■Les Voyages De L'Âme/Alcest
![]() | LES VOYAGES DE L'ÂME (魂魄の旅路) (直輸入盤・帯・ライナー付き) (2012/01/18) ALCEST、アルセ 他 商品詳細を見る |
最早日本でも人気バンドと言っても良いんじゃないかって位の知名度を誇るNeige率いるAlcestの2012年発表の3rd。基本的には前作の延長線上の作風でありながらもより緩やかな時間の流れの中で揺らめく天へと上る至高の音色はより洗練された印象を受けるが、それ以前の作品が持っていた要素も今作では明確に継承していたりもする。相変わらずブラックメタル色はあまり存在しないけれども、Neigeは時折金切声のシャウトなんかも見せ付ける。しかしそれでも揺らがない純白の音色は今作でも極まっている。
先ず第1曲「Autre Temps」にて寓話の世界へと誘う様な耽美で深遠なアルペジオでもうAlcestの天上の音色が響き渡る。ブラックメタル要素はほぼ皆無とも言えるけれども、それでも純粋さを守り続けるかの様なノスタルジックな旋律だけで真っ向勝負し、センチメンタリズムを静かに加速させる辺りは本当にAlcest節としか言えないし、光が煌く蒼く美しい郷愁の世界へと導いていく。シューゲージングするギターフレーズが胸を熱くさせてくれるし、不変のAlcestの美しさは今作でも健在と言える。第2曲「Là Où Naissent Les Couleurs Nouvelles」では天上のサウンドを相変わらず展開しながらも、中盤からはトレモロリフにブラストビートにNeigeの絶叫とブラックメタル色のある展開を見せるが、それでも破壊的な狂気は微塵も感じさせないし、寧ろAlcestの持っている耽美な世界をより明確にしているし、光も影も鳴らすAlcestのスケール感に満ちた名曲と言えるだろう。今作では郷愁の旋律が今までの作品以上に強くなった印象を受けるし第3曲「Les Voyages De L'Âme」でもノスタルジックでおぼろげな感傷が胸に焼き付いてくる。1stの頃を彷彿とさせながらもより蒼い旋律が轟音とともに押し寄せ女性のコーラスと轟音が瑠璃色の雨を降らせる情景豊かな1曲になっている第4曲「Nous Sommes L'Emeraude」と中盤の目蘭子リックな2曲の流れは鳥肌物だ。しかし第5曲「Beings Of Light」では最初期のAlcestを彷彿とさせる正にシューゲイジングブラックメタルが展開されていたのには驚いた。でも決してダークにはなっていないし、霧で覆われた深い森を走り抜け、その先にある眩いばかりの光を全力で掴み取ろうとしている様な妙に人間味溢れる青臭さと精霊達の優しい至高の歌声が全てを祝福かの様な世界がその先には広がっている。そして再びNeigeの絶唱が響き渡る今作で最もハードな第6曲「Faiseurs De Mondes」へと繋がるが、それも痛みの先にある救いの光を描いている様に見えるし、胸を締め付ける感傷その物だ。そしてAlcest史上最も爽やかで陽性の旋律が際立つ朝焼けの眩しさの様な第8曲「Summer's Glory」で今作は幕を閉じる。
今作は今までの作品に比べたら決して派手な作品とは言えないかもしれない。しかし今までNeigeが培った物をフルに生かし、Alcest史上最も情景豊かで多方面に広がった作品に仕上がったと僕は思う。「Summer's Glory」は間違い無くAlcestの新境地だと言えるし、最初期のシューゲイジングブラック要素の強い音でも現在進行形のAlcestをしっかりと体現出来ているし、何よりもAlcest史上最も郷愁の香りに満ちた今作が生み出す感傷はやはり聴き手の胸を焦がすのは確かだ。より確かな光を描く様になったAlcestに僕はブラックメタル的な物はぶっちゃけ求めていなかったりするんだけれども、それでも純粋無垢な旋律の美しさと優しさは際立っているし、だからこそAlcestの音に惚れ込んでいるのだ。2012年最初の重要作だと言える。