■Evilfucker/Sithter

東高円寺を拠点に活動するスラッジコアバンドであるSithterの2014年リリースの待望の1stフルアルバム。リリースはロシアのドゥーム・スラッジレーベルBAD ROADから。しかしながらこれが本当に極悪極まりない恐怖の一枚となってしまった。これまでリリースしたデモ音源でも既にその脅威は実感していたが、いざフルアルバムで彼等の音を聴くと徹底して死の匂いを感じさせる怨霊渦巻くスラッジコア作品となっていた。
のっけから長尺の第1曲「Death Sonic Cemetary:から今作は幕を開くけど、凶悪なハウリングノイズが放出された瞬間に、もう得たいの知れなさしかないし、這い回るベースが不穏さを煽り、それがスラッジコアの音塊になった瞬間に完全にSithterの世界だ。今にも止まりそうな推進力皆無の引き摺るビートとリフ、しかしその音の破壊力がアホみてえな事になっているし、パンキッシュなボーカルは正にEyeHateGod感やサザンロック感を感じさせてくる。彼等の音は紛れも無くEyeHateGod辺りの正統派スラッジコアバンドのそれで、ドゥーミーさを増幅させながらも、あくまでハードコアバンドの感覚で鳴らしているし、ハウリングのノイズが渦巻くパートではサイケデリックなアシッドさも見せて、時に這いずるBPMから一転して、グルーブとビートの躍動感を手にし、BPMを速くして、その重戦車グルーブはそのままに、暴走するパートなんかは本当に格好良いし、スラッジリフの応酬と共に、ストーナーなギターソロをブチかまして来たりもしてくるんだから、凄い。何よりも正統派スラッジでありながら、楽曲全体を覆うサタニックな空気、それがジャケット同様に表れているし、怨霊だとか死臭だとかいった物を、正統派スラッジから、ドス黒い禍々しさと共に放っている。その世界観は作品全体で徹底しているし、これは正に涅槃への片道切符なのだ。
一方でそんな空気を持ちながらもロック色を爆発させまくり、ストーナーなギターフレーズが最高に格好良い第二曲「Dawn Of New Destruction」は悶絶物だし、這いずる重さを暴走させまくるハードコアさとスラッジさの落差が見事な第5曲「I Sith」、今作で最もBPMが速いハードコア側からのスラッジである第6曲「My Distortion God」はSithterのハードコアバンドとしての凄みを実感するしか無いし、あくまでもサザンロック・正統派スラッジのテイストを大切にしている音楽性なのに、徹底してブルータルな極悪さを放出させる事によって生まれた死の匂いがSithterの核だと思うし、ハードコア色の強いパートから、全楽器の音が凶器と化し、極端な位にノイジーさを放出しながら地獄へと突き落とすスラッジさへと雪崩れ込む瞬間に、もう聴き手は完全に殺されている。楽曲も割とコンパクトな作りの物が多く。長尺曲はそこまで多くないし、あくまでもハードコアパンクでありつつ、スラッジコアであり続けている。それがSithterの凄さだ。
特に圧巻なのは最終曲「Childlen Of The Damned」だ。ホラーなSEから始まり、銃声の音みたいなシンバルが鳴り響、そして、これまでのスラッジでありながら躍動に満ちた楽曲とは一転して、今作で一番のBPMの遅さのスラッジリフが暴力的に降り注ぐ。14分半にも及んで繰り広げられるスラッジ絵巻は、今作で最もブルータルであり、地獄の怨霊という怨霊を全て呼び集めようとする狂気しか無い。終わり無く繰り広げられるスラッジリフが生み出すサイケデリックさも見逃せないし、終盤のギターソロはかき集めた怨霊共が合体して、聴き手を食い殺すうねりがあり、同時に地の底に落ちている筈なのに謎の高揚感に満ち、最後は全てがブラックノイズと化したスラッジ音塊でこの世界を死で染め上げる。その時、Sithterの手による闇の儀式は完遂しているのだ。
これまで凄まじいライブで話題を集め、僕自身も今年頭の自主企画でその猛威を実感したのだけど、そのライブでの凄みとドス黒さをそのままパッケージングし、死と怨念に満ちたスラッジコアをここに完成させた、同時にスラッジコアの王道を往く作品であり、スラッジの引き摺る悪夢と、ハードコアな粗暴さを同時に繰り出し、ブラックのイズが生み出す異質のサイケデリックさへと繋がり、それらが全て死の世界へと引きずり込む無数の怨霊として存在している。ここまで徹底してスラッジであり、死を感じさせる作品を生み出せたのははやりSithterというバンドの凄ささと思うし、国産スラッジの重要作品としてこれから語り継がれるのは間違いないだろう。地獄をそのまま音にしちまったみてえな悪夢の名盤が生まれた。