■Child's Hill/Kuroi Mori

Kuroi Moriはサウンドクリエイターである古谷弘毅によるユニットだ。2011年発表の今作は2010年にロンドンでレコーディングされた作品であり、国内国外の様々なアーティストと作り上げられた作品である。その殆どが古谷氏一人の手で作り上げられており、オーガニックなエレクトロニカからダークなトリップホップまで多彩に行き来し、それでいて多数の風景を想起させる様な音の快楽を味わう事が出来る、音響の螺旋を描く作品だ。
今作はエレクトロニカを軸にしてはいるが、コラボレーションしたアーティストによってそれぞれの楽曲が違う表情を見せる非常に多彩な作品だと思う。例えばフランス出身のシンガーであるAmdineとは3曲コラボしているが、第2曲「Boy」はダークなトリップホップになっているし、一方で第4曲「Urja Ibra」は静謐なアンビエントといった仕上がりだ。同じアーティストと製作した楽曲でもその表情や手法を変え、それでいてそのアーティストの魅力を引き出す作品と言っても良いだろう。その殆どの音を自らで作り上げながらも、様々なアーティストと共に楽曲を作り上げた事によって自らのプロデューサーとしての力量も確かに見せ付けてくれている。
個人的には第3曲「Breathe」のシンプルなビートと音を機軸にしながらも、徐々に広がっていく音の世界であったり、第7曲「There's Nothing Ahead On This Way」のハードコアを解体し、トライヴァルなビートのドープさとサイケデリックな感触は今作の中でもかなり気に入っていたりするのだけれども、どの楽曲も最終的にはKuroi Moriの音に帰結しているし、余計な装飾を施さずシンプルな音のみで構築された楽曲は、より聴き手の想像力と快楽を刺激していくのだ。この音には何の縛りも無いし、何の括りも必要としないけど、全ての音はオーガニックで静謐な音の美しさに帰っていく。
今作の音はどんな時間でもどんな場所でも有効な音になっている。エレクトロニカでありながら無垢でまっさらな音だからこそどんな時もそこに馴染んでくれるし、どんな状況でもその音は不変のままだ。シンプルで美しい音の波が作り上げる約一時間の小旅行、ただその音の世界に静かに入り込むだけで、非現実にある静かな世界へと旅立つことが出来るのだ。