■2016年03月
■Noise Slaughter Vol.8(2016年3月12日)@新大久保EARTHDOM
BB企画は毎回ボーダーレスに本物のバンドだけが集結するが、ジャンルとか界隈で固まらないで、ガチンコの殺し合いが展開されるから本当に信頼出来る鉄板企画。前回同様に今回もアースダムへと足を運ばせて頂いた次第だ。
・OOZEPUS
トップバッターは世界のCoffinsのUCHINO氏率いるOOZEPUSからスタート。ハナから凶悪なインダストリアルで幕開けだ。
Coffinsでも強烈な重低音を響かせているが、OOZEPUSの重低音はCoffinsとは全然ベクトルが違う。Coffinsはデスメタルでありながらキャッチーな成分も存在しロック感全開で攻めるけど、OOZEPUSは人力のバンドサウンドでリズムマシーンを使用したインダストリアルよりも更に冷徹なインダストリアルを放つのだから。
UCHINO氏とOHKUBO氏の殺気に満ちたツインボーカル、SATOSHIの乾いたドラム、無感情無慈悲に振り下ろされるギターリフとベース、機械的に圧殺リフが薙ぎ倒すサウンドでありながら不思議とグルーブ感溢れる音が繰り広げられているのは不思議だ。
セット自体は35分程度と他の2バンドに比べたら短めではあったけれども、最初から最後まで血みどろで拷問的でありながら内臓にガツンとフックをブチ込むヘビィなサウンドを堪能。緊張感の中で生まれるトーチャー的快楽に酔いしれたのだった。
・BB
闇を引き連れし鬼神、正体不明の蠢く化物、そんな中二病丸出しな形容をしてしまいたくなる位に今のBBは凄まじいことになってしまっている。
これは何度も書いてるけど、それぞれのメンバーのキャリアだったりという物を完全に無効化し、現在進行形の音こそが最高の音であり続けるBBは何度ライブを観ても常に過去最高のライブだけを繰り広げる。
今回は45分に渡るロングセットとなったが、駒村氏のベースアレンジが結構変わっていたりと、これまで何度もプレイされている楽曲も細かいアレンジの変化が施されていたりしていた。
変拍子に次ぐ変拍子が生み出す混沌、しかし難解さでは無く得体の知れなさを生み出し、後光のみの照明がより解読不能さを生み出す。ヘビィネスとかカオティックとかというか言葉で括ってしまえば早いのかもしれないけど、それはBBという鬼神を表す言葉として全く機能しない。
最後の最後はマイクスタンドを使ってたRyuji氏がハンドマイクで叫び、怒号の連発が楽器隊とシンクロして最高潮のテンションになったと思ったらブツリと終わるという幕切れ。45分間、瞬きすら許さない異様な光景と音が広がっていた。もうこんなの早くBBには正式音源を出して頂かないと困るのである。
・killie
トリは国内激情系ハードコア最高峰のkillie。今回はかなりアウェイと言えるイベントでのトリという事でどんな感じで攻めてくるか楽しみであったが、完全に観る物を突き放す尖り切ったkillieのライブを見事に展開してくれた。
プレイされたのは、「匿名希望の手紙」、「お前は労力」、「歌詞は客の耳に届かない」、「一億分の一」の長尺曲4曲をプレイ。killieの代表曲的キラーチューンを完全に省いたセットになった。
爆発感で攻めるのでは無く、その瞬間その瞬間にカタルシスを生み出しながらも、練り上げられていくエネルギーの行き先は怒りのベクトルへと突き抜け、多展開だからこそのプログレッシブさを押し出しながら、鬱々した空気でドンヨリと陥れる暗黒サイドのkillieが見事に結実したライブだった。
その中でも「歌詞は客の耳に届かない」のアグレッシブさはお見事の一言だったが、最後の最後の「一億分の一」の陰鬱な空気を纏いながら破滅へと落ちていく膨大なエネルギーの坩堝。吉武氏と伊藤氏は動き回り踊りまくりながら怒りの叫びを繰り出し、今にも殺されてしまうんじゃないかという刃を喉元に突きつけられたまま立ち尽くすしか無いkillieのヘイトフルさに呆然としてしまった。
最後の最後の二本のギターが鬱苦しいアルペジオを奏でる中で照明代わりの蛍光灯が一つずつ消されていき、最後は暗闇の中でアルペジオだけが響き渡るラストはもう反則としか言えない!!
決して分かりやすいkillieの音を展開するライブでは無かったけど、killieというバンドが持つ本質的な悲哀と怒りのハードコアが見事に展開されており、ライブ終了後は放心状態になってしまった。何度も観る者に強烈なトラウマを植え付けるライブしかしないkillieはやっぱり本物のハードコアバンドなのだ。
3バンドの音楽的な方向性はバラバラなのかもしれなかったが、共通していたのは観る者を突き放す異常な緊張感。予定調和もお約束も無い、現場で繰り広げられる瞬間のドキュメントだけがそこにあった。だからこそNoise Slaughterは毎回素晴らしいイベントになるのである。
早くもアナウンスされている次回のNoise SlaughterはwombscapeとBOMBORIとまたまた他に類似個体のいない国内エクストリームミュージックの独自勢力2バンドを迎えての3マン。こちらも絶対に足を運ばせて頂きます!!
■WonderLand tour finale [Re:release](2016年3月5日)@三軒茶屋HEAVEN'S DOOR
「拘束具は外れたのか。まさか新調したことに気付かぬ
ということもあるまい。」
漂音世界においては、人々はもはや単なる媒質となり、
眺める者は揺蕩う者へと回帰する。
彼岸にて主客は一致し、そして、その地に至りて初めて
判断の拘束から解放されるであろう。
限りなき自由な魂の解放。
こんな意味深で挑発的な一文がヘブンズのライブインフォには書かれていたが、WonderLandが目指すのは新たなる解放であり、カテゴライズの奴隷と化してしまった現在の音楽に対する戦いでもあるのだ。だからこそこの日のライブは彼らにとって本当に大きな意味を持つライブとなると思い今回その瞬間を目撃させて頂く事にした。
・Ry
今回初見のRy(読みはライらしい)は個人的にかなり掘り出し物なバンドだった。音楽性はアコギ主体の3ピースの歌物のポストロックなのだけど、アコギが持つ響きの豊かな色彩を生かしたオーガニックで優しい音色。ライブが進むにつれて惚れ惚れとする。
アコギという全く誤魔化しの効かない楽器を使っているからこそ一音一音の繊細な響きがダイレクトに伝わり、リズム隊の安定感のある演奏がより悠久の時間を生み出していく。
単なる癒し系なチルな音楽だと思ったら大間違いであり、時には激昂のメロディを熱く奏でていたのも非常に印象深い所だった。シンプルさから生み出される深遠さをRyの音楽から感じたし、この深みは聴けば聴く程に虜にされてしまうだろう。
終始美しいアコギの音が響き渡り、心が豊かになる歌を歌い上げていたRyは確かなポピュラーさを軸にしながら広大に広がる音の世界を展開していた。これは沁みたね。
・Presence of Soul
昨年リリースした3rdアルバム「All Creation Mourns」も絶好調なPoS。相変わらずエグい機材の量に笑ってしまうけど、今回のライブは更なる進化を提示するライブだった。
冒頭ではいきなりYuki嬢が激情の叫びを聴かせる楽曲から始まりド肝を抜かれた。世界レベルのバンドとして名高いPoSは単なる轟音バンドでは終わらないおぞましいヘビィさを持っている。トリプルギターの凶悪な轟音は五臓六腑を破壊する強烈な物。
楽曲がかなり作りこまれているのもあるけど、ダイナミックな轟音で殺しに来る音を放っているにも関わらず、音の繊細な流れやきめ細やかさもPoSには存在し、その二極性がPoSの大きな魅力である。殺傷力も神秘的な美しさも彼女たちの音楽には絶対不可欠な物となっている。
ラストにプレイされた「circulation」は何度ライブで聴いてもその神々しさに涙を流してしまいそうになる名曲であり、Yuki嬢の歌声は救いの様に響き、ドス黒い闇を描いた先にある確かな光を見事に表現している。それはVJを使っているからとかでは無く、PoSの鳴らす音の視覚的表現の豊かさが成せる技なのだ。
毎回毎回ライブの完成度は高いPoSであるけど、今回のライブも世界レベルのバンドとしての力量を見事に発揮した素晴らしい物であった。
・shuhari
トリ前は久々にライブを拝見させて頂く事になったshuhari。このバンドも3ピースとは思えない機材の量に笑ってしまう。
しかしながらshuhariの音楽はどこまでも想像をさせる物だと僕は思う。MayBeSheWill辺りのポストロックを3ピースで奏でているけど、それらの音楽のテンプレートを焼き直した物では無く、独自のオーガニックさへと変貌させた物へと仕上げており、それはよりオーガニックでアンビエントでシャープなアンサンブルが生み出す異常なまでの精度の高さから来ている物だ。それぞれのパートの演奏はそれこそお手本レベルの理想的な演奏力と表現力を持っている。
流れていく清流のクリーントーンの音色、歪すら歪と感じさせない美しさは演奏の熱量が上がれば上がる程にその効力が高まり、リリカルさが渦巻く陶酔世界へ!!
久々にライブをチェックしたがその実力はやはり間違いなし!!純粋さを極めた音だからこそ彼らの音楽には言葉が無い。その音で全てを語るのだ。
・WonderLand
そして主催のWonderLandはこれまで観た彼らのライブの中でも集大成とも言える圧巻のライブでこの日のイベントを見事に締めくくってくれた。
今回もプレイされたのは30分近くに及ぶ大曲「The Consciousness Of Internal Time And Space」ではあるが、この曲はライブを重ねる毎にアレンジも大きく変わり、バンドの進化と共に曲の方も進化を重ねていったが、今回ライブで披露された「The Consciousness Of Internal Time And Space」は音源とは完全に別物と言っても過言ではない、新たなる世界の創造であった。
3ピースというフォーマットでありながら、キーボード・マック・トランペット・幾重にも重ねられるギター、音源には入っていない新しい音も加えられ、軽く触れただけではポストロックなフォーマットの言葉と歌に頼らない音楽ではあるけど、不気味に重なっていく不協和音は吐きそうなまでに不条理を突きつけられる気分になってしまう。
冒頭のイントロダクションこそ美しい旋律で始まるけど、そのギターの音すらハイファイさとは無縁の澱んだ響きを持っているし、乱打されるキーボードや不意に遮断される楽曲、トランペットの地の底から響いてくる様な残響、あらゆる音が織り成すドン底への道しるべは、まるで人間の無力さを嘆く絶望的な世界観。
そんな楽曲の前半パートから開放を作り出す終盤のパートは凄まじいカタルシスを描き出していく。パワフルさも加わったドラムはバンドの肉体的底力を底上げし、印象的なアルペジオのフレーズがループする中で重なっていく轟音。音源には無い新しいラストパートまで加わり、実に40分近くの楽曲にまでなった「The Consciousness Of Internal Time And Space」はラストの誰にも邪魔されず、誰にも縛られない音が渦は正に自由な魂の解放と呼べる物だった。
アンコールに応えて最後の最後で封印されていた過去の楽曲をプレイしていたが、現在の音楽性とまた違う過去の楽曲も既に異形の領域の物にはなっていたが、だがそれすら過渡期だと感じさせてしまう程に今のWonderLandはカテゴライズ不可能な新たなるオルタナティブを提示している。ジャンルやスタイルといった言葉から解放されたWonderLandだからこそ、彼らは今こそ新たな音楽を描いているのだ。
今回のWonderLand企画はハタから見たらポストロック系のイベントなのかもしれないけど、出演バンドのどれもがその様なカテゴライズを否定するバンドばかりであり、主催のWonderLandは特にカテゴライズ無用のオルタナティブの先を見せつけるライブを繰り広げていた。
WonderLandは知名度的にはまだまだなバンドかもしれないが、今後その名前を全国に広めると確信している。彼らは3ピースの限界に挑みながら新たなる解放を目指し続けているのだ。
■小野(DEAD INFIELD/CRUCEM) presents "YOU GIVE ME ALL I NEED vol.3"(2016年3月4日)@西荻窪Pitbar
スタートも20時で4バンドと金曜の仕事終わりの夜にこうしてフラッと遊びに行けるイベントは音楽好きとしてうれしい限り。僕も仕事を終えてからその足で西荻窪の方へと向かったのでありました。
・アハト・アハト
主催の小野氏の挨拶からトップバッターのアハト・アハトのライブがスタート。今回のイベントはO.G.D以外は全部初見のバンドばかりではあったけど、このアハト・アハトは僕としてはかなりストライクなバンドだった。
音楽性は北海道エモの正統派継承者といった所だが、先人の模倣では無く、しっかりと独自のセンスを提示している所はかなりポイントが高かった。
顔芸を決めながらパワフルなドラムを叩くドラムもギターの音が兎に角良いのもかなり好印象。絶妙にポストハードコアな味付けを施しつつ、クリアさと歪みの狭間を擦りぬけるメロディの良さ。観ていて何度もグッと来る瞬間があり、今後もチェックしていきたいと心から思わせられるバンドだった。
・ZAKURERO
お次も初見のZAKURERO。タトゥーが入りまくった気合の入った弦楽器隊のお二人(どうやら兄弟らしい)のルックスのインパクトがまず強かったけど、鳴らす音は今時珍しい位のド直球ストレートなパンクサウンド!!
とにかくパワフル!とにかく速い!とにかくキャッチーとど真ん中に剛速球を投げ込む男気溢れる音はルックスを裏切らない豪快さがあり、フロントの弦楽器隊のお二人はフロアへと何度も飛び出すアグレッシブなパフォーマンスを魅せる。
そんな厳ついルックスとは裏腹にMCでは気さくな兄貴って感じの真摯さも感じ、そこもまた好印象。合間合間にMCを挟みながらも、曲はノンストップで演奏されており、頭からラストまで男気全開で繰り出されたストレートなパンクロックは観ていて熱くなった。
・O.G.D
その勢いのままに東東京のグラインド番長ことO.G.Dのアクトへ雪崩込んだけど、この日のO.G.Dはなんか色々と持って行ってしまった感がある。ボーカルの皆川氏が最早milkcowのツルさんよろしくなパフォーマンスで魅せに魅せてくれた。
相変わらずダーティなグラインドサウンドが響き渡る中で、フロアを縦横無尽に歩き回り、主催の小野氏にマイクを渡して叫ばせたと思ったら、それで終わらずフロア中の人にマイクを渡して叫ばせて、自分は腕をグルグルさせて暴れていたりと自由すぎるパフォーマンスを展開。
果てはPitbarスタッフの女の子に叫ばせていたり、ZAKUREROのお客さんの女の子にマイクを渡そうとして怖がられていたりと爆笑の連続。観客強制参加型グラインドコアが展開されていたのだ。
バンドとしてのライブのクオリティ以上にハチャメチャさでピースフルな空気を生み出していたO.G.Dはやはり持っているバンドだなと改めて実感する楽しいライブだった。
・DEAD INFIELD
トリは主催の小野氏がギターを弾くDEAD INFIELD。こちらも今回初見のバンドでした。
音楽性はとにかく速いしメンバー全員が暴れまわるファストなハードコア!!ボーカルの人がジーンズの社会の窓にマイクのコードを通していただけで笑ってしまったけど、小野氏がMCしている時にポテチを食い出したりとO.G.Dに負けず劣らず自由なライブ。
ベースの方のオラオラ感全開のパフォーマンス、とにかく跳ねる小野氏、自由過ぎるボーカル、唯一普通な感じだったドラムの方と観ていてなんのこっちゃなカオスな4人がひたすら速いハードコアを展開。お行儀の良いまとまりなんて必要無いと言わんばかりのライブは小野氏のMCのグダグダさと相反して突き刺すビートと刻みがフリーダムへと駆け巡るスラッシュさ!!キャッチーでシンガロング必須なハッピーな空気は華金の空気と相乗効果を生み出し本当に幸せな気持ちにさせられました。
全4バンドでサクッと終わる感じの華金イベントではあったが、美味しいお酒を飲みながら最高に楽しくなれるうるさい音楽を堪能した夜となりました。
個人的にはアハト・アハトが本当にツボで物販で音源の方も買わせて頂いたが、こうして新しい音楽との出会いがあるのも、こうしたイベントの良い所だよなって思う次第であったのだ。
何にせよ楽しい華金を過ごさせてもらったのだ。
■easing into emoting/hue

栃木県の某高校にて結成された4人組hueの待望の1stアルバム。個人的に僕と同郷出身のバンドという事もあって前々から名前は知っており、ライブも何度も拝見していたバンドだけに、こうして1stアルバムがリリースとなったのは何とも感慨深い。
世代的に若手バンドであり、エモ・激情ハードコア界隈では期待の新人として評価されて来たが、今作を聴いて時代は確かに循環している事、Cap’n Jazz系統という言葉じゃ片付かない新世代ならではのオリジナリティがそこにある。
hueが共振する音は非常に多岐に渡る。90年代USエモは勿論、現在進行形のエモリヴァイバルや激情ハードコアやマスロックといった音楽性を持つが、それらをシャープで切れ味鋭い演奏で鳴らし、それだけに留まらずにキャッチーなメロディが目まぐるしく展開していくキラキラのポップネスも兼ね備えている。
今作で大きな特徴として挙げられるのは熱いシンガロングパートだろう。爽やかなメロディとナード感が堪らないボーカルとテクニカルなツインギターの絡みが印象深い第2曲「メイクチェンジ」からほぼ全曲に渡って導入されているシンガロングには拳を熱く握り締めたくなる。
イントロのアコギの調べから一筋の風が吹き抜ける様な疾走感溢れる衝動溢れる楽曲と洗練された演奏の煌きが胸に染み込む第3曲「switch me once」、athelasとのスプリットに収録された楽曲の再録であり、イントロのギターリフから一気に持っていくhue独自の激情を打ち出したキラーチューンである第5曲「ハロウ」、マスロック感全開でありったけの感情を詰め込んだhueの新たなキラーチューンとなるだろう第7曲「OFFLINE」、そしてトランペットの音色とアルペジオの旋律の調和が生み出す青臭さが涙腺に来る最終曲「warm regards,」までhue節とも言える独自性が爽やかにだけど熱く迸る。
ライブを何度も拝見しているけど、彼らは高い演奏力を持つバンドであり、今作の楽曲のアレンジも洗練されているが、その透明感溢れる音から滲み出る甘酸っぱさはhueの一番の武器だろう。あらゆる音楽を無邪気に消化してきたバンドだからこそ生み出せたピュアで繊細で力強い衝動は理屈抜きで心に突き刺さる。
90年代のリアルタイムエモから現在のエモリヴァイバル、それらと繋がっていくあらゆる音楽。hueが鳴らすのは世代もジャンルも超えた計算されていない音楽である事は、甘いメロディが常になっているのにありったけの叫びをただ吐き出す石田氏のボーカルを聴けば伝わってくる。
音と声と感情が優しく共存する新生代の答えが今作だ。本当は誰もが無邪気な頃に戻れる無垢さを音楽に求めているのかもしれない。hueにはそれがある。
■SLOWMOTION(2016年2月28日)@東高円寺U.F.O. CLUB
過去に共演こそあったが、多くの人が待ち望んでいた両者の2マンライブ。共に持ち時間は70分とドップリと未曾有の音に溺れる事が出来る特別な一夜。しかもBorisは森川誠一郎[(血と雫)をゲストに迎えてのサプライズもありと、これが特別な夜にならない訳が無いじゃないか。
スタート15分ほど前にハコに到着したが既に多くの人でギュウギュウになっており、フロアは酸欠状態に。これは音で酩酊する前に酸素が足らなくて酩酊してしまいそうだななんて思ったり。
そんな満員の人々が今か今かと待ち構える中、約20分程押して先攻の割礼のライブが始まった。
・割礼
何度も当ブログで書いてきたが、現在進行形の音こそが過去最高の音である事を常に提示し続ける日本が世界に誇るサイケデリックロックの至宝こと割礼。これまで何度もライブを観てきたバンドであるが、この日のライブは過去最高に凶悪な音が渦巻くライブとなった。
宍戸氏と山際氏のインプロ的なギター演奏から始まり「これから何が起きるのか?」というワクワクの中で始まったのは割礼を代表する名曲「リボンの騎士(B song judge)」が始まる。驚いたのは曲が始まった瞬間の山際氏のギターの音の歪みと音圧が凄まじかった事だ。鎌田氏のベースもより重くうねり、宍戸氏のギターも獰猛に叫びを上げる。松橋氏のドラムはシャープさこそ相変わらずだが、いつもよりもパワフルな音に聴こえた。そんな攻めの爆音体制の割礼だが、全体の音量バランスはやはり最高の位置で鳴らされており、4つの楽器と声が溶け合って共鳴し合い、覚醒の音を鳴らす。終盤のロングギターソロは圧巻の一言で、宍戸氏のギターに引っ張られながら終わり無く続くファズギターに時間間隔は完全に狂い、一発目のこの曲だけで実に20分以上のオーケストラ的サイケデリア。言葉なんて出て来ない。
一転して透明感溢れる音を極限まで削ぎ落とした状態で鳴らす「ネイルフラン」は先程までの凶暴な音とは打って変わり、爆音の中の優しいラブソングが鳴らされる。だがそんな音の中に「淀み」や「苦汁」を感じさせてしまうのが割礼の割礼たる所以だ。久々にプレイされた気がする名バラッド「がけっぷちのモーテル」も「ネイルフラン」同様に極限までスロウにテンポダウンされたアレンジで丁寧に、だけど歪みを増幅させながら紡がれていく。
ハイライトは終盤の「HOPE」といつもの松橋氏のMCを挟んでプレイされた「ルシアル」の2曲だろう。割礼というバンドはライブ中ですら音を研ぎ澄まさせて進化させていくのを肌で感じる演奏だったと思う。特にラストの「ルシアル」は音源の影が無くなってしまっているんじゃってレベルの密教的空気を描いていく。最後の最後のファズギターが宇宙を描き出す瞬間は秘比喩でもなんでもなく本当に鳥肌が立つ感覚を覚え、殺人的音量で放たれるファズギターのブラックホールに「このまま飲み込まれて死んでも良いや。」っていう危険極まりない気持ちにすらなってしまったのだ。
70分近い演奏でプレイされたのはたった5曲。しかしその5曲には割礼のスロウさも歪みもヘビィさも優しさも愛憎も全てが詰まっていた。正に日本が生んだ至宝こと割礼、凄まじいライブだった!!
セットリスト
1.リボンの騎士(B song judge)
2.ネイルフラン
3.がけっぷちのモーテル
4.HOPE
5.ルシアル
・Boris
30分近い転換を経て後攻のBorisへ。しかしアンプの数がいつも以上に多くないか?あまりの人の多さにかなり後ろの方でBorisのライブを観る事にはなったが、今回ばかりは後ろで観た方が耳は安全だったと思う。
序盤はパワーアンビエントスラッジなBorisが炸裂。割礼を凌駕する音量の重低音で繰り出された「The Power」の時点でかなり後ろにいたにも関わらず重低音の振動が体に響いてくる始末。続いては「Huge」とこの日のBorisは完全に圧殺モード。更に銅鑼の乱打からの地獄編「Memento Mori」で身の恐怖を体が感じてしまった…直面の死が存在しているのすら見えてしまったよ…
だが地獄変だけで終わらないのがBorisだ。「決別」で地獄を天上の救いの轟音へと変貌させた時、やっと安心感すら覚えつつ、目の前で繰り広げられている轟音のシャワーを浴びていると不思議と心は非現実の世界のままなんだなって気付いていく。
中盤で血と雫の森川氏が登場し4人でのライブへ。この日プレイされたのはCanis Lupusのカバーである「天使」とまさかの割礼の「散歩」のカバー!!だがBorisが普通のカバーなんかやる訳無い。音は原曲よりも更に凶悪なヘビィネスに変貌し、原曲の持つ妖しい美しさにより神々しさが加わっていた。割礼のカバーである「散歩」も完全に別の曲に。Borisのサウンドもそうだが、日本が生み出した国宝ボーカリストである森川氏の歌は他の誰にも出せない居場所の無いエロスが充満し、Borisのヘビィネスと不思議な調和を生み出していた。
再びBorisの3人になっての演奏に戻り「あきらめの花」からの「雨」の流れの絶望的な美しさを前に言葉を失う。特にパワーアンビエントから美しき陰鬱さを放つ「雨」の凄さはライブで体感しないと分からないだろう。音の壁が目前に存在しながら、与えられる感情は恐怖じゃ無くて悲しさであり、事切れる瞬間を体感している気分になるだけじゃなく、一種の臨死体験的な感覚に陥る。その感覚の神秘的陶酔を味わった時にBorisも間違いなく本物のサイケデリアを生み出すバンドだと思い知らされた。
最後は「Down」でこの日一番の爆音で昇天して終了と思いきや、予想はしていたがやっぱりアンプの電源が落ちて、最後に気を取り直してラストのパートを演奏して終了と思いきやまた電源が落ちて終わりという幕切れ。「down」をプレイしている時にアンプの電源がダウンするって冗談かって位に出来すぎていて笑ってしまったよ。
セットリスト
1.The Power
2.Huge
3.Memento Mori
4.決別
5.天使
6.散歩
7.あきらめの花
8.雨
9.Down
割礼とBoris合わせて140分にも及ぶ轟音爆音サイケデリア、更には明らかにキャパを超えているだろう超満員の人に体調不良になってしまう人が出てくるんじゃないか勝手に心配になってしまったイベントだったが、体調不良どころか音の臨死体験を両者に体感させられる事になってしまったよ。
イベント名通り、この日は両者ともスロウな楽曲のみでライブを展開していたが、ヘビィネスもサイケデリックも超えた先にある名前の付けられない何かを目前にする事が出来たイベントとなった。
東高円寺爆音地獄に足を運んだ皆さんは改めてお疲れ様でした。帰宅したら疲労感が一気に体を襲ったけど、それすらも心地良いのは割礼とBorisの両者のライブが素晴らしかったからだ。