■We're Here Because We're Here/Anathema
![]() | We're Here Because We're Here (2011/06/07) Anathema 商品詳細を見る |
My Dying Bride、Paradise Lostと並びゴシックメタル御三家として名高いAnathemaの2010年発表の8枚目の作品。しかし今作ではメタル要素はあまり無く、ゴシックらしい耽美さこそあれど、天へと登り詰めるかの如き、気高く優しい音が入ってくる、その旋律の美しさだけで無く、眩いばかりの光を感じさせてくれる神々しさを放つ光の音楽を気高く美しく鳴らした傑作だ。
その音はゴシック上がりの美意識は勿論であるが、ネオ・プログレを独自に消化し、ポストロック的な静謐な美しさを配合させながらも、楽曲のコード進行や展開は非常にドラマティック。バンドとしての音だけで無く、ピアノ・ストリングスも取り入れ、轟音とはまた違う厳かな音が幾重にも重なり合った壮大さと音の厚みを強く感じる。優しい旋律とソフトなボーカルは取っ付き易さもあるが、その音は緻密であり厳か、どこまでも登り詰めていく神々しさと耽美な破滅的感傷が交じり合いながらも最終的には眩い光へと突き進む様な感覚に陥る。第1曲「Thin Air」の柔らかな旋律から徐々に熱量を高めて行き、終盤でその音圧を高め登り詰めていく感情的な音と眩いばかりのドラマティックさ、第2曲「Summer Night Horizon」でのゴシック要素の強いピアノの旋律から始まる、シリアスでスリリングなダークさから少しずつ光が差し込むかの様な展開、冒頭の2曲はそのカラーこそ違うが、今作での音は見事に体現した楽曲であるし、それぞれが行き着く先は涙が溢れそうになる位の美しさと、包み込む様な旋律からのドラマティックさと、その先にある光だ。女性ボーカルのコーラスもまた今作の音の魅力を大きく引き出している。第4曲「Everything」なんて冒頭のピアノのフレーズから感情を刺激し、乾いた心に優しく水を与える様な、または温かい毛布の様な温もりと安らぎを施される様なそんな気分にすらなってしまう。繊細でありながらも、バンドとしての確固たる強さを感じさせてもくれるし、安らぎの音でありながらも、そのボーカルも音も美しいラインを描く様は本当に感動的。しかしながら光差し込む美しさだけで無く、第7曲「A Simple Mistake」の様なゴシックな耽美さ、悲しみに満ちた儚さを物語の様に紡いでいく長尺の楽曲も見事。中盤ではゴシックメタルなリフも登場し、ドラマティックで美しい破滅へと向かう様なんか本当に堪らないのだ。ストリングスの音がまた感傷的でもあり、終末へと加速する破滅の美学そのものを体現したかの出来であるのも注目すべき点だ。しかしながら1曲1曲の完成度が本当に高いし、一貫して儚くも芯の強い旋律が途切れる事無く鳴り響き、それをより浮き彫りにするストリングスやピアノの音であったり、細かい部分にまで拘った徹底した美意識に基づくアレンジであったりと本当に完成度の高い光と涙の美しさに満ちた作品だ。
僕は今作で初めてAnathemaの音に触れたが、その神経や細胞レベルまで拘ったアレンジや美意識はそうだが、全ての音が確かな強度を持ちながらも、聴き手の体と心に優しく入り込んで行く様な温もりに満ちているし、ジャケット同様に眩い光を感じさせてくれる純潔の美意識と美しさに満ちた作品だ。そして決して長尺の楽曲は多くないのだけれども、その壮大なスケールは本当に一つの神話の様であり、そのドラマティックさにも魅了される。本当に多くの音楽ファンに受け入れられる作品だと思うし、今作の音の有効範囲は半端じゃ無く広いと思う。紛れも無い大傑作。