■Esoderic Mania/黒色エレジー
![]() | エソデリック・マニア (1993/10/25) 黒色エレジー 商品詳細を見る |
80年代後半に活動していた岡山の女性ボーカルポジパンバンドである黒色エレジーの93年にSSEからリリースされた全音源を網羅したディスコグラフィー的作品である。ポジパンやゴシックと呼ばれるジャンルの中でも「和」のテイストを色濃く感じる黒色エレジーは中々異端な存在であり、ポジパンの流れを感じながらも日本人ならではの耽美さを感じ、それでいて骨太なバンドとしてのアンサンブルがずっしりと構築されている。
コーラス・フランジャーを多用しまくったギターワークや、メロディラインを弾き倒すベースなんかから王道のポジパンの流れはあるのだが、パンク・ハードコアな力強さを楽器隊の演奏から確かに感じるし、「和」のメロディラインからは日本神話的な物を想起させられる。その妖しきメロディに古き歌謡曲の様なキャッチーさのテイストも盛り込まれていて、あくまでもアプローチはシンプルでありながら、そこに日本人らしいわびさびが確かに存在しているのだ。
Voのキョウコはか細く繊細なウィスパーボイスから、重々しい威厳すら感じる古代の巫女の様な太い低域の歌声まで幅広く使いこなし、楽曲の世界観を揺るぎない物にしている。キョウコはさながらイタコの様であり、楽曲に宿る精神世界の精霊達の感情や声を自らの声で代弁しているかの様だ。
第3曲「花粉犯罪」、第4曲「夢の成る頃」はバンドのタイトな演奏とキョウコのボーカルが色濃く結び付き、哀愁と神話的世界が確かな物として存在している良曲であるし、今作で最も歌謡曲テイストが強い第13曲「神々のレース」での精霊と式神達が全方位に自由に飛び回るかの様な幻想的躍動感はこのバンドにしか出す事の出来ない世界観だと僕は思う。
ポジパン・ゴシックの耽美な空気を思い切り吸い込みながらも、そこに捕らわれず独自の美意識をしっかり自分達のサウンドにブチ込んだ黒色エレジー。和製ゴシックならではの日本神話的世界と、パンクとしての芯の強さは一つの線になっているのだ。
寓話の様な妖しく甘い耽美な幻想世界をここまでブレ無く描いた黒色エレジー、もう20年近く前のバンドではあるが彼女達の謡う寓話は今でも確かな妖しさとオリジナリティを持っている。