■瞼ノ裏 vol.2 新世界標本 release tour final(2015年12月23日)@新宿Antiknock
今回はそのリリースツアーのファイナルだが、ハードコアのバンドは全く呼ばずに様々なジャンルからwombscapeと共振するバンドを集めたイベントとなった。そしてこのツアーファイナルを最後にオリジナルメンバーであるギタリストkijo氏が一旦バンドを離れる事になる。現編成でのwombscapeのラストライブでもある。
wombscapeで素晴らしいギターを弾き、バンドにとって絶対不可欠な存在であるkijo氏の離脱は長くに渡ってこのバンドを追いかけてきた僕にとっても寂しい物はあるが、その勇姿を笑顔で見届けるべく今回足を運ばせて頂いた。
・浅ハカニ吠エル
エモヴァイオレンスを基調とした音に独自の演劇的世界観を含ませた異形のバンド浅ハカニ吠エルからイベントはスタート。以前観た時はベースレスで、個々の表現力の高さはあったが、どうしても低域の音の弱さを感じてしまうライブだったが、コントラバスとしてホンダリョウ氏が加入。ずっと4人になってからの彼女たちを観たかった。
結論としてコントラバスの加入は大正解であったと思う。ただ重低音を加えて音の厚みを増幅させるだけで無く、独特の音の淀みや苦味を加える事に成功したと思う。
新曲「シロツメクサ」は勿論、他の楽曲も以前ライブを観た時と見違えるまでになり、ポエトリーと叫びによる中性的なナイトウ嬢のボーカルが生み出す不気味な世界観も、ササキ氏の攻撃的極まりないギターも含めて音全体がよりガツンと胸の辺りに響く物になった。
バンドとして大きくパワーアップを果たし今後に期待だったが、イベント当日のライブ後にまさかの解散発表。この日のステージが浅ハカニ吠エルのラストステージとなってしまった…
最後のアウトロでの「永遠にさようなら。」の言葉はそういった意味であった事を知り、非常に悲しい想いだ。バンドのこれからの飛躍を感じるライブだっただけに解散は惜しい…
・MERMORT
MERMORT sounds filmからMERMORTへと改名し、新たなるプログレッシブサウンドを提示した2ndアルバムをリリースしたMERMORT。この日はTableの岩清水氏をベースに迎えての編成のライブ。ドラム前に布を設置し、そこにVJを映すだけで無く、上手と下手には「NO WAR」の文字を映したディスプレイと拳銃の画像のディスプレイを展示する視覚的にも挑発的なセッティング。
しかし前にライブを観たのはMERMORT sounds film時代だったけど、暫く観ない間に化物みたいなバンドになった。ギターとキーボードが変態なんて言葉じゃ片付けられない音の連続を繰り出し、捻じ曲がり捲った波長を生み出す。基盤となるリズム隊の技量も凄まじいからこそ音が自由に変化していく。基礎的なフォーマットはプログレッシブなインストではあるけど、他に類を見ない音の情報量に押しつぶされる。
元々激情ハードコアの人間がその先の音をどこまでも理想的に提示したのがMERMORTだと思うし、曲も決して短くない筈なんだけど、一曲一曲があっという間に過ぎ去っていく。彼らが提示しているのは紛れもなくカタルシスを積み重ねに重ねた衝動であり、言葉が無い音楽であるからこそ、音でどこまでも語る。
30分近いセットは本当にあっという間に終わってしまったし、欲を言えば一時間はMERMORTの音に酔いしれていたかった。彼らのライブは全く新しいトランス体験なのだ。
・Archaique Smile
こちらもライブを観るのはかなり久々になってしまったArchaique Smile。今年はライブ活動を殆どしていなかったらしいが、そのブランクは全く無し。そしてバンドが新たなる実りを季節を迎えつつある事を感じるライブアクトだった。
彼らの音楽性は正統派の轟音ポストロックであり、ツインギターが織り成すオーガニックな轟音の旋律は健在。だけどこれまでのArchaique Smileは非常に幽玄な音であったが、それを後退させずに音がより重くソリッドに変貌していたのが驚いたし、手法自体はこれまでと大きく変わった訳では無いとは思うけど、体感する音は完全に別のバンドになっており。素晴らしいバンドでありながら、何処か優等生的でもあった彼らがその文脈から少しずつ脱却しようとしているのだ。
しかしながら改めてArchaique Smileはライブでこそ体感したいバンドだと今回思った。音源のクオリティも十分高いけれども、この幽玄で壮大な世界はライブで体感してナンボ。彼らも言葉が無い音楽を鳴らすからこそ、音が詩人となるバンドだし、だからこそよりストイックでアグレッシブさが増した今のArchaique Smileのライブには確かな説得力があると思う。
今年は活動自体かなり控えめではあったが、来年のライブと来るべき2ndアルバムへの期待が膨らむライブであったし、Archaique Smileが目指すオリジナリティは何処に到達するか今から楽しみだ。
・Presence of Soul
そして轟音要塞Presence of Soul。しかし何度ライブを観てもアンプの壁と大量のエフェクターの要塞には視覚的な面でも圧倒されるが、音の方は更に圧倒的。日本が生み出したYear Of No Lightだと僕個人は思っているが、本家にも負けない濁流の轟音をライブでは生み出してくる。
先日本当に久々のリリースとなった「All Creation Mourns」も素晴らしい作品であったが、このバンドも音源だけじゃ全ての魅力は伝わりきらない物があり、是非ともライブでこそ体感して欲しいバンドだ。音源ではシューゲイジングな轟音が際立つ音作りになっているけど、ライブは全ての音がブラックネスでありヘビィネスである。音量面も耳に痛い音は全く無いのだけど、音の壁が目の前に生まれているのと、岩石を放り投げられ激突する感覚を覚える。
メンバーそれぞれの演奏自体は非常に丁寧ではあるけど、その冷静さの中の熱情が見えた時には既にPresence of Soulの音に飲み込まれてしまっているのだ。
そんな極限のヘビィネスを繰り出してラストは神秘的でありレクイエムの様な悲哀を描く優しく切ない轟音大曲なのだから色々とズルい。ラストのトリプルギターのトレモロの嵐は本気で震えた!!
だけど一つだけ文句があるなら折角wombscapeとの対バンだったから、wombscapeのRyo氏がゲストボーカルを務めた「Genom」もプレイして欲しかった!!いつかの機会に是非ともPoSとRyo氏のコラボもお願いします!!
・wombscape
そしていよいよkijoさんのラストステージとなるwombscapeのライブ。「新世界標本」リリースから全国を駆けずり回った彼らの集大成とも言えるライブであったが、これまでの数多くのライブで鍛え上げた「新世界標本」の楽曲たちは完全にバンドに馴染んでいたと言えるだろう。
セット自体は「新世界標本」を曲順に演奏するという物ではあったが、「真白な狂気」といったハードコア色の強い楽曲はより尖りきった音へと変貌を遂げていて、バンドの成長を強く感じさせる物に。
個人的に凄く心に残っていたのはkijoさんが終始何かがこみ上げそうな表情でギターを弾いていた事だ。wombscapeというバンドはボーカルでコンポーザーのRyo氏を中心としたバンドではあるが、kijoさんのギター無しではwombscapeの楽曲は成立しないとさえ思っているし、wataru氏とsatoru氏のリズム隊の存在も勿論大きいけど、kijoさんのギターの表現力は天才以外の言葉が思い浮かばないのだ。
最早wombscapeを象徴する楽曲にまでなった「正しい愛が正しい絶望に変わるまで」のRyo氏の歌と凍えるまでの美しいkijoさんのギターが生み出す視覚的美しさはこの日のライブで一つの完成形を見た。そしてラストの混沌の絶望の瞬間は感極まりそうに観ていてなったよ。ほんの少しだけRyo氏が声を詰まらせそうになりながら歌っていた瞬間も含めて、アートしての音楽じゃ無くて、感情としての音楽を見た気がする。
そして本編終了後にこれで終わりかと思ったら、kijo氏の使用していたアンプの一台が下手側に移動され始める。そしてそこには見慣れない男がセッティングを始めているじゃないか。その男はこの度新たにwombscapeの新ギタリストとしての加入が発表されたHiroki氏だ。そして5人編成で今年に入ってから全くプレイされていなかったwombscapeの看板曲「黒い絵具」をプレイ!!
まさかの2部構成で昔からwombscapeを追いかけていたファンにとっては嬉しいサプライズだったと思う。先程までと変わってwombscape流のカオティックハードコアを展開し、kijo氏のノイジーなギターがアンチノックを埋め尽くし、ライブは終了。こうして約三ヶ月半に及ぶ「新世界標本」リリースツアーは終了した。
まさかの浅ハカニ吠エルラストライブ、そしてwombscapeからkijoさんの離脱と色々な節目となった夜ではあったが、ハードコアに囚われない5バンドが生み出したまた違う激音のぶつかり合いは非常に心に残るものだったと言える。
wombscapeからkijo氏は離れてしまったけど、僕個人が勝手に思っているのはまた一年後辺りにkijo氏はフラッとwombscapeに戻ってくる気がする。wombscapeはHiroki氏を新ギタリストに迎え、来年も活動を継続していく。これからの展開はまだアナウンスされていないが、これからも素晴らしい音楽を作り続けていくだろう。
浅ハカニ吠エル、kijoさん本当にお疲れ様でした。また何処かで会う日まで!!