■a naked landscape/kulara

日本の激情系ハードコアの礎を築いたバンドと言えばEnvy、There Is A Light That Never Goes Out、1stでのNine Days Wonder、3cm tourと多くのバンドが挙げられるが、kulara(クララ)の紛れもない国内激情最重要バンドの一つであり、そして最も狂った音を鳴らしていたのがkularaであった。今作は00年に自主レーベルより発表された2ndでありkularaの実質最後のオリジナル音源であるが、たった2曲収録でありながら27分半という収録時間、ハードコアでありながらアンビエント的アプローチの前衛的な音、全編に多くの楽器を導入し、残虐で冷徹な狂気を鳴らす激情系ハードコアが生まれてしまったのだ。
まず今作は全編に渡りピアノが導入されている、しかも今作での音の方向性を決定付ける程の重要な役目を担い、不協和音のコードに基づいた不安定な感覚でゆっくりと鳴っているという物、ドラムのビートもハードコアらしいビートなんか一切登場せず変拍子と転調だらけであるし、ベースは躍動感に溢れるラインを予測不能な音の進行で攻めているし、それがブチ壊れたドラムのビートと奇妙に絡み、kulara独自の捻れたグルーブを生み出している。ギターの音なんてまともなスケールなんか使用しておらず、不協和音を時に静謐に鳴らし、言い知れぬ恐怖を与え、時にハードコアらしいヘビィさのあるリフをその独自のスケールの基づき、ジャンクさと残酷さを生み出すという本当にカオティックその物だ。ボーカルもいきなり叫んだと思えば、急にボソボソと狂った呟きをするまるでSilencerのボーカルとStalingraidのロシア人ボーカルであるローマが組み合わさった様な感触だ。ただ言えるのはこれらが全て極限まで内省へと向かい、人間の中にある破滅的感情と自傷的破壊衝動へと全て帰結したハードコアという事だ。
第1曲「Brown Knife」なんかは序盤はまだハードコア要素を感じさせてくれるパートだけれど、徐々にそれらが引き裂かれ、アンビエントな不穏さが徐々に見えてくる構成。長尺であり複雑な構成の楽曲であるが、ドラマティックな要素を排除し、全編通して、残酷な狂気でフラフラと進行していく様な楽曲だ。変拍子でズタズタに分解されたからなだけでは無く、奈落の奥に突き落とし、かと思えばいきなり転調し涎を垂らしながらなたうち回る様な激情パートを繰り返していくという楽曲。ピアノだけでなくサックスなんかも導入し、多くの音が鳴らされながらも、それらが幾重にも重なり感動的な音を鳴らすのでは無く、全方位からの狂気として存在しており、そこから抜け出せない精神世界の煉獄へと繋がっていく。第2曲「The Belt Of Sleep Freeze」は更に混沌を極めた楽曲であり、アンビエントなギターと美しいピアノの旋律での静謐な始まりから、それらが徐々に無慈悲なうねりとなり、精神の奈落のハードコアになる様の構成美が非常に堪らない。楽器隊の音が激情のうねりを暴発させるのに対し、聞き取り不能な呻く様なボーカルが非常に対象的でもある、ダークアンビエントを人力でやっている様なパートを挟み、身を引き裂く寒々しいギターの音が埋め尽くし、後半からはRussian Circlesをよりダークにしたかの様なポストメタル的なアプローチまで飛び出す。終盤の終わり無く反復するリフは燃え尽きる事無く続き、それらが憎しみと殺意を増幅させる様な音なのだ。この激情は決して美しく暴発せずに破綻寸前のまま終わりに向かい落下していくだけなのだ。
多くの激情の素晴らしいバンド達は、それぞれ自らのアプローチを確立しながらも最終的にはストレートな瞬間の激情を鳴らしている。しかし今作の音は感情移入する余地すら削ぎ落とし、理解した気になるのなんか許さない内側の内側へと向かう自傷的であり、残虐であり、感情的なハードコアを確立した。国内の激情のバンドの中でもここまで漆黒の音を鳴らしたのはkularaだけだ。たった4年間でその活動にピリオドを打ったkularaであるが、その存在意義はあまりにも大きいし、今作はそんなkularaの到達点であり、国内激情屈指の名盤となった。
kularaのメンバーはそれぞれhununhum、reach me down、mermort sounds film 、As Meias等で活動し、現在もそれぞれ素晴らしい音を生み出し続けている。