■GreenAppleQuickStep(2nd) / GreenAppleQuickStep
![]() | GreenAppleQuickStep (グリーンアップルクイックステップ) 12”LP(プレスCD付) [Analog] (2013/08/07) GreenAppleQuickStep (グリーンアップルクイックステップ) 商品詳細を見る |
不失者の元メンバーも在籍している北海道のサイケデリックロックバンドであるGAQSの2013年リリースの2nd。今作はレコードでのリリースに拘った作品で販売はレコードのみとなっているが、同内容のプレスCDも封入されているので、レコード再生環境の無い人でも問題は無い。BlackSnowFlakeSound(札幌)のRichard Horneがレコーディングとミックス、Bob Weston(Chicago Mastering Service , Shellac)がマスタリングを担当し、生々しすぎる程の質感と音の良さが今作にはある。
さて1stから実に4年振りのリリースであり、2010年からベースレスの3ピースとなった彼等だけど、1stの頃以上に不器用なロックバンドとなった。彼らの音は洗練はされていない。寧ろ1stの方がある意味では洗練されていたかもしれない。しかし彼等が鳴らすのは内側へと向かう彼岸のロックだ。割礼やちゅうぶらんこといったバンドと並ぶだけのバンドだと僕は勝手に思っているし、よりスタンダードなロックに接近しながらも、より湿り気が増し、よりグルーブに重みが増えた。不器用に剥き出しになったからこその進化を今作から感じる。
美しく憂いを感じるコードと、変則性とメランコリックさを追求しまくった2本のギターの絡みが美しく、淡々としていながらも、確かな重みをビートに託したドラム、そして心の奥底へと静かに浸透する歌。スロウテンポで展開されているのに、妙に心を掻き毟るのは何でだろうか。そんな事すら考えていても結局どうでもよくなってしまう位に、陰鬱なロックを極めた第1曲「トンネル」が先ず素晴らしい。なんというか本物のサイケデリックロックって、本当にトランス出来る音か、本当に心の奥底をダークに揺らす音だと僕個人は思っていて、ありがちななんちゃってアバンギャルドやゆら帝の表層だけ模倣したバンドはもれなくファックだと思うんだけど、GAQSには当たり前だけどそんな物は無い。確かに揺らぎのグルーブやギターワーク、スロウテンポで割礼の如くゆれつづける音は紛れも無くサイケデリックではあるが、それ以前に正しすぎるロックバンドなのだ。第2曲「徐々に」のブルース進行を軸にしながら、ドープに沈み込んでいく様は堪らないし、もう意識すら放り出してしまいたい、この音に溺れていたい、もうどうでもいい。そんな退廃的な感情すら甘美で美しいと思ってしまうし、ファッションヒッピー共がやっている自称サイケよりもよっぽど危険だ。ギターストローク一つで鋭さを感じさせ、音も無く聴き手を暗殺出来る勢いであろうギターの音と質感が本当に素晴らしい第3曲「僕らの」、タイトルが先ず最高だし、本当にドラムとギターだけで、空白塗れなのに、その隙間に情念が込められた一つの怨歌でもある第4曲「タイコとギター」。どれも最高だ。
そして前述の通り音が本当に良い。余計な装飾を施さず、加工もせず、ただ生々しいギターとドラムと歌は緩やかでスロウテンポでありつつも、確かな血の流れを感じるし、この音は密室で聴くと本当に鼓膜から心の奥底に響くし、ベッドルームミュージックとしてのエロスすらギターの音の一つ一つに感じてしまう。第6曲「夜のにおい」なんて本当にセックスの時に流したりなんかしたら最高に嵌るだろうし、このドロドロした感触やエロスやロマンこそがロックの真髄であるなと凄く馬鹿みてえに単純な事を思う。最終曲「雨の降る夜」の憂いと悲哀と終末観も素晴らしく、このダウナーさを極めたのがGAQSというバンドなのだろう。
今作には分かりやすく速い曲は無い、豪快なディストーションギターも無い。荒々しいドラムも無い。寧ろ音は空白を感じさせる物ばかり。しかしたった一人ぼっちの夜を過ごす時、ただ大切な人と血と性欲の対話をする時、この音は最高に嵌るし、血とエロスのサイケデリアの真骨頂だ。僕個人としては本当に割礼級のバンドだと思っているし、この音は本当に側にいて欲しい音なのだ。夜に聴くと最高に嵌るし、その夜の数だけ、このレコードの価値は増えていく。そんな作品こそが本当のロックであり、本物の名盤だ。