■Totem/Baton Rouge

俺達の3LAのリリース第四弾はフレンチ激情の最重要バンドにしてレジェンドであるDaitroのメンバーがほぼ勢揃いしたBaton Rougeの新作だ。今作はフランスのPurepainsugar、ドイツのAdagio830、アメリカのBakery Outlet、そして日本の3LAの共同リリースとなっている。これまで激の部分がかなり強いバンドの作品を3LAはリリースしたが、ここに来てとんでもなく渋い一枚をドロップしてくるとは流石すぎるし、フレンチ激情のDaitro以降を自らで鳴らすBaton Rougeの新作リリースは多くの人に大きなインパクトを与えている筈だ。またマスタリングはGY!BEの最新作も手がけているエンジニアであるHarris Newmanの手による。
Daitroはもうここで説明する必要なんか無い位にフレンチ激情の最高峰であったし、多くの影響を与えたバンドである。Baton Rougeの音自体は今作で初めて触れたけど。これは紛れも無くDaitroの最終作である「Y」以降の音を鳴らしているし、それこそ激の要素はほぼ無いと言えるけど、Daitroが持っていたメロディセンスとエモーショナルさは間違いなく継承しているし、よりオーバーグランドな音を鳴らしていた「Y」から、今作の洗練された歌物のエモへと繋がるのは紛れも無い必然だと感じた。何よりも音楽的なレンジの広さを持ち、細部まで練り込まれた楽曲の完成度の高さは凄い。
揺らぎの音から始まり、硬質なビートの反復と冷ややかな鉄の感触のギターが生み出す郷愁のメロディが胸を焦がしていく第1曲「Le Fixeur」からこのバンドの奥深さと味わい深さを感じるだろう。エモではあるが、分かりやすい暴発パートは無いし、アグレッシブさよりも淡々としながらも、地に足を付けたミドルテンポのサウンドが印象的だし、郷愁のメロディをあくまでも体温の感覚と、ある種の冷たさによって少しずつ変貌させていくサウンドは、もしかしたら派手さは無いのかもしれない。でも、やはりDaitro時代から持っていた卓越したメロディセンスは今作にもあるし、それをより研ぎ澄ましたからこそ、歌物になり、円熟と渋さを感じる音になったのだと勝手に思う。第2曲「Côte Du Py」も後半は激しい轟音こそあれど、絶妙に泣きまくったサウンドと、緩やかな空気の中で生み出される郷愁は本当にグッと来る。第3曲「Cours Tolstoï」こそアグレッシブさこそあれど、それでもじわじわと浸透して行くメロディの絶妙な歪みと美しさを武器としているし、インディーロック色の強い第4曲「Guetter Les Ondées」なんかは個人的にYo La Tengo辺りのバンドと共振する物を感じたり。
激情系要素こそあまり無いけど、インディーロックやポストロック成分をほんのり感じさせる音から生まれるエモはまた一つの進化の形だし、不穏なインスト曲である第5曲「Totem」は前半の空気を良い感じに変えるアクセント的の役割を果たし、続く同じインストである第6曲「Hypn-O-Sonic」ではバンドの深部へと入り込んで行く。ポストロックを機軸としたビートの方法論と、複雑に美しく形を作り上げて行くギターフレーズという前半から、ノイジーな音へと変わっていき、揺らぎの中の熱量と、爆発しそうでしない焦燥感が最高過ぎるし、ドラマティックでスケール感溢れる第7曲「Ushguli, Au Gré Du Gel」、静謐さから今作でも一番のエモーションを放ち、バンドとしての貫禄を感じる第8曲「Voyages En Train La Nuit」、もう激羽状だとかエモとかという言葉も要らないロックとして泣ける熱さを感じる最終曲「D'année En Année」まで全曲の完成度の高さは本当に見事だし、ex.Daitroではなく、あくまでもbaton Rougeというバンドとしてのサウンドを見事に確立しているのだ。
紛れも無くDaitroの先にある音だし、Baton Rougeというバンドとして確かな進化を見せる傑作だと思う。メンバーそれぞれがこれまでに数多くのバンドに参加しているけど、そんなキャリアが間違いなく生きているし、非常に普遍性溢れる音でありながら、とんでもなくグッドメロディを放ち、確かに心を揺さぶる作品だ。今作は3LAのサイトで勿論購入出来るので是非チェックを。