■Mensch, achte den Menschen/死んだ方がまし
死んだ方がまし (2017-04-08)
売り上げランキング: 393,186
死んだ方がまし。本当にとんでもないバンド名だ。
人間なら誰しもが死んだ方がましって感情を抱いたことは一回どころか何回もあるだろうが、それをバンド名として冠している時点でこのバンドはただならぬバンドである。
2012年に結成されたTokyo Blue Days Punkこと死んだ方がましの2017年リリースの待望の1stアルバムである今作は怖いくらいにロックの本質だけを掴んでしまった大名盤だ。
正統派ニューウェイブ/ポジパンサウンドを基軸に、時にはみんなが大好きな往年のV系やSSE周辺のバンドのテイストも感じさせるサウンドはロックとしては勿論、パンクとしても何一つ現在の主流になっているものとは全く別の位置にあり、下手したら逆行的でもある。80年代に名を馳せたアンダーグラウンドのパンクバンドの全てを凝縮したかのような音だけを鳴らしている。
そしてハイトーンで文学的に吐き捨てられる言葉の数々は何一つ救いなんかありはしない。絶望や虚無といった感情を余計な装飾抜きに並び立てられている。
それが妙に耳に残るメロと痙攣しながらループするギターフレーズと変則的なビート、躁鬱を終わりなく繰り返すような音と共にズタボロに聴き手を切り刻んでいく。
そもそもロックは勿論、音楽は誰も救わないし、世界を変える事なんてまず不可能だ。
だからこそ世界が空虚になればなるほどにロックの意味が問われる筈だ。
今作はどうせ世界も滅ばねえし、誰も殺すことも出来ないんだから、このまま一人孤独に死んでしまってやるというロックの一番危険な感情をパッケージしている。
だからこそ一時的な物だとしても、そうした感情を抱えている人には何処かで届くのかもしれない。
ディストピア完成間近を迎えている現代の日本。頭を空っぽするを通り越して白痴にすら陥ったポジティブの押し売り、「僕は病んでる君の事を理解しているよ」と嘯き続ける安い絶望のチラ裏、Twitter映えばかり狙ってRT数が稼ぎたいだけの表現もどき、それら全部このバンドに焼き払われてしまえとすら僕は思った。
共感だとか共有だとか上っ面の理解者ごっこなんて糞食らえとばかりに自爆テロだけを死んだほうがましは続けている。これでもかとばかりに大半の奴らが見て見ぬフリを続けている病巣を暴き続ける。
「狂ってるのは俺じゃなくてお前らだ。」とばかりに発狂した感情と音を投げつけてくるが、実は誰よりも正常な感受性を通過した上で鳴らされているからこその表現なのかもしれない。
そして誰にも寄り添いもしない。腐りきった世界だけを暴く。
日に日に空虚化していく現代社会に痛烈なカウンターを食らわせる今作は、外側も内側も焼き払って自爆する様なカタルシスすらある。
だからこそ僕は何度も今作をリピートしてしまうのかもしれない。