■Black Sea Of Trees/○(circle)

ドイツを中心に多国籍に渡るメンバーによって構成されているポストロック集団である○(今作を購入させて頂いたディストロである3LAさんによると読みはcircleらしい)の2012年リリースの1stアルバム。Light BearerやRekaやDownfall Of Gaia等のとんでもない猛者ばかりの音源をリリースしているAlerta Antifascista Recordsからのリリース、アルバムタイトルやジャケットがモロだったりするけど、今作は青木ヶ原の樹海をテーマにした作品でもある。
そして肝心の音の方だが、これがまた本当に素晴らしい物だ。全5曲で一つの作品としての物語性を感じさせてくれるけど、序盤は正に樹海に迷い込んだ様な不穏なアンビエントなサウンドから始まり、そしてポストロック的なアプローチへと変化していく。それが本当に神秘的なサウンドでその美しさに思わず陶酔してしまう。美麗なるギターフレーズの残響や鍵盤の音色と、練り込まれた楽曲構成の手腕が光る第1曲「Jesus Belongs To Ghost」、正統派轟音系ポストロックなアプローチをしている第2曲「Sea Of Trees」の幽玄の世界から光を感じさせる音へと変化し、お約束の轟音パートへと移行していく様は、正統派ながらもやはり酔いしれる美しさがある。
しかしそんなアプローチをしているのは前半の2曲のみで、第3曲「Interlude」の鍵盤の静謐な音色と、不気味で不穏なドローンなアンビエントさから流れが変わる。第4曲「Riders On The Storm」では霧の様に漂う音から少しずつ陰鬱さが滲み出て来て、絶望的な音色が見え隠れし、美麗のトレモロが入り込み、そして激情の叫びが木霊する。そのアプローチは単なるポストメタル・ポストロック的アプローチでは無く、徐々にその絶望感が苦しい叫びとなり、そして漆黒の樹海に迷い込み、そしてその精神的苦しみから生まれる叫びであり、叫ぶボーカルと、トレモロのフレーズの高揚と絶望が本当に良い空気を生み出しているのだ。そして最終曲「Waiting For The Sun」は圧巻の名曲で、その陰鬱なポストロックサウンドが一層際立ち、濃霧の中で立ち尽くす感覚を覚える音からダイナミックかつ厳かなビートが引率しながら、オーケストラチックな幾重にも重なる轟音系のギターフレーズ、そして楽曲も後半になるとビートの躍動が更に顔を見せ、そして最後の最後のパートが本当に圧巻の格好良さなのだ。ブラストビートとこれでもかと掻き鳴らされるトレモロ、一気に激情系ハードコアなアプローチになり、そしてそんな轟音の奥底から聴こえるスクリーム、これまで美しく統率されていた音が暴走し、漆黒の濃霧で全てを埋め尽くすだけで無く、その中で煉獄を生み出すかの様な情景は本当に圧倒的であり、今作の締めくくりには本当に相応しいんじゃないか。
3LAさんでは富士樹海系ポストロックと紹介されていたけれど、今作はこれ以上に無い位に確かなコンセプトアルバムだと思うし、全5曲が確かに繋がり、一つの迷いの森へと迷い込んだ体感を音で表現している。美しさと不穏と激しさを一番確かな所で使いこなし、見事な表現力でそれを生み出す手腕に脱帽だ。流石はAlerta Antifascistaからリリースされているだけあるし、今作が生み出す体験は本当に飲み込まれる事は必至だ。