■john's LP/Black Film Dance

Next Styleのボーカリストでもあり現在はtheSunのボーカリストとして活動している北海道エモ・ハードコアシーンの重要人物の一人であるヒグチ氏がBONESCRATCHのカンノ氏、moonwalkのバンドウ嬢とこれまた北海道のシーンの猛者と共に結成したBlack Film Danceの唯一の単独音源が今作だ。たった6曲入りの音源ではあるがどこまでも澄み切ったエモーショナルさの中で混沌と狂気が渦巻く1枚に仕上がっている。
ヒグチ氏やカンノ氏のキャリアの中ではBlack Film Danceというバンドは最も取っ付きやすいバンドであると同時に本当に多方面に伸びる音楽的要素を持ったバンドでもある。エレクトロやダンスミュージックのエッセンスを持ち合わせ、核になってるポストハードコアサウンドには全くブレは存在しないし、それに加えバンドウ嬢のmoonwalkにも連なるUSエモの流れを受け継いだクリアでエモーショナルな郷愁の旋律という大きな武器をいくつも持ったバンドだ。第1曲「Nature」から哀愁を激走させるギターストロークのイントロが鳴り響き、感情を揺さぶられる。それにヒグチ氏のハイトーンボーカルもいつに無く歌に接近している印象も受ける。美しい旋律が疾走するパートから美アルペジオがたおやかに流れるパートへと滑らかに移行していく辺りもニクい。しかし北海道カオティックシーンの猛者が集結したこのバンドが単に洗練された美しいエモーショナルサウンドを奏でるだけのバンドでは終わる訳が無い。メロディを基調に構成されている楽曲だから前面的に出している訳では無いけれども、クリアでありながらも妙に癖のある旋律や様々な音楽的要素を食った末に、エモ・ポストハードコアに帰結させる手法なんかはやはり一筋縄じゃないし、カオティックの要素はやはり健在だと言える。第3曲「Draw」ではよりカオティック度が高くなっており、風通しの良い旋律を機軸にしながらも転調とキメの乱打による混沌。幾重の旋律の持つ輝きが乱反射を起こして別の次元に飛んでいく感覚。まるで下に浮いている様でもあるし、上に堕ちている様でもある。さり気無く取り入れられたシンセのシンセのどこか無機質な音色であったりとか中盤のトラッドでダンサブルなグルーブと共にファンク要素の色濃く出た展開を見せたり、終盤ではその美しいシンセの旋律が別の宇宙へと導くという楽曲構成。この曲にBlack Film Danceの核が確かに存在しており、徹底的に拘った音の配置の仕方、情報量が多い筈なのにそれを綺麗な楽曲に仕上げるアレンジセンス、そしてそのクリアさがまた新たな混沌の引き金にもなっているし、どこまでも底が知れない。序盤のハードコアな2曲から中盤に入るとよりダンサブルな楽曲が並び、最終曲「I'm Waltz」ではシンセのフレーズと硬質のビートの反復が宇宙と見せかけて別の場所へと連れていく感覚。このバンドの音はダークさの中にもいないし、光の中にもいない。平熱の世界で起きる一瞬の眩暈であり、日常の狂気であり、そして行き先の見えない混沌だ。
北海道のエモ・ハードコアシーンの猛者が集まっただけあって、楽曲の完成度の高さもそうだけれど、本当にオリジナリティ溢れる1枚になっていると思う。短命で終わってしまったのは残念でならないが、今作のクリアな混沌が見せる輝きは唯一無二だ。