■辺境のサーカス/マヒルノ
![]() | 辺境のサーカス (2008/11/19) マヒルノ 商品詳細を見る |
多くのロックファンを虜にしながらも残念ながら2010年に解散してしまったマヒルノの08年発表の1stアルバム。マヒルノというバンド名に恥じない白昼夢の様なサイケデリックロックが展開されている作品であり、本当にスタンダードなロックバンドとしてのフォーマットと方法論を展開しながらも、ねっとりと絡みつく旋律と、プリミティブでありながらもズブズブと深海へと沈没するかの様なグルーブが生み出す白昼夢のロック作品だ。
まるで鐘の音が鳴り響いているかの様なコードストロークから今作は始まり、そこからミドルテンポのグルーブとメロウな旋律を分解したギターフレーズが鳴り響いて第1曲「ダス・ルネッサンス、ダス・デケイド」が始まる。コード進行なんかはスタンダードなロックな物であったりはするけど、それを複雑にしたギターフレーズと起承転結を明確にしながらも複雑な楽曲の構成、淡々とバッキングを弾くギターと空間系エフェクターを使用したギターが織り成す蛇同士が絡み合って解けなくなってしまった様なフレーズの絡み、躍動感のあるラインを時折入れグルーブをより明確にするベースとタイトなドラムが悪夢の始まりを告げてくる。当たり前の様に転調を繰り返した末にあるある種開放的なエンディング。即興音楽の要素を感じさせたりもするが決して難解では無いし、それらを全てロックに落とし込み、変態性とプログレッシブさを持ち、それをしっかり楽曲の中で体現する演奏技術を彼等は持っているし、繰り返す悪夢すらドラマティックにしてしまう展開の美学と楽曲の中で息づくメロウさ、マヒルノの魅力を全てブチ込んだ1曲になっており、この曲だけでも彼等のサウンドを核を思い知らされる筈。対してアッパーな第2曲「サーカス」はフリージャズやマスロック的リズムセクションを巧みに盛り込んだアッパーば楽曲になっており、分断されたビートがそれぞれ作用しより精神の坩堝へと誘い、終盤は完全にインプロとなりサイケデリックの底へと突き落とされる。どの楽曲も当たり前の様に変拍子と転調だらけだし、ロックのフォーマットにありながらかなりのプログレッシブではあるが、彼等はあくまでも負の方向に堕ちるロックをよりプログレッシブにしただけであり、楽曲の骨組みはメロウな物である。第4曲「橋」ではそのプログレッシブな手法を封印し、持ち前のメロウさを全開にし、その中で歌心を感じさせる旋律と共に詩的な世界を展開しているし、純粋に優れた旋律と世界観を持ちながらも、それを分解し再構築して白昼夢をより明確にしている。そして最終曲「チェチェンに昇る月」で再び壮大なサイケデリックプログレ絵巻を展開、持ち前の情緒豊かな旋律のベクトルを儚さと文学的世界観へと向かわせ、ラストは壮絶なプログレパートを展開。圧巻の一言。
変幻自在のフレーズとミドルテンポのグルーブが生み出すダークサイドとサイケデリックさに特化したロックであり、その世界観や歌は多くの先人に全くひけを取らない。そしてそれをよりプログレッシブにしたからこそ生まれた白昼夢を見せ付けろロック。マヒルノの世界は本当に独創的だ。現在はLOOLOWNINGEN & THE FAR EAST IDIOTS、sajjanu、MUSIC FROM THE MARS、LAGITAGIDAでメンバーそれぞれ活動し、その才能を発揮している。