■ピカデシカ/ネム
大阪のサイケデリックロックバンドであるネムの待望の1stアルバム。前作EP「デート盤」ではサイケデリックロックを基調にポストロックなテイストを絶妙に盛り込んだ独自の捻れを展開していたが、今作はよりアプローチを広げてニューウェイヴやジャンクロックなテイストも加わった。
よりメジャー感溢れるストレートな感触なロックサウンドへとアップデートした快作。だけど幾多のエフェクターを駆使しまくった極彩色の音像もより進化を遂げている、王道ロックな風格を携えながらもより深さを手にしている。
ネムは難解な振りをする自称サイケとは一線を画すバンドだったが、今作で手にしたメジャー感は大きな武器になると思う。第1曲「The Sun」はそれこそネムが元々持っていたズブズブと沈んでいく内側に迫るロックのダークネスに溢れているし、ざらついた音質で空間的エフェクトとディストーションを配合させた歪んだ時間軸のグルーズに陶酔してしまうけど、よりダイナミックで肉感的な音にもなったのが今作でのネムを進化の一つだろう。
一方で着色料ゴッソリ使ったファズギターによるジャンクロック・ニューウェイヴな空気の第3曲「SATISFUCTION」は横乗りのグルーブと縦に切り裂くギターフレーズの金属的な音が心地よく共存している。よりノーウェイブになった第4曲「残像」は反復フレーズの機械的なアンプローチも盛り込む。
「デート盤」にも収録されていた楽曲の再録である第5曲「三千世界」は反響するギターの音色が楽曲の色彩を変えながらも、繰り返されるベースとドラムのグルーブの快楽に沈んでいく名曲だが、より音の輪郭が明確になった事によって、より刺さる音になっているのも大きい。
ジャンクさとドープさで退廃的空気をより加速させる第6曲「幸福論」、そして終盤の第8曲「SLASHBOY」と第9曲「牛歩」でより刺々しくエロティックなロックを展開し轟音渦巻く全9曲を終える。
今作で個人的に特に好きな要素はフロントマンの音無氏の歌をより強く感じさせる曲が増えた所だ。時折ロックスター感のあるシャウトもかまし、クールでセクシーで浮世離れしたオーラをそのボーカルからより強く感じる。コアなフリークスだけじゃなくて、世のロック女子をみんな虜にしてしまうだけの声を音無氏は持っているんじゃないかと勝手に思っていたりもする。
勿論バンドの音の方もより明確で分かりやすいアプローチも増え、ノリやすい曲も増えたけど、それが余計にネムの持つ内側へと堕ちていく感覚を際立たせている。同時に確かに外側に向けてもアプローチをしているし、全方位に向かってサイケデリアを放出している。ロックが持つ非日常的世界をネムは描いている。
割礼、ゆらゆら帝国、dip、THE NOVEMBERZ、ちゅうぶらんこ辺りのバンドが好きな人にはマストな一枚。その情念に焼き尽くされて中毒になってしまうだろう。