■NOISE/BORIS
![]() | NOISE (ALBUM+SINGLE) (2014/06/18) BORIS 商品詳細を見る |
遂に出た。「NOISE」である。ヘビィロックを基点に全ての音を縦断する変幻自在であり孤高であり最果てのバンドであるBorisの2014年リリースの最新作。ヘビィロックサイドの大文字名義では実に6年振りのリリースである。昨年は小文字名義のborisでのリリースや昨年から今年頭にかけての精力的な日本でのライブ、勿論世界レベルで評価されるバンドとしてのワールドワイドな活動と本当に止らないバンドだけど、遂に決定打と言える作品をリリースしてしまった。リリースは国内盤CDはエイベックス、アナログ盤はDaymareからで、エイベックス盤にはボーナスディスク付。
Borisはこれまでの多数の作品をリリースし、その形骸を嘲笑う自由過ぎる変化と進化の軌跡を進んできたけど、今作NOISEはBORIS名義の作品でありながら、ヘビィロックサイドに留まらずboris名義での要素を持つ楽曲も普通に存在するどころか、これまでのBorisを総括する作品であり、しかしただ総括するんじゃなくて、散らばりまくった点を一つにせずにそのまま「NOISE」という箱にブチ撒け、そしてそれを最新の形で進化させたのだ。2011年にリリースされた3枚のアルバムは本当に大きな驚きに満ちていたし、特にJ-POPからエクストリームミュージックを奏でた「New Album」のインパクトは相当だったけど、「New Album」同様に成田忍氏がプロデュースした今作は「New Album」が一つの実験であるなら、今作はこれまでリリースした膨大なる作品が持つそれぞれの実験の結果の再検証であり、同時に発表であり、実験を踏まえた上での実践であり、そしてそれらを散らばったままヘビィロックとして鳴らし、結果として非常にBorisらしい総決算的な作品に仕上げたと思う。本当にこのバンドの触れ幅の大きさやアイデアの多彩さは驚くしかない。
今作はこれまでのBorisをほぼ網羅した作品であり、収録されている8曲が見せる音は完全にバラバラだ。しかしどこを切っても存在するのはBorisにしか生み出せなかった音だし、それぞれの楽曲がこれまでの作品の焼き直しや再利用では無く、これまでの作品を完全に通過させる事によって全く別の次元へと到達させた作品だ。言ってしまえば「flood」も「PINK」も「New Album」も「feedbacker」も「Heavy Rocks」も今作にはあるし、同時にその過去の作品は存在すらしていないのかもしれない。全曲が必然的にそれらの作品の新たなる息吹であり、長い実験とリリースとライブを重ねて生み出した終着点であり、そして次の出発点なのだから。そう考えると今作は「NOISE」というタイトル以外を受け付けない作品だと思うし、あらゆる音の混迷と、ヘビィロックが放つ幾多の音の色が混ざり合った得体の知れない「何か」。そうかそれがBorisが生み出すノイズなのか。
先ずそのタイトルに驚かされる第1曲「黒猫メロディ」は「New Album」で見せたポップネスが生み出すエクストリームミュージックの最果てであり、冒頭のV系ライクなギターフレーズなんかモロ過ぎて最高だけど、「New Album」と明らかに違うのは、サウンドプロダクトを小奇麗に纏めていない事だ。「New Album」に収録されているポップネスの極限を生み出した「フレア」と違うのは、曲自体は「フレア」同様にBoris流のポップスやらギターロックへの回答であるのだけど、音質はハイファイな音じゃなくて、確かな歪みを感じさせるし、ヘビィなリフが音の粒子を拡大させ、轟音として轟いているし、中盤のギターソロは最高にストーナーでサイケデリックだ。ポップさとヘビィさとサイケデリックの融合であると同時に、それらの音楽が持つ高揚感の極限のみを追求した音は最高に気持ち良いんだけど、歪んだサウンドが聴き手の耳に残り続け、中毒成分として残り続ける。一方で第2曲「Vanilla」は02年にリリースされた方の「Heavy Rocks」に収録されている楽曲を彷彿とさせるギターリフから始まりながらも、ポップで煌きに満ちた音像であるし、曲自体はこれまでのストーナー色の強く爆音でブギーするBORISとしてのヘビィロックの王道の楽曲であるけど、同時にこれまでに無くポップな高揚感がサイケデリックで宇宙的なサウンドで鳴らされているから、全然印象が違う。ポップネスからヘビィロックへ、ヘビィロックからポップネスへ。冒頭の2曲は起点が全然違うけど、その起点同士はすんなりと線として繋がるし、もっと言ってしまえば凄くシンプルに最高に格好良いヘビィロックでしか無いのだ。
ヘビィロックサイドの音から一転して第3曲「あの人たち」はアンビエントとサイケデリックな音像による揺らぎの音像。くぐもった音像でありながら、一つ一つの音の音圧は最初から凄まじく、これまでにリリースした「flood」や「feedbacker」の系譜の楽曲だけど、冗長さを完全に削ぎ落とし、同時にアンビエントな轟音でありながら、非常に歌物な曲に仕上がっていて、ここ最近の作品でもあったborisとBORISの融合と言える楽曲でありながら、ドゥーミーな轟音とアンビエントの融合であると同時に、それを普遍的な歌物の感触すら感じさせるのはBorisの大きな成果だと思う。wataがメインボーカルの第4曲「雨」は更に極端に音数を減らしながらも、更に揺らぎ歪んだ轟音の壁すら目に浮かび、それをあくまでも6分と言う枠組の中で、アンビエント方向に振り切らずに、焦らし無しの轟音と歌が生み出す、美しいメロディが飛び交うパワーアンビエントの一つの到達系だと思う。第5曲「太陽のバカ」はまた一転してロッキングオンライクなポップな曲だけど、ギターの音作りがもっとヘビィだったり、もっと奥行きのある感触がやたら耳に残る。SUPERCAR辺りがやっててもおかしく無い位に普遍性に満ちた曲なのに、それすらもborisというフィルターを通過させると独自の捻れが生れるのは本当に面白い。
そして決定打とも言えるのはこれまでライブでも演奏していた第6曲「Angel」だろう。20分近くにも及ぶこの曲は、ここ最近のBoris名義での大作志向の壮大な音像が生み出すサイケデリアの究極系であり、同時に痛々しく胸を抉る最強のエレジーだ。物悲しく、荒涼としていて、痛々しいwataのアルペジオの反復が終わり無く続き、ビートも極端に音数を減らし、本当に隙間だらけの音な筈なのに、その隙間を感じさせない。そこに歪みまくったギターが薄っすら入り、そこから轟音のヘビィアンビエントになり、青紫の轟音の中で、ただ哀しみを歌うTakeshiのボーカルが本当に胸を打つ。ストーナーやドゥームといった要素を強く感じる音作りなのに、深淵の深遠へと聴き手を導く、内側にも外側にも放射される悲しきヘビィネス。特に曲の後半は本当に神々しくて泣けてしまうよ。
そんな空気をまたしてもブチ壊すのが第7曲の「Quicksilver」で、これは完全にBorisの最強のアンセムであり、同時に「Pink」に収録されている「俺を捨てたところ」の更に先を行く最強の進化系だ。ドラムのカウントから、せわしなく刻まれるギターリフと性急なDビート、本当に久々にシャウトをガンガン使いながらも、ここ最近のアニソン・V系ライクなBorisを感じさせるメロディ、Borisがずっと持っていたヘビィロックとアニソン的メロディセンスの融合という点を、再構築して生れたのがこの「Quicksilver」だし、彼等がここまでストレートにアンセムを作り上げた意味は本当に大きい。「Quicksilver」は間違いなくここ5年程のBorisを最高の形で総括した名曲だ。とおもったらラスト数分は極悪すぎるドゥームリフによる暗黒ドローンをアウトロにしているし、その落差が自然になってしまうのもBorisなんだと改めて実感した。最終曲「シエスタ」の約3分のアンビエントの静謐な美しさで終わるのも、やっぱりBorisらいいと思う。
そしてエイベックス盤のボーナスディスクは、今回「NOISE」という枠組みから外されてはいるけど、また別の視点のBorisを味わえる内容で、Borisが提供したタイアップ曲中心に収録されている。Borisらしいパワーアンビエントさと、繊細で静謐な美しさが光り、地獄の様な歪んだ音像と対比を織り成すインスト曲「Bit」、「New Album」の「フレア」の路線を更にポップに突き詰めて、完全にBoris流のヘビィロックJ-POPと化した青き疾走「君の行方」、ストーナーロックと90年代V系が衝突してしまっているのに、そこをポップさで落としつけた、こちらもポップなBorisの進化系「有視界Revue」、昨年リリースされた「目をそらした瞬間」の再発CD-BOXの新録音源として収録されていた「ディスチャージ」の新verと、この4曲もそれぞれの楽曲が「NOISE」という作品を補足しつつも、強烈なインパクトを持つキラーチューンばかりだ。
これまでその全貌を決して明確にはしないで、常に聴き手を嘲笑ってばかりいたBorisがここまで素直にこれまでの自らを見直す作品を作るとは思っていなかったし、これまでの膨大な作品を完全に一枚のアルバムに落とし込んだ。でもそれによってBorisの姿がやっと掴めるかと言ったら、それは完全に大間違いで、今作の音は進化系でありながら、脱ぎ捨てた蛹な気もするし、常に人を置き去りにしかしないBorisならではの置き土産なのかもしれない。今後、このバンドがどうなるかは結局想像なんて出来ないし、そんなの本人達ももしかしたら知らない事かもしれないけど、総括する、一つの点にするのではなく、散らばらせたまま、それをそのまま新たな枠に取り込み、それぞれの楽曲が反発しながら新たな調和を生み出す。その不自然さと自然さこそがもしかしたらBorisが提唱した「NOISE」なのかもしれないし、そんな歪みすら超えて、ただ単純に最高のヘビィロックアルバムだと思う。俺はこれを待っていたんだ!!