■IKKI 2/百姓一揆
静岡県三島市発焦燥衝動型オルタナティブロックバンド百姓一揆。
今作は自主制作デモ音源の3曲に新曲を加えた全4曲の2nd EPとなっている。
フォーマットはCD100枚とカセット100本でのリリースだ。
百姓一揆は1st EP「皮と肉、骨」リリース後にギタリストとしてJamie(And Protector)が加入。今作は4人体制になって初の音源でもあり、デモ音源の楽曲も4人編成で再録となっている。
百姓一揆というバンドは現代の主流となっているSNS映えやパワーワード頼りの作為的偽音楽に対してフラストレーション全開でノーを突きつけるバンドだと勝手に思っている。
歳を取っても、いや歳を取ってしまったからこそこびり付いて消えない絶望や後悔を無作為に爆音に乗せて叫ぶ衝動を鳴らす。
彼らのサウンドはJamieが加わった事によって更に解像度と奥行きが増した。
持ち前の蒼いメロディセンスを最大限に活かすツインギターの掛け合い、更にはファズを全力で踏んだ瞬間のバーストする衝動も倍プッシュで炸裂。
ベーシスト小橋の中尾憲太郎直系のコシの強いルート弾き、ドラマー鶴野のドカドカと叩きつけるドラム。ギターボーカル和田の全開の叫び。
デモ音源の再録曲はどれもポストロック色が強いアプローチを繰り出しているが、そこには気取ったお洒落さは皆無。
クリーントーンの儚いアンサンブルとサビでバーストするカタルシスの対比がより鮮明になっている。
特筆すべきは新曲の「精神焦燥衰弱」だろう。
前作EPのキラーチューン「福沢諭吉」を超える最強の一曲に仕上がったと言える。
今作の中でも特に轟音バースト型のサウンドアプローチを繰り出し、彼らのルーツであるbloodthisty butchers、COWPERS、eastern youthと言ったバンドの音を2020年代へと更新し、その上で現代感皆無な百姓一揆節に仕上げている。
さもわかっているかの様にそれらのバンドの上積みだけをコピーアンドペーストしたバンドはこれまでも腐るほど登場したが、百姓一揆がそれらのバンドの流れにありながら全く別物になっているセンスの高さにも驚く。
それはギターボーカル和田が自らが愛する音楽を血に変え、更に嘆きと怒りをありったけで叫ぶからこそだろう。
メンバー4人のアンサンブルの臨場感は音源でもフレッシュな状態でパッケージされており、その辺りも彼らの大きな武器だ。
初期衝動を音楽にするのがロックであることなんて実際問題とうの昔に誰しもがわかっている筈の事実だ。
しかし現実はそんな衝動を純粋なまま放つだけの力量を持つバンドはほぼ皆無と言って良いかもしれない。
様々な思惑、打算、承認欲求、それらは純粋な衝動を腐らせ、そしてその瞬間だけで消費されてあっという間に賞味期限切れになる商品へと堕ちていく。
百姓一揆は90年代00年代国産オルタナティブロック感という意味では懐かしさを感じる人も多いと思う。
同時に百姓一揆は2020年という作為に満ちたものばかり溢れる時代に生まれたからこそ、年齢を重ねても消えることがなかった衝動を子供の様な純粋さで鳴らす。
だから百姓一揆の音楽は決して腐ることがない。
SNSに切り取られることのなかった日々の裏側の嘆きや後悔だけを百姓一揆は鳴らす。
綱渡りの生活の中で衰弱しても手放せない感情を鳴らしているからこそ、僕は彼らを全力で支持する。