■Ⅱ/Angel'in Heavy Syrup

大阪が生んだ伝説的ガールズサイケデリックプログレバンドであるエンジェリンの92年発表の2nd。エンジェリン特有の日本語フォーク的な退廃感、時に甘い旋律を時にノイジーなファズギターをといった酩酊感と甘くも柔らかに突き刺さる旋律も発揮され、それをプログレッシブに鳴らすという音は91年の1stから99年の4thまでエンジェリンの核として存在しているし、今作でもそれは変わらないが、今作は特にプログレッシブかつ長尺の楽曲が並び、僅か5曲であるがその内の3曲がそんなプログレッシブな楽曲だ。
先ずエンジェリンらしい甘いアレペジオが重なるフレーズから第1曲「Introduction Ⅰ ~ Naked Sky Hi」が幕を開く。淡々とした進行の中で徐々に音のテンションを高めていくIntroductionのパートを終え、本編の「Naked Sky Hi」からその空気を一変させる。鉄琴の音をフューチャーし、その儚い歌声と今にも崩れてしまいそうな楽曲の旋律の美しさに聴き手は破滅的世界へと否応なしに飲み込まれていく。だがフランジャーのかかったギターがサイケデリックな色を持ち楽曲はまた一変。ファズギターの音をバックに、ワウをかましたギターのフレーズが徐々にその旋律を変貌させ別次元の空間へとトリップしていく。その流れからの終盤は鳥肌物でより儚い歌世界の美しさが退廃の世界へと飲み込んでいく様はエンジェリンだからこそ出来るサイケデリックなプログレ絵巻だ。轟音とフォーク音階の旋律が織り成す天国でも地獄でも無い世界の悲劇を描く第2曲「Crazy Blues」も圧巻のサイケデリック絵巻であり、フィードバックする音の儚さとは別にタイトに変拍子を刻むビート、今にも消えてしまいそうな歌声を皮切りに轟音が崩壊を描き、美しい音世界を焼き尽くしていくドラマティックさ。そして最終的にプログレッシブなパートへと帰結していく楽曲構成。一つの楽曲の中で幾多のドラマを描き、優しく儚い世界からの崩壊を描いていく様には身震いしてしまう。1stの再録である第3曲「きっと逢えるよ」のノイジーかつプログレッシブでありながら日本語フォーク的世界観と音階が生み出す耽美な美しさもエンジェリンの音をこれまでに無い位に叩き付けてくる名曲だ。今作は第4曲「Introduction Ⅱ」という2分弱の楽曲で完結し実質4曲の構成であるが、たった4曲で一つの美しい破滅を嘆く天使の歌を見事に完成させてしまっている。ボーナストラック的な立ち位置になる第5曲「I Got You Babe」は60年代から70年代に活動していた男女フォークデュオの名曲のカバーであり、エンジェリンのルーツを垣間見れると同時に、原曲に忠実でありながらもその儚い歌声とサイケデリックさはエンジェリンの物でありこちらも名カバーと言える。
今作はエンジェリンで最もプログレッシブかつ壮大なスケールを持つ楽曲が並ぶ作品となった。エンジェリンはその儚い天使の歌声とサイケデリックな音のスケールとフォークソング的世界観が売りであるが、花電車等に影響によるプログレッシブさこそが彼女達の楽曲の核でもある。それが前面にでているし、そのプログレッシブさがあるからこそエンジェリンは美しく儚い崩壊の音を鳴らしているのだ。