■2018年08月
■老人の仕事/老人の仕事

現在各所で大きな話題を呼んでいるドゥーム/ストーナートリオこと老人の仕事の自主制作にてリリースされた1stアルバム。
全3曲ながら収録時間は30分弱と濃密なドゥーム絵巻に仕上がっている。
killie、johann、CxPxSのメンバーにより結成され、当初は「老人」名義で活動し、2017年末に「老人の仕事」へとバンド名を変え、今作をリリース。
メンバー全員ライヴでは毛むくじゃらな布で全身を覆う衣装とバンド名のみならずヴィジュアル面でもインパクトのあるバンドだが、その音楽性はSleepへの日本からのアンサーと呼ぶべきヘヴィロックだ。
メンバーの儀式めいた呻き声ボーカルなんかも入っているが基本はインスト。時にはフルートの音も入れていたりするのだが、3ピースのシンプルなバンドアンサンブルの強靭さにまず驚く。
和音階を取り入れたりしつつも、それぞれの楽器隊のフレーズそのものは実にシンプルで、ギミックは何一つない。しかし音の一発一発が異様にヘヴィで強烈。
リフとグルーヴのみで聴き手の原始の本能を呼び起こし、脳味噌をトランス状態へと導く。
ヘヴィでスロウなサウンドのみならず、ダイナミックなロックンロールすら感じさせ、ドゥーム/ストーナーの領域だけで語れない不思議なサウンドを放つ。
特に素晴らしいのは第3曲「翔んでみせろ」。人間は太鼓の音を聴いたら踊りたくなるといったレベルまで肉体的本能に訴えるグルーヴ、繰り返されるリフが宇宙を手に入れろと言わんばかりに飛翔し、異次元体験の世界へと誘う。
余計な理屈抜きに、その音だけで聴き手をロックしダンスさせる。「ロックなんてそれで良いんだよ!!」と言わんばかりに、曲名通り翔んでみせている。
そのバンド名やヴィジュアルのインパクトも凄いが、老人の仕事はSleepへの愛を愚直なまでにロックンロールにしたバンドだ。
楽曲の中にメッセージや言葉は存在しないが、音楽が持つ原始的な可能性を提示し、狂騒へと導く。
ヤバくてぶっ飛んだ音楽の前ではアルコールもドラッグも必要ない。その音に身を委ねて翔んでみせたら良いだけなのだ。
ヒリヒリした緊張感の中で冷や汗を流し、早くなる心臓の鼓動と共に踊り狂いたくなる。危険極まりない音楽がそこにある。
■henceforth/Spike Shoes
Tiny Axe (2018-08-08)
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長年にわたり宮城県仙台を拠点に活動を続け、仙台のローカルヒーローの枠に収まらない活動で多方面から常に注目を集めるSpike Shoes。
結成25年の大ベテランバンドが2018年にリリースした6thアルバムは、大ベテランの聖域に胡座をかくことなく、常に進化を自らに課すSpike Shoesらしい未来を射抜く快作となった。
Spike Shoesのサウンドスタイルは形骸化したハードコアパンクとは一線を画す。
第1曲「serac」から壮大なる物語の幕開けにふさわしいポストメタル方面のアプローチを展開し、中盤ではSpike Shoes印のダヴサウンドも展開される。
一方で第2曲「crossbreed」ではレイジングなハードコアで1分弱を瞬く間に駆け抜け、静と激をドラマティックに展開する第3曲「砂の城」、悠々としたレゲエからレイジングに変貌する第4曲「dry fang」、強靭なバネを活かした瞬発力から宇宙へと飛び立つ第5曲「落日」、そして完全にレゲエに振り切った第6曲「耳鳴りの丘」まで。全6曲27分の中で見せる表情は多彩を極める。
サウンドスタイルは多彩を極め、それこそボーカルはエモーショナルな叫びから超音波ハイトーン、果てはファンク的なクリーントーンボーカルまで変幻自在。
何物にも縛られない自由なサウンドでありながら、アルバムを通して聴くとSpike Shoesが目指すハードコアパンクが一本の線で繋がるのは大ベテランの気迫がなせる業だろう。
レイジングなサウンドから宇宙へとぶっ飛ばされる様な跳躍力へ、レゲエ/ファンク方面のアプローチは信念と言う名のソウルからハードコアへ、そして漆黒の夜を切り裂き朝日を眺める様な情景すら浮かぶ。
シリアスでありながらもポジティブなエネルギーに満ち溢れ、25年に渡りバンドを継続させてきたからこその実力に裏付けされた強靭なサウンド。そしてより自由に羽ばたく信念は確かに未来へと繋がっている。
異種交配を重ねながら、歩みを決して止めない仙台のローカルヒーローの言い訳無用の信念のドキュメント。
ハードコアパンク=進化と信念であることを証明し続けるSpike Shoesが多くのフリークスから熱い支持を集めているのは当然の結果でしかない。
自らを信じ、キレ進んでいるバンドにしか出せない説得力がそこにはある。
Spike Shoesのハードコアパンクはまだまだ止まることがなさそうだ。
■螺旋の旋に問う(2018年8月12日)@東高円寺二万電圧
当初は「老人」名義で活動し、昨年末頃に「老人の仕事」へと改名。そしてリリースされた1stアルバムは瞬く間に話題となり、その名前を広めていった。
今回は昨年末にリリースされた1stアルバムのレコ発企画だが、NoLA、SUNDAY BLOODY SUNDAY、BBと世代もサウンドスタイルも超えた事件性の高い4マンライブ。異端のバンドの記念日に相応しいメンツだ。
全4バンドが45分のロングセットによる未曾有の宴の全容をここに記録する。
・NoLA
この日一番若手のNoLA。今年頭に4人編成となり、現編成でのライヴを観るのは初。
ギタリストが一人減るという一見するとマイナスともなる変化を逆手に取り、よりソリッドかつ無駄の無いサウンドスタイルを手にしていた事にまず驚く。
ハードコア/トラッシュメタル/パワーヴァイオレンスなどの要素を盛り込んだ楽曲はより凶暴さを増し、畳み掛けるように繰り出される楽曲に休まる暇など無い。
余分な贅肉を削ぎ落とし減量したボクサーの如く無駄のない美しいフォルムを暴力とも言える音からも感じさせるのは流石だ。
疾風怒涛のハードコアの暴力に圧倒されるばかりのアクトだった。NoLAはまだまだ進化を続けていくだろう。
・SUNDAY BLOODY SUNDAY
TwolowとのスプリットをリリースしたばかりのSBSはより骨太のグルーヴとリフにより強靭なるオルタナティブロックを展開。
これまでの楽曲もアレンジこそは大きな変化を施していないにも関わらず、より硬派かつファッティなサウンドへと進化を遂げていた。
Twolowとのスプリットに収録されている「Control/Regain」や今後リリースされるだろう新曲も披露したが、滾るエモーションだけでなく、ダークネスや混沌といったワードを想起させる新たなる展開を見せながらも、歌とリフとグルーヴに回帰するSBS節に降伏。
よりレンジを広くしながらも、オルタナティブのスタンダードを貫き通してくれた。
SBSの圧巻のオルタナティブはやはりライヴでこそ真価を発揮する。余計なギミック抜きのバンドの底力を感じさせてくれる。
・BB
BBは常に進化を続けるバンドだ。ライヴを観る度に過去を更新し続け、常に今が最高の状態であり続ける理想的なバンドだと思う。
そしてBBのライヴは最早儀式と言ってしまっても良いのかもしれない。頭からケツまでの45分の中で明確な起承転結が存在し、ハードコア/ヘヴィロックの際の際を攻めた末の異様さとオリジナリティをどこまでも厳格に体現し続ける。
ここ最近披露されている新曲群は特にそれが顕著で、よりダイナミックなロックに接近した物から、10分近くに渡る長尺で混沌の先の光を描くような楽曲までより変幻自在に聴き手を圧倒する。
フロントマンRyujiは常にステージから鋭い眼光で観る者を睨みつけ、決して言葉では語らないが、ダイナミックかつ神秘的なバンドサウンドと共に全身全霊で新世界を見据え叫ぶ。
45分があっという間に終わり、言葉にならない感覚に襲われた。BBはハードコア、いやロックの未来を常に射抜き続ける本物だ。
・老人の仕事
トリは本日の主役の老人の仕事。以前観た時はメンバー全員がボロ布を被っている衣装だったが、マイナーチェンジして毛むくじゃらな衣装に。
そして一発目の音が鳴った瞬間に二万電圧を非日常空間へと変貌させた。
老人の仕事の音楽性はSleepに対する日本からのアンサーなんて言われたりもしているが、ドゥーム/ストーナーへの愛をもっと原始的なロックンロールへと進化させた物だと僕は思う。
太鼓の音を聞いたら踊りたくなると言った人間が持つ原始的な本能に訴える。
各楽器のフレーズそのものが非常にシンプルだからこそ、より肉体が本能のままに踊り飛び跳ねたくなる。
原始から宇宙へと飛び立つ非日常体験。観る者を踊らせ滾らせる至高のグルーヴとリフは常人離れした物だった。
シーンにて強烈なるオリジナリティをそれぞれのやり方で体現する4バンドが一堂に会した今回のレコ発はまさに見逃し厳禁の事件だったと思う。
それぞれサウンドスタイルや目指す先こそ違えど、常に新しい音と価値観で観る者に驚きを与えるという点は共通してブレてない。
オルタナティブとはこういうものであると改めて納得させられた各バンドのアクトはそれぞれ僕に新たなる衝撃を与えてくれた。
そして老人の仕事、アルバムリリース本当におめでとうございます。次なる一手も心より楽しみにしてます。
■Phenomenons Drive/Boris
結成25周年を迎え、日本のみならず世界中にその独自のヘヴィロックを発信し続けたBoris。昨年リリースのフルアルバム「Dear」はドゥーム/スラッジに回帰しながらも、Borisのさらなる進化を体現した快作に仕上がった。
そんなBorisの新たなる一手は日本のアンダーグラウンドシーンの異端のレーベルとして名高いHello From The Gutterからの12インチアナログ盤のリリース。全3曲28分に及ぶ濃密なる一枚だ。
今作は2016年2月の割礼との2マンライヴで披露した割礼の「散歩」のカヴァーを収録している事からうかがえる様に、サイケデリック方面のBorisを突き詰めた一枚に仕上がっている。
昨年リリースの「Dear」はBorisが持つヘヴィロックからのサイケデリックを高純度でパッケージしたBorisの核の部分が可視化された作品となったが、今作は更に全てを置き去りにするサイケデリックへと突き進んだ物に仕上がっている。
タイトル曲になっている「Phenomenons Drive」は実に15分近くに及ぶパワーアンビエント絵巻。聴覚だけでなくまるで視界をも埋め尽くす様な重低音が終始響き渡りながら、その轟音の奥底からは不思議とメロディとストーリーを想起させるのはBorisだからこそ出来る技だろう。
割礼のカヴァーである「散歩」は原曲を更にスロウかつヘヴィにアップロードした実にBorisらしい仕上がりとなっている。
煉獄の底からうねる重低音の業火、その音像の中から朧げに響くボーカルは割礼が持つスロウなグルーヴとサイケデリアをBoris流に解釈した物。
そんなアプローチから後半でメロディとビートが輪郭を明確にしながらも、更に地底の底へと沈み行く感覚は異様な中毒性に満ちている。
そんな重厚な2曲のサイケデリックパワーアンビエント絵巻を締めくくるのが約4分のコンパクトなアンビエント「センシタイザー」。ただ置き去りにするのではなく、聴き手にしっかりと余韻に浸る時間も用意する事により、今作に一つの結末を想起させる。
時間軸が崩壊した涅槃の世界へと聴き手を誘う全3曲。常に聴き手の想像を裏切り、自らのヘヴィロックを更新し続けるのBorisがこの様な作品をこのタイミングでリリースした事には大きな意味があるだろう。
形骸化したロックに抗い続けるBorisが深淵の底の底を覗き込む様な音をパッケージした今作はまた聴き手に大きな衝撃を与えるはず。
そして今作を経過したBorisが次にどんな一手を繰り出してくるか、僕はそれが楽しみで仕方ない。