■sassya- × VACANT split CD release party@吉祥寺WARP(2020年1月18日)
東京のsassya-と愛知のVACANTの一撃必殺爆撃スプリットは間違いなく今年のベストリリースの一枚になる作品だ。
そんな2020年の最新型名盤を引っ下げてのsassya-&VACANTのスプリットリリースパーティは北海道の御大zArAmeをゲストに迎えての大勝負な激闘ライヴ。
更には全バンドのPAをツバメスタジオの名音楽技師こと君島結氏が担当するのだから既に最高が約束された一夜。
この日も色々と熱いライヴが被りまくっていたが、僕はこの最高が約束された夜を目撃するべく吉祥寺WARPへと足を運んだ。
この日の東京は初雪を記録し、この冬一番の冷え込みとなったが、そんなの知ったこっちゃねえって話。
真冬の夜に最高にイカしたロックバンド達の熱演が観れるんだからシチュレーションも完璧過ぎたって話だ。
・VACANT
トップは愛知のVACANTからのキックオフ。VACANTは僕個人としてやっとライブを観る事が叶い、この日彼らを目撃するのは心から楽しみだった。
VACANTはポストハードコア云々の文脈で語られることも多いのかもしれないけれど、僕はロックンロールバンドであるとずっと思っていて、この日のライヴはVACANTが最高のロックバンドであることを証明するライヴを展開していた。
本当にグレッチの音なのか?と疑いたくなる程に鋭角で尖り切ったギターの音一発で完全に勝利が約束されたライヴ。
余計な感傷を排除し、コシの強いビートとささくれだったギターフレーズだけで勝負をかましてくる漢らしさ、メンバーそれぞれの佇まいこそクールではあるが、その中に確かな熱情が迸る。
MCは殆どなし、チューニング以外ほぼノンストップで必殺の鋭角ロックを繰り出していく様は最高に気持ちがいい。
ラスト前のMCでエイさんは自らを「アマゾンの奥地の原住民の様なマイペースなバンド」なんて言っていたが、VACANTは間違いなく愛知から全世界に羽ばたくべきロックンロールバンドだ。
なんのギミックもいらない。ひたすらにビートとリフに愛されたからこそ生み出せる鉄のサウンドは問答無用だ。
最後の最後にギターボーカルのエイさんが「狂って帰れ!!!!!」と叫んだ。
2001年の下北沢SHELTERでの「狂気狂鳴」のCOWPERSのライヴで最後に現動氏が吐き捨てた言葉であり、その辺りも含めて本当に燃え上がるライヴとなった。
・zArAme
ゲストバンドは北海道のレジェンド達によるスーパーバンドzArAme。
この記念すべき日にzArAmeがゲストバンドとして参戦したのは必然だったと思う。
幻想的で美しいインスト「転生」からキックオフ、そのまま畳み掛ける様に「lowpride」、「ラストオーダーはディスオーダー」とzArAme印のキラーチューンが繰り出される。
zArAmeはVACANTとsassya-に比べたらキャリアが長い人たちによって結成されたバンドではあるが、円熟の中にある冷めない衝動と鋭角さがあり、がむしゃらに尖り切るのではなく、その尖りにどこか優しさすら感じる。
例え形を変えても音楽を続けてきた人たちだからこそ生み出せる貫禄がzArAmeにはある。それは轟音と叫びと共に今なお狂い続ける音像だ。
現動氏とイサイ氏が漫才の様な掛け合いMCをしたりとほっこりする時間こそあったが、理屈抜きに轟音で殴り付けるサウンドはzArAmeが現役の本物であるからこそ生み出せるものだ。
ラストの「微唾」の感動的な瞬間まで何一つ隙が無いライヴだった。
zArAmeはex.COWPERSだとかex.theSunというメンバーのキャリアだけで語り尽くせるバンドではない。
現動氏の最高の叫び唄と共に積み重ね続けるからこそ生み出せる熱情。
WARPのフロアは完全にzArAmeの空気になり、その音だけで世界を変えることが出来るなんて子供みたいな幻想もzArAmeを観ていると確かに信じることができるんだ。
・sassya-
トリのsassya-がこの日の全てを持っていったと思う。
この日のsassya-は今後伝説になり得るであろうライヴを繰り出していた。
いつもライヴの最後にプレイされる勝負曲「脊髄」でスタートした瞬間にこの日は何もかもが違うと確信した。
岩上氏のやり切れなさを叫ぶボーカルの気迫、決して音数が多くないからこそ鋭角さに繋がるアンサンブルのハマり具合、ギターとベースとドラムが一つの生き物になっているグルーヴ、初っ端から感動的で生々しい空気に包まれる。
sassya-のライヴはその緊張感が異様だ。ドラムとベースの一体感に加えて、ファズを踏む瞬間の気迫とその一瞬の後に繰り出される爆音のギター。
自問自答の言葉、爆発する瞬間のカタルシス、決して速い楽曲が多いわけではないが、高まった瞬間に繰り出される感情の疾走。ロックバンドとして全てが完璧なライブをsassya-は常にブレずに展開する。
この日の終盤は待望の新曲もプレイ。一曲目の新曲はsassya-印のブルースとも言うべき新境地、そこからスプリット収録の新たなるキラーチューン「吠えないのか」へと雪崩れ込む瞬間にはWARPの空気は全身を切り裂くものへ。
そして本編ラストでプレイされた新曲がsassya-史上どころか、ロック史に名を残すかもしれないとんでもない名曲だった。
勝負曲「脊髄」すら霞んでしまいそうになるsassya-史上最も物哀しく優しい名曲。
ベタな例えになってしまうの承知で言うが、bloodthirsty butchersの境地にまでsassya-は遂にたどり着いた。そしてこの日初めて聴いたこの新曲で気付いたら涙を流していた。
そんな感動的なラストからアンコールでの4カウントからの「だっせえパンクバンド」での全力で暴走するサウンドで一気に天までぶち上げて行く瞬間。問答無用で血管が破裂しそうになるくらいの興奮。
本当にずるくて嫉妬しそうになる程にこの日のsassya-は完璧だった。このバンドは本気で持っているバンドだなって再認識したと同時に、だからこそ本物のロックバンドであり続けているんだろう。
VACANT、zArAme、sassya-と活動拠点も世代も違うけれども、どこまでも尖り続ける事で未来を切り開く3バンドの生み出す空気に酔いしれた特別な夜になった。
WARPを出ると熱狂と熱情を冷ます様な寒さの中、まだ小雨が降り続いていた。
冬の寒空の下の帰り道の東京はいつもと変わらないけど、なんだかいつもと少しだけ違う空気が流れていた。
何者にもなれない僕でも、たった3時間3バンドのライヴを観ただけで、世界が少しだけ変わった気がした。
随分といい歳になった自分でもそんな事を恥ずかしげもなく心から思えるのは最高のライヴを目撃したからだろう。
二度と同じ夜は訪れないからこそ、この日の夜はずっと記憶に残る。