■2015年05月
■Kranke/Syrup16g

奇跡の生還ライブから再結成、そして昨年のアルバムリリースとシロップは完全に表舞台に帰ってきたけど、意外と間を空けないであっさりとリリースされた5曲入EPである今作。昨年リリースされた「Hurt」では荒さが結構出ていたし、一先ずはシロップ復活記念作品でありながらも、新たなシロップの始まりを告げる作品となったが、今作は非常に優しい歌物の楽曲が並び、五十嵐がソングライターとしてまだまだ枯れてなんかいないって強く確信させてくれる傑作になっている。
と書いてはみたけど、今作を先ず一周聴いてみて抱いた感想は言い方が悪いけど「地味」の一言だった。いやシロップ自体が元々優れたメロディセンスを持つバンドでありながら、アレンジ等が非常に地味だったりするバンドだし、それは今作もそうなんだけど、一言で言えば解散前の作品達にあった毒素だったり切迫感だったり絶望感がほぼ無くなっている。今作で歌われている事は言ってしまえば諦めの悪さと、思春期的な拗らせた感情とこれ以上に無い位にシロップではあるけど、本当に優しいのだ。シロップはその完膚無きまでの虚無感と絶望感を甘いコードに乗せて突き刺すバンドではあったけど、今作は言ってしまえば救いの作品であり、シロップの奥底にあった諦めの悪さという感情を曲にした物ばかり。そして個人的な空想の域を脱してはいないけど、今作を聴いて思ったのは五十嵐はバンド名の意味の一つであった「ぬるいままで好きな音楽を好きなだけやろう」というスタンスになっているんだと思う。楽曲はここ最近の流行りの音の要素なんて勿論無いし、五十嵐のルーツである80年代UKロックだったりとかの影響がやっぱり強い。でもそれで良いんだと思う。今のシロップのモードは完全に気ままに好きな音だけ奏でたいってモードであるがこそ、今作は純粋な作品であり、そして聴き込む程にゆるやかに浸透していく。結局は根底としては何も変わっていないって安心感があるし、「Hurt」と違って肩の力が抜けているからこそ五十嵐の伝家の宝刀である甘く美しいメロディセンスが見事に光っている。
今作のリードトラックである第1曲「冷たい掌」も転調こそあったりはするけど、コードワークはシンプル極まりないし、切なさ溢れるラブソングになっている。北田氏のベースラインのセンスはやっぱり天才的であったり、大樹ちゃんのドラムは荒々しく猛る訳では無いにしても、シンプルであるからこそ強くもある。何よりも五十嵐の歌が本当に優しい。今作の中では異質でロック的で刺々しいギターワークが光る第2曲「vampire's store」もそんな優しさがあるし、攻撃的なサウンドではあるけど、禍々しくは無いし、自然体のシロップのロックだ。
「オーオーアアエー」なんてボーカルで思わず笑みが溢れてしまったインタールードである第3曲「songline」を挟んでの後半の2曲は特に素晴らしい。第4曲「Thank you」なんてタイトルがもうらしく無いんだけど、歌詞も曲も完全にシロップ。やっぱり地味だなーって思いつつも、風通しの良い疾走感だったりは再結成後のシロップの中で大きなファクターなんじゃないかなって思ったりもする。爽やかではあるけど、でもちょっとだけドロっとしていたりって言うのが、シロップの諦めの悪さそのままなんだ。そして第5曲「To be honor」はシロップの解散前と再結成後という区切りを作った上で、完全に再結成後を象徴する屈指の名曲になっているだろう。諦めを言葉で羅列していると思わせといて、でも先にゆっくりと歩いていくという意思を歌っている様にも思えたし、解散前の楽曲で言えば「イマジン」とかに近いサウンドでありながらも、ドロドロはしていないし、五十嵐の歌はやっぱ不安定でもありつつ、でも話しかけるようでもある。気が付けばこの曲が頭の中でずっとリフレインしているし、壮大でも無いしダークでも無いけど、これが再結成後のシロップの新たなるスタンダードなんだと思う。
何となくだけど、今作は五十嵐が再結成以降のシロップを新たに作っている段階の作品であると感じたし、解散前とは色々と状況も違うからこそ、現在進行形でのシロップを新たに構築している最中だと思うのだ。だからこそその再構築が完了した時にシロップはまた凄まじい作品を生み出すと思うし、どうしても解散前のシロップが神格化されてしまっているからこそ、色々と思うことがある人は多いのかもしれないけど、でも今作の楽曲たちは間違いなくシロップ以外には作れない曲ばかりだし、静かにゆるやかに、でも確実にシロップは歩み続けている。だからこそ地味ではあるが、不変的な名曲ばかりの作品だ。
■KEEP AND WALK FEST 2015(2015年5月23日)@新宿LOFT
・PALM
タイムテーブルが発表された時点で先ず狂気の沙汰だと思ったのは一発目がいきなりPALMという来た客を完全に殺しにかかるっていう出順だ。しかもバーステージって完全に地獄しか生まれないだろうと思っていたけど、実際にはやっぱり地獄だった。一週間前に二万でPALMを観て、そこから間をほぼ空けずに観たけど、何から何まで絶好調!!いつも通りのカオスでヘビィなPALMでしか無かった。トシさんは何度も客にマイクを向け、ハナからフロアに飛び出すという絶好調っぷりだったし、歪みまくった音のみで観る物を興奮させるステージは流石PALMとしか最早言い様がない。勿論初っ端から腕グルグルモッシャーが大量発生する始末だし、この長丁場のイベントで体力を温存させる気なんてこのバンドには更々無いし、いや最初からフルスロットルじゃなきゃダメだとばかりのハイボルテージ極まりないライブに失禁必至だった。セットこそ二万の時とほぼ変わらなかったと思うけど、常にヴァイオレンスさを追求し、それを極め尽くしたサウンドなのに、フロアはみんな汗だくになりながらも笑顔を溢れさせる世界で最もピースフルな音の暴力をPALMは放ち続けている!!だからこそPALMは格好良い!!初っ端から魂を焼き焦がすライブに燃えるしか無かったぜ!!
・weepray
本当にライブを観るのが久々で今回一番の目当てだったかかもしれないweepray。なんか阿武氏が完全に黒魔術師な衣装になっていて、もう既に異様な空気を漂わせていたけど、ライブは最早完全に葬式であった。セット自体はいつもと変わらない感じではあったけど、より音の全てが触れてはいけない場所に平然と触れてしまうような、タブーを容易く侵してしまう様な、そんな背徳感に満ちた空気を今のweeprayから感じるし、これまでは尻上がりに調子が良くなっていくって感じのライブが多かったけど、この日は頭から完全にキレまくっていたし、それぞれのメンバーはやっぱり普通のありきたりなフレーズを絶対に奏でない。バンドが持つ世界観がライブでより高い次元で表現出来る様になっていたし、年末リリース予定の1stアルバムに向けてバンドが完全に次のモードに入っているのを感じさせるライブだったと思う。やっぱり「この手とその手」のブルータルなサウンドは痛烈だし、最早既存の激情だとかカオティックと全く相容れないバンドになってしまったと思う。やっぱり圧巻だったのはラストの「彼岸花」だろう。赤塚&小室のギター隊が完全に全てを終わらせる音しか放たないし、笠原氏の言葉が全て毒の様にLOFTを埋め尽くす。阿武氏は最早時にベースを弾くのすら放棄して演技めいた動きまでしてしまっているし、見てはいけない物を見てしまった気分にすらなってしまった…新曲こそ聴けはしなかったけど、久々のweeprayはやっぱりweeprayでしか無く、本気で死すら肯定してしまいたくなるレベルで暗黒だ。
・反好旗
色々な場所でその名前は聞いていたけど実際にその音に触れるのは初めてだった反好旗はとにかく熱いライブをかましてくれた。歌詞もメッセージ性の強い日本語詞で語り調のボーカルから叫びまでを駆使し、その熱きメッセージをフロアに全身全霊で伝える姿は好印象。しかしそのサウンドは他にこれっていう形容が全く出来ない物でもあった。実際に楽曲によってやっている事は完全にバラバラでストレートなエモティブな楽曲もあれば、ポストロック色の強い曲もあり、果てはレゲエまで取り入れた楽曲もありと曲によってアプローチが全然違う。でも根底として存在している要素としてどの楽曲も非常にメロディアスで青臭いサウンドが常に存在しているし、あれだけ滅茶苦茶に色々やりながらサウンドにバラつきや散慢さは全く無く、全ての音が熱苦しいハードコアパンクに帰結しているというのは実は凄い事だと僕は思う。不純物全く無し!ひたすらに男臭いハードコアは予想以上の物だったし、痺れた!!
・BB
最早このバンドのメンバーそれぞれのキャリアが色々凄いけど、ぶっちゃけそんなのは知らなくて良い。DESSERT,
MINOR LEAGUE、WRENCHというキャリアが既にレジェンドレベルだけど、BBはそんな猛者が現在進行形でこれまでのキャリアで一番の音を鳴らしているバンドなのだ。カオティックやヘビィネスといったらそれまでかもしれないけど、でもそんな枠組みはBBには必要無い。ゼロから時代を作った猛者が持つ空気感こそあるけど、懐古主義に走らず、老害にもならず、2015年に必然として存在するヘビィロックがBBだ。RYUJIさんのボーカルもキレまくっており、ダークでヘビィでありながら退廃的なメロディを生み出すギターリフとバッチリ噛み合った怨念めいていて耽美なボーカル、声量も半端無いし、ドス黒い闇の奥底からうねり上げる声の力が凄い。トライヴァルさを感じさせる変則的でありながらも、ロックとしてのノリやグルーブを持つリズム隊もやはり積み重ねたキャリアの凄みを活かし、それを現在進行形で凄まじいサウンドとして生み出しているからこそだし、確かに渋いサウンドではあるけど、でも痛烈でいて禍々しいヘビィロックの混沌。他に似た空気を持つバンドははっきり言ってほぼ皆無だし、BotchとかTOOlに近い空気を持ちながらもそれとは結局違うし、完全にオリジナルでしか無い!!赤い照明に照らされる4人が生み出すダークサイドヘビィロックは世界を暴き、爆発した瞬間に世界を終わらせてしまうんじゃねえかって緊張感と恐怖感すらあった。今回のイベントでは異質なバンドだったかもしれないけど、他の出演バンドが白旗上げるだろうって完膚無きまでの圧倒的アクトだった!!
・EDGE OF SPIRIT
前半戦ラストはEDGE!!もう予想通りだったけど、初っ端からいきなりピットの治安が悪くなるし、腕グルグルモッシャー大量発生!!しかしEDGEも時代を築いたバンドってのもあるけど、メタルコアってカテゴライズすら嘲笑うかの様に最高にハードコアなライブしかしない。ストイックに自らの音を強くし、時には非常にメロいギターソロもあり、刻みまくりなリフの中に確かに感じられる微かな叙情的風味、でも帰結する先は最高に重くて強いハードコアでしか無い。shoさんも「お前だけのダンスを踊ってくれ!!」と煽りながら腹の奥の奥から吐き出す凄まじいボーカルで湧かせる!!EDGEはいつ観ても安定感溢れるライブをするけど、予定調和なんて何も無い!!ズクズク刻まれるツインギターと怒涛のビートと鬼のボーカルが生み出す本物のサウンドは説得力に溢れ、観る物を鼓舞しまくる!!ピットは常にモッシャーで溢れて完全に危険地帯と化していたし、理性を完全にブチ壊す音の数々に震えるだけでしかなかった!!やっぱりEDGEって別格のバンドだよ!!いやいや圧倒的過ぎた!!
・ENDON
インターバルを挟んで後半戦はメインステージのENDONから観る事に、先日のBorisとの伝説の2マンのテンションをそのままにこの日もrokapenis氏の照明とのコラボ。ステージはストロボの照明で照らされていてメンバーの姿も神々しさを感じさせる物だったが、音の方も絶好調に脂が乗りまくっていた。最早暴力的パフォーマンスで話題を呼んでいた頃のENDONは完全にいなかったし、そのヴィジュアル面でも拘ったステージングもそうだけど、ノイズやハードコアという文脈からもっと多方位にアプローチをするバンドに完全に化けた。言ってしまえばアースダムでやってもユニットのクラブイベントでやっても、この日みたいにLOFTでやっても全然違和感の無いバンドになったという事だ。セットもショートなハードコア色が強い楽曲ばかりで攻めるセットながらも、ノイズをガンガン使いまくりながらも、ハードコアなカタルシスを大切にし、また音響面でも各楽器の音やノイズサウンドが非常に明確でクリアに聞こえて来たのも凄く大きいし、ENDONを知らないお客にも良い意味で分かりやすく伝わった筈だ。だからと言って日和った音には全然なっていないし、強烈な破壊的サウンドをもっともっとオーバーグラウンドへ放つという明確な意志が今のENDONにはある。だからこそ本当に強いバンドになったと思うのだ。ENDONの行くす末は最早誰も分からないと思うけど、いやだからこそENDONもまた唯一無二の存在なのだ。
・ENSLAVE
EDGEなんかとは方法論こそ違うけど、こちらも本物のハードコアバンドであるENSLAVE!!しかしながらここまでハイボルテージなライブをするバンドって他にいない。JEEPさんとPGさんの最強ツインボーカルは今日も限界知らず!!アンセムしか存在しないENSLAVEの名曲達を雄叫びだけで叫び上げる二人の最強フロントだけじゃなく、楽器隊の4人の演奏の熱量もやっぱり凄まじい!!泣きに泣きまくったツインギター、ハードコアのビートを完全に熟知しまくったリズム隊、音割れ上等!爆音上等!!と言わんばかりだし、「Under Ther Isolation」や「Only I Can Judge Me」といったアンセムはこの日もフロアに多くの拳を突き上げさせてくれた。ENSLAVEは既存のハードコアにノーを叩きつける存在でありながら、どこまでもハードコアパンクなバンドだし、日本語で叫ばれるメッセージも、悲哀を感じさせながらも闇を切り裂くギターも、バンドとしての圧倒的筋力も何から何までハードコアでしか無いし、何度観ても泣きそうになるレベルの感動を与えてくれる。ハードコアパンクという信念だけを武器に戦い続けるその姿は汗塗れでありながらも最高に格好良いし、だからこそENSLAVE is ENSLAVEなんだろう。
・isolate
昨年はKEEP AND WALKから1stアルバム「ヒビノコト」をリリースし、最早KEEP AND WALKとは切っても切れない存在であるisolate。勿論今回も機材持ち込みで気合は十分!!昨年のリリースツアーを終えて今年も何だかんだライブをやっていたりもしたけど、本当に貫禄と余裕がライブにも出てきているし、暗黒ツインギターのトレモロの数々、安定感も凄まじいけど、何よりも音が一々重過ぎる鉛みてえなブラストビートも全力で放っているけど、最早王者の貫禄だ。安藤さんはなんかいつもと違うテンションで「遊ぼうぜ!!」なんてフロアを煽ったりもしていたし、セットも新旧織り交ぜた内容でありながらどの曲もより音に厚みと重みが増している。最早アンセムと化した「狂う影にあわせて」なんて完全に突き抜けきっていたし、「ヒビノコト」の楽曲もツアーの時とは曲順も変えていたりしたけど、バンドの表現が確固たる物になったからこそ、昔の楽曲と交ぜたセットでも完全にライブの中で一つの流れを生み出すまで至っていたと思う。ラストは安藤氏が「ハッピーになんか終わる訳ねえだろ!!」と叫び、やっぱりおいつも通り暗黒轟音が吹き荒れて終幕を迎えた。こうしてツアー以降のライブを今回ちゃんと観たけど、もうバンドは完全に次のモードに入っているし、だからこそ新曲を早く聴きたいと思うし、漆黒の轟音がこれから先どんな輝きを見せるか心から楽しみにしたい。ライブ自体は暗黒でありながらも、バンドに未来を想起させるライブでもあったし、isolateのこれからが本当に楽しみだ!!
・deepslauter
柏から世界一ハッピーな混沌を生み出すdeepslauter。30分で12曲近くに及ぶセットだったけど、最初から最後まで笑顔が絶えないライブだったと思う。一曲目の「RIP OFF」からラストの「FIX!!!」まで飛ばしに飛ばしまくっていた!!ギターのオガワさんが眼鏡を忘れたらしくMCで視界が水中の中みたいだなんて言ってたりもして、というかいつものライブに比べてMC凄いしていた気もするけど、サウンドは兎に角キレッキレだし、瞬発力とキャッチーさを武器にしたdeepslauterのサウンドは本当に混沌としていながらもどんな場所であろうと最高のパーティを作り出す原動力になっている。オサムさんに至っては隅にあったポールを持ち出したり、平然とバーステの横の手すりみたいな部分にサーフされていったりといつも以上に暴れまくっていたし、勿論フロアはみんなしてモッシュ。deepslauterって昔からそうだったけど、今は本当に観る人の脳細胞を覚醒させながらも、その危険信号でいかに人をハッピーに出来るかみたいなバンドになっていると思うし、ハチャメチャ過ぎるパフォーマンスも含めて本当の意味で混沌を生み出しながらも、同時にダンスするバンドでもあるんだ。ハードコアから世界を笑顔にするdeepslauter、彼等の底力はこの日も発揮されていたよ。
・wakamiya
バーステのトリはwakamiya!!ライブは少し久々に観る事になったけど、こんなにも頼もしいバンドになっていたとは!!勿論持ち前の青臭さ全開の激情はより精度と説得力を増していたりもしたけど、何というか本当に多くの人々の感情を受け止めるだけの大きさと強さを持つバンドになったと思う。「陽引ノサダメ」、「狼煙」の序盤の二曲でもうガッツりと心をキャッチさせられたし、ポストロック等の要素を持ちつつも今のwakamiyaは何処までも不器用でありながら純粋で真っ直ぐなバンドだと思う。それはフロアの無数に突き上げられた拳が物語っていたし、汗だくで全力であり、青きメロディと共に放たれる言葉が胸を貫きまくる。ラストの「水無月」はやっぱり今のwakamiyaを象徴する名曲だと改めて思ったし、激情系という括りで語られる事にノーを突きつけ、もっと純粋な感情のメッセージは熱さしか無い!!そして本編が終わってからのアンコールの「akaridori」は名曲たちで畳み掛けてからの止めの一撃だったし、シンガロングパートでフロアの人々のシンガロングが響き渡る光景は凄く感動的で泣けてきた。wakamiyaも紛れも無く「歩き続ける」バンドだし、だからこそwakamiyaがバーステのトリを飾ったのだろう。未来を照らす輝かしい音の結晶は本当に眩くて素敵だったよ。
長丁場だったし全バンドを観た訳じゃ無いにしろ疲労がかなりあったので、wakamiyaが終わってLOFTを離脱したけど、真昼間から夜まで爆音を浴びた疲れは何処か心地良かったりもした。今回KAWのイベントには初めて足を運んだけど、シーンの新たな息吹を感じさせるイベントだったし、ボーダーレスに熱いバンドが熱いライブを繰り出していたと思う。普段行くライブとはまた客層が違ったりしたのも新鮮であったし、新たな音楽との出会いの場として素敵なイベントだったと思う。これからもKAWには色々と仕掛けていって欲しいと思う限りだ。
■The Sense Of Wonder/Detrytus

Detrytusとは正に未知な衝動を鳴らすロックバンドである。Dischordサウンドという言葉じゃ元々片付かないバンドではあったけど、2015年にリリースされた2ndアルバムはよりバンドが他と比較する事が不可能な「孤高の存在」になった事をアピールする作品であると同時に、紛れもなく最高のロックアルバムとなった。アルバムタイトルは「一定の対象、SF作品や自然に触れることで受ける、ある種の不思議な感動」って意味らしいけど、正にそんなタイトル通りの作品だと言えるだろう。またパッケージはCD/LP共に箱型特殊パッケージで箱にはナンバリングも記載されている。そんなDIYなパッケージも滅茶苦茶熱い。また録音はex-CRYPTCITYのセブロバーツの手による物。
しかし今作は何度も繰り返し聴いてもその全容が掴めない作品だ。決してアバンギャルドな事もしていないし、難解な事をしている訳でも無い。寧ろ3ピースという編成の無駄の全く無いサウンドフォルムと緊張感を最大限に生かしたヒリヒリしまくったオルタナティブロックアルバムだと言えるだろう。3人の音の化学反応がセブのオルタナティブを熟知したレコーディングによってより尖ったサウンドへと変貌している。でも何だこの既存の音と全然感触も違う異質さは?DischordだとかHooverだとかも影響は確実にあるとも思うけど、その形容だけじゃ彼等の音を上手く形容出来ない。しかし生々しい程にドキドキしてしまうこの音は何なんだろうか?
ハナの第1曲「Essence Of Life」から異様なオルタナティブが炸裂しまくる。ベースラインが一々極太で揺らぎを生み出し、ドラムのビートも実際結構シンプルであったりするし、グルーブだけ取ればある意味では凄くノレるし、踊れる音になっているだろう。でもそこに乗るギターは極端に歪んでいる訳でも無いし、空間系エフェクターの音が強く、ある意味無機質な程に鉄の感覚が溢れている。分かりやすくバーストしないのに、背筋が凍りつく冷たさの奥の熱が確かに存在し、ディスコダンスでありながら、越えちゃいけないギリギリの綱渡りの感覚を聴いていて覚える。第2曲「State Of The Masses」はもっと分かりやすいディストーションサウンドが前面に出ているし、ドライブ感もある、でも鋼鉄のビートを繰り出し、終盤ではベースラインが完全に楽曲を支配し、ギターのエフェクトがより不気味に噴出するパートは何度聴いてもハッとさせられるけど、でも分かりやすい高揚とはまた違うカタルシスも確実に存在しているのだ。
第4曲「Policy」なんて疾走感に溢れたロックナンバーであり、そのサウンドは紛れもなくロックでありながら、ギターのコーラスエフェクトなんかはSSE辺りのロックバンドが持つ妖しさに満ちているし、ロックの初期衝動と共に、ロックが持つ得体の知れない妖しさをシンプルな曲だからこそ出せるのは本当に強い。第5曲「Sand Dune」の極端に音数を削りまくったからこそのミドルテンポのうねりの螺旋階段はポストロックの領域にまで達しているけど、その反復するサウンドの行き先はやっぱり不明。第7曲「Heavier Things」や第8曲「Make Void Or Empty Of Contents」に至ってはdip辺りがやっていても全然不思議じゃないサウンドだし、そのクールネスに痺れてしまうだろう。そして最終曲「Shine」で10分近くにも及ぶ不気味な静寂のサウンドから底なし沼に落とされるだろうエンディング。最初から最後まで未知に触れた瞬間の衝動と感触を完全に音で表現している。
本当に沢山の音が出尽くしている2015年にここまでドキドキする音を鳴らす作品が出てくると思っていなかったし、斬新な事やアバンギャルドな事をするのでは無くて、自らのルーツを完全に消化し、バンドのアンサンブルを細胞レベルまで極める事によってヒリヒリしていて全容が掴めない、でもロックのカタルシスに溢れた作品を生み出したDetrytusには本当に拍手喝采だ。何処にも属さないからこそ自らをより未知のモンスターへと変貌させていくDetrytusは2015年の正しいオルタナティブロックを鳴らしているし、誰にも媚びず、誰にも迎合しないからこそ、ロックバンドのまま完全なるオリジナリティを獲得している。
■カイホウ/kallaqri

青森を拠点に活動するツインベース激情系ハードコア5人衆kallaqriの恐らく多くの人が待ちに待ってただろう単独音源。2曲入りシングルではあるが、このバンドがいかに異質で狂ったバンドかが分かる作品になっているし、05年結成と活動歴自体は結構長いのに、まだ多くの人に知られていないというどうにかしなきゃいけない状況というのが今作のリリースで大きく変る筈だ。アートワークはちくわしなちくちくわの着火林氏が担当!
音楽性は90年代のUS激情辺りの影響を色濃く感じさせる物になっており、荒々しく刻まれたリフと多展開サウンドはそれらの影響下にあると思うし、一見すると正統派なサウンドのバンドだと思うかもしれない。しかしこのバンドは兎に角使っているコードが兎に角気持ち悪さしかない。第1曲「最も容易で効率的な手段」が2分未満で多展開のプログレッシブな変態性と暴発サウンドでkillie辺りのあの音が好きな人には間違いなくストライクだと思ったりするけど、曲の序盤で突如として入り込むクリーントーンのアルペジオの不協和音、兎に角心が不安になる。感情に訴えるエモーショナルなパートを盛り込みながら正統派なエモヴァイオレンス感じを大事にしているのに、リフから汲み取れるメロディが不安を煽りまくっている。
第1曲は名刺代わりにお見舞いされるストレートでエモティブな楽曲なのに既に色々得体が知れ無さ過ぎるんだけど、第2曲「箱庭」がとんでもない名曲だ。約7分版という第1曲とは対照的に長尺の楽曲になっているが、序盤のアルペジオの調べから壮大さやメランコリックさ皆無!!独自のメロディセンスを活かして輪郭の掴めない異様さをアピールしている。そして激の暴発のパートに入ると圧倒的情報量で目まぐるしく異常な世界が展開される。カオティックなギターフレーズが楽曲を引っ張り、ツインベースのリフが重たく突き刺す、変態性全開なプログレッシブなパートも、極悪なビートダウンも盛り込み、でも泣きのパートではしっかりと泣きのメロディを聴かせて来たり、かと思えばまたエモヴァイオレンスな残酷な音が襲い掛かり、そして後半からは序盤で聴かせたあの不気味なアルペジオを基調に進行し、ノイジーなサウンドが吹き荒れる中で、感動的で叙情的なラストなんて全く見せず、蠢くエネルギーの暗黒さだけが充満する。
アグレッシブな多展開サウンドも、変則的な楽曲構成も、実際は全然目新しい訳じゃないし、寧ろこのバンドの基盤になっているのは90年代後半から00年代前半の時代の激情系やエモヴァイオレンスだったりすると思うんだけど、それをより混沌の中で分解し、そこに奇怪過ぎるメロディを加えた事によってよりおぞましい音に仕上げたと言えるし、2曲入ながらもインパクトはかなりある作品だ。是非とも早くフルアルバムを聴きたいし、そのフルアルバムは間違いなくシーンに一石を投じる作品になるだろう。Orchid、Kaospilot、killie、Off Minor辺りが好きな人は絶対にマストだろう。また音源の方はバンド側の通販だったりSTMや礎や各種ディストロで入手可能となっているので是非チェックを!!
■none but air [at the vanishing point]/none but air [at the vanishing point]
![none but air[at the vanishing point]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/31hNoqR78wL._SS200_.jpg)
2010年結成の京都の若手激情系ハードコアバンドnone but air [at the vanishing point]の1stEP。Tokyo Jupiter招聘の外タレ公演のサポートも務めているし名前を知ってる人も地味に多いと思うが、今作が初の正式単独音源。リリースは少し意外ではあったけど静岡のfurther platonicからで500枚プレス。
僕は今作で初めて彼等の音に触れたけど、元々はインストバンドだったらしく、そこから現在の激情系ハードコアのスタイルになったらしい。そしてサウンドの最大の特徴はプログラミングを駆使しまくった壮大で宇宙的なサウンドだろう。バンドサウンドとしてはポストロック要素も盛り込みつつも、基本的には激の要素を全開にしたサウンドであり、そこにストリングス等のプログラミングを加える事によってオーケストラの様なサウンドスケープを作り上げている。初期のheaven in her armsとライブでのバンド編成でのworld’s end girlfriendとドイツのエモヴァイオレンスを自然な形で配合させたらこうなったという感じだろうか?でも個人的に凄い好感が持てるのはこの手のバンドはクリーントーンサウンドに走りがちではあるし、それでスケールを生み出すという手法は最早鉄板だし、彼等もそんな手法を用いているけど、でももっと根底としては激の部分がかなり色濃く出ているし、そこにプログラミングの色付けによって激の中でスケールを膨張させているって事だ。
引きちぎる様なギターストロークと時計の針の音のプログラミングが見事な始まりを告げる第1曲「終幕」から先ず素晴らしい。約7分間の中で楽曲は組曲の様に展開し、激情系のエチケットとも言えるトレモロフレーズやクリーンなアルペジオといった要素もガンガン出てくるけど、すり減らしまくったボーカルとん半ば叫ぶ様なポエトリーはかなり印象深いし、好き嫌いは分かれそうだけど、悲壮感は全開。確かにHIHAといったバンドの影は見えるサウンドかもしれないけど、このヴァイオレンスな生々しさは堪らないし、唐突にブチ込まれるヴァイオレンスなパートの中にはドイツのエモヴァイオレンスの影響も感じたり、第2曲「憧憬 I」はそんなエモヴァイオレンス感がより強く出たりもしているけど、それでもスケールは全然失われていないし、第3曲「回想」は前半のエモヴァイオレンス成分とイタリア激情成分を和製激情として消化したヘイトの暴発から後半のクリーントーンからのスケールアップもベタだけで中々の物。ピアノフレーズと激なサウンドが疾走する第4曲「憧憬 II」も素直に格好良い。このバンドはストリングスやピアノといったプログラミングがかなり大きな肝になっているし、それがバンドサウンドに完全に溶け合っているのは本当に大きいし、より感情に訴えるサウンドを生み出している。
特に終盤の2曲は屈指の名曲で、第5曲「閉鎖」は悲痛な叫びと化したポエトリーが完全に極まっているし、プログラミングのピアノとストリングスもよりスケールアップ。何度も何度も「答えてよ!答えてよ!」と訴える叫びと叙情性溢れるギターフレーズが本当に涙腺崩壊サウンドとなっているし、今作でも一番のダークな痛さに満ちている。そして最終曲「六月、雨と相反する」ではストリングスも完全に激情仕様。加速しまくるバンドサウンドと共に何度も何度も爆発を起こし、ドラムンベース的なビートを叩き出すドラムが疾走し、轟音と美旋律と激が宇宙へと飛び立って行くロケットとなり、闇から微かな希望へと飛び立つ高揚感に溢れ、そして最後の最後でまるで映画のエンドロールの様な美しい幕引き。文句の付けようなど全く無い。
「envyやheaven in her armsの影響系だろ?などと是非舐めてかかって欲しい。」なんて色々と喧嘩売りまくったリリースインフォもあるけど、でも本気でそう思う。「またこの手の芸風でしょ?飽きたわ(笑)」なんて思っている人程恐らくぶっ飛ばされるだろうし、これまでの歴史を踏まえながら彼等はその先を間違いなく鳴らしている。間違いなく時代は塗り変わっていくし、その中で彼等は未来でも決して失わない輝きを持っている。超速で目まぐるしく変わっていく情景の数々と共に、その感情と景色の一番純粋なエッセンスを彼等は最も正しいやり方で描いている。個人的には東京のlang、青森のkallaqri、そしてこの京都のnone but air [at the vanishing point]が激情の新時代を作り出していくと信じているし、「今のバンドはつまんね(笑)」みたいにほざいている老害共をブチ殺してくれると確信している。
■[DEAD BEAT] release tour FINAL & GUEVNNA 1st EP [Conspiracies] release party(2015年5月17日)@東高円寺二万電圧
・REDSHEER
いやいやトップからREDSHEERって完全に殺しに来ている。ライブを観るのは先月のバベルでの自主企画以来。この日のREDSHEERは正直前半はあんまり調子が良くない様にも見えて、バンドのサウンドにいつもの様な複雑怪奇に絡みながらも一個の化物として統率されたカタルシスがあんまり感じれなかったし、「Yoru No Sotogawa」もいつものキレが少し無く感じたし、ステージで演奏するする三人の表情や様子を見てもそれは伝わってきた。しかし「Blindness」でいつものギアに入り、ライブで聴くのは久々な「The End,Rise Above」で完全に取り戻すどころか、前半の不調を帳消しにするだけじゃなくお釣りがくるレベルのアンサンブルへ。いつもより体感のBPMが遅めで、山口さんのギターもいつもより低域がエグく、後乗りなヘビィさのある物に、それがラオさんの後乗りで爆音和製ポリリズム全開なドラムと見事にハマるハマる!!小野里さんもボーカルの調子を完全に取り戻していつもよりも更に狂おしさ全開なボーカルを聞かせる。そしてラストの「Silince Will Burn」で完全にいつも通り鉄壁のREDSHEERへ。ラオさんのタム回しもキレてたし、アルペジオ地獄からのカオティックな爆発はやっぱり最高だった!!今回は前半こそいつもより調子が悪く感じたけど、後半は見事にREDSHEER節炸裂だったし、やはりこのバンドは只者じゃ無さ過ぎる!!7月にいよいよ全世界を爆破させるだろう1stアルバムもリリースだし、震えて待つしかない!!
・GROUNDCOVER.
最早ダブでも無く、エクスペリメンタルでも無く、異次元の魑魅魍魎の集合体が増殖と融合を繰り返したすれに宇宙すらも飲み込んでしまった様なライブだった。いや久々にGROUNDCOVER.を観たけど、このバンドには果たして限界なんて物があるのだろうか。相変わらずステージのド真ん中に設置されたミキサーの威圧感と両サイドのドラムとパーカッションの要塞感にも目が行くけど、ダブからノイジーさを膨張させ、そして6人がハイテンションで繰り出す音によって時空すらトランスさせてしまうのは今のGROUNDCOVER.ってバンドだし、そもそもただでさえ音がデカイバンドしか出てないイベントなのに、この日ダントツの音量のデカさだ。望月氏もミキサー操作しつつも、結局完全にラリったテンションで叫んでいるし、ツインドラムの呼吸は完全にシンクロしている。というかもう言葉に出来ないし、一気に爆発を繰り出したと思ったら、揺らぎのサイケデリアへと引きずり込まれるし、こと思ったらジャックなパンクサウンドが炸裂し、でも結局は最高に気持ちの良い場所で一番デカイ爆発を起こす。ラストはギターの人がパーカスにギターブン投げたり、望月さんが勢いあまってミキサーひっくり返しそうになったりと混沌のまま終わったけど、本当に言葉に出来ない新たなる体験をこのバンドは常に生み出している。
・The Donor
ライブを観るのが久々だったし、本当に観るのが楽しみだったDonorは何処まで爆音を極めれば気が済むんだってはっきりと言いたい。このバンドがメタルだとかハードコアだとか関係無しに、あらゆるクロスオーバーを続けながら最強のヘビィロックバンドであり続けているのはもうご存知だとは思うけど、ひたすらに強さしかない。この日の出演バンドの中でも一番の強さだった梶原さんのドラムは手数も多いのに、一個一個の音が完全に鈍器。MAXさんのマーシャルキャビ二段積みの爆音ギターリフも絶好調!!曲もかなりガッツりやってくれたし、そのどれもがやはりキラーチューン!!Donor流激情アンセム「Shine」を割と序盤でプレイしていたりと兎に角飛ばしまくる!!梶原氏のMCと何回かのチューニング以外は音はほぼノンストップであったし、歪みまくりながら半端じゃない推進力で爆走するサウンドは最早ロックンロール!!というか重低音が本当にエグ過ぎてDonor観ている途中から内蔵が震えるのを本気で実感してしまうレベルだったし、本当に危険極まりない音なのに、それをずっと浴びていたくなってしまうのはDonorってバンドの本当に最大の魅力だと思っている。そんなヘビィロック天国から最後の最後に「Keshite」で鉄槌の様なサウンドでその地獄の中の天国すら破壊、そして煉獄エクスタシーへと変えてしまうんだからDonorってバンドはどこまでも凄い。最早神々しさまで感じるレベルだし、ぶっちゃけDonor終わった時点で「今日のライブこれで完全に終わりです!」って言われても俺笑顔で帰ってたよ。というかもう何か色々凄すぎた!!
・REDNECKS
今日の面子の中では一番ストレートなサウンドを放つREDNECKS。パンクもメタルもお構いなしでスラッシュしまくるサウンドは正に速さを追求しまくりながら確かなオリジナリティを発揮する物。そしていざライブが始まるとただただ光速のライブであった。ボーカルの人は何度もステージから身を乗り出して叫び、疾走しかしないビートとリフが遠慮なんか全くしないでギアを入れまくっていく。実際にライブも15分程度であっという間に終わってしまったし、兎に角速かったし早かったっていう単純な感想しか出てこないからアレだけど本当にそうだった。スラッシュメタルサウンドからハードコアパンクへと雪崩込み、爆裂爆走サウンドでハートに火をつけるREDNECKSは真っ当にハードコアであり続けるバンドだ!!
・PALM
大阪が誇る暴れん坊PALM!!ピットの治安を一気に悪くするこのパーティバンド、気が付いたらSPIRITUAL GARDENのT氏がベースで出戻り加入していたりもしたけど、しかししかしいつ観ても本当に底知れぬパワーしか感じない。カオティックとヴァイオレンスを正面衝突させるサウンド、怒涛のBPMから極悪ビートダウンまでも駆使し、徹底して重くサグい音しかこのバンドは出してこない。勿論フロアはウィンドミルにマイクジャックに腕グルグルにフロアベチョベチョと完全に治安が悪い事になっている。歴戦の猛者だけあって演奏の方も安定感とテンションが桁違いに飛ばしまくっていたし、安定感溢れながらも塊をブン投げてくる様な得体の知れなさもある。しかしながらこのバンドのテンションと混沌は本当に何処から生まれているのかいつも不思議で仕方なくなるよ。ただメタリックなだけじゃ無いし、ただカオティックんまだけでも無い、定番の名曲群もガッツり演奏してくれたし、ライブ自体は久々に観たけど更にパワーアップしてより凶暴強靭なバンドになっていた。しかしここまで観る人間を興奮へと突き落とすバンドは他にいないと思う。ピットこそ荒れに荒れまくっていたけど、そこにいる人々は勿論笑顔で拳を突き上げていた。
・GUEVNNA
PALMの地獄の後にダウンテンポのストーナーロックってゆっくりのんびり出来て良いかもなんて思っててすみませんでした!!確かにPALMみたいにピット荒れたりはしなかったし、ゆっくりじっくりライブを堪能しましたけど、全然脳は休まりませんでした!!この日のもう一つの主役であるGUEVNNAだけど、のっけからボーカルの人がステージ上で煙草吸ってたりと、いかしも「らしさ」を出しまくっている。そして正統派ストーナーサウンドでありながら、疾走よりも引きずるダウンテンポによるグルーブでじわじわと脳を昏睡させていく。極端に重いサウンドでは無いし、ドゥームというよりももっとブルージーなロック色の強いサウンドであるけど、いぶし銀でありつつも、確実に観る物を抉ってくる。音は確かにデカかったけど、極端に爆音に振り切っている訳でも無く、寧ろこの日出たバンドの中で一番耳には優しかったかもしれないと一瞬思ったけど大嘘だ。重低音が確実に内蔵を蝕んで来てたし、寧ろこういったサウンドの一番気持ちが良い場所を彼等は鳴らしている。そしてある種の懐かしさもある。30分間で酩酊と昏睡の中に気が付いたらいたし、それは地獄でも天国でも無い、感情移入出来ない新しい世界線に存在する次元の裂け目だったのかもしれない。
・NoLA
そしてツアーファイナルなNoLA。今回のツアーは都内での公演は何本か足を運んだし、約三年に渡って彼等を応援し続けて来たけど、本当にこれまでの集大成とも言えるライブだった。今年頭にリリースした「DEAD BEAT」の楽曲を中心に1srミニの曲もプレイするここ最近のセットではあったけど、言うならばバンドとして完全に脂が乗りまくっている状態になっていたし、集大成でありながらも現在進行形で進化を続けている事を改めて実感させられるライブとなった。ツインギターの切れまくった重低音、ベースレスでありながらもバンドとして円熟したグルーブとアンサンブル。サウンド自体は常に攻めの一択でありながらも、同時に多彩な武器を使いこなす無敵感、昔みたいな破滅的サウンドでは無く、破滅すらも積み重ねてしまえば新たな入口となってしまう事を今のNoLAは完全に分かっているんだと思う。Takeruのボーカルとパフォーマンスも絶好調だったし、ライブ自体は安定していつも通りのヘビィロックの純粋培養な悪意と狂気をフルで吐き出すライブではあったけど、でも観る物を燃え上がらせて昂ぶらせるロックバンドとしての華を今のNoLAは持っているから本当に強くなった。重さと強さをストイックに追求し、それでいて完全に魅せるライブを繰り返して来たからこそ辿り着けた境地だと思うし、もうNoLAはこのまま羽ばたいていくだけなんだと思う。そんな新たな希望を今回のツアーファイナルで感じたし、本当に文句無しで素晴らしいライブだった!!
この日の二万はただでさえ音がエグいのに、いつも以上に音がエグ過ぎて完全に地獄だったし、特に重低音の出がおかしい事になっていて、今回の面子に相応しい爆音地獄となっていたけど、そんな地獄が終焉した先にあったのは新たなる希望と多くの笑顔であり、最高のお祭りだった。出演バンドがそれぞれこれからも色々と面白いアクションをガンガンしていくだろうし、まだまだ新たなる時代が始まって行くのだと思う。何よりもNoLA本当にツアーお疲れ様でした。そして新しいアクションも楽しみにしてます。大団円で終わったツアーファイナルであったが、これは新たな時代の始まりの合図であり、時代は確実に動き始めているのだ。
■尖音/MiDDLE

LOVEMEN、LONGBALL TO NO ONE、international jet set、、LIFE INDIGATORとメンバー三人のこれまでのキャリアは色々凄いけど、このMiDDLEの1stフルアルバムの前じゃそんなのは関係無い。2010年結成、鶯谷WHAT`S UPを拠点に活動し、自主企画もこれまで精力的に行ってきた漢三人組MiDDLEの待望の1stアルバム。これまでスプリットやオムニバスへの参加はあったが初の単独音源であり、これまでのキャリアを完全に吹き飛ばしてしまうだろう爆音必携盤だ。リリースは四国が誇るIMPULSE RECORDSから。
「名は体を表す」なんて諺があったりするけど今作は正にその通りで、どんなアルバムになっているかと訊かれたら「尖った音しかねえ!!」としか答えられないし、というか尖った音しか本当に無い。サンディエゴ周辺サウンドや90年代ポストハードコア直系サウンドと言ってしまえば簡単なのかもしれないけど、それらを全て熟知した上でより尖った音を目指したのがMiDDLEだと言えるし、メンバーはそれぞれ長いキャリアを持つ方々であるにも関わらず初期衝動全開サウンドになっているのも流石だ。
メンバー3人全員がボーカルを取り、メインのボーカルこそブンさんが取っているけど、カワさんとナトさんもガンガン熱いコーラスワークをブチ込んでくる。最早ライブではアンセムともなっているキラーチューンである第1曲「BET」から完全に吹っ飛ばされるのは間違いないだろう。爆音で歪みまくったギターの暴発からソリッドさを極めまくったドライブしまくるリフの数々に完璧に殺されてしまうし、重い重低音を放ちながら爆走するベースのグルーブがよりドライブ感を加速させ、緩急を付けつつもやっぱり突っ走りまくるドラムのビートが激音をより加速させる。日本語詞でこれ以上に無い位に曲にハマる叫びを繰り出しまくり、シンガロング必至なコーラスも繰り出してくる。止める事なんて到底出来そうもない爆走サウンド!!これこそMiDDLEであり、尖った音しか許さない3人の漢が生み出すサウンドはクールであり汗臭く、兎に角熱い。
トリプルボーカルのボーカルワークを活かしまくり、ブンさんのギターワークが冴えまくる第2曲「青黒」、ジャンクでカオティックな音を繰り出しながら、アクセル全開の追いつけない激走リフとビートの応酬である第3曲「リセット」と今作には全くダレる隙は無いし、兎に角尖った音が突っ走るハードコアやロックという概念を超えた尖だけで構成された作品だ。だが単に衝動のままに爆走するのでは無く、不協和音だからけのサウンドワークの中に絶妙な歌心を存在させてきているし、ただ尖るだけでは無く、そのコード感にダークな悲哀もスパイスとして存在していたりもするし、爆裂さの中に渋さもありだ。第5曲「insanity」も容赦無く攻めるサウンドでありながら、今作でも屈指のサッドネス溢れるコード進行もあり、チョーキング駆使のギターワークの中には泣きの要素もある。そして最終曲「Solid crossing」も爆裂サウンドしか無い今作の中でも特にささくれ立ちまくったキラーチューンであり、激アツコーラスワークは今作でも一番ブチ切れ輝きまくっている。そしてラストの爆音の塊の中で各楽器が叫び散らす得体の知れない慟哭。もう堪らないだろ。
全7曲全く休まる暇無くバーストしまくるだけのサウンドは脳髄裂傷必至!!ダークネスやサッドネスといった要素も盛り込みながらも、それすらも自らの音をより鋭利に尖らせる材料にしてしまい、ただひたすらに尖る事だけを追求したサウンドは漢なら燃え上がらない訳にはいかないだろう。チャラさ皆無!!ただ硬派に自らの音を尖らせる事だけを病的なまでに追求したからこそ生まれた音であり、それは最早キチガイとしか言えない。もう色々な作品で使い回された言い回しかもしれないけど、Dlive LIke JehuをはじめとするサンディエゴサウンドファンやCOWPERS辺りのサウンドが好きな人、若手だとPlay Dead Season辺りのバンドが好きな人は絶対必携だし、というかうるさくて尖った音に飢えている人間は全員聴くべき作品だと思う。硬派で尖った漢達の最高にささくれ立った最高にロックンロールでパンキッシュでディスコダンスでハードコアな作品だ。
■ガサ入れGIG4 1st Full Alubum "コミューター" Release Party!!!(2015年5月9日)@新大久保Earthdom
・Cunts
何故かステージ前のフロアにドラムが設置されて先ずはドラムとボーカルだけのノイズグラインドっていうか最早ノイズでも無いじゃんなCuntsからスタート。本当にドラムとボーカルだけのグラインドで人によっては出落ち一発芸的な方法論に見えるかもしれないけど、ただ極限までアホを突き詰めたら最高のエンターテイメントになるんだってCuntsを観て思った。のっけから「どうもブルーハーツです。」とか「実はブルーハーツじゃ無かった。」とか一々笑いを誘う振りをするし、ブラストビートと叫びだけで爆笑と歓喜の渦に巻き込み、「Cunts feat EXILE TRIBE」とか「今から再結成ライブ」とか「残り53曲」とかゲロゲリの「パンクの鬼」的なアレで曲前に一々フロアを笑わせ、そして興奮に巻き込む。ノイズグラインドとはなんぞやって最早なってしまうスタイルではあるけど、客の野次すら笑いに変えて、本気なのか悪ふざけなのかフラーダムなのか最早分からない感じがまた良いのだ。ライブは予想通り10分ちょいとかで終了。最後はドラムの人がドラム叩くのすら止めて叫んでいて何のこっちゃな感じであったが、いざライブが終わるとフロアからは大きな歓声。馬鹿をここまで解き放ってやると最高にエンターテイメントになるって事なんですよ!!
・lang
おまわりさんとは旧知の仲であるおまわりさん曰く「チャラく無いエモ激情」ことlang。実にライブは半年振りとかだったらしく、ブランクもそれなりにあったとは思うけど、そんなブランクは全く感じさせないどころか、以前観た時よりも更にバンドはパワーアップしていたと思う。初めてlangを観た時は青臭いナードさと繊細さをどこか危なっかしく放っている所が凄く魅力的ではあったけど、今のlangは前とは比べ物にならない位に頼もしいバンドになった。勿論単純に佑磨さんが加入してツインギターになり音がパワーアップしたってのもあるけど、5人編成のサウンドもより一体感が増していたし、langの持ち味である最早フォークや歌謡曲の領域に達しているメロディセンスをフレンチ激情的美意識で味付けしてハードコアにしたサウンドは健在どころかより精度が高まっていたし、和田さんの叫びとポエトリーと言葉は心を抉る。曲を重ねる毎にバンドのテンションもアンサンブルも尻上がりに更に良くなっていき、終盤の必殺の名曲「常夜灯」は本当に凄みを感じた、和田さんの長めなポエトリーパートからの最後の最後の音が爆発する瞬間は本当にlangというバンドの爆発力と瞬発力が凄まじく、奇跡みてえに音が破裂していた。ラストの「調べ」では太田さんが勢い余ってフロアに飛び出したりもしつつ、本当に久々に観れたlangは最高だった!!間違いなく日本人にしか到達できないエモ激情の最右翼にlangはいるんだと思う。
・Final Exit
今年で結成21年を迎えるSu19bの菊池さんがドラムを叩くFinal Eixt。まだライブを観た事無かったし、一回ライブを観たかったけど、今尚ノイズグラインドのレジェンドとして名を馳せるだけある爆笑と興奮のステージだった。先ずギタボのヒサオさんのMCから始まって、それが4分位だったかな?話している事は今日電車に挟まれたとかGWにマザー牧場行ってきたとか本当に妙にほっこりする日常の事を話していて、それに対してやたら食い付きの良いレスポンスを返すフロア。そして実際ライブが始まるとそれがもう変幻自在過ぎるノイズグラインドだった。サーフロック・レゲエ・スカ等を取り込み、ノイズグラインド一辺倒じゃないサウンドを自由に行き来し、しかしエフェクターを踏んだ瞬間に極悪な重低音が空間を一瞬で埋め尽くした瞬間に一気にブラストしまくるビートのカタルシス。菊池さんのドラムもSu19bの時とは違いフリーキーかつ自由に勢い重視でブラストしまくり、Su19bで聴かせる重さを重視したブラストと違い、一気に光の彼方まで突き抜けそうな速さでありながら、変則的でフリーダムにドラムのビートを変えまくるという物、キャッチーでやたら間口の広い音を放ったと思ったら極悪ノイズグラインド、その落差にまた笑いと興奮が訪れる。何というか色々ズルさしか無かったし、最後は菊池さんがフロアにクラウドサーフを決めてライブは終了。MC4分、ライブ8分位の内容だったけど、ノイズグラインドを一つのエンターテイメントにしてしまっているという点もそうだし、Final Exitは凄かったとしか言えない。
・sajjanu
完全に予備知識ゼロで観たsajjanu。メンバーはサイケバンドやってそうな出で立ちでツインギターとドラムのベースレスインスト3ピースなんだけど、先ずは圧倒的な音数の多さと情報量にびっくりした。ツインギターが絡みながらも、マスロックをよりこってりとさせたみたいな突き抜け系豚骨スープみたいなサウンド、息がぴったり合った演奏をしていると思いきや、いきなり各パートの音が止み、妙な緊張感を孕んだ静寂からまた音数の暴力とも言うべき音に戻っていく。しかしその音は実際ちゃんと聴いてみるとより深みにハマりそうな具合に雑多で、カオティックだと思わせておきながら実際は凄くメロディアスであるし、メタリックなサウンドもガッツり入れながら、ハードコア的なアプローチも取り込んでいる。実際に滅茶苦茶楽曲は作り込まれていると思うし、でもそれをライブである種の即興性を感じさせる演奏で放つ事による本当の意味での予測不能な緊張感。凄まじく濃厚こってりなライブだったが、変態超絶技巧が炸裂しまくり、3ピースの新たな可能性を感じさせる音の切れ味の鋭さは堪らない物であった。
・INCAPACITANTS
国内ノイズ界では言うまでもなくレジェンドであり、最高峰の存在であるINCAPACITANTS。僕自身は音源でしか彼等を知らなかったのもあるし、ライブで実際にその実態を確かめたかったのだけど、もう実際にライブを観たらこりゃノイズ最高峰で間違いないわって感想しか出てこなかった。たった二人で無数のエフェクターを使い、何か手に持って動かしたりするとノイズが出る装置みたいなのを使ってノイズを発生させ、バンドサウンド全く無しでたった二人でノイズを生み出しているんだけど、30分弱のライブで単にノイズを垂れ流しにするのでは無く、地獄のノイズから一つの快楽を生み出していた。常に無慈悲に放出される重低音ノイズが実はサウンドのグルーブを形成し、音の変化によってビートに代わるノイズビートを生み出し、ハーシュノイズの変化によってノイズが色を変えていく。一見するとノイズの塊を放っているだけだと思わせて、実際はノイズというパーツでどこまでロックに近づけるかという実験と実践を繰り出していたし、だからこそ途中でフロアでモッシュが発生したりもしてしまっていた。その無慈悲な音は確実に脳を覚醒させるし、確実に色々開けちゃいけない部分をこじ開けてくる。30分弱の地獄が終わった瞬間に生まれたのは本当に大きな歓声であり、最後はコサカイさんがエフェクターが並んだテーブルをひっくり返して締め。最初から最後まで未知の興奮しか無かったし、ノイズによって生まれた濃霧の先にある何かを掴みとりたくて仕方なかった。そう思わせてくれるのはやはり本当に意味でキャリアを積み重ねたレジェンドであるからこそだ。
・おまわりさん
本日の主役のおわまりさんだけど、これまでで一番のライブだったかもしれない。前回代々木で観た時は正直いつもよりパンチが弱いなって思ってしまったけど、今回は全然そんな事無しどころか、前以上に音がエグさを増している!!ハナの「膨張」から暴力的ノイズが吹き荒れていて、そこからドゥーミーな静寂を得て爆発を繰り出すというおまわりさん印のサウンドが炸裂!!そういえば3年前に初めておまわりさんのライブを観た時も頭に「膨張」やってそれでブチ殺されたんだよなあなんて思い出したりもした。そしてハードコアパンクな楽曲も絶好調!!「ハヤシン」辺りの曲は瞬発力と爆発力が流石だなあって思ったし、ノイズサウンドを有効に使いながら、音をとっ散らかして爆発させるおまわりさん流のロックサウンドはキレまくり、松田さんと佐々木さんは何度もフロアへと乗り出していたり、風人さんはやっぱりフロアへ飛び出して暴れ叫んでいたりとパフォーマンスも絶好調!!「集合意識」なんかは最早おまわりさんのアンセムになっている感じもしたし、フロアは案の定というかやっぱりモッシュが起きていた。でも個人的には「膨張」もそうだけど、、おまわりさんは長尺の静寂と不条理の楽曲が本当に好きで、「コミューター」の静寂と無音すら緊張感と違和感で聴かせるサウンドは本当に何度も何度も息を飲んだし、てっきり最後は「集合意識」で終わりかと思ったら最後の最後におまわりさんの真髄とも言える「ハイパーインテリジェンツィア」にて10分近くにも及ぶ不条理な地獄。特にラストの松田さんのギターだけになってからの大爆発は本当に頭がおかしくなってしまいそうになったし、本当に凄い物を観たって思う。最後の最後に佐々木さんがベースを床に叩きつけたらシールドのジャックが完全に折れてたりもしたのも何かほっこりしたりしてしまった。そんな所も含めておまわりさんのこれまでの集大成的なライブだったと思う。
しかしこれだけ極端なバンドばかり集まっていながらアースダムは常に笑顔笑顔だったのも本当に印象に残っているし、良い意味で滅茶苦茶な企画だったからこそ生まれた特別な磁場も絶対にあったと思う。おまわりさん自体は今決まっているライブが終わったら、風人さんの海外武者修行によって暫くライブはお休みになるらしいけど、しかし絶対に今のメンバーでまた復活するって旨をオフィシャルで言っているし、その時にはよりパワーアップしたバンドになっていると思う。でもこの日のおまわりさんはこれまで積み重ねた物の集大成であり、本当に唯一無二のバンドになったと思う。国家権力の犬の名前をバンド名にしたふざけているのか本気なのか分からないこのバンド、これからもっと大きくて面白いことをやらかしてくれるって思ってるんだ。
■-DAIGHILA Japan Tour 2015-(2015年5月4日)@小岩bushbash
・sto cosi cosi
ブッシュバッシュに着いた頃にはトップバッターのsto cosi cosiのライブが既にスタートしており、ライブは10分位しか観れなかったけど、今回のDAIGHILA来日公演に相応しい荒れ狂うエモヴァイオレンスサウンドのっけから展開しまくっていたと思う。古き良き国産激情系の影響を大きく感じる多展開ダークサイドエモヴァイオレンスサウンドをもうその手の音が好きな人のツボをガッツり突いてくるニクいサウンドだと思うけど、持ち前のダークなサウンドを瞬発力全開で放つサウンドスタイルはkillieやTialaといったバンドに通じるものがあるし、ブッシュバッシュというハコとも相性抜群のサウンド。バンドとしてはまだまだ若手のバンドらしいけど、blue friendやUmberliteといった激情新世代のバンドが持つ温故知新さと、その先へと向かおうとする意志が確かに感じられるバンドだと思ったし、これから要チェックなバンドだと思う。しかし爆音でバーストしまくる音の破壊力は流石だったし、熱く燃え上がらせてくれた!!
・agak
Tetola93のメンバーさんが参加するバンドという事でライブで実際にその音に触れるのが楽しみだったagakだけど、このバンドは最新のエモヴァイオレンスの凄みを感じた。常にバーストしまくっているサウンドに先ずド肝を抜かれたし、同時にメロディセンスも確かに持ち合わせているバンドだとも思った。ブラッケンドな要素もサウンドの中に感じたりもしたけど、既存のブラッケンドとは違う方法論を持ち込んでいると思ったし、ブラックメタル独自の悲壮感をメロディに持ち込む事によるブラッケンドさは痛々しくて震える。目まぐるしくジェットコースターの様に展開していくサウンドの凄さもそうだけど、フックを生かしまくったサウンドはkillieやSTUBBORN FATHERといったバンドが好きな人には絶対にストライクな音になっていると思う。まだ音源も出してはいないバンドではあるけど、フックと多展開を生かしたファストなヴァイオレンスさはこれからガッツり追いかけていきたいと思ったし、その爆発力は凄まじい!!
・Curve
ライブを観るのは一年振りとかになったけど、小岩から世界を轟音で包むCurveのライブは相変わらず壮大な世界だった。3ピースという編成だからこそ生み出せるシンプルな力強さ。今回久々にライブを観て改めて思ったけど、本当にCurveのリズム隊は強靭さが凄まじい。羅氏のメロディセンスとソングライティングのスケールの凄みも勿論だとは思うけど、リズム隊の爆音のビートの強さが、羅氏の繊細な歌とギターワークを強固な物にしていると思う。今回のライブは4曲ほどプレイしたけど、少し観ない間にまたメロディセンスとバンドアンサンブルが進化を遂げていたし、シューゲイザーとエモの融合じゃなく、その融合地点の最も濃い部分をサウンドにしているからこその説得力。幽玄で壮大であり、涙腺を直撃しかしない感動的なライブは今回も健在。本当に優しくもありながらも、何度も何度もブン殴ってくる轟音のシャワーは喜びに満ちているし、Curveを観ていると本当にポジティブなエネルギーで溢れてくる。そんな説得力しか無いからこそCurveは別格の存在であり続けるのだろう。
・CYBERNE
そして今回国内バンドの中でも一番ライブが観たかったCYBERNE。最後に観たのは昨年の夏のアースダムでのライブ以来に観るけど、ここまで爆音で交通事故みたいな音しか出していないのに、最高に楽しさしか無いライブをするバンドって他にいないだろって今回ライブを観て改めて思った。実際ツインドラムって編成もステージの前に設置される拡声器も含めて最早ある種のエンターテイメントとなってしまっているし、音楽性自体はジャンクロックだとか色々な捉え方が出来るサウンドだし、その音量と音圧はこの日出演したバンドの中で一番極悪であったにも関わらず、一番楽しさに溢れていたのもCYBERNEだった。ツインドラムで躍らせるビート、ツインギターとベースは爆音しか放っていないけど、どこまでもロックであるし、トリプルボーカルの掛け合いもブチ上がる要素しかない。CYBERNEは大阪が生み出した異端児だと思わせておいて、実は真っ当にロックバンドであり続けているし、ジャンクでヘビィなサウンドの連続でありながら、実はレギュラーチューニングらしいし、ヘビィでありながら爆走しまくるサウンドによって純粋にオルタナティブでありロックであり続けるバンドなのだ!!久々のライブだったけど最高に楽しかったし、そりゃトリじゃないのにアンコールの呼びかけが起きてアンコールでもう一曲やったりする事態にもなるよ。エクストリームから最高のエンターテイメントと爆音ロックを鳴らすCYBERNE。これこそが真のオルタナティブだ!!
・DAIGHILA
そしてお待ちかねのDAIGHILAのライブ。マレーシアだけじゃなく東南アジアを代表するハードコアの実力はどれだけの物かと本当に楽しみで仕方なかったけど、もうこれ以上に無いレベルのハードコアだとしか言えないライブだった。別に海外バンドだからどうとかなんて全く無いけど、この日出演したバンドで一番の、いや他にもこのレベルの強靭さを持つバンドなんて他にいないだろってレベルで全ての音が本当に強い。エモヴァイオレンス・激情の美味しい所を全て持っているバンドだし、楽曲は徹底してダークで悲壮感に溢れまくっているけど、その痛々しさを暴力的に放つライブをしていたし、ボーカルの人が序盤でいきなりクラウドサーフをキメているのにはもうブチ上がるしかなかった。ギターも一本だし、それぞれのパートが特別にアバンギャルドな事なんて何もしていないけど、暴走するブラストパートではメンバー全員が獰猛なるブラスターになり(特にドラムは本当に良くて、あの音のデカさと強さで繰り出すブラストは凄さしかなかった)、ダークなメロディを聴かせるパートでもその強さは変わらない。フロアも狂騒に溢れてモッシュ続出となったし、時に通訳を介しながらもメンバーは結構日本語でレスポンスを返していたし、何度も日本でライブ出来る事に対して感謝を言葉にしていたのは嬉しくなったよ。アンコールも含めて30分に渡って繰り広げられたライブはダークでヴァイオレンスさが充満しまくっていたけど、根底にあったのは紛れもなくハードコアの熱さ。ラストにボーカルの人がスピーカーによじ登ってそこからクラウドサーフ決めていたのは本当に燃えたし、最高に格好良いハードコアは東南アジアだとか日本だとか欧米だとか関係無くて、国境を超えて人々を熱くする。それを実感させられた。
これを書いている時点ではもう関東圏の公演は全部終了してはしまっているが、5/10の大阪火影までまだDAIGHILAは日本を回っている。残りの公演こそ決して多くはないけど、もし近くにDAIGHILAが来るって事になっている人がいたら迷わずに是非とも足を運んで欲しい。8日の高松、9日の広島、そしてツアーファイナルの大阪と国内バンドも本当に熱いバンドばかりだし、西日本圏のフリークスは今回の来日を是非とも見逃さなで目撃して欲しい。ハードコアの本当のリアルをDAIGHILAはライブで絶対に見せてくれるから。
■New Noise Literacy 001 "Engage"(2015年5月2日)@新代田FEVER
そんな予感はFEVERに入ると的中。開演前でありながらMPAとAXONOXがフロントで演奏していたりしたけど、ステージにはBorisのセットがセッティングされており、そしてMPAとAXONOXが演奏しているフロアにはENDONのセットがセッティングされているというまさかの2ステージでのセッティング。いやもうこれは察しの良い人は直ぐに勘付いただろうけど、本当にとんでもない事件がFEVERで起きる事を確信した。
・ENDON
先ず先行はENDON。前売りがソールドアウトしただけあって人が多く、僕はBoris側の方にいたのでENDONのフロアライブでのステージの様子は見えずに、その音だけでライブを体感したけど。より破壊的になりながら洗練された音になったなというのが久々にライブを観て先ず実感した事だ。一見すると非常に取っ付き難い部類の音楽なのかもしれないけど、ENDONはそれを逆手に取ってエンターテイメントにしている気もした。毎回ライブ毎に変わる即興性のあるアレンジは彼等のライブを単調さから程遠い物にしているし、突き抜けるノイズサウンドは最早一種の快楽の領域にまで達している、爆撃機の様な手数をブチ込みながらも、最早独自の人力ドラムンベースと化していて、音が兎に角気持ち良い!太一さんのボーカルも絶好調でいつも以上に声量もおぞましさも増していたと思う。そしてrokapenisのVJも凄くハマっていて、正にノイズを視覚化したらこうなるという神秘性と混沌をビジュアルとして体現した物になっていたし、ENDONの計算されながらも混沌としたノイズと見事にシンクロしていた。ENDONのライブ自体は30分程で終わったけど、相変わらず見事にヴァイオレンスなノイズを繰り出しながら、よりダンス出来る音にもなっていたとも思うし、ノイズ文脈のカテゴライズを笑いながら、アンダーグラウンドなサウンドでありながら、そのコアを守りつつよりワイドでオーバーグラウンドなバンドになっていたのも印象深かった。日々新たな発見がENDONのライブにはあるし、このバンドはやはり一筋縄じゃ全然いかない。
・Boris
そして間髪入れずに次はステージの方でBorisのライブとなったけど、いきなり新曲というか20分近くにも及ぶパワーアンビエントドゥームに先ずド肝を抜かれた。wataさんのギターがほぼ楽曲を構築し、Atsuoもドラムを叩いているし、Takeshiもベースを弾いているけど、その音は最小限。Earth 2の頃のEarthを彷彿とさせるワンリフの繰り返しによるドローンサウンドだけど、wataさんのリフが兎に角重過ぎる!!延々と同じリフを繰り返しているだけの音であるんだけど、一々歪みまくっているし、音が重い。観ていて気が狂いそうになったし、本当に頭がおかしくなってしまいそうになった。何よりもこの時点でスモークの量が完全におかしい事になっていたし、目を開いているのすら辛くなるレベル。視界は完全に見えなくなってしまったし、このまま殺されるんじゃ無いかって本気で思ったよ。そして重圧殺ドローン地獄から新たな桃源郷へと導く「Rainbow」へと。正直に言うとwataさんのボーカルが少し聴こえづらいのだけは残念だったけど、あのドープなグルーブは何度観ても健在だし、中盤のwataさんのファズギターのギターソロは今日も絶好調!そして流れを変えてニンジャスレイヤーアニメイシヨンのEDにもなった「キルミスター」をプレイ!!この曲は「NOISE」を通過してBorisが再びより真っ当なヘビィロックを鳴らした新たなるアンセムになるであろう名曲であり、ライブで初披露にも関わらずフロアではニンジャヘッズ(主に外国人)によるモッシュが起きる始末。更に畳み掛ける様に「黒猫Melody」と「Vanilla」という最新のアンセム2曲でフロアの熱気も最高潮!!地獄からヘビィロック天国へと変貌した。しかしこの日の楽園はここまでで、最後は再び電子音と共にドローン地獄が終わり無く続くと言うラスト。音量も凄まじい事になり、VJのライトニングも視覚を殺しにくる。再び充満するスモークの中で地獄のドローンで終わりと言う結末。サービス精神の欠片も無い、音圧と音量でFEVERにいた人間を完全に殺してしまう勢いであった。しかし本当の地獄はここからだった。
・Boris+ENDON
2マンなのに2ステージという事でフロアに入った時点で全てを察した人も多いだろうけど、僅かなブランクで間髪無しにフロア側のENDONのセットから爆音ノイズが吹き荒れる、そしてステージ側のBorisも爆音。まさかのステージとフロアの前後からノイズが押し寄せる形でのコラボライブが始まった。そしてまさかのJudas Priestの「Painkiller」のカバーが始まる!!僕はENDON側に移動して観ていたけど、何処か凄く楽しそうに叫んでいる太一さんが滅茶苦茶印象的だったし、Boris側の様子は分からなかったけど、裏からは爆音のリフ、ENDON側からは熾烈なノイズと言う魔改造されまくったカバーに脱帽だし、メタルアンセムをノイズ塗れにし、点滅しまくるライトニングと共に生れるカタルシスは相当な物である。そして一旦ENDON側の音が止まってBoris側のアンビエントな演奏がスタート。その美しさに惚れ惚れしていたら最後の最後がとんでも無い事になってしまった。再びENDON側の演奏も始まりBorisとENDONの両者が今日最強の音圧と音量で演奏を開始。あまりの音圧と音量で最早何をやっているかもよく分からなかったし、常に鼓膜を蹂躙しまくっていた爆音ノイズが本気で殺しにくる。これまで本当に数多くの爆音ライブには足を運んできたつもりだったけど、これまでの人生で一番の音量を確かに体感したし、本気で脳細胞が何箇所か死んでしまっていたかもしれないって本気で思った。そして狂乱のノイズ地獄が終わったけど、フロアは凄まじいスモークで覆われていたし、誰もが立ち尽くしていた。本当にその場にいた人間全員の中でトラウマが冗談でも無く生れたと思う。
終演後も暫く頭がまともに働かないし、耳が完全に死んだし、全身が妙な吐き気で暫く身動き出来なかったし、やっと頭がまともに働くようになって思った事は「今日ここに来て本当に良かった。本当に凄いもの観た。でももう二度とは観なくて良い。」だった。いや本当に伝説的ショウだったのは間違いないし。ノイズと言う視点から、アンダーグラウンドもオーバーグラウンドもアートもヘビィロックもエンターテイメントも全てひっくるめて完全に完成されたショウであり、ショウというかライブと言う名の一つの作品を作り上げたと言っても良いだろう。でも転換無しで2時間ぶっ通しで殺人的音量を浴びたから帰りの電車では頭痛に襲われたし、ここまで精神も肉体も蝕むライブは本当に初めてだった。もう二度と体感したくないって気持ちはこれを書いている時点では実際にまだあるけど、でもこんな凄い物を観れて良かったとは心から思う。