■コミューター/おまわりさん

各所で生きる惨劇としてヴァイオレンス極まりない危険なライブを展開し、ハードコア・グラインド・ノイズ、様々な界隈で本当に高い評価を得ていたおまわりさんだが、いよいよ1stアルバムがリリースされた。デモ音源のリリースはあったけど、正式音源は今作が初であり、待望のフルアルバムだが、今作はまさかの2枚組という内容で先ずはそこに驚いた。そしてこれまでノイズ塗れで不明確だったおまわりさんというバンドの全貌が明らかになった作品であり、そしておまわりさんというバンドがライブパフォーマンス云々以前にどれだけ危険なバンドか分かる作品だ。
先ず今作はまさかのdsic2枚組である。アルバム全体ではディスク一枚に収まる収録時間ではあるけど、敢えて2枚組に分けられている。それはおわまりさんというバンドの二面性をそれぞれのディスクに分けているからで、disc1は9曲で20分にも満たないショートでジャンクなハードコアな楽曲ばかり収録し、disc2では長尺でスロウでアンビエンスな要素を盛り込んだよりダークな楽曲を収録している。しかしながらどちらも非常にヴァイオレンスな音を生み出しているのは間違いないし、その方法論が違ってもバンドの暴力性は揺らいでいない。
第1曲「It Says No」から言語化不可能なボーカルとノイズと高速2ビートが吹き荒れるdisc1はとにかく飛ばしまくっている。今回はデモの時に比べて音の輪郭が非常に明確になっているし、各パートは暴力的な音を放っているけど、非常に音が掴みやすい。第2曲「グラインダー」もタイトル通り音が暴走しまくっているけど、ジャンクでハードコアなギターリフが引っ張りながら突き刺すノイズと突っ走るビートと、風人氏の一人で何役もこなすボーカルスタイルが最高にハマっている。そのまま矢継ぎ早に第3曲「不在」へと続くけど、そこでも前以上にキャッチーとまではいかなくても分かりやすいリフとノイズとビートの構成による濁流サウンドが全開。デモにも収録されていた第4曲「バカ社長」や第7曲「Dew」もバンドの成長を強く感じさせる物で、デモの時の様にノイジーさで殺すスタイルでは無くて、ノイジーさこそ変わらないし、相変わらずジャンク極まりない音であるのに、どこか正体不明だったおまわりさんの全貌を見事にアウトプットしている。それと矢継ぎ早にジャンクでカオスでノイジーなハードコアを繰り出しているからこそ、強烈でインパクトが残る音が一瞬で過ぎ去る暴風雨感は実に気持ちが良い。ハードコアとノイズとジャンクのドM大歓喜な快楽を音に叩き込んでいる。disc1のラストを飾る「集合意識」も暴走パートとビートダウンの緩急を付けるスタイルで常に歪みながらも、暴走一辺倒じゃなくて、5分間で速さと遅さによる落差のヴァイオレンスさを生み出している。
そして驚くべきはdisc2である。デモでも長尺で静謐さからノイズの暴力へと変貌する楽曲はあったが、それが見事に進化している。第1曲「コミューター」はアルバムタイトル曲なだけあって屈指の出来だ。Slint辺りの不穏なクリーントーンのギターと硬質なビートの反復、それらのサウンドにシンセとノイズが更に不気味な音を加え、そのメロディも音も美しさでは無くて不気味さしか無い。風人氏は途中でホーミーみたいな発生方を使ったボーカルを披露しているし、松田氏のハーモニックスを使ったフレーズもなんとも「らしさ」があってニヤリとするけど、来る爆発の瞬間に対する恐怖、そしてラスト1分半でブラストビートとトレモロリフとノイズによる大爆発。悲痛な叫びと共に破滅へと暴走するカタルシス。スロウヴァイオレンスでありサッドヴァイオレンスでしかない。第2曲「引力」も静から動へと移行する曲だけど、こちらはスラッジコアやポストメタル的な方法論にも通じるサウンドであり、同時に歪みまくったパートではジャンクさも全開。そしてデモにも収録されていたおまわりさんの象徴する曲である第4曲「膨張」は更に不条理な惨劇だ。のっけから不気味に蠢くギターとノイズ、唐突に通り魔2ビートが吹き荒れ、デモの時以上に表現力と声の暴力がおかしい事になっているボーカル、音の色と輪郭が明確になり、よる禍々しさが増した音、情報量も凄いけど、ドゥーミーな音階のアルペジオからビートダウンの暴力と化すパワーヴァイオレンスさ。最後の最後はやっぱり暴走で締めくくられるし、disc1のジャンクでショートなハードコアも凄かったけど、このバンドのヴァイオレンスさは実は長尺で大作志向の楽曲でこそ生きるんじゃ無いかと思った。最終曲「ハイパーインテリジェンツィア」もやはり10分近くに及ぶ不条理であり、低域地獄のベースの不気味さ、ポエトリーによる呪詛、クリーントーンのサウンドでありながらのしかかる重々しさ、そしてスラッジなヴァイオレンスな重ノイズ地獄。最後の最後のクリーントーンのギターフレーズから今作で一番の不条理な混沌、完全に取り残されてしまった気分だ。
ライブではやはりヴァイオレンスなパフォーマンスやサウンドによる交通事故感が目立つけど、こうしていざ正式音源となった音を聴くと、そういった部分だけじゃ無くて純粋にバンドとして進化したと思う。ジャンクなバイオレンスさも、サッドでナードなヴァイオレンスさも、スロウなヴァイオレンスさも、ファストなヴァイオレンスさもある。言ってしまえばヴァイオレンスマシマシ全部乗せみたいなアルバムだ。しかし速さや遅さや五月蝿さだけでは無い。より精神的な重さもあり、より完成度の高さも、ノーフューチャーな暴走もある。何にせよ極端すぎる音ではあるけど、だからこそ今作のカタルシスは半端じゃない。