■しかばね/屍

負の感情をブチ撒けるハードコア。屍はそんなバンドであり、音はへビィなハードコアであるが、それ以上にボーカルの板倉氏の個人的な負の感情が炸裂する歌詞世界がヘビィでありメロディアスな音と奇妙にマッチし、聴く物を負の世界へと導くハードコアとなっている。2ndである今作は負の感情を吐き出した言葉が記されているジャケットが既にとんでもないインパクトを持っているが、そのジャケットの世界がまんまハードコアとして存在する作品だ。初期は和製HIS HERO HAS GONR等と言われていたらしい。
そのネガティブさに特化した世界は第1曲「灰骨」から露になっている。スラッジな感触のBPMとギターリフはとにかく重苦しいのだけれども、その中で陰惨極まりないデスボイスで板倉氏は自らの絶望を吐き出しまくる。そして終盤で一気にBPMが早くなり、ドラマテイックさを感じさせる旋律を奏でながらも、その陰惨さは加速していくばかり。続く第2曲「消えてほしいものが消えてくれない」でもその鬱病ハードコア具合は加速している。シンプルでありながら疾走感溢れるビートと、ほとんどコード弾きであるが情緒豊かでメロディアスな旋律とパラノった頭で自らの痛みを猛毒として吐き出す様は見事に噛み合い、板倉氏の脳内の絶望世界がダイレクトに伝わってくるからこそ聴き手は感情移入を余儀なくされてしまう。ヘビィでありながらメロディアスでシンプルなビートで鳴らされる音は何のギミックも存在しないが、それがかえって板倉氏の世界を明確にしているのだ。ストレートなサウンドだからこそ、負の感情もストレートに聴き手を突き刺していくし、負の感情に特化した激情が生み出すカタルシスは相当な物だ。今作での音を「境界性人格障害ハードコア」なんて名付けた人もいるらしいが、それも頷けるだけの内容。板倉氏の弾き語りである第4曲「離れていく・・・」でもその陰惨さは一貫しているし、アコースティックだからこそ余計に剥き出しになる歌が胸を打つし、激情色の強い第5曲「精神的バランスの崩壊~前向きに生きようとする自分とそれを妨害する自分~」のグラインドと激情の音を飲み込みながらもそのバンドとしてのパワーが完全に絶望へと振り切れている様に美しさすら感じてしまう。最終曲である第8曲「行きつくところ」の約11分にも及ぶ負の感情の螺旋であり、激情的な音か後半は静謐なギターとドラムのみが篭った音で鳴り響き、絶望の果ての無すら感じる。
ハードコアとしての肉体性とメロディアスな激情を感じさせながらも、徹底してドス黒い陰鬱な感情のみを鳴らす今作は負の感情のみを鳴らす激情として傑作になっている。ハードコア愛好家以外にも訴える力もあるし、ここまで内側に向かうハードコアを鳴らせるのも日本人特有の精神の表現力の高さがあるからだろう。人を選ぶ音楽ではあるけれど日本人にしか鳴らせないハードコアが今作には確かに存在するのだ。