■Nattens Madrigal/Ulver
![]() | The Madrigal Of The Night : Eight Hymnes To The Wolf In Man (1997/04/08) Ulver 商品詳細を見る |
ノルウェーの美しきブラックメタルバンドUlverの3rdアルバム。Ulverは1stと3rdでしかブラックメタルを展開していないバンドなのだが、そのたった二枚がブラックメタル史屈指の名盤であるが故にブラックメタル最重要バンドの一つに挙げられるバンドだ。
1stでは昨今のポストブラックに通じる美しく深遠な独自のブラックメタルを展開したが、今作はプリミティブな凶悪さを前面に押し出した最もブラックメタルらしい作品である。しかしどんなに粗暴になってもその果てにあるUlverの美意識は全くブレていない。
まずハイの効き過ぎた粗暴なトレモロリフが耳につく。音質もあまり良くなく、ドラムもクラストコアに通じる抜けの良いビートを刻んでいる。プリミティブブラックらしい作り方がされてはいるが、そこで終わらないのがUlverだ、展開は全く単調ではなくドラマチックであるし、時折入るアコギの音色の静謐さはUlverならではの物だ。何よりローファイな音作りであり、ノイジーなトレモロリフを鳴らしながらも、メロディーの輪郭は非常に分かりやすく、そのメロディーはUlverの神秘性を確かに感じる美しいメロディーなのだ。第3曲「Wolf And Hatred」では特にその深遠さが表れていると言って良いだろう。
1stと違いGarmの美しいボーカルは聴けないが、代わりに狂気値を振り切りまくった激情のガナリ声を聴かせてくれる。Ulverはその楽曲の完成度の高さも評価すべき点であるのは間違い無いが、Garmはブラックメタル屈指のボーカリストであり、その素晴らしい表現力がUlverの神話の様な耽美で美しい世界観を確固たる物にしているのだ。
今作を最後にUlverがブラックメタルを鳴らす事は無くなった。しかしプリミティブな凶悪さと、徹底的した美意識と、練り込まれた緻密さが確かな形で結び付いた今作はブラックメタルを語る上では絶対に外す事の出来ない作品である。1st同様に彼等にしか鳴らせなかった自然世界への畏怖としてのブラックメタルがここに存在する。その寓話の世界は凶悪さと残酷さに満ちているのだ。