■The Sympathy Without Love/dip leg

2000年代初頭から活動していた岡山の激情系ハードコアであるdip leg。現在は活動を休止してしまっているが、国内劇場のシーンに遺した功績は大きく、今でも根強い人気を持つバンドだと言える。今作は彼等が05年にリリースしたアルバムであり、全8曲の中で変則的に形を変えながらも、確かに心を突き刺す音を鳴らしている。
00年代を駆け抜けたバンドという事もあるし、彼等の音は国内の激情の黎明期のバンドと同じ空気を確かに纏っている。3cmtourとかThere Is A Light That Never Goes Outだとかそこら辺のバンドに近い空気を今作から感じるだろうし、もっと言えばkillieとかtheSun辺りのバンドが好きな人には凄くストライクだとも思う。だけど彼等の本当に大きな魅力は徹底してエモーショナルなメロディと、不穏な緊張感の融和だと思う。ボーカルなんかはハイトーンで叫ぶスタイルなんだけど、そのボーカルが先ずしっかりとメロディを感じさせる物だし、不協和音の中で確かなメロディを感じさせるギターワークと本当に相性が良い。だからと言ってエモとかメロディアス方面に振り切るのではなくて、変則的に展開する楽曲構成による緊張感と不穏さを組み合わせて、結果的に非常にドラマティックな激情系ハードコアとなっているのだ。破滅的でもありながら優しく、窒息しそうになりながらも、気付いたら一つの救いがあったりする感覚。感情の陰鬱さと、その先のエモーショナルなエネルギーが本当に凄いし、それを性急に放ってくるから堪らない。
のっけの第1曲「Ideal And Fact」から見事すぎる感情の暴発から始まるんだけど、その暴発の余韻を見事に残してメロディアスな2本のギターフレーズが流れていく瞬間に感じる郷愁。アルペジオとソリッドなリフを交互に繰り返し、焦らし無しでこれでもかとドラマティックに展開されていく楽曲にもう脱帽だし、楽曲構成こそ本当に変則的であるのに、その中であらゆるパートが確かな線となって繋がり、暴発と静謐な美しさを冗長にするのではなく、あくまでも激情系ハードコアの一つの普遍性の中でアウトプットしているのがdip legの大きな魅力だ。断罪の様なギターフレーズのリフから始まる第2曲「Rod Lost Die Understand」も豊富なアイデアを生かしたギターワークが光りまくっているし、プログレッシブな妖しい不穏さが感情を揺さぶる。個人的にはEngine downの一つの発展系だと思う第3曲「Disguise Around」のドラマティックなエモーショナルさは本当に堪らない。第5曲「Lost Courage」の動と静の乱打と、焦らしと暴発の連続は震え上がる位に格好良いし、第6曲「Wall-Free World」はプログレッシブなギターフレーズから滲み出る泣きメロの嵐と、遥か彼方を想う様な感傷に引き裂かれてしまう今作屈指の名曲。とにかく言えるのは全8曲全てが名曲であり、最初から最後まで聴き所しか無いという事だ。
僕はdip legをリアルタイムで追いかけてた人間ではないし、このバンドは後追いで知った形なんだけど、それでも現在でもこの音は本当に有効だし、国内激情の歴史に残すべき名盤だと思う。変則的で混沌としていて、窒息しそうで感傷的な全8曲の激情の歌。確かに心に爪痕を残してくる。激情好きは絶対マストな一枚だ。