■Mizutani/裸のラリーズ

水谷孝率いる伝説的サイケデリックロックバンドである裸のラリーズ、90年代初頭に3枚の公式音源が発表されたが、今作はその中の一枚である。
ラリーズといえば殺人的音量で空間を埋め尽くすフィードバックノイズが代名詞になっていたりするのだけれど、今作は水谷孝の唄とギターを基調にしたアシッドフォークな作品である。しかしながら水谷孝の狂気に満ちながらかも耽美な世界観はしっかりと存在している。
今作は前半は完全にアシッドフォークな楽曲ばかりが並ぶ。第1曲「記憶は遠い」はラリーズの代表曲であるが、シンプルなアコギとパーカッションと水谷の唄のみで構成され、伸びやかさすら感じる広がりのある世界観が非常に魅力的だ。「記憶は遠い」はブートを含めラリーズ作品で1曲目を飾る事が多い楽曲であるが、あのノイズまみれ殺気まみれな楽曲の原型は本当にシンプルなアシッドフォークであるのだ。第3曲「断章Ⅰ」から第5曲「亀裂」の陰鬱で密室的な空気は重々しくも耽美な味を持っており聴き惚れてしまいそうだ。水谷のルーツには早川義夫率いるジャックスの存在を挙げられる事が多いが、そのジャックスの密室的でサイケデリックな世界を水谷は継承し、しっかりと血肉にしているのを感じる事が出来るであろう。
後半からはエレキギターの音も登場し一気に殺人的狂気を鳴らすラリーズへと変貌する。パーカッションとエレキギターの美しい旋律から一気にフィードバックノイズとアコギのストロークと水谷の浮遊する第6曲「The Last One」から、今作のハイライトであり、フィードバックノイズとアシッドフォークとサイケデリックさが奇跡的な比率で共存し、水谷の中で蠢く怨念と殺意がラリーズで最も出ている大名曲である第7曲「黒い悲しみのロマンセ」の流れは水谷孝という男が持つ負の感情が黒い霧の様に視界を埋め尽くすかの感覚にすら陥ってしまいそうになるのだ。
ラリーズは殺人的フィードバックノイズが無くともラリーズにしか鳴らせない怒りと殺気に満ちている。ラリーズと言えば輪郭すら掴めないフィードバックノイズ塗れの怨歌であるのだけれど、今作に収録された楽曲はから伺えるのは、そのルーツは矢張りジャックスの様な悲しきアシッドフォークの唄であり、水谷が歌いギターをかき鳴らす限りはその狂気は絶対に薄まる事が無いのだ。