■I LIKE SPORTS 2014(2014年5月24日)@下北沢GARAGE
活動休止から7年、sportsは一夜限りの再結成ライブを行う事になった。フロントマンである伊藤君は今でも作曲家・アレンジャーとしての活動とザ・チャレンジとしての活動で現在も音楽の世界にいるけど、ドラムの大石君は実に7年振りにスティックを握る事になったし、メジャーデビュー当時のベーシストだった紀子嬢は今回参加せず、紀子嬢脱退後にサポートで参加していた菊池君もステージに立つのは一年振り、不安が無い訳じゃなかったと思う。しかしそれでも僕を始め、またsportsに会えるのを楽しみにしていた人は本当に多かったと思う。実際にチケットは販売開始即日でソールドアウトし、いざ当日に下北沢GARAGEに足を運ぶと本当に沢山の人で、ハコは本当にギュウギュウになっていた。見てみるとやっぱり女性客が多くて、男の俺は若干のアウェイ感を感じたりもしたけど、そんな事より、活動していた当時はライブを観れず、ライブを観れないまま活動休止してしまったsportsのライブを観る事が出来るという喜びに満ちていた。そして予定のスタート時間から10分程押して客電が落ち、いよいよ一夜限りの復活ライブは始まった。
10分程押して客電が落ちる。メンバー三人が登場した瞬間に先ず大きな歓声が起き、メンバーはステージ上で抱きしめ合う。この時点で今日が特別な夜である事を認識した。ステージングは下手にドラムセットが置かれ、真ん中に菊ちゃん、上手に伊藤君という配置で、割と後ろの方で観てた僕でもメンバー三人の姿はよく見える。そして始まった。復活の狼煙は
2ndの一曲目を飾る「Love Is」からだった。イントロの突き抜ける爽やかなポップネス溢れるギターストロークが鳴り響いた瞬間に僕はsportsが帰って来たって事をその目と耳で認識した。伊藤君の浮遊感溢れるボーカルは相変わらずだし、大石君のドラムは7年のブランクを感じさせない程に安定しているし、菊ちゃんのベースは安定していながら、攻める部分はしっかり攻めてる。何よりも3ピースというシンプルな形でざっくりと鳴らされる音は直情的だし、ポップネスとロックバンドとしての荒々しさが見事に融合し、sportsの持つポップネスとギターロックの魔法は確かにこの瞬間生まれた。続く「P.I.L」ではよりダイナミックなロックバンドとしてのsportsを見せ、そして早々に必殺の「Super sonic」へと雪崩れ込む。あのイントロのコードストロークだけで僕のテンションは最高潮だし、轟音のポップネスが咲き乱れ、正に疾風が吹き荒れる音像は音源よりも更に刺さったし、その歌詞通り「破壊のメロディ」が吹き荒れていた。そして1stからの楽曲が続き、「D.Jhonston」のレゲエ的な揺らぎもライブで見事に再現されていたし、名曲「Pumping On The Radio」の宇宙的サウンドスケープは、より生々しさを増していた。一方で2ndの「Kick Off, Now!」メロウさからのダンサブルな躍動は心を躍らせる陽性のポップさが炸裂し、ゆるやかに駆け抜ける3人の音が最高の気持ち良い。
そして伊藤君がギターを置き、キーボードをセットしてキーボードボーカルの演奏へ。原曲はギターでの弾き語りである「Sing」はよりシンプルになったピアノの音数がボーカルを際立たせて、ゆるやかさの中の揺らぎをまた違う形で表現。そして終盤のギターが無いアレンジになった「鉄の街」は途中から菊ちゃんがエフェクターを駆使しトリッキーなベースラインで曲にアクセントを加え、轟音パートが無い代わりに、静謐さから生まれた熱がじんわりと染み渡る。
そんなしんみりした空気を見事に打ち破る「Believer」は打ち込みの音こそ無かったけど、ライブでの3ピースの音はよりギターロックバンドとしてのsportsをアピールし、シンプルなギターフレーズだけで高揚感を生み出し、更には最初は固さも少し感じたバンドの演奏も脂が良い感じに乗り、ダンサブルなグルーブを見事に体現し絶好調!何よりもやると思って無かった「nude」のダークな湿り気に満ちた退廃的空気はsportsの持つまた別の一面だし、残酷なロマンを痛々しく奏でて歌い上げるのはやっぱり00年代前半に登場したバンドらしかったりもしたし、その時は僕の心は本当に高校の頃に戻っていた気がする。ベースから始まるアレンジに変わった「Rhythm Drowner」は宇宙的スケープをより生々しくし、更に残酷なロマンへと繋げ断罪する。そんな曲とポジティブな躍動のダンスナンバーである「Fall In Love Once Again」が見事に繋がるのはsportsならではで、多方面から生れる幻想の世界は、3ピースの音のみで生み出すライブでは更に統率されていたと思う。
本編のセットも12曲が終わってしまい、時間の経過はかなり早く感じたりもしたし、もうsportsの音に観客が陶酔していた所で、宣言されていた新曲を披露。「夜間飛行」というこの曲は路線で言うと2ndの作風に近い風通しの良い歌物の一曲なんだけど、こうして七年振りの新曲を聴くとsportsってバンドの普遍性の強さは大きな武器だって思い知る。そしてこっからは本当に一瞬だった。インディーズ時代の名曲である「X-Ray」の王道のギターロックな疾走と焦燥、「Washing Machuine」のソリッドなサウンドでありながら、哀愁が全開になったドラマティックな泣き、「ラブリーガール」の終末観、そして伊藤君のこの曲でメジャーデビューしたとかあり得ないみたいなMCから本編ラストは彼等の代名詞とも言えるメジャーデビュー曲である「Sports Wear」、分かりやすい展開じゃ無いし、メジャーのバンドにしては7分超えの長尺だし、確かにコマーシャル性を考えたら、この曲でメジャーデビューしたというのはまた不思議なんだけど、ドープさから煌きの世界を描くポップネスは正にsportsの代名詞だし、曲を重ねる毎にブランクを感じさせない演奏へとなっていくバンドの演奏も最高潮へ!!そんな置き去りのポップネスと共に全17曲の本編は終了。
本編ラスト前にあっさりアンコールがある事を宣言していたし、本編が終わりアンコールの手拍子が始まると意外とあっさりと伊藤君がステージへ戻る。そしてアンコール一発目は伊藤君のギターの弾き語りの「Xanadu」爛れたギターフレーズの耽美さが剥き出しになったこの曲は。sportsの持つ魅力である終末観の先の世界を見事に描いた名曲だし、瞬く世界を歌とギターだけで体現。そこから大石君と菊ちゃんもステージに戻り「I Like Sports」という最初期の名曲を披露。本編の時のMCで伊藤君は「伝えたい事なんて特に無いし、自分の作った曲を聴いて欲しいだけ。」って事を言っていたけど、そんな伊藤君の音楽観はこの曲にも表れていたし、その後に披露した「Puzzle」にも見事に繋がっている。彼等が生み出した音はどんなに月日が経過しても色褪せやしないんだ。そして最後のMCで9月に今回のライブの追加公演を同じく下北沢GARAGEでやる事を告知、この日一番の歓声だったと思う。この夢が今日だけじゃない事を伝え、アンコール最後は2ndのラストを飾る「さよならパレード」、決して夢は終わらない、そんな余韻を残しながらsportsの一夜限りの復活ライブは幕を閉じた。
筈だったんだけど、客電が点いても誰も帰らない。止まない手拍子。そしてステージに戻ってくるメンバー。伊藤君はこの三人で出来る曲は全部やってしまったと言っていたんだけど、ここで菊ちゃんの提案で初期の名曲「Furry Monster」をまさかまさかのプレイ!!予定調和じゃない、本当の後夜祭は奇妙な捻れが疾走するsportsならではの轟音ギターロックであり、そこで生まれたのは新たな始まりだった。突き刺す轟音の中で新たなる夢の扉を開き、こうして全22曲、二時間以上にも及ぶ熱演が終わった。
セットリスト
1.Love is
2.P.I.L
3.Super Sonic
4.D.Jhonston
5.Pumping On The Radio
6.Kick Off, Now!
7.Sing
8.鉄の街
9.Believer
10.nude
11.Rhythm Drowner
12.Fall In Love Once Again
13.夜間飛行(新曲)
14.X-Ray
15.Washing Machine
16.ラブリーガール
17.Sports Wear
en1.Xanadu
en2.I Like Sports
en3.Puzzle
en4.さよならパレード
en5.Furry Monster
伊藤君は何度もMCをしていて、本当に沢山の事を話していたと思う。活動休止時のラストライブの時の「また会おう」と言った約束を果たしに来た事とか、大石君と菊ちゃんとライブをしたかった事、sportsとは何だったか確かめに来たって事、やっぱりロックが一番最高の音楽だって事。本当に色々な事を話していたと思うし、そんなの当たり前の話なのかもしれないけど、今回の復活ライブは観に来た僕達だけじゃなくて、sportsのメンバーにとっても本当に特別な物だったんだろうし、一夜限りの夢では終わらなかった。7年前に終わりを迎えたsportsという夢が、また新たに始まるという特別な夜だったんだと思う。僕自身は今回の復活ライブで初めて彼等のライブを観たし、ずっとsportsは好きだったけどライブを観る事は叶わなかった人も多いと思う。だからこそこれは新たな始まり。9月の追加公演以降どうなるかは全く分からないけど、これはsportsが新たな始まりを迎えるという事だと僕は思っている。何よりもずっと大好きだったのにライブを観れずに活動休止してしまったsportsのライブを観れた、それだけで十分過ぎるんだ。