■Egal Ist 88/BALLOONS

96年結成、既に15年以上に渡って活動している猛者であるBALLOONSの2010年リリースの3rdアルバムで現時点での最新作。台湾でのツアー等世界進出も果たし、激情系のシーンの猛者とも共に殺り合っていたりもするからその名前を知っている人は多いだろうが、ポストロックとポストハードコアが静かに組み合わさり、卓越しまくった演奏技術が成せるクールで冷徹なアンサンブルを極めた作品だ。
はっきり言ってしまえば彼等の音は何かしらのカテゴライズが本当に不可能なバンドであると思う。一聴するとポストロックではあるけど、ポストロックにしてはあまりにも歪であるし、もっとDCポストハードコアのバンドが持ってた不気味さを感じるのだ、でもそれともまた違う、基本クリーントーンでのギターワーク、不意に歪むベース、どこまでも歌っているのに歌物では片付けられないボーカルであったりとか、繊細さと大胆さを兼ね備えたドラムだったりとか、どこまでも計算され尽くしているアンサンブルなのに捩れまくっている。平熱のまま冷たい感触を押し付けられているかの様な感覚に襲われる。楽曲によっては管楽器やピアノなんかを取り入れたりしつつも、根底にあるのは緻密で冷え切ったアンサンブル。それらがネットリ緩やかに絡み付いて、最終的には聴き手に同化して取り込んでしまうかの様でもある。何よりも彼等の魅力はその鉄壁のアンサンブルで奏でられる旋律だ。クリーントーンの美しいフレーズの反復が生み出す不穏な螺旋、直情的では無いにしても、耳にしっかりと馴染む癖に、随所に不協和音を盛り込み、緻密で不整合という矛盾したアンサンブルを更に加速させるだけでなく、安易なエモーショナルさに走らず、淡々と滑らかで偏執狂的な音色が首を真綿で締め付ける様な錯覚すら感じさせる。そのメロディこそBALLOONSの最大の武器であると思うし、ポストロックもポストハードコアもオルタナティブの通過し尽くした先の音を完全にBALLOONSの音として統率してしまっている。作品全体の楽曲の統率感も徹底しており、どの楽曲も温度は決して変わらないし、随所に変則的なキメや転調を盛り込みつつも決してドラマティックさには走らずに、最初から最後まで一つの流れが完全な形で生まれている。そして今作を通して聴いた時に、徹底した美学に基づくBALLOONSの世界が体内で流れているのだ。
長年に渡り地道ながらも着実に活動し、数多くの猛者から惜しみないリスペクトの声を集めているバンドなだけあって、ポストロックやポストハードコアのテンプレートを静かに破壊し、自らにしか乗りこなせない一つの規約をこのバンドには存在する。BALLOONSはBALLOONSでしかないし、彼等の真似なんかとてもじゃないけど出来やしない。静かなる狂気と、暗殺者の隠し持つナイフの様な切れ味のアンサンブル。液状であり、粘りまくった猛毒が近作には確かに存在する。大推薦の1枚だ!