■real that she knows/stereo type
![]() | real that she knows(リアル・サ゛ット・シー・ノウス゛) (2009/12/26) stereo type(ステレオタイフ゜) 商品詳細を見る |
静岡県三島市にて結成された3ピースポストロックバンドの09年発表の10曲入り1stアルバム。今でこそ日本でもポストロックバンドがかなり多くなって来たが、このバンドはその中で新たな音を生み出そうとしている期待の若手ポストロックバンドだ。不協和音駆使の旋律と静謐でありながら、絶妙に盛り込まれたマスロックの叡智と、キリキリと緊迫した空気の中で生まれる冷徹かつノスタルジックなエモーショナルサウンドがそこにある。
このバンドのサウンドの根底にあるのは3cm tourの様な冷え切った狂気のポストロックであったり、ENGINE DOWNの様な絶妙な熱量と乾いた感触を持ったエモさであるが、それをマスロックの方法論を導入してカオティックにした末に削ぎ落としたかの様なサウンドへと進化させている。楽曲の尺も短い物も多く3ピースの最小限の楽器の音と本当に必要な音のみで生み出す緊迫したアンサンブル。ボーカルレスであるが、不協和音をカオティックに鳴らすクリーントーンのギターはどこか妙な歌心というか嘆きを表現しているし、淡々とポストロックを軸にしながら、さらりと変拍子を駆使するビート、演奏技術は卓越した物があるが、決してその技術先行のサウンドで終わるのでは無く、それを確かな表現力とし、天国でも地獄でもない日常の中の空虚さややるせなさといった感情を見事に最小限の音で表現している。哀愁の旋律を響かせながら、そのエモさだけでなく、それをズタズタにしたマスロック要素がよりその旋律を際立たせる第2曲「被害妄想癖」の様に緻密な楽曲とは裏腹に妙な焦燥感を感じるし、それが彼等が単なるポストロックバンドで終わらない大きな要因になっているのだ。特に第5曲「午前二時からのドライブ」の完成度は高く、メロウなポストロックから始まり、その焦燥感を膨張させ、時折ジャズコードを使用したパートも取り込み、中盤でマスロック的ピロピロサウンドが飛び出した末にディストーションサウンドが暴発する生々しさに満ちた轟音パートへと移行し、最後はクールなポストロックで終わるという非常に目まぐるしい展開を見せる楽曲だが、その中でも彼等のサウンドの熱量は決してメーターを振り切らないし、冷たい熱さという一見矛盾した感覚が確かに息づいている。そしてそれらは他の楽曲にも確かに存在しているし、転調を繰り返す構成の中で不意打ちの様に登場するディストーションや、安易にドラマティックにはならずにただ淡々と目の前の脳内の混沌を呆然と眺める様な虚しさ、全てがサウンドに表れている。
かなりの若手バンドだったりするが、ポストロックという物が日本のシーンに根付いた先の世代の回答として彼等の音は確かな力を持っているし、静かに感情を掻き乱す不協和音の生々しい叫びみたいな物を鳴らすポストロック。クールでありながらも、非常に感情的なサウンドは静かに聴き手の心を抉り取る残酷さすら感じる。春には今作に続く2ndアルバムがリリースされる予定だし、これからもその動向と進化から目が離せないバンドだ。