■SLOWMOTION(2016年2月28日)@東高円寺U.F.O. CLUB
過去に共演こそあったが、多くの人が待ち望んでいた両者の2マンライブ。共に持ち時間は70分とドップリと未曾有の音に溺れる事が出来る特別な一夜。しかもBorisは森川誠一郎[(血と雫)をゲストに迎えてのサプライズもありと、これが特別な夜にならない訳が無いじゃないか。
スタート15分ほど前にハコに到着したが既に多くの人でギュウギュウになっており、フロアは酸欠状態に。これは音で酩酊する前に酸素が足らなくて酩酊してしまいそうだななんて思ったり。
そんな満員の人々が今か今かと待ち構える中、約20分程押して先攻の割礼のライブが始まった。
・割礼
何度も当ブログで書いてきたが、現在進行形の音こそが過去最高の音である事を常に提示し続ける日本が世界に誇るサイケデリックロックの至宝こと割礼。これまで何度もライブを観てきたバンドであるが、この日のライブは過去最高に凶悪な音が渦巻くライブとなった。
宍戸氏と山際氏のインプロ的なギター演奏から始まり「これから何が起きるのか?」というワクワクの中で始まったのは割礼を代表する名曲「リボンの騎士(B song judge)」が始まる。驚いたのは曲が始まった瞬間の山際氏のギターの音の歪みと音圧が凄まじかった事だ。鎌田氏のベースもより重くうねり、宍戸氏のギターも獰猛に叫びを上げる。松橋氏のドラムはシャープさこそ相変わらずだが、いつもよりもパワフルな音に聴こえた。そんな攻めの爆音体制の割礼だが、全体の音量バランスはやはり最高の位置で鳴らされており、4つの楽器と声が溶け合って共鳴し合い、覚醒の音を鳴らす。終盤のロングギターソロは圧巻の一言で、宍戸氏のギターに引っ張られながら終わり無く続くファズギターに時間間隔は完全に狂い、一発目のこの曲だけで実に20分以上のオーケストラ的サイケデリア。言葉なんて出て来ない。
一転して透明感溢れる音を極限まで削ぎ落とした状態で鳴らす「ネイルフラン」は先程までの凶暴な音とは打って変わり、爆音の中の優しいラブソングが鳴らされる。だがそんな音の中に「淀み」や「苦汁」を感じさせてしまうのが割礼の割礼たる所以だ。久々にプレイされた気がする名バラッド「がけっぷちのモーテル」も「ネイルフラン」同様に極限までスロウにテンポダウンされたアレンジで丁寧に、だけど歪みを増幅させながら紡がれていく。
ハイライトは終盤の「HOPE」といつもの松橋氏のMCを挟んでプレイされた「ルシアル」の2曲だろう。割礼というバンドはライブ中ですら音を研ぎ澄まさせて進化させていくのを肌で感じる演奏だったと思う。特にラストの「ルシアル」は音源の影が無くなってしまっているんじゃってレベルの密教的空気を描いていく。最後の最後のファズギターが宇宙を描き出す瞬間は秘比喩でもなんでもなく本当に鳥肌が立つ感覚を覚え、殺人的音量で放たれるファズギターのブラックホールに「このまま飲み込まれて死んでも良いや。」っていう危険極まりない気持ちにすらなってしまったのだ。
70分近い演奏でプレイされたのはたった5曲。しかしその5曲には割礼のスロウさも歪みもヘビィさも優しさも愛憎も全てが詰まっていた。正に日本が生んだ至宝こと割礼、凄まじいライブだった!!
セットリスト
1.リボンの騎士(B song judge)
2.ネイルフラン
3.がけっぷちのモーテル
4.HOPE
5.ルシアル
・Boris
30分近い転換を経て後攻のBorisへ。しかしアンプの数がいつも以上に多くないか?あまりの人の多さにかなり後ろの方でBorisのライブを観る事にはなったが、今回ばかりは後ろで観た方が耳は安全だったと思う。
序盤はパワーアンビエントスラッジなBorisが炸裂。割礼を凌駕する音量の重低音で繰り出された「The Power」の時点でかなり後ろにいたにも関わらず重低音の振動が体に響いてくる始末。続いては「Huge」とこの日のBorisは完全に圧殺モード。更に銅鑼の乱打からの地獄編「Memento Mori」で身の恐怖を体が感じてしまった…直面の死が存在しているのすら見えてしまったよ…
だが地獄変だけで終わらないのがBorisだ。「決別」で地獄を天上の救いの轟音へと変貌させた時、やっと安心感すら覚えつつ、目の前で繰り広げられている轟音のシャワーを浴びていると不思議と心は非現実の世界のままなんだなって気付いていく。
中盤で血と雫の森川氏が登場し4人でのライブへ。この日プレイされたのはCanis Lupusのカバーである「天使」とまさかの割礼の「散歩」のカバー!!だがBorisが普通のカバーなんかやる訳無い。音は原曲よりも更に凶悪なヘビィネスに変貌し、原曲の持つ妖しい美しさにより神々しさが加わっていた。割礼のカバーである「散歩」も完全に別の曲に。Borisのサウンドもそうだが、日本が生み出した国宝ボーカリストである森川氏の歌は他の誰にも出せない居場所の無いエロスが充満し、Borisのヘビィネスと不思議な調和を生み出していた。
再びBorisの3人になっての演奏に戻り「あきらめの花」からの「雨」の流れの絶望的な美しさを前に言葉を失う。特にパワーアンビエントから美しき陰鬱さを放つ「雨」の凄さはライブで体感しないと分からないだろう。音の壁が目前に存在しながら、与えられる感情は恐怖じゃ無くて悲しさであり、事切れる瞬間を体感している気分になるだけじゃなく、一種の臨死体験的な感覚に陥る。その感覚の神秘的陶酔を味わった時にBorisも間違いなく本物のサイケデリアを生み出すバンドだと思い知らされた。
最後は「Down」でこの日一番の爆音で昇天して終了と思いきや、予想はしていたがやっぱりアンプの電源が落ちて、最後に気を取り直してラストのパートを演奏して終了と思いきやまた電源が落ちて終わりという幕切れ。「down」をプレイしている時にアンプの電源がダウンするって冗談かって位に出来すぎていて笑ってしまったよ。
セットリスト
1.The Power
2.Huge
3.Memento Mori
4.決別
5.天使
6.散歩
7.あきらめの花
8.雨
9.Down
割礼とBoris合わせて140分にも及ぶ轟音爆音サイケデリア、更には明らかにキャパを超えているだろう超満員の人に体調不良になってしまう人が出てくるんじゃないか勝手に心配になってしまったイベントだったが、体調不良どころか音の臨死体験を両者に体感させられる事になってしまったよ。
イベント名通り、この日は両者ともスロウな楽曲のみでライブを展開していたが、ヘビィネスもサイケデリックも超えた先にある名前の付けられない何かを目前にする事が出来たイベントとなった。
東高円寺爆音地獄に足を運んだ皆さんは改めてお疲れ様でした。帰宅したら疲労感が一気に体を襲ったけど、それすらも心地良いのは割礼とBorisの両者のライブが素晴らしかったからだ。