■Har Nevo/THE BLACK HEART REBELLION

ベルギーの激情系ハードコアバンドであるTBHRの実に4年振りの2ndアルバム。日本盤のリリースは勿論Tokyo Jupiterから。先日の来日公演でも完全に別次元に進化した音を見せ付けてくれたが、この最新作はTBHRが激情系とかそういった枠組を超える、新たな次元のバンドへと変貌した事を告げる怪作。最早激情系すら超えて完全にエクスペリメンタルの音の世界を鳴らしてしまっているのだ。
TBHRはこれまでは激情系とポストロックの融和とも言うべき音楽を鳴らしていたが、今作ではそれに加えて民族音楽のテイストを大胆に取り入れている。鈴の音色から始まり、パーカッションの音も大胆に取り入れ、民族音楽的なトライヴァルなビートを前面に押し出し、不穏の旋律を響かせ、ダウナーさの中で一つの躍動感を生み出しながら、不気味な読経ボーカルを繰り出し、合間合間に民族音楽的な掛け声まで入れてくる第1曲「Avraham」からTBHRが完全に別のバンドへと進化してしまった事を告げている。第2曲「The Woods I Run From」では、、これまで同様にポストロック的アプローチを見せながらも、不穏のビートは相変わらずだし、地を這う空間的轟音がビートと共にうねりを生み出し、更にハードコア的粗暴さを聴かせる激情のシャウトも放出。完全にクロスオーバーかつエクスペリメンタルな音を奏でるまでに至ってしまった。今作の音は本当に無国籍な音に仕上がっているし、その中でこれまでの自らの音楽性を高めつつも、それを完全に別の化け物にしてしまっている。決して分りやすいハードコアサウンドでは無いのだけれども、だからこそ生まれる不穏の闇の放出。第4曲「Animalesque」こそハードコアテイストが少し強めではあるが、それでも幾多の打楽器と不気味なラインをなぞるベースのおどろおどろしいグルーブと、燃え上がりきらない焦燥の中で身を刻まれる感覚は凄まじい物があるし、ダウンテンポかつトライヴァルなビートの強靭さの中で、残響音が響き、よりクロスオーバーな第6曲「Ein Avdat」、オリエンタルな旋律と共に、当ての無い旅路を描く様な第7曲「Gold And Myrrh」、そして最終曲「Into The Land Of Another」ではシタールまで取り入れ、今作の不穏の旅路を総括する激情を放出。民族音楽やエクスペリメンタルといった要素と混ざり合い、ギターの残響音をどこまでも有効に使い、その空間的な響きの中で、消えない闇を彷徨い、屈強なビートが常に楽曲を引っ張り、更にはシャウトや読経だけでなく、謎な掛け声まで見せるボーカルの素晴らしい表現力が、この世界の現実すら虚無にしてしまうであろう、天国でも地獄でもない、異次元の何処かへと聴き手を導く作品なのだ。
正直に言うと、ここまで違うバンドに化けるとは思っていなかったし、先日の来日公演で進化した彼等を初めて目にして、音源以上の高次元のエクスペリメンタルな世界にただ驚くしか無かったし、彼等もまた進化を続ける事でハードコアを破壊するハードコアバンドだったのだ。Tokyo Jupiterの公式サイトの作品紹介のページにAmenraのColin H. Van EeckhoutとNeurosisのSteve Von Tillという猛者の惜しみない賛辞の言葉が綴られているが、本当にそれだけの作品だと思うし、TBHRは新たな次元への旅路を続けていくのだと思う。激情の最果てを描く傑作。また今作は下記リンクのTokyo Jupiterのサイトから購入可能になっている。
Tokyo Jupiter Records