■TOBIRA/ele-phant
ABNORMALS、KING GOBLIN、exBUCKET-Tのメンバーによって結成されたギターレス3ピースele-phantの待望の1stのフルアルバム。
ハードコアとかメタルとかヘビィロックとかその他諸々のジャンルは確かなラベルになるけど、時にそのラベルは必要ないと思わせる作品やバンドは本当に素晴らしい物を生み出すけど、今作はそんな作品だ。
カテゴライズはドゥームだしサイケであるけど、そのカテゴライズは逆にele-phantの本質を掴む上では邪魔だとも思う。ロックという言葉は非常に漠然としているけど、今作は「日本語ロック」の新しい金字塔だ。
音楽性は確かにドゥームであるけど、ドゥームやストーナーの根源がブルースであるのと同じで、今作はブルースでもある。曲のレンジが本当に広いしハードコアからヘビィネスからサイケまでと、その触手は多くの物へと侵食しているが、散らかった印象は全く無い。
ギターレスという編成で、歌とベースとドラムという最小限の編成で生み出す最大の効果。それは割礼やATATHEMAが持つミニマルさにも近いし、この3人だけで全てを成立させてしまってる。
キラーチューン「逃げ水」で先ずはそのヘビィなメランコリックさにガツンとやられるだろう。ベースとギターの両方の役割を音を自在に変化させる事で兼任し、シンプルなリフだけで全てを語り、空白を聴かせる要素もありつつ、ダイナミックにロックなビートを叩くドラム、何よりもcomi氏のボーカルが素晴らしい!!時に叫んだりもしながらも圧倒的な歌唱力と表現力で世界を生み出すボーカルは存在感しか無いし、代わりになる人が全くいない。
ドラムとベース、たまにシンセだけで音が作られているって書くとコアなフリークス向けな音だと勘違いされそうだけど、その楽器隊が普遍性とマニアックさの中間地点をすり抜ける音を生み出し、comi氏の歌が一気にメジャー感を演出する。それでいて色気と渋さもある。第3曲「アクマニセンセイ」は今作でも特にハードコア色が強いけど、単なるハードコア的表現ではなく、ハードコアの瞬発力にオルタナティブなうねりを加えて堕ちていく。
今作でも特に素晴らしいのは第4曲「すぐ」、第8曲「Black Room」、最終曲「扉」だ。静けさの中でハードボイルドなブルースを歌い上げる「すぐ」はele-phantのミニマルさの真骨頂であり、「Black Room」の往年のサイケデリックロックの空気感と密室感から万人が泣くバラッドへと押し上げていく様、約9分に渡って激音と混沌の中で悲しみと手を取り合う「扉」。陳腐な言い方だけど最高だ。
一見飛び道具的な編成ではあるけど、既存のドゥームやサイケとは全く違うアプローチを取り、リフで押し潰さず、リフを聞かせ、メロディに溢れ、躍動で踊らせ、そして最高のボーカリストによる歌で心を奪い取る。
日本語ロックはある時期を境に停滞したと思って諦めている人にこそ今作は聴いて欲しいし、寧ろティーンエイジな世代にも、昔のロックにしがみついている人にも聴いて欲しい。似ているバンドゼロ、斬新でありスタンダード、だけど取りつくかれたら逃れられない「悪魔の歌」がそこにある。歌謡エクストリームミュージックここに極まり!!