■O )))が放つ殺人的重音(前編)

当ブログを読んで下さっている方をご存知の方が多いだろうし、今更な感じがするかもしれないけど、改めてSUNN O)))とその周辺のバンド等についてコラムを書かせて頂きます。
まずSUNN O)))はGreg AndersonとStephen O'Malleyによる二人組のドゥーム・パワーアンビエント・ドローンユニットであり、SUNN O)))はアンプのメーカーから拝借された名前であり、彼らもSUNN O)))のアンプを使用している。その音楽性は超低域の普通の人間からしたら拷問でしかない音をとんでもない爆音で反復させるという、リズムやビートといった概念を完全に放棄してしまった異形の音。その低域のノイズが終わり無く反復するそれは正に地獄の音と言っても過言ではないし、殺人的音塊の暴力をこれでもかと発揮する破壊神そのものな音だ。しかしながらその音は世界的にカルト的な人気を誇り、ある意味アンダーグラウンドのアイドル的存在にまでなってしまっているのが驚きだ。この日本でも何度も来日公演が行われており、日本にもSUNN O)))の殺人的な音に虜にされてしまったファンが多数いるのが驚きだ。
SUNN O)))はDylan Carlson率いるEarthというパワーアンビエントユニットの2ndである「Earth2」に大きな影響を受けて始まったユニットである。「Earth2」も超低域のアンビエントなノイズが終わり無く繰り返される超カルト的な作品であり、当時NIRVANAのカート・コバーンのプッシュがあったにも関わらず、全く見向きもされる事は無かった。しかしSUNN O)))の登場によって、「Earth2」は再評価され、今ではSUNN O)))を語る上では欠かす事の出来ない作品になっている。
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そんな「Earth2」に大きな影響を受けたSUNN O)))のデモ音源である。「The Grimmrobe Demos」は正に「Earth2」の流れを受けた無慈悲なまでのドローン作品であり、ドラムレス・ボーカルレスのベースとギターのみで構成された推進力皆無のリフのみがただひたすら爆音で響いているという物。「Dylan Carlson」という曲も収録されており、Earthへのリスペクトはそこからも感じる事が出来る。
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SUNN O)))はその無慈悲なドローンサウンドを守りながらも徐々にEarthフォロワーへの脱却を次第に図り始める。1st「00 Void」はまだ「The Grimmrobe Demos」と同じ手法を取った作品であったが、2ndアルバムである「FLIGHT OF THE BEHEMOTH」からはシンセ・ドラムスを取り入れ始め、その音をより深遠なる物に変化させ始めていく。ただ爆音の重低音に更なる音圧や構成や破壊力を持たせた「」はSUNN O)))の大きな進化を体現した作品となった。
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そしてその音は益々多彩になり始めていく、「White1」と「White2」のWhiteシリーズでは、Runhild Gammelsaeter、Joe Preston、Rex Ritter、更にはMayhemのボーカリストであるAttila Csihaまでも迎え、数多くの暗黒音楽の猛者とのコラボレートに試みた作品である。ここでSUNN O)))はドローンの枠にありながらもよりオカルト的な恐怖の音を具現化し始めていく。音としてのヘビィさだけでなく、精神的な陰鬱さや苦痛までもを音にし始めたSUNN O)))は完全にEarthフォロワーを脱却し、自らの音を確立していく。
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そしてSUNN O)))はWhiteシリーズで手に入れた精神的カルトの世界を一気に具現化する方向に広がっていく。今まで通りのドローンサウンドをもっと分かりやすい形に構築し、それにある種のコマーシャル性やカルトとしてのエンターテイメント性を獲得する方向へと向かっていく。最早初期のギターとベースのみで繰り広げられる殺人的パワーアンビエントの粋を抜け出し、多彩な音を取り入れる方向へと向かい、それを形にしたのは「Black One」である。この作品は精神的オカルト世界をこれでもかと描いた陰鬱極まりない作品ではあるが、実はSUNN O)))初心者にはかなり入り込み易い作品でもある。SUNN O)))未体験の人は今作からこいつらの音に触れる事を是非お勧めしたい。
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そしてSUNN O)))はその精神的ダークさからも脱却を図り始める。現時点での最新作である「MONOLITHS & DIMENSIONS」からはその殺人的ドローンノイズこそは健在ではあるが、音塊を無慈悲に放つSUNN O)))から、その凶悪な音量とドローンノイズをしっかりと音楽としての形へと昇華させたのである。しかも自らの不穏さはそのままに今までの作品にはない神秘性や光の差し込む様な音までも表現し始め、芸術的な音を奏で始めたのだ。
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ここまで駆け足で今までに発表した作品を紹介したが、SUNN O)))にはライブ会場のみで販売された音源も多数存在し、そちらは殆どが未聴であるので紹介は省かせて頂く。またそれらの音源はオークション等で高値で取引されており、SUNN O)))のカルト的な人気を現している。
またSUNN O)))のライブは音源以上の殺人的音塊を放つ物だ。正に壁としか言い様の無い10台以上にも及ぶアンプから放たれる超低域ドローンノイズは人の耳を破壊しかねない物であり、筆者も一度だけではあるがライブでSUNN O)))の音に触れて、耳だけでなく体の器官が本能的な危険を訴えるかの様な感覚を体感した。その超絶殺人的音量と大量のスモークが渦巻くライブもSUNN O)))の大きな魅力であるのだ。
またSUNN O)))の二人はSUNN O)))のみならず多数のバンドにも参加している。こちらの関連作品に関しては次回の後編の方で紹介させて頂きたい。
最後に彼らのCDには「Maximum Volume Yields Maximum Results」(最大のボリュームは最大の効果をもたらす)と書かれており、その言葉通り爆音でSUNN O)))の音に触れる事は危険極まり無い物ではあるが、その爆音を耳にブチ込んだ瞬間に生まれるカタルシスは相当な物であり、それこそがSUNN O)))ジャンキーを多数生み出しているのだ。