■Cyclamen、今西勇人ロングインタビュー

Cyclamenの音に初めて触れた時、本当に大きな衝撃が走った。今でこそ少しずつ日本でも市民権を得ているdjentという新たなる音楽の形だが、Cyclamenの音はdjentの枠組で語られながらも、その枠に全く収まってくれない。djentのゴッドファーザー的存在であるSikThのMikee Goodmanとのコラボも話題になったし、日本人のバンドでありながらフロントマンでバンドのメインコンポーザーの今西勇人氏はかつてはイギリスに在住し、現在はタイに在住。その登場当初は在英日本人によるワールドワイドかつ、完全にDIYなスタンスでの活動も大きな話題になった事を覚えている。勿論、Cyclamenが単に今西氏がワールドワイドな活動をしているから凄いって訳ではない(それでも十分斬新で凄いけど)。SikThのDNAを継承しながら、激情系ハードコアのエッセンスを取り入れ、更には変拍子駆使でとんでもなくテクニカルで熾烈極まりない音を放ちながら、同時にとんでもなくポップで多彩で、本当豊かな色彩を放ち、海外のラウドロックの最先端を行くセンスを持ちながら、同時に日本人だからこその感情表現の豊かさとポップネスを持つCyclamenは本当に唯一無二の存在だと思う。
この日本でのライブ活動はこれまでほぼ無かったにも関わらず、インターネットを中心に彼等の名前は広がっていった。そして今年の2月に日本人でありながらまさかの来日と言う何処かのmonoみたいな形でのライブツアーが実現する事になった。これは間違いなく日本のラウドロック・ライブハウスシーンにとって大きな事件だと僕は勝手に思っているし、僕を始めとして、今回の来日を待ち望んでいた人は多いと思う。今回の来日ツアーに合わせて、当ブログでCyclamenの首謀者である今西勇人氏へのメールインタビューが実現した。インタビューを読んで頂ければ分かるが、今西氏は本当に丁寧かつ真摯にCyclamenについて語ってくれた。昨年リリースした最新の2ndアルバム「ASHURA」(当ブログでの紹介の記事はこちら)も素晴らしい作品だったが、そのCyclamenの音の出所、そして何故こうやって世界規模でDIYな活動を続けていくのか、今回の来日ツアーについて、本当に贅沢な位に今西氏に聞きまくったが、そこで見えたのは、今西氏の多彩で自由で先を行く音楽センス、そして最先端な音楽活動方針、何よりも自らの生活の中で音楽を生み出していくという熱意だった。
■先ずはCyclamenというバンドの結成から現在に至るまでの経緯を簡単に教えて下さい。
最初はソロの宅録プロジェクトで、イギリスのReading(日本でいう埼玉の様な場所)で音楽を作り始め、SikThのMikee Goodmanがゲストボーカルしてくれたことを切欠にインターネットコミュニティで一目置かれるようになりました。
その後バンドを結成してイギリスツアーを成功させた後、結婚してアジアに拠点が動いたのを切欠に日本での活動も始めました。
■元々はソロユニットとして始まり、一度バンドになり解散して、またソロになり、現在はまたバンド編成と大きな変化をこれまでしてきた訳ですけど、その様な変化を遂げていく中で今西さんのCyclamenの活動に対する心境の変化とかはありましたか?
特に無いですね。。ソロの時の方がライブを考えなくて良いので作曲の生産力が3~4倍になりますが。バンド体制になると自分はマネージャー役になって自分の時間と努力が相当そっちに持っていかれてしまうんで、正直ミュージシャンとしての活動は減ります。気持ちとしては自分自身の力で常にCyclamenでやりたい事だけやってるんで楽しいです。お金は本当に入んないですけど(笑)。
■今西さん自身、Cyclamen結成時はイギリスに在住していましたし、現在はタイに在住していますが、こうして日本ではなく世界を拠点に生活する事によって今西さんの音楽に対する価値観やCyclamenの活動に対してどの様な影響があったりしますか?
日本に住んで活動していた自分との比較対象が無いんで難しいですが、やっぱり活動の考え方は相当ヨーロッパ寄りなんだなとは思います。積極的に自分を売り込んで、流行を完全に無視しても心配にならないのはイギリスのシーンが他に比べて新しい音の音楽への抵抗が無かったからだと思います。
やっぱりタイと日本での活動を始めてその「慣れない音楽への壁」みたいなものは少なからず感じます。あと自分が元々メタルやっている日本人って事で変わり者だったんで逆に開き直りやすかった気はします(笑)。
■イギリスで始まったCyclamenですけど、イギリスという異国で日本人として音楽活動をするにあたって、何か思う事とかはありましたか?
やっぱりライブに行っても大抵はアジア人は自分一人だし、感性もちょっと違うんで中々自分の居場所の良いシーンを見つかりにくかったってのはあるかもしれません。その代わりMySpace等のお陰でとても強いインターネットコミュニティが出来て、前よりずっと自分と気の合う人達っていうのが見つかりやすくなりました。
自分はSikThの大ファンだったんで彼らのファンとは大抵話が合うっていうのは助けだったかもしれません。でもイギリスという最先端の音楽を次々世界へ配信する場で活動させていただいたお陰で、オリジナリティの追求と技術の向上には相当良い刺激になりました。頑張って自分にしか出来ない事を追求していかないと誰も長く興味を示してくれませんから。
■元々はソロで活動してましたが、どのような経緯でバンドとして活動しようと思いましたか?
サポートしてくれている皆さんから「ライブが見たい!」っていう声があったからですかね。自分はひきこもりなので特に自分がやりたい!と思って始めたわけでは無いと思います(笑)。
後はソロプロジェクトだとなかなか真剣に捉えて頂け無いということもあったかもしれないですね。ツアーをしているっていうのが何かしらのステータスである気がします。
■Cyclamenは俗に言うdjentという形で紹介される事が多いと思いますし、元SikThのMikee Goodmanとコラボした経歴もありますけど、今西さんの中ではCyclamenの音はどの様な立ち位置にあると思いますか?
「シクラメン」って名前にしたのがそもそもこの花の色によって花言葉が変わるっていう性質が、自分の音楽の気まぐれさに合っていた感じがしたからなんで、ジャンルで区切られると、何で区切ってもそれなりに当てはまらない部分が出てきちゃいます。逆に言えば何で区切っても「それだ!」とは言えないので「なんでもいいや」って感じです!
でも仲良くしてくれるバンド、リスナーの方々にはやはりdjent好きに人たちが多いんで、人間のグループとして考えればdjentで良いんじゃないかなとは思います。
■今西さんの中でCyclamenの現在の音に至るまでに影響を受けた音楽やカルチャーがありましたら教えて下さい。
SikThは言うまでもなく、そしてEnvyも自分のボーカルスタイル、曲の広大さの表現の仕方に相当影響ありますね。
カルチャーとしては自分は完全にハードコア思考なんでDIY哲学、小さな会場で観客と汗だくになりながらのライブとか大好きです。リスナーの皆さんと「人間として繋がる」ってことはとっても大事にしてます。メタルではその傾向があまり無いので大切にしていきたいですね。
■それでは作品に関する話になりますが、昨年2ndアルバムとなる「ASHURA」を発表しましたが、これまでの作品と違ってシリアスさや怒りといった部分が大きく出ているアルバムだと思います。音楽的な多様性が際立っていた1stである「SENJYU」とはまた違う作品になったと思いますが、「ASHURA」を製作するにあたって「SENJYU」を製作した時とは変化とかはありますか?
「ASHURA」はコンセプト上、怒りに満ちた作品なんで、あれ以外の表し方が無かった感じですかね。「SENJYU」はコンセプトにした物語の主人公の気持ちの変化を書き表したものだったので多様なスタイルで表現するのが真っ当でしたし、機材が少し変わった事以外の変化は特に無いですね。
アルバム両方とも同じ話を元に書き上げたコンセプトアルバムですし、音楽の書き方もそんなに変わってません。「表す気持ちのテーマ」が変わったのでアルバムの音が変わったってぐらいですかね。
■「SENJYU」と「ASHURA」は明確な繋がりを感じさせながらも作品としては全然違うベクトルを向いていると思いますし、それでもCyclamenとしては一貫した音を鳴らしていると思います。単なるdjentでは片付けられない音だと思いますが、今西さんが理想とするCyclamenの目指す先とは何でしょうか?
どんなスタイルの音楽を弾いても「これはCyclamenだ、Cyclamenじゃないと出来ない」と思わせる音を作る事ですかね。他の人が真似出来る音楽なら他の人がやって、それを自分が聴いて満足してしまうんで。あくまで「この世に自分を満たす音楽が無い!」と思うからこそ、自分で音楽を作りたいと思うんだと思います。
■Cyclamenの楽曲は非常にストーリー性を感じさせる楽曲ばかりですが、曲を作るにあたってどの様な事を意識してますか?
アルバムって複数の曲が一つのパッケージとして入れられる、っていう一曲ずつの相性がとても重要なものだと思うんですよね。だからその一貫性を持たせる為に、物語を作曲のベースにするってことをしてます。EPはその逆でその辺をあまり気にしないで作曲できる気軽さが好きですね。
アルバム曲は基本的に「こんな感情を表すにはどういう音にすれば良いんだろう?」って毎回考えてそこから音を作っていきます。逆にEPは何となく書いていってできたものが表す感情に合わせ残りを埋めてくって感じですね。
音楽はあくまで数ある「表現」の一つですから、表す気持ちの伝わらない曲は失敗作だっていう思いは強いかもしれません。ただその表したい気持ちをリスナーが必ずも体験した事があるとは限らないんで、そこで通じないのはしょうがないですかね。これも相当自己満足の域での話なんですが、自分にとっては良い曲が出来たかを判断する良いガイドラインになってます。
■これは僕の個人的な感覚でもありますけど、Cyclamenの音楽はテクニカルで熾烈でありながらも非常にポップな側面を持っていると思います。今西さん自身はCyclamenの音はポップな方向性も見せたいと考えていたりはしますか?
「見せたい!」と意識してやっている訳じゃないんですけど、やっぱり13歳までは日本にいましたし、J-Popの影響はめっちゃ強いですね。ボーカルもアバンギャルドなものより頭に残りやすい物が好きですし。
人は特に13~20歳(中学、高校時代)ぐらいに聴く音楽に一番影響を受けるそうで、自分はラウドな音楽には16ぐらいまで全く免疫が無かったのでそのせいかも知れません。B'zの大ファンで彼らの90年代の曲をタイのカラオケとかでもよく歌ってます(笑)。
■アートワークの面でもコンセプトを強く感じたりしますが、音楽は勿論ですけど、Cyclamenの全体像の中で今西さんはどのような拘りがありますか?
アートは自分の家族が昔から芸術好きだったんで拘る所はありますね。だからほとんどのCyclamen関係のアートも自作になっちゃってますね(笑)。
メタルバンドとして気をつけてるのはあまりに典型的なメタルなアートをしないって事ですかね。髑髏・ゾンビ・血・銃などは結構意識して避けてます。音楽でもアートでも、芸術性がそれなりにあり流行に負けない物を作りたいって気持ちはとても強いです。
■Cyclamenは非常にDIYな活動をしているバンドだと思いますけど、今西さんの音楽活動をするにあたっての考え方とか、どうしてこの様に徹底してDIYな活動をしているのかを教えて下さい。
格好良く言えば「自分の信じる物を100%自分のやりたい形で表現したいから」。格好悪く言えば「レーベルが興味示してくれるほどトレンドに合った音楽してないしお金にならないから」です(笑)。
簡単に言えば、自分は有名になって世界中をツアーするより、音楽で一生食べていきたいんです。そもそもひきこもりっ気が強いんで家にいるのが好きですし(笑)。
レーベルに付くとどうしても売り上げの大半を持っていかれてしまうんで、それを考えると自分で100%全てやるのが30年、40年音楽をやっていくのにはそれが必要不可欠だと思います。あと人を仕事で信頼するのが極度に苦手で、「この人と働きたい!」と思う事がないのもそれが理由ですけど。
■この様なDIYな活動をしていますけど、今西さんの中で理想としているバンド活動の方法やビジョンがありましたら教えて下さい。
Cloudkicker、羨ましいですね(笑)。好きな仕事で働いていて、その横でやっている音楽でも成功して、それに加えすべてを自分一人でやってるっていう。彼も特にツアーで世界を回る事とかにあまり興味が無いみたいで、あくまで無理せずに音楽を楽しむって姿勢でやっているじゃないですか。彼の音楽活動にはとても影響受けてるし参考にもしてます。
■今回ジャパンツアーとしてCyclamenは日本に来日しますが、どの様な切欠で本格的に日本進出する事になったのですか?
日本人のバンドメンバーが加わって、2月にbilo'uからのお誘いでライブに出る事をきっかけにスケジュール組んでたら、いつの間にかツアーになったって感じです(笑)。
正直Cyclamenは本当に日本で無名だと思っていたんでこれだけ興味を示して頂いている事には本当に心から感謝してます。
■日本でのライブはこれまであまり無かったですし、僕を含めて音源でしかCyclamenに触れていなかった人は多いと思います。そういった人にライブでどうやって自らの音を伝えていきたいですか?
自分にとってライブはリスナーの方々に顔と顔で向き合ってお礼を言う場所なんで、とにかくこんな自分勝手に活動していることをサポートしてくれている皆さんへの感謝の気持ちを伝えたいですね。
それ以外は来てくれた観客の人達に申し訳なくないように自分達が100%を出し切ったライブを必ずするって事だけですね。
■今回bilo'uの呼びかけで来日ツアーが実現しましたが、今後日本のバンドとはどのように繋がり、またどのような動きをしたいと考えてますか?
自分はとにかく日本のアンダーグラウンドシーンとコネクションが無いので、どなたでも気が合えば!って感じですね。Withyouathomeでの活動もありますしジャンルや考えの壁無く、色々な人たちとお会いできると嬉しいです。
■2月からのジャパンツアーに対して何か意気込みとかはありますか?
正直色々不安ですね。「音源ではこんなに格好良かったのに」って言われないか(笑)。
特にdjentのバンドを見て来た人達はとってもタイトに演奏してくるバンドを見慣れてるんで、それに負けないぐらいの内容をCyclamenで出すって多分今までで一番の挑戦かもしれません。でもその挑戦が自分たちをより良いミュージシャンにしていくんで、そこで逃げないで向き合うことも大切だと思います。
■Cyclamenはワールドワイドに活動してきたバンドですけど、こらから世界で、または日本でどの様に自らの音を広めていきたいですか?
世界各地からサポートをいただいているのは本当に有難いのですが、 同時に彼らの前でライブという形でしっかりお礼ができていないのがちょっと残念ですね。ですからこれからはなるべく行った事の無い場所を回って、一人でも多くの方々に感謝の気持ちを伝えていきたいです。
■これからCyclamenの音はどの様に進化すると今西さんは思いますか?
「Ashura」を切欠にアグレッシブな曲の楽曲はだいぶ減ると思います。少なくとも次のアルバムはもっとアンビエントとクリーンギターが多いメロディアスな物を計画しています。
ここ数年でCyclamenのメタル色が相当強まったんで次のリリースを機会に180度方向性の違った、それでもCyclamenらしい音楽作っていきたいですね。
■最後になります。今西さんにとってCyclamenとは何でしょうか?またCyclamenというバンドはどうありたいと今西さんは思いますか?
Cyclamenは自分の息子ですね。溺愛しているし、問題はたくさん投げかけてくるし、お金はかかるし、切りたくても切れない、自分のアイデンティティとしての一部です。これからも末永くCyclamenと共に生きていきたいです。
バンドとしてはいつまでもやりたいことを楽しくやっていきたいですね。それに尽きます。その中で生きていけるほどのお金が稼げればそれに越した人生の幸せはないんじゃないかなと思います。

インタビューにもあった通り、Cyclamenは2月に今西氏の来日により日本でのツアーが決定している。今回の来日を待ち望んでいた人も多いだろうし、そのライブでCyclamenはこの日本でも更に名を上げていく事になると思う。各所で国内の猛者とぶつかり合う事によってCyclamenはどの様なライブを見せるのか、僕を含めてCyclamenのライブをまだ観た事が無い人は多いと思うし、音源で見せたストーリーを果たしてどの様な形でライブで表現していくのか、そしてその先には何があるのか。全てが未知だけど、もうすぐCyclamenの全貌がこの日本で明かされるのだ、その瞬間に彼等の存在は日本でも決定的な物になるだろうと僕は確信している。今回の来日ツアー、絶対に見逃してはいけないし、時間が合う方は、ツアーの中の一本でも是非とも足を運んで頂きたい。ツアー一発目の2月1日のライブはフリーライブとなっているし、これ以上に無いチャンスだと思う。さあ自らの目でCyclamenという猛者の全貌を目の当たりにするのだ!!
【Cyclamen Japan Tour 2014】

2014年2月1日(土)"Ashura" release show Japan@宮地楽器神田店Zippal Hall(無料ライブ!!)
2014年2月2日(日)DIGFEST Vol.1@京都Studio 246
2014年2月11日(火)Periphery w/Cyclamen, Hammerhead Shark@渋谷Club ASIA
2014年2月15日(土)GIG GEEKS vol.2-the H-@新宿Antiknock
2014年2月16日(日)Mud Max vol.1@新宿Antiknock
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