■heaven in her arms presents "Light to the hope"(2012年11月23日)@下北沢ERA
・The Black Heart Rebellion
トップバッターはいきなりベルギーからの刺客であるThe Black Heart Rebellion。てっきりトリかトリ前だと思ってたからいきなりの出演に驚いた。日本から世界各地の激重激情美轟音を発信するレーベルであるTokyo Jupiterの看板バンドの一つであり、3年振りの日本でのライブ。パーカッションが設置されたステージは激情系のバンドとは思えない妙な異質さがあったが、いざライブが始まると彼等は激情系の枠を完全にブチ壊すアクトを見せ付けていた。演奏した曲目は新譜の楽曲が中心で、時にギターがパーカッションを叩き、GY!BEを思わせるタイトで躍動感に満ちたドラムとシンクロし、バンドのグルーブに躍動感を与え、民族音楽すら取り入れた自らの音楽性に更に不穏さとプリミティブな衝動を与える。もはやハードコアの枠組みを壊しているし、2本のギターが奏でるハードコアを機軸にしながらも、空間的スケールを拡大させるギターワークが壮大であり密教的な不気味さを魅せる。そして読経的ボーカルから激情の叫びを見せる瞬間のカタルシス。音楽性的に高揚感あるパートは全く無いからこそ地の底に落ちるダウナーさと神秘性を融和させ、それをライブならではの生々しさで放出する彼等のライブは本当に現実世界を打ち消す涅槃の音だったし、非現実の世界を現実世界で再現する彼等のアクトは本当に五感の覚醒させてくれた。一発目から本当に素晴らしいアクトを魅せてくれたしベルギーの刺客はその貫禄を日本でも発揮していた筈だ。激情もポストロックも民族音楽も飲み込むクロスオーバーな不穏さ、それがTBHRの激情なのだ。

・mouse on the keys
続いてはインストポストロックバンドでも高い人気を誇っているmouse on the keysのアクト。正直に言うと音源を聴いた限りではそこまでピンと来なかったバンドだったりもしたのでけど、今回初めて彼等のライブを観て、その評価が一気に変わってしまった。タイトさとダイナミックさを兼ね揃えたドラムが引率するサウンドと、二人のキーボードが弾き倒す美しく躍動感溢れる音符の洪水。クリアでクラシカルな音色が透き通りながらも暴力的な音をお見舞いし、時にはサックスも取り入れフリーキーさも魅せる(サックスの内の一人がZの根本潤で、暴力的な音をお見舞いしていた)。兎に角、そこいらのインストバンドじゃ太刀打ち出来ない様な暴力性と芸術性に満ちた音をほぼノンストップで繰り出し、VJと共に高揚感を見事に体現。脳と肉体を覚醒させるクリアで美しくありながらも鋭いビートとキーボードの音の嵐は一瞬でERAの至高の時間へと飲み込んでいくのだった。本当に今回ライブ観て評価がガラリと変わった。ここまで良いバンドだとは思って無かったよ。

・heaven in her arms
続いてはてっきりトリだと思っていた今回の主催バンドであるheaven in her armsの登場。セッティングの時点で先ほどのmotkのクリアで美しい余韻を完全に破壊する激重サウンドが響き、ERAは一気にダークな世界への入り口となる。そして結論から言えば今回のアクトは今までみたHIHAのライブの中でも一番の出来だったし、実に一時間近くにも及ぶ壮大な激情絵巻だった。冒頭のインストナンバーで重く疾走しながらも、時に美しい静謐さを持つビートと3本のギターが織り成す重く美しく壮大な、正にHIHAにしか生み出せない至高の音を鳴らし、続く「Inversion Operation」でプリミティブな粗暴さを撒き散らす漆黒の血飛沫噴き出す激カオティックな音を叩き付ける。新曲では今までに無いスケールを生み出し、とんでもない音圧で漆黒の耽美さを暴力的に描き、正に国内最高峰の激情の名に恥じないアクトを魅せる。しかし今回のアクトは後半が特に神が降り立ってすらいた。「反響した冷たい手首」でアンビエントでドローンな情景を描き、その壮大な前振りから「ハルシオン」へと雪崩れ込んだ瞬間から完全に別次元。スラッジコアも激情もポストロック的美しさも音圧の暴力として打ち出し、超激重の轟音とその物理的な重さ異常に精神的な重苦しさが際立つサウンドスケープ、そしてケント氏の悲しみの叫びには本当に胸を焦がされそうになり続く「螺旋形而蝶」にてそのスケールと美しさを更に膨張させ、どこまで壮大にすれば気が済むんだと突っ込みすら入れたくなってしまう細胞レベルで全ての感情を想起させる人間と世界を繋ぐ壮絶な激情絵巻へと突入。そして終盤では最早御馴染みの「声明~痣で埋まる」の漆黒のシューゲイザーとも言うべき暴力的かつ壮絶で精神を削りまくり打ちのめさせるプリミティブでありながら美しく咲き乱れるハードコアへと変貌し、ラストは「赤い夢」で壮絶な激情絵巻のクライマックスに相応しい美しい衝動で締めくくられた。正に国内激情最強クラスの名に相応しい壮絶かつ壮絶なアクトだったし、魂を焼き尽くしてまで放出される激重激情の世界は圧巻の一言だ。本当にHIHAに代わるバンドは現時点で存在しないと思うし、こんなバンドが我が日本を代表する激情系HCとして君臨しているというのは本当に素敵な事だと思う。これからも追いかけます!!

・theSun
そしてトリは日本のサンディエゴこと札幌が誇る札幌ハードコアの重鎮であるtheSun。2年半振りの東京でのライブ(前回もHIHAの企画だった)であり、その間にギターのイサイ氏の脱退というピンチもあり、それを乗り越え、新作音源を掲げての堂々の上京ライブ。今回は新作LPの楽曲中心のセットで、ギターこそ一本になってはしまったが、エモ・ポストハードコアを湾曲させ変則的なキメを入れまくる楽曲編成は相変わらずでありつつも、新曲郡はどれももっとプリミティブな感覚が強いし、ボーカルのヒグチ氏がかつてやっていたBlack Film Danceともシンクロする要素を持ちながらも、その先に行くハードコアを鳴らす。空間系をガンガン使いグルーブ楽器として以上に不穏さで埋め尽くすtheSun印のベース、パンキッシュなビートを分解し再構築したドラムとギター、そしてハイトーンボーカルで叫ぶヒグチ氏の激情に満ちたボーカルが織り成すtheSunのハードコアは唯一無二でHIHAの壮絶なアクトに負けず劣らず、変態性と粗暴さでまた違う色の激情を見せる。北海道のハードコアシーンの猛者によって生み出される音は、音源よりも性急で、一歩間違えれば崩壊する危うさを絶妙なバランスで複雑怪奇に鳴らし、それを暴力的に叩きつけてくるから凄いし、その変則的な楽曲の中でディスコードが奇跡的に組み合わさって生まれるエモーショナルな旋律がより個人的感情を爆発させるハードコアとしての貫禄を見せ付けていた。ラストの「Kill Your Godiva」なんて正に必殺に相応しかったし、乱発されるキメの嵐と、クリーントーン主体のギターワークでありつつも、原曲以上のBPMと時折挿入されるディストーションの不穏さ、性急なビート、最早ベースとしての役目すら捨て去りフランジャーの不気味な残響は這い回るベース、変態であり粗暴なtheSunのハードコアが一番色濃くでた楽曲で締めくくられ僕は完全に燃え尽きた。そしてアンコールでプレイされた1stアルバムの名曲「GoodBye...CherryTree」にて更なるオーガズム体験であり、最後は後藤氏がベースを抱えたままフロアへダイブ!!ベースのフランジャーの空間音の余韻を残し、不穏さとしてのハードコアは見事な形を見せてくれた。

今回のイベントは4バンドが強烈過ぎる個性と孤高の貫禄を見せつけ、捨てバンド全く無しどころか、全バンドヘッドライナーというかメインとも言うべき強烈な体験と濃密さが渦巻くイベントになったと思うし、それはERAを埋め尽くした人々がみんな感じた事だろう。それぞれがそれぞれの覇道を歩く猛者達が集結したからこそ本当に記憶に残り続けるイベントになると思うし、ハードコアの先を行く猛者達(motkはハードコアではないけど)の圧巻のアクトは僕の記憶に長く残っていくであろう。今回の企画の主催者であるHIHAと出演バンドに改めて多大なるリスペクトを。