いベースラインを前に押し出しながらも、常に前に出るのでは無く、押しと引きを生かしたラインだ。魚頭氏がリードフレーズを弾けばエモとブルースが融合した音階を奏でているし、曲展開こそ決して多くないし、シンプルにフレーズを繰り返しながら、徐々に熱を帯びさせるサウンドスタイル。こんな音はこの猛者達じゃなきゃ生み出せないし、歌詞の内容も含めて本気で泣いてしまう名曲だ。
一方で第2曲「満月か低気圧」ではそれぞれの音が主張しながらも、絡み合っていくアンサンブルが本当に気持ちが良いし、引きのフレーズで高める音はディストーションと共に静かに炸裂していく。個人的にはこのサウンドスタイルはオリジナルグランジにエモを持ち込んだ音になっていると思うし、曲の中で激の要素はかなり強い筈なのに、そこで感じるのは熾烈さでは無くて、変速性をアクセントにして寄せては返す波の様であり、同時に心臓の鼓動の様でもあるのだから。インストである第3曲「調和」は今作の中では一番各楽器のコアな要素を絡め合わせたポストロック色の強い楽曲。個人的には再結成してからのEarthの様な雄大なアメリカーナ感すら感じるし、魚頭氏の空間系エフェクターの使い方が絶妙過ぎるし、藤本氏のスネアの音色が深い所に叩き落としてくる。ディストーションサウンドになってからはより涅槃感が高まり、ループするフレーズと共に聴き手をトランスさせてくる。
そして終盤の第4曲「新しいこと」と最終曲「全然終わってない」は今作でも特に熱い2曲だ。勿論ただ単に直情的なサウンドを奏でる訳が無い、キレまくったギターのカッティングと吐き捨てる様なボーカル。これ再結成してからのアリチェンが持っている物と同じじゃん!!ってなった。ソロフレーズなんか滅茶苦茶ブルージーで枯れているのに熱いし、ここぞって所でリズム隊の音が主張を強めて炸裂してくる「新しいこと」、「調和」同様に静謐なアンサンブルの反復から熱が爆発し、羽田氏のベースラインがメロディアスでありながらボトムを作りまくった末に、最後の最後は必殺のフレーズが炸裂!!しかしそこにあるのは負の感情では無くて、それでも前に進もうとする気迫だ。魚頭氏は今作でも時にはZやAS MEIAS時代にも聞かせていた攻撃的なフレーズをここぞとばかりに使ってくるけど、それは誰かを傷つける為の音じゃ無い、誰かを奮い立たせる為の音だ!!
しかしAS MEIASとZという変態バンドを経て魚頭氏が到達した音は、魚頭氏らしさ全開であり、同時に羽田氏と藤本氏という強烈な個性とぶつかり合った末に調和を生み出しながらも、これ以上に無い位に素直な歌だったのは本当に驚いたけど、でもメンバー3人のこれまでの偉大なキャリアと実力があったからこそ到達出来た音だと思うし、シーンの重鎮の新たな攻めのサウンドでありながら、最早万人受けしても全然良いんじゃないかってレベルの歌心の説得力と深さ。最高に渋いんだけど最高に熱い作品だし、熟練の力と続けて来たからこその説得力が半端じゃない。2014年の最後の最後に産み落とされた再生の歌は本当に涙無しじゃ聴けないと僕は思う。
■Grind Freaks #67 in Tokyo -トリプルレコ発GIG(2015年2月28日)@秋葉原スタジオ音楽館
・Butcher ABC
先ずは暗黒精肉デスグラインドのブッチャー、関根さんが「ドラムがまだ来てないから始められねえ!」とやたらリラックスした感じで言ってたりしたのはスタジオライブだからだろうか。そんな感じでドラムの方が来てライブはスタート!!この日はいつものライブでお馴染みの定番曲だけじゃなくて、スプリットの曲もガッツリとプレイ。そのサウンドスタイルこそ、低域グロウルと中域デスボイスのツインボーカル、ブラストビートで暴走しながらも緩急をつけたビート、そして関根さんお得意の血の匂いしかしないデスメタルを熟知したリフの数々。デスメタルとグラインドコアの融合という言葉では片付けられないのがブッチャーであるし、それが例え決して音響が良くないスタジオライブだとしても、いやこうした環境でのライブだからこそ真価を発揮するサウンドだし、どんな場所でも安定して常に良いライブしかしないのはベテランの貫禄だろう。途中で機材トラブルがあったりしてライブが一時中断にはなってしまったけど、そんな逆境でもリラックスした状態でいるし、そしてライブ再開となれば地獄のリフとビートをお見舞い!!速いだけじゃない、重いだけじゃない、常にデスメタルの純粋な殺意しかこのバンドは鳴らさないし、この日もいつも通り抜群の格好良さだった。
・Coffins
ブッチャーの時の機材トラブルが転換中にまた発生してしまい、転換はゴタゴタしていたけど、無事にトラブルも解決し次は世界レベルのCoffins。のっけからいきなりキラーチューンである「Hellbringer」で幕開け!!タイトで爆発音みたいな音を散弾銃みたいに繰り出すサトシさんのドラム、重さと歪みで時空を破壊する是枝さんのベース、ロックもメタルも全て熟知しながら、一番エグい場所を抉る内野さんのギター、鬼気迫る破壊力で攻める時田さんのボーカルと、Coffinsというバンドが今こそ最高に良い状態だって分かったし、バンドが完全に攻めのモードになっている。驚いたのはスプリットの楽曲と、今後の音源に収録されるであろう新曲だ。兎に角速い!!ドゥームらしい遅いパートもあったりはするけど、それはおまけ程度でとにかく速い!!ブラストで爆走し、メタルというよりもパワーヴァイオレンス感溢れる音だったりキメを駆使し、しかしサウンドはどう聴いてもCoffinsにしか出せないグルーブに満ち溢れているし、このバンドはメタルって既成概念に囚われずに、常に新たな音をクロスオーバーさせて進化し続けているんだと思った。そんな新たな楽曲の破壊力も凄かったけど、ラストはアンセムである「Evil Infection」でキッチリ締めてくれた。本当に少しライブ観ない内にとんでもない進化を続けているし、Coffinsは世界レベルどころか世界トップレベルでヤバイ化物だと思うよ!!
・Unholy Grave
トリは主催のUnholy Grave。この日のライブは40分近くにも及ぶグラインドの連続で恐らく30曲近くはほぼノンストップでプレイしていたと思うし、いつも通りのMC全く無しのStay Grindスタイルのライブ。次から次へと繰り出されるグラインドの連続は最早笑いすら出てくるレベルではあるけど、常に最高速度キープしながら暴走するサウンド、そして何処をどう切ってもアンホーリーな音はライブでも見事に炸裂。のっけから大勢の人がピットを作ってモッシュしまくる異様な盛り上がりだったし、先日ドラムのHeeChung氏が急逝してしまったのだけど、そんな感傷をまるで感じさせない様なライブだったのが本当に大きな救いだったと感じた人も多かったんじゃないかと思う。相変わらずキレキレな小松さんのボーカルとアクション、ダーティに押し寄せる楽器隊の音、そのどれもがいつも通りのアンホーリーであったし、だからこそ良かったと心から思った。
そんな地獄の3マンは見事に秋葉原を悪夢で染めてしまっていたし、今までやってそうでやって無かったこの3マンを待ち望んでいた人は本当に多かったと思う。僕自身出演した3バンドどれも抜群に格好良かったと思うし、グラインドもデスメタルもドゥームも日本のバンド達は世界に全然通用するのも当然な訳だ。本当に濃密な3マンだった!!