■The Sense Of Wonder/Detrytus

Detrytusとは正に未知な衝動を鳴らすロックバンドである。Dischordサウンドという言葉じゃ元々片付かないバンドではあったけど、2015年にリリースされた2ndアルバムはよりバンドが他と比較する事が不可能な「孤高の存在」になった事をアピールする作品であると同時に、紛れもなく最高のロックアルバムとなった。アルバムタイトルは「一定の対象、SF作品や自然に触れることで受ける、ある種の不思議な感動」って意味らしいけど、正にそんなタイトル通りの作品だと言えるだろう。またパッケージはCD/LP共に箱型特殊パッケージで箱にはナンバリングも記載されている。そんなDIYなパッケージも滅茶苦茶熱い。また録音はex-CRYPTCITYのセブロバーツの手による物。
しかし今作は何度も繰り返し聴いてもその全容が掴めない作品だ。決してアバンギャルドな事もしていないし、難解な事をしている訳でも無い。寧ろ3ピースという編成の無駄の全く無いサウンドフォルムと緊張感を最大限に生かしたヒリヒリしまくったオルタナティブロックアルバムだと言えるだろう。3人の音の化学反応がセブのオルタナティブを熟知したレコーディングによってより尖ったサウンドへと変貌している。でも何だこの既存の音と全然感触も違う異質さは?DischordだとかHooverだとかも影響は確実にあるとも思うけど、その形容だけじゃ彼等の音を上手く形容出来ない。しかし生々しい程にドキドキしてしまうこの音は何なんだろうか?
ハナの第1曲「Essence Of Life」から異様なオルタナティブが炸裂しまくる。ベースラインが一々極太で揺らぎを生み出し、ドラムのビートも実際結構シンプルであったりするし、グルーブだけ取ればある意味では凄くノレるし、踊れる音になっているだろう。でもそこに乗るギターは極端に歪んでいる訳でも無いし、空間系エフェクターの音が強く、ある意味無機質な程に鉄の感覚が溢れている。分かりやすくバーストしないのに、背筋が凍りつく冷たさの奥の熱が確かに存在し、ディスコダンスでありながら、越えちゃいけないギリギリの綱渡りの感覚を聴いていて覚える。第2曲「State Of The Masses」はもっと分かりやすいディストーションサウンドが前面に出ているし、ドライブ感もある、でも鋼鉄のビートを繰り出し、終盤ではベースラインが完全に楽曲を支配し、ギターのエフェクトがより不気味に噴出するパートは何度聴いてもハッとさせられるけど、でも分かりやすい高揚とはまた違うカタルシスも確実に存在しているのだ。
第4曲「Policy」なんて疾走感に溢れたロックナンバーであり、そのサウンドは紛れもなくロックでありながら、ギターのコーラスエフェクトなんかはSSE辺りのロックバンドが持つ妖しさに満ちているし、ロックの初期衝動と共に、ロックが持つ得体の知れない妖しさをシンプルな曲だからこそ出せるのは本当に強い。第5曲「Sand Dune」の極端に音数を削りまくったからこそのミドルテンポのうねりの螺旋階段はポストロックの領域にまで達しているけど、その反復するサウンドの行き先はやっぱり不明。第7曲「Heavier Things」や第8曲「Make Void Or Empty Of Contents」に至ってはdip辺りがやっていても全然不思議じゃないサウンドだし、そのクールネスに痺れてしまうだろう。そして最終曲「Shine」で10分近くにも及ぶ不気味な静寂のサウンドから底なし沼に落とされるだろうエンディング。最初から最後まで未知に触れた瞬間の衝動と感触を完全に音で表現している。
本当に沢山の音が出尽くしている2015年にここまでドキドキする音を鳴らす作品が出てくると思っていなかったし、斬新な事やアバンギャルドな事をするのでは無くて、自らのルーツを完全に消化し、バンドのアンサンブルを細胞レベルまで極める事によってヒリヒリしていて全容が掴めない、でもロックのカタルシスに溢れた作品を生み出したDetrytusには本当に拍手喝采だ。何処にも属さないからこそ自らをより未知のモンスターへと変貌させていくDetrytusは2015年の正しいオルタナティブロックを鳴らしているし、誰にも媚びず、誰にも迎合しないからこそ、ロックバンドのまま完全なるオリジナリティを獲得している。