■ロウライト/しののめ
AnagumaRecords (2018-03-14)
売り上げランキング: 324,712
例え誰かが心血を注いで産み出した物も、気が付いたら他の誰かに消費され、不要になったら何処かに放棄される。それはもしかしたら何かを産み出す人達にとって永遠に向き合わないといけない命題なのかもしれない。
芸術作品と書けば聞こえは良いのかもしれないけど、それに値段が付いた瞬間にそれは商品に変わる。寧ろ今の時代では無料で消費される物の方が多いのかもしれない。
サムネ映えする様なキャラクターに変な事させる。みんなが良いって言ったら同調圧力で「良いぞ良いぞ」ってなって反論意見は言わせない。多感で迷える人達を騙して教祖気取り。セックスをポエミーにしてみただけの奴ら、病んでいやがる。そしてそれに一々ノイズを感じる自分も充分過ぎる程に末期症状。
東京の3ピースロックバンド「しののめ」が産み出した2018年リリースの1stアルバム「ロウライト」は消費される事に全力で反抗するアルバムだ。
syrup16g 、Discharming Man、bloodthirsty butchers、mogwai、U2、それでも世界が続くなら、そうしたバンド達の名前が思い浮かんだりもしたが、それらのバンド名を列挙した所で今作の核心には全く触れる事は出来ない。
まるで他の音楽との共存を拒む様に、この淡い光の様な音は微かにだけど確かに触れた人の感性を全力で殴ってくる。
彼らの音楽はひたすらに暗い。ポストロック/シューゲイザー/を通過したギターロックと書くと、そこらの凡百のバンドと同じだと思う人もいるかもしれないが、彼らの音がそうならないのは、洗っても洗ってもこびり付いたまま消えない絶望と孤独が充満しているからだ。
美しい余韻を残しながら耳に残るメロディはへばり付いた諦めの様であり、そのメロディと言葉の相乗効果が不特定多数に消費される事を拒む。
センセーショナルで分かりやすい言葉を羅列して、メンタルヘルスをファッションとして消費する様な昨今の自称鬱ロックやSNS映えを狙った様な消費される事を良しとし、再生数やフォロワー数と言った物でしか語れないインスタントな表現もどきには絶対に到達不可能なリアルを鳴らす。
例えばタイトル曲「ロウライト」の「隣の部屋からの笑い声が違う世界の出来事のようだ」というフレーズがあるが、「孤独感」という感情をここまでシンプルな言葉でこれ以上なく表現している事に恐怖すら覚えた。
何曲か少しだけサウンドに軽快さも感じる楽曲もあるが、それでもひたすら沈む様に重たい。
分かりやすく大衆を騙す様なセンセーショナルな言葉なんて今作には何一つなく、あまりの美しさに眩暈を覚えそうになるメロディ、極端に音数を減らしたリズム隊、生々しい轟音、そして誰もが見て見ぬ振りしている事を暴く言葉の数々。それらが聴き手の数だけ、美しい思い出も、忘れ去りたい過去も、全てをフラッシュバックさせる情景と感情になる。
今作は単純に「しののめ」という若い3ピースバンドが1stアルバムにして表現の極限に手をかけただけの作品では無い。
今作に触れた人々の感受性と記憶と共鳴し、その数だけその人それぞれの「ロウライト」が描き出されていく。
カテゴライズやジャンルや表層だけを消費する人々、分かりやすい数値だけで物事を判断する人々、SNSに描かれる病みきったディストピア、日に日に上っ面だけが消費され続けていると僕は感じる。でもきっと本当はみんな生き辛くて仕方ないのかもしれない。
そんな世界だからこそ「しののめ」みたいな「暴く」表現が本当の意味で評価され議論される日がそう遠くない内に来ると信じていたりもする。
「淡い光」と「たわいもない事」。そんな二つの意味を背負った今作は、その名前に反して軽々しく消費される事を拒む。
だからこそ今作は今の時代に生まれるべくして生まれた大名盤だ。