■Till The End/Curve

2012年の国内エモの最重要作品であるのは間違いない。メンバーチェンジのピンチを乗り越え3人編成になった国内エモ・シューゲイザーの最右翼であるCurveの2012年リリースの3rdアルバム。リリースは愛媛の国宝級レーベルであるImpulse Recordから。エモからシューゲイザーを通過してあらゆるサウンドをこれぞCurveにしか鳴らせないという音に仕上げて高い評価を得ていた彼等だが、今作でそのサウンドはこれ以上に無いまでに完全な形で羽化したのだ。
これまで通りのエモを基軸にして、それをシューゲイザーの要素を通過させて壮大なスケールで鳴らすサウンドスタイルは変わっていない。しかしポストロックやUSオルタナを巻き込んだサウンドスタイルに隙が全く無くなり、常に鳴り響く感情に訴える轟音とどこまでも力強く響くビート。特に今作からこれまでのベースレスの編成からベースを加えた3ピースの編成になった事によって音に更に厚みが加わり、儚く美しいボーカルと轟音とは裏腹に、タイトで太いドラムとベースが織り成すグルーブやボトムが格段に鍛え上げられ、サウンドに立体感やスケールが更に広がり、Curveの音は更に進化したのだ。第1曲「Dawn Promised」の静謐さから徐々に熱量を高めて一気に轟音が響き渡る瞬間からCurve節は炸裂。USエモの流れを受け継ぐ旋律を、シューゲーイザーと融和させたからこそ生まれた感情に訴える音の洪水はどこまでも優しく感動的であるのだ。第3曲「Till The End」なんて常に力強い轟音が吹き荒れ、マーチングの様な力強いドラムと共に世界に眩い光が差し込んでくるのだ。悲しみや絶望と言った感情を吹き飛ばし救いの福音として鳴らされる轟音は心を濡らし、優しく包むだけで無く、聴き手の背中を押す様な力強さを感じさせてくれる。フロントマンである羅氏のメロディセンスもとにかく素晴らしく。徹底してメロディアスであり、徹底してエモーショナルである楽曲その物のパッションが凄まじいし、それを儚く力強い希望の歌として歌い上げているからこそCurveの歌と轟音は説得力しかないし、だからこそ胸に響き渡ってくる。今作に捨て曲は全く無いのだけれども、特に素晴らしい名曲として第6曲「The Long Distance Of The Night」は正にCurveが最高峰に位置するバンドである事を証明する名曲だ。10分にも及ぶ壮大さもさることながら、疾走感と力強さ溢れる轟音バーストと全身全霊の激情と共に羅氏はどこまでも高らかに歌い上げる。そうまるで真っ暗な空を突き破り、その漆黒の切れ目から光が差し込む神秘的世界を壮大でありながらも、どこまでも人間臭く歌い上げているのだ。そして終盤では全ての感情が決壊する様な光の洪水が雪崩れ込み、本当に絶望からの救いを感じるし、全身の五感と感受性を強制的に稼動させて、止まる事の無い涙を流すしか無くなってしまうのだ!!今作で最も儚い刹那を感じさせる第10曲「Over The Hill」も負けじと今作の重要な核であるし、そして最終曲「No End」へと雪崩れ込む。タイトル通り終末を全否定する躍動と生命力を感じさせる最もエモ・オルタナの素朴さを感じさせるこの楽曲は正にクライマックスに相応しい曲であり、今作を聴き終えた瞬間に感じるのは新たな始まりである。
2012年は本当に数多くの名盤が生まれている奇跡みたいな年だと僕は思っているけど、そんな名盤達の中で煌く光をここまで人間臭さを放ちながら神秘的に鳴らす作品に出会えるとは思っていなかった。はっきり言ってしまえば、今作は2010年代のジャパニーズエモ。ジャパニーズシューゲイザーの両方の視点で見ても絶対に語り継がれるべき作品だと思うし、半永久的に多くの人の胸を熱くしてくれる筈だ。今作が生まれたのは正に奇跡であり、その奇跡の集大成はどこまでも力強く羽ばたいていく轟音だったのだ。もう聴け!!!!!!!!