■Tangled/Nadja

関連音源とかコラボ音源まで含めるともうどれだけリリースしているかちゃんと把握している人はいるのか疑わしくなってしまうレベルで膨大な作品を世に送り出しているカナダのエクスペリメンタル夫婦ことnadja。そのNadjaがTokyo Jupiter Recordsから日本盤リリースのニュースを聞いて驚いた人は多かったんじゃないだろうか。今作はNadjaが2014年に7インチでリリースしたEPの日本盤としてTJRからCDのフォーマットでリリースされた作品であり、同時にNadja史上最もキャッチーかもしれない一枚だ。
Nadjaと言えば他の追随を許さない真の唯一無二の轟音を奏でるユニットであると同時に、その楽曲は殆どが長尺曲ばかりであるし、聴いていると脳が溶ける感覚すら覚える至高のエクスペリメンタルサウンドを鳴らしていた。しかし今作は「Grindgaze=グラインドゲイズ」と称され、Nadjaのサウンドの視点からインダストリアル・グラインドコア・ブラックメタルを解釈した作品になっている。Nadjaとしては驚きのボーナストラック以外の楽曲がどれも2分前後という驚きの短さの曲ばかり並ぶ。それが結果としてNadjaの轟音サウンドの最も分かりやすくてキャッチーで気持ち良い部分を抽出したみたいな音になっている。
勿論Nadjaの解釈によるグラインド・インダストリアル・ブラックメタルと聞いて既存の解釈をするなんて誰も思わないだろう。ビートこそ機械的なインダストリアルのビートだけど、サウンドに分かりやすいブラック要素もグラインド要素も全く無い。無機質でノイジーなギターの轟音が容赦無く降り注ぎ、これまでのNadjaの様な天へと上る轟音とは違って、奈落へと沈み込むかの様なサウンド。しかも音の輪郭もかなり歪んでいるし、これまでよりも異常なまでにショートな楽曲であるからこそ、余計に際立つドス黒さを感じるディストーションサウンド。しかしそれすら奈落の暗黒サウンドと感じさせないのがNadjaの凄い所だと思う。不気味な轟音はあくまでもこれまでのNadjaをフィルターとして通過させた物だし、今作を例えるなら全6曲13分弱の混沌と言うべきだろうか。光と闇が衝突する瞬間だけを切り取ったサウンドは無機質で残酷であるのに、やはり神々しさを感じてしまう物になっているし、約13分の本編が終わった瞬間に何故今作がGrindgazeと称されたか理解するだろう。
そしてTJR盤では最終曲「The Smell Of Bastards」に続く形で2007年にリリースしたアルバム「Radiance of Shadows」に収録されている「I Have Tasted the Fire Inside Your Mouth」のデモVerが収録。デモとは全然思えない完成度は流石はNadjaとも言うべきだけど、今作の本編とは全然違う、25分以上にも及ぶ神々しくも激重のドローンサウンドの地獄から美しき天国へと導くNadjaの世界を十分に堪能出来る物になっている。
Nadjaに関して言えば余りにもリリースが膨大過ぎて正直追いきれてないのだけど、今作で久々にNadjaに触れたらこれまでと全然違う芸風に驚いたし、同時にユニットとしての実験作が結果として凄くキャッチーで分かりやすい作品になったのも何だかNdjaらしくて面白い。勿論既存の音のトレースなんて今作ではやってないし、終わりなき実験精神と轟音の追求の一つの成果として提示された今作はやはりNadjaにしか生み出せない音だ。勿論今作はTokyo Jupiter Recordsnにて購入可能だ。