■水/さかな
![]() | 水 (2009/01/05) SAKANA 商品詳細を見る |
アコースティックな音楽性で80年代から現在も活動しているさかなの90年発表の3rd。2ndである「マッチを擦る」の続編となる作品でありエンジニアにJAGATARAのエマーソン北村を迎えている。殆どの曲が3分未満の小品的な楽曲が並び、必要最小限のアコースティックサウンドに空間的なサウンドコラージュが施されており、緩やかなポコペンのボーカルが詩的な言葉を紡ぎ、その歌世界は非常に幻惑的である。
今作はアコースティックギターとパーカッションと音のコラージュとポコペンの歌という本当に最小限のアコースティックな形式の作品であり、音という音を徹底的に削ぎ落としている。今にも止まりそうな緩やかなスピードで楽曲は奏でられ、シンプルでありながらも夢遊病の様な幻想的な歌の世界へと聴き手を導く。第1曲「コカ」の歌と音の湿度が印象的であるし、第2曲「ピアニア」では少し不規則なシンバルの反復とミニマムなギターフレーズが織り成す不穏さと、さかなの水のベールで包み込む様な感覚の音が時に聴き手に一抹の恐怖感も与えてくる。第3曲「あの人」のポコペンの平熱の中での悲壮感の歌唱を前面に押し出し、ポコペンのボーカリストとしてのポテンシャルを感じる。彼女の歌は決して派手な感情を表に出さないボーカリストであるが、その平熱の悟りと諦念の入り乱れる淡々とした歌はさかなの音により明確な世界を与えてくる。その浮遊感は癒しとかそう言った類の物では無く静かな狂気と瘴気がもたらす微かな毒素だ。その中でも第6曲はテンポも速めのパーカッションが今作の中でも異質であるが、それでも反復する音と細切れの歌が性急さに反し気だるさを残す。代表曲である第7曲「レインコート」が今作で最もオーソドックスな構成の楽曲だが、ギターの音色と歌の隙間すら聴かせる楽曲の引力に感服する。基本的にスタイルはオーソドックスなアコースティックである筈なのにどの密度を空白ばかりにし、スタンダードな形の楽曲を少しだけ分解し再構築したかの様な感覚をどうしても覚えてしまう。それこそが今作の幻惑と浮遊感の核になっているのかもしれない。第10曲「目」の拍の概念を放棄したスカスカの混沌から第11曲「ぬれた床」のワンコードの反復と無機質なボーカルのみが消え入る様に終わり。完全に取り残されたまま正体不明の幻惑の歌世界の旅路は終わる。
今作は音自体は本当にシンプルなアコースティック作品なのに正体不明の靄に頭が包まれたまま作品は独自のタイム感で進行する。サウンドコラージュも非常に効果的な役割を果たしているが、ポコペンの無気力かつ悟りきった歌と鳴らすコード自体はスタンダードでありながら、そのフレーズが分断されたアコギの音のみでここまで摩訶不思議な世界を描いている。催眠術にかかったかの様な感覚を今作を聴くと味わう事になるだろう。透明な純度を持った甘い麻薬の様な作品、引き擦り込まれたらもう抜け出せなくなる。