■Grafting From Instananeous And Fragmental Fullfillment/SCALENE

日本のカオティックハードコア黎明期の重要バンドであるATOMIC FIREBALL、それのボーカル以外のメンバーによって結成されたのがこのSCALENEであり、ボーカルはATOMICのベースであった小野里氏がベースボーカルとして叫んでるのだけど、そんなSCALENEの02年にHG FACTからリリースされた4曲入EPであり、恐らくバンドが唯一残した作品である。メンバーの小野里氏と山口氏は現在はREDSHEERとして今年からライブ活動を行っている。
僕はREDSHEERからATOMICもSCALENEも知ったし、それぞれのメンバーのキャリアを知って色々と驚愕したという無知をここで晒しておくけど(ATOMICのボーカルは元Hellchildで元From Hellで現SWARRRMの司氏だし、ベースの小野里氏は過去にnine days wonderに参加していた)、そんな猛者が生み出した全4曲、そりゃ最高に決まっている。00年代初頭の俺がリアルタイムで体感できなかったあのカオティック・激情黎明期の空気がこのバンドの音に存在する。ヘビィでメタリックで、ダークで不協和音だらけで、でも胸を突き刺す叫びがあって、何故かギターのフレーズからは切なさが込み上げる。もうカオティック・激情の一番美味しい部分だけしかないし、ATOMICの混沌とはまた違う、内面の世界へと迫る様な世界観があって、それは現在のREDSHEERに間違いなく連なっているのだ。
いきなり小野里氏の叫びから始まり、ドスを効かせながらも胸を締め付ける叫びが印象的過ぎる第1曲「Under Cover」を聴けば、このバンドの凄みを感じるだろう。不穏に行き先が見えないまま混沌を生み出すベースラインと甘さなんて完全に放棄し、ズタズタのメタリックなリフを変則性を交えながらカオティックに鳴らし、ここぞと言う所では何故か凄くエモいメロディを感じさせながらも冷徹に断罪する山口氏のギター、着地点なんか最初からねえよと言わんばかりに次々と混沌をビートに託したドラムの3ピースの音で、最大限に不穏な混沌の世界を描き、展開もセオリー通りには全くいかないし、安易な甘さや感傷を削ぎ落とし、そしてただ爆音で混沌を鳴らすだけでは絶対に生まれない、肉体をズタズタに切り刻みまくる癖に、妙に感動的だけど救いの無い暗黒のカオティック、勿論方法論とかは違うのは承知だけど、the carnival of dark-splitやnemoといった国内の暗黒系カオティックの最高のバンドと同じ空気を僕は感じる。第2曲「Day Dream」なんかはそれが特に顕著で、爆音で負の感情をブチ撒ける序盤から、音数を一気に減らして静謐で不穏な胸騒ぎを音にしたみたいな中盤、そして再び混沌へと雪崩込み、爆音でジャンクかつダークに爆散する終盤と、楽曲の起承転結が凄い明確になっているのも、このバンドのエモーショナルさの大きな特徴だと思う。
第3曲「Cracked」は今作で一番短い3分弱の楽曲だけど、よりジャンクさが際立ち、随所随所で引きのアクセントを交えながらも、常に空間を埋め尽くす音の連続で、心をかき乱すアルペジオも叫びと囁きを織り交ぜたボーカルも、ナイスであり、終盤のカオティックさが全開になったギターワークは今作の中でも屈指の格好良さ。最終曲「My Eyes」は今作で最もBPMが速くて、一番ハードコア色を感じさせる楽曲であり、刻みのリフメインで進行しながらも、そんなストレートなサウンドをギミックにして結局は金属が擦り切れ、悲鳴を上げまくるサウンドになり、美しいのに精神が少しずつ崩壊するクリーントーンのギターも、最後の最後の絶命する間際の断末魔みたいな叫びも本当に心をかき乱しまくる。これこそが心をかき乱す爆音であって、余計な感傷も全く寄せ付けないし、かなりダークな部類の音なのに、聴き終えた後に残る余韻は何なのだろうか!!
SCALENE自体の活動は決して長くなかったらしく、今作をリリースして暫くしてバンドは活動を終えてしまったらしいが、リリースから12年経過した今でも全く古臭さは無いし、寧ろ出るのが早かった位の音だと思う。しかし12年の歳月を経て、メンバーだった小野里氏と山口氏はREDSHEERとして帰って来たし、それはSCALENEの持っていたダークさの中のエモーショナルさをより明確にし、より研ぎしました音へと進化を遂げ、まだ正式リリースの音源こそは無いが、積極的ライブ活動によって確実にSCALENEやATOMICを知らない世代のフリークスにもその音を届けている。またREDSHEERのデモ音源はこちらで試聴可能なので、是非ともチェックして頂きたい。