■Six/Tengil

スウェーデン・ボロースの若手激情ハードコアバンドの1stフルアルバム。アルバムタイトル通り全6曲収録の内容となっている。リリースはお馴染みのTokyo Jupiter Recordsからで、こうした海外の才能溢れる若手バンドを発掘しリリースするTJRの行動力と熱意には毎度感服させられるばかりだ。しかしベテラン勢は勿論だけど若手バンドも熱いバンドが多いスウェーデンのバンドというだけあって、このTengilもその期待に応える作品を携えて堂々と1stアルバムをドロップした。マスタリングにMagnus Lindberg (Cult of Luna) を起用している点も注目。
自らを。「Quasi-symphonic post-hardcore (準交響的ポストハードコア) 」なんて随分と大風呂敷おっ広げた名前で称している彼等だが、今作を聴けばそれは確かな自信から来る物であり、実際にそう形容するしか無いサウンドだって分かるだろう。サウンドスタイルとしては長尺で組曲めいた複雑な楽曲構成を軸にしながらも、スウェーデンハードコアのお家芸であるクサい程の激エピックな美メロを前面に押し出し、更にはシューゲイザー要素も持ち込んだ現在進行形のハードコアスタイルを取り、その中で持ち前の美意識で美と激をこれでもかとクサい位に展開しまくる。こうした現行のハードコアのスタイルだけじゃ無くミュージカルや古典交響曲から大きな影響を受けたサウンドの奥行も存在し、それでいて確かなハードコアのスタイルを貫いているから凄く格好良いじゃないか。
イントロの第1曲」「Fermeture」の美メロの轟音から既に壮大さを前面に押し出して来やがってと思ったけど、第2曲「A Box」のそのスケールのままに素直なまでに展開されるハードコア組曲が始まった瞬間に一気に血が駆け巡る熱さを感じるだろう。ギターワークは凄く作りこまれているし、これでもかと北欧ハードコアらしいクサい美メロで押しまくる轟音スタイルに痺れる。でも単純にハードコアだけで押すバンドじゃ無いし、シューゲイザー要素も盛り込みまくりながらポストメタル的な構築美で展開される楽曲、合間合間のパートでストリングスの様に使われるギターのサウンド、だけど屈強というよりも、やっぱり音に少しペラさも感じる辺りの北欧ハードコア感がもう愛おしくて堪らない。楽曲の中でも静謐なパートは多目だけど、その代わりに激のパートは堂々と攻めるサウンドでメリハリを付けているし、作品全体で美メロじゃないパートが無いって位美メロ押し。ちょっと恥ずかしくなる曲名である今作のリードトラックである第3曲「My Gift To You」はそんな彼等の代名詞になる名曲だろう。
それとボーカルの表現力に関してもこのバンドは郡を抜いている。基本的には叫ぶスタイルで全力でナードなボーカルではあるけど、古き良きゴシックメタルバンドのエピック感を感じさせる豊かな表現力もある。第4曲「Praise Be」はハードコアなスタイルの楽曲では無くかなり歌物の曲だし、というかゴシックメタルテイストな曲だけど、そんな曲で魅せるボーカルの豊かな表現力はハードコアの枠組みを超えた普遍性であるし、個人的には今作で一番好きな曲だ。そして終盤の第5曲「Gehenna」でもその流れを受け継いだ天上の叙情詩を描き出し、ゴシック・激情・ポストロック・ポストメタル・シューゲイザーと最早何でもありとばかりに色々詰め込みながらも、クリーントーンの美しさが14分に渡って繰り広げられているし、最終曲「All Paths」はその壮大に広がった宇宙的世界を轟音と共に締めくくるオーケストラ的エンディングだ。
ベテラン・若手問わずに素晴らしい才能を輩出しているスウェーデンからまた新たに登場した新星であると同時にデビュー作で堂々と存在感と確かなオリジナリティとメロディセンスを感じるバンドだと思うし、この若き才能がこれからどう化けていくかも気になる所ではある。しかし作品全体で感じる激の中から滲み出る美しさと神秘性にはやはり惹かれてしまうし、本当に今後どうなるか楽しみなバンドだ。今作はTokyo Jupiter Recordsにて購入出来るので美メロフリークは是非チェックを。